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―鬼の頼み―
168話 蛇の毒
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噛みつかんと襲い来る蛇に合わせるように巨兵もまた掴みかかる。
「この!大人しくしなさいな!」
蛇の体を幾本もの腕で捕まえ、御そうとするイヴ。だが―。
「「「シャアアア!!」」」
流石は蛇、ぐねんぐねんと動き拘束をいとも簡単に解いてくる。それでもただの超巨大蛇だったのならば40はある腕で捕獲も出来たのかもしれない。だが、相手は8つの首を持つ大蛇。すなわち胴も8つである。あっちを抑えればこっちが暴れ、そっちを抑えればあっちが暴れといった有様である。
「あぁもう!」
苛立つイヴ。1人で40もの腕を制御するのはかなりの難易度なのだろう。さくらは思わず余計なことを言ってしまう。
「他にもゴーレムを出した方が…」
「そんなことしたら森を壊しちゃうし、もし押し倒されたりしたらオーガの人も巻き込んで潰しちゃうわ。下手に沢山呼び出すよりかはこっちのほうが楽だし」
蛇の対処に集中しつつ、イヴはそう答えてくれた。確かに、先程から暴れる蛇の胴や尾、顔が何度もゴーレムを破壊せんとぶつかり巻き付いてくる。竜崎とメルティーソンが障壁を張りさくら達が乗る頭頂部をガードしているため、危険はそう無い。しかし、ゴーレムの体や腕から伝わってくる衝撃は凄まじく、さくらは先程から四つん這い状態で動けていないのだ。
大質量がぶつかるということはこうも恐ろしいのか、この衝撃ならば、確かに生半可なゴーレムなら一撃で地面に倒れてしまうのだろう。複数のゴーレムを出せばその分倒れる可能性は増えるということ。このまま何とかするしかなさそうだ。
少しの間掴み合いが続いたところで、白蛇が勝負を仕掛けた。
バグンッ!
なんと、頭の一つが大口を開けゴーレムの腕の一本を肘辺りまで飲み込んだのだ。
「えっ!?ちょっと!?大丈夫なのこれ!?顎外れてない!?」
慌てるイヴ。その間に他の顔も次々と腕を飲み込んでいく。気づくと8つの頭全てはそれぞれ腕を咥えている形に。まるでゴーレムの腕から蛇を生やしているようである。
「大丈夫ですイヴさん、蛇は大きく口を開いて獲物を飲み込みますから…!」
メルティーソンに宥められ、正気を取り戻したイヴは急いで腕を引き抜こうとする。しかし―。
「外れない…!」
噛まれていない他の腕で蛇を取り押さえ、力ずくで噛まれた腕を引っ張るが抜けない。がっぷり牙が刺さっているらしい。しかし、これは好機でもある。
「イヴさんそのままで…!『眼』を使いに行きます!」
今回の目的は討伐ではなく沈静化。しかもメルティーソンと白蛇が近距離で目を合わせれば勝ちである。いち早くそれに気づいたメルティーソンは霊獣「白猿」を召喚、障壁から抜け出し、ゴーレムの腕を伝って蛇の顔の元へと向かい始めた。
「もうちょっとで…!」
揺れる腕から落ちないように、呼び出した白猿に必死に捕まりながら蛇の瞳へと近づいてくメルティーソン。人の身長よりも大きい直径を誇る目玉に僅かな恐怖を抱きつつも、彼女は髪をかきあげ魔眼『愛眼』を使う準備をする。いくら相手が暴走状態、洗脳状態であろうと、直接相手の心に働きかけるこの眼さえあれば間違いなく正気を取り戻すことができる。かつて、『忌み子』として捨てられた自分が、今は誰かの役に立てるのだ。
その高揚感と責任を背負いながら進むメルティーソンは気づいていなかった。蛇が噛む腕に亀裂が入り始めていることに。
「嘘でしょ…!メルティちゃん危ない!」
―あれは…! メルティーソン、気を付けろ!―
彼女が蛇の頭にあと少しと近づいた時、ゴーレムの主であるイヴと観察していたニアロンが異変に気付き同時に叫ぶ。しかしメルティーソンの元には届かない。
「ついた…!」
文字通り、蛇の目の前についたメルティ―ソンは魔眼の力を起動する。8つの首があるためこの作業を最低8回はやらなければならない。拘束がいつまで持つかわからないし、手早く終わらせなけらば…!そう逸った彼女が蛇と見つめ合おうとしたときだった。
ビキィ!
突如、異音が響く。そして、蛇の頭が勢いよく動き始めた。
「え…!」
ハッと気づいたメルティーソンが蛇の口の先を見やると…。
「ゴーレムの腕…!」
巨兵の太い腕がもぎ取られていたのだ。
ビキィ!
ビキィ!
続くように、岩にひびが入る音が響く。他の頭も勢いよく首を動かし、腕を食いちぎったらしい。そしてそのまま、蛇たちは一斉に体当たりをしてきた。土や石で出来た腕を含んだままの重質量の連撃、ゴーレムはたまらず姿勢を崩す。
「くっ…!」
イヴはゴーレムが倒れないように制御する。さくらも振り落とされまいとひっしにしがみついた。だが、とある腕の先にいたメルティ―ソンはそのあおりをもろに食らってしまう。
「きゃ…!」
乗っていた霊獣が足を滑らせ、落下していくメルティ―ソン。
「白猿さん、ごめんなさい…!」
「グウゥ!」
即座の判断で、メルティ―ソンは霊獣に自身を力いっぱい打ち上げてもらう。自らの主を渾身の力で投げた白猿は役目を終えそのまま消えていった。
「イヴさん!」
高く飛ばされた彼女は、空中でイヴを呼ぶ。言葉なんて届かないはずだが…。
「任せて!」
20年来の友達であるイヴはメルティ―ソンに届かぬ返事をすると、巨兵の腕の一本を近づけ小さな腕達を一斉に開く。見事、メルティ―ソンを掴みとり頭頂部へと連れ戻した。
「大丈夫メルティちゃん?」
「はい、私は大丈夫です。でもまさかゴーレムの腕を噛みちぎるなんて…」
神具の力を使用した一撃すら防ぐことができるゴーレムの装甲のはずだが…。メルティ―ソンの言葉を聞いて首を傾げるさくら。するとイヴは苦々し気な表情を浮かべた。
「いや、溶かされたわね…」
その言葉を聞き、さくらはもぎ取られた腕の先を見やる。すると、牙が突き刺された跡から広がるように岩がグズグズに溶けていた。なるほど、これなら簡単に折れてしまうだろう。
―まるで酸のような毒だな―
「内部からの破壊は完全に盲点だったわね…」
反省するイヴ。腕が8本盗られた上に、白蛇がゴーレムを破壊できるほどの毒を持ってることまで判明してしまった。下手に噛みつかれたらボロボロに溶かされてしまう。迂闊に手出しができない。
と、蛇達は妙な行動を始めた。
「「「シュルルル… グエッ」」」
揃って先程食い千切った腕を吐き出し始めたのだ。
「えぇ…」
まさかの行動に思わず声を漏らすさくら。流石に土は消化できないのか。だが、蛇達はそれを全て吐き出すわけではなく、端の方を再度咥え直した。そしてそれを…。
「「「シュルルル!」」」
まるで棍棒のように振り回し始めたのだ。
「危ないわね!」
ブオンブオンと空を切る棍棒ならぬ棍腕を、残った腕でガードしていく巨兵。しかし―。
ジュウ…!
「あっ!表面が…!」
棍腕が振られる度に、そこから飛んできた謎の液体がゴーレムに降りかかる。どうやら件の毒らしく、ゴーレムの表面が音を立てて溶け始めた。このまま溶かされ続けて巻き付かれたら簡単に折れてしまう。
「不味いわね…ここまで強い毒なんて…。修理をする暇が…」
厳しい表情をイヴは浮かべる。そんな中、竜崎が進み出た。
「イヴ先生、そっちは任せて」
詠唱をはじめ、幾多の精霊を呼び出す竜崎。それらは全員が土精霊。竜崎の号令の元、一斉に巨兵に纏わりついた精霊達は溶けた箇所を修復していった。
「流石リュウザキ先生!」
しかし、このままでは不利のまま。せめてあの振り回している腕だけでも何とかしなければ…。するとまたもや竜崎が提案をした。
「そうだイヴ先生。『合体技』をしてみない?」
「合体技?どんな? ふんふん…なるほど、面白そうじゃない!」
竜崎の言葉を聞いたイヴはにんまり笑顔を浮かべ了承。何が起こるのか、メルティ―ソンとさくらは顔を見合わせるだけだった。
「この!大人しくしなさいな!」
蛇の体を幾本もの腕で捕まえ、御そうとするイヴ。だが―。
「「「シャアアア!!」」」
流石は蛇、ぐねんぐねんと動き拘束をいとも簡単に解いてくる。それでもただの超巨大蛇だったのならば40はある腕で捕獲も出来たのかもしれない。だが、相手は8つの首を持つ大蛇。すなわち胴も8つである。あっちを抑えればこっちが暴れ、そっちを抑えればあっちが暴れといった有様である。
「あぁもう!」
苛立つイヴ。1人で40もの腕を制御するのはかなりの難易度なのだろう。さくらは思わず余計なことを言ってしまう。
「他にもゴーレムを出した方が…」
「そんなことしたら森を壊しちゃうし、もし押し倒されたりしたらオーガの人も巻き込んで潰しちゃうわ。下手に沢山呼び出すよりかはこっちのほうが楽だし」
蛇の対処に集中しつつ、イヴはそう答えてくれた。確かに、先程から暴れる蛇の胴や尾、顔が何度もゴーレムを破壊せんとぶつかり巻き付いてくる。竜崎とメルティーソンが障壁を張りさくら達が乗る頭頂部をガードしているため、危険はそう無い。しかし、ゴーレムの体や腕から伝わってくる衝撃は凄まじく、さくらは先程から四つん這い状態で動けていないのだ。
大質量がぶつかるということはこうも恐ろしいのか、この衝撃ならば、確かに生半可なゴーレムなら一撃で地面に倒れてしまうのだろう。複数のゴーレムを出せばその分倒れる可能性は増えるということ。このまま何とかするしかなさそうだ。
少しの間掴み合いが続いたところで、白蛇が勝負を仕掛けた。
バグンッ!
なんと、頭の一つが大口を開けゴーレムの腕の一本を肘辺りまで飲み込んだのだ。
「えっ!?ちょっと!?大丈夫なのこれ!?顎外れてない!?」
慌てるイヴ。その間に他の顔も次々と腕を飲み込んでいく。気づくと8つの頭全てはそれぞれ腕を咥えている形に。まるでゴーレムの腕から蛇を生やしているようである。
「大丈夫ですイヴさん、蛇は大きく口を開いて獲物を飲み込みますから…!」
メルティーソンに宥められ、正気を取り戻したイヴは急いで腕を引き抜こうとする。しかし―。
「外れない…!」
噛まれていない他の腕で蛇を取り押さえ、力ずくで噛まれた腕を引っ張るが抜けない。がっぷり牙が刺さっているらしい。しかし、これは好機でもある。
「イヴさんそのままで…!『眼』を使いに行きます!」
今回の目的は討伐ではなく沈静化。しかもメルティーソンと白蛇が近距離で目を合わせれば勝ちである。いち早くそれに気づいたメルティーソンは霊獣「白猿」を召喚、障壁から抜け出し、ゴーレムの腕を伝って蛇の顔の元へと向かい始めた。
「もうちょっとで…!」
揺れる腕から落ちないように、呼び出した白猿に必死に捕まりながら蛇の瞳へと近づいてくメルティーソン。人の身長よりも大きい直径を誇る目玉に僅かな恐怖を抱きつつも、彼女は髪をかきあげ魔眼『愛眼』を使う準備をする。いくら相手が暴走状態、洗脳状態であろうと、直接相手の心に働きかけるこの眼さえあれば間違いなく正気を取り戻すことができる。かつて、『忌み子』として捨てられた自分が、今は誰かの役に立てるのだ。
その高揚感と責任を背負いながら進むメルティーソンは気づいていなかった。蛇が噛む腕に亀裂が入り始めていることに。
「嘘でしょ…!メルティちゃん危ない!」
―あれは…! メルティーソン、気を付けろ!―
彼女が蛇の頭にあと少しと近づいた時、ゴーレムの主であるイヴと観察していたニアロンが異変に気付き同時に叫ぶ。しかしメルティーソンの元には届かない。
「ついた…!」
文字通り、蛇の目の前についたメルティ―ソンは魔眼の力を起動する。8つの首があるためこの作業を最低8回はやらなければならない。拘束がいつまで持つかわからないし、手早く終わらせなけらば…!そう逸った彼女が蛇と見つめ合おうとしたときだった。
ビキィ!
突如、異音が響く。そして、蛇の頭が勢いよく動き始めた。
「え…!」
ハッと気づいたメルティーソンが蛇の口の先を見やると…。
「ゴーレムの腕…!」
巨兵の太い腕がもぎ取られていたのだ。
ビキィ!
ビキィ!
続くように、岩にひびが入る音が響く。他の頭も勢いよく首を動かし、腕を食いちぎったらしい。そしてそのまま、蛇たちは一斉に体当たりをしてきた。土や石で出来た腕を含んだままの重質量の連撃、ゴーレムはたまらず姿勢を崩す。
「くっ…!」
イヴはゴーレムが倒れないように制御する。さくらも振り落とされまいとひっしにしがみついた。だが、とある腕の先にいたメルティ―ソンはそのあおりをもろに食らってしまう。
「きゃ…!」
乗っていた霊獣が足を滑らせ、落下していくメルティ―ソン。
「白猿さん、ごめんなさい…!」
「グウゥ!」
即座の判断で、メルティ―ソンは霊獣に自身を力いっぱい打ち上げてもらう。自らの主を渾身の力で投げた白猿は役目を終えそのまま消えていった。
「イヴさん!」
高く飛ばされた彼女は、空中でイヴを呼ぶ。言葉なんて届かないはずだが…。
「任せて!」
20年来の友達であるイヴはメルティ―ソンに届かぬ返事をすると、巨兵の腕の一本を近づけ小さな腕達を一斉に開く。見事、メルティ―ソンを掴みとり頭頂部へと連れ戻した。
「大丈夫メルティちゃん?」
「はい、私は大丈夫です。でもまさかゴーレムの腕を噛みちぎるなんて…」
神具の力を使用した一撃すら防ぐことができるゴーレムの装甲のはずだが…。メルティ―ソンの言葉を聞いて首を傾げるさくら。するとイヴは苦々し気な表情を浮かべた。
「いや、溶かされたわね…」
その言葉を聞き、さくらはもぎ取られた腕の先を見やる。すると、牙が突き刺された跡から広がるように岩がグズグズに溶けていた。なるほど、これなら簡単に折れてしまうだろう。
―まるで酸のような毒だな―
「内部からの破壊は完全に盲点だったわね…」
反省するイヴ。腕が8本盗られた上に、白蛇がゴーレムを破壊できるほどの毒を持ってることまで判明してしまった。下手に噛みつかれたらボロボロに溶かされてしまう。迂闊に手出しができない。
と、蛇達は妙な行動を始めた。
「「「シュルルル… グエッ」」」
揃って先程食い千切った腕を吐き出し始めたのだ。
「えぇ…」
まさかの行動に思わず声を漏らすさくら。流石に土は消化できないのか。だが、蛇達はそれを全て吐き出すわけではなく、端の方を再度咥え直した。そしてそれを…。
「「「シュルルル!」」」
まるで棍棒のように振り回し始めたのだ。
「危ないわね!」
ブオンブオンと空を切る棍棒ならぬ棍腕を、残った腕でガードしていく巨兵。しかし―。
ジュウ…!
「あっ!表面が…!」
棍腕が振られる度に、そこから飛んできた謎の液体がゴーレムに降りかかる。どうやら件の毒らしく、ゴーレムの表面が音を立てて溶け始めた。このまま溶かされ続けて巻き付かれたら簡単に折れてしまう。
「不味いわね…ここまで強い毒なんて…。修理をする暇が…」
厳しい表情をイヴは浮かべる。そんな中、竜崎が進み出た。
「イヴ先生、そっちは任せて」
詠唱をはじめ、幾多の精霊を呼び出す竜崎。それらは全員が土精霊。竜崎の号令の元、一斉に巨兵に纏わりついた精霊達は溶けた箇所を修復していった。
「流石リュウザキ先生!」
しかし、このままでは不利のまま。せめてあの振り回している腕だけでも何とかしなければ…。するとまたもや竜崎が提案をした。
「そうだイヴ先生。『合体技』をしてみない?」
「合体技?どんな? ふんふん…なるほど、面白そうじゃない!」
竜崎の言葉を聞いたイヴはにんまり笑顔を浮かべ了承。何が起こるのか、メルティ―ソンとさくらは顔を見合わせるだけだった。
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