【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

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―賢者は語る―

158話 タイムアップ

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「…と、いうのが出発までの経緯じゃな」

机の上に盛りに盛られた食事もいつの間にか全て賢者の胃に収められた。その様子に若干呆けながらも、さくらは内心笑っていた。竜崎もまた、自身のように後先考えない無茶をしていたようだ。悩みであった「村人達の信頼獲得」から解放されたとしても、結局は自然と体が動いてしまう性質らしい。あの時、サラマンドの攻撃から傭兵を守るために飛び出していった自分を叱らず褒めるだけだったのも、似た過去があったからなのだろう。

「その後はどうなったんですか?」

「なに、後は人助けをしながら魔界へとよ。魔王軍や魔獣人獣に支配された村や街を次々と救っていったのぅ。オズヴァルドの奴は知っとるかの?子供の頃のあの子をリュウザキが助けたのもその道中じゃったな」

そういえば、彼は竜崎に助けられたと言っていた。その時だったらしい。



もっと話を聞きたいとワクワクしているさくらに、賢者は残っていた酒を一気にあおってから残念そうに口を開いた。

「どうやら時間切れのようじゃの」

どういうことかわからず首を傾げるさくらの頭上から、女性の声が聞こえてきた。

―そういうことだ。もう充分飲んだろ?―

「!? ニアロンさん!?」

しまった…! 話に夢中ですっかり忘れていたが、賢者を呼び戻す任を仰せつかっていたのだ。ニアロンがいるということは…。

「今回は何の話をしていたんですか?賢者様」

勿論、竜崎もいた。



自ら買って出た役目を果たせないどころか、その相手の話を聞きこんでしまい、更にはご飯をご馳走になってしまったさくら。まさにミイラ取りがミイラ状態。どう謝るべきか怯える彼女に、竜崎は優しく声をかけた。

「あぁ、気にしなくて大丈夫だよ。正直言うと、こうなることはわかってたし」

「え!?」

とりあえず席に腰を落ち着けた竜崎は、実は、とその真相を明かした。

「爺さんは口が上手いからね、慣れてない人だとすぐに丸め込まれてしまうんだよ。多分何か興味のある話で誘われたでしょ?」

図星である。言葉を詰まらすさくらを見て、ニアロンは笑い声をあげた。

―ミルスパールの手練手管は凄いもんだからな。前、こいつがさくらのために用意した資料あったろ?―

「は、はい。確か調査隊に関する…」
確か『調査隊同行許可申請書』と『単独調査許可申請書』という名称だったはず…。

―そうだ。その内『単独調査許可』は本来厳正な審査と試験を乗り越えなければ申請が通らない。学園や学院の名だたる者達の中でも持っているのは僅かだ。いくら学院の最高顧問とはいえ、本来は自由に取り扱うことは出来ないんだが…―

「それをあんな気軽に持ってくるんだから怖いもんだよ。頼んだのは『調査隊同行許可申請書』だけだったのに。一体どんな手段を使ったのやら…」

半ば呆れる様子の竜崎達。賢者はふぉっふぉっと笑った。

「あれさえあれば治療費や諸経費を全額調査隊が負担してくれるし、他にも様々な待遇を受けれるからの。持ってるに越したことはないわい」



「やっぱり賢者さんのその腕前は魔王討伐の旅でも活かされたんですか?」

さくらのそんな問いに、竜崎は頷いた。

「そうだねー。大体の交渉事は爺さんとソフィアがやってくれたね。私とアリシャは基本お留守番か周囲の警戒役。そのおかげかソフィアも交渉術が上手くなっちゃって、小さかったダルバ工房が今では世界中に広がるほどになったもの」

―ん?ということは話していたのは当時のことか?―

と、ニアロンが気づいた。賢者はそれに頷く。

「リュウザキをエアスト村から連れて来て、旅に出るところまでじゃがの」

―へえ…。じゃあさくら、清人の当時の様子も聞いたろ?かなり初々しさ残ってたろ―

からかうような笑みを浮かべながらそう聞いてくるニアロン。竜崎がいる手前、下手に応えることは出来ず、苦笑いでしのぐしかなかった。

「もう…」

当の竜崎本人は恥ずかしさ交じりの渋い顔をしていた。当時からこの調子だったのだろう。




「さ、戻りましょう。賢者様」

それ以上ニアロン達に語らせまいと、竜崎は仕事モードに。それを聞いて賢者は溜息をついた。

「嫌じゃのぅ。最近は来る日も来る日も書類仕事じゃ。今日の夜は誰かと飲みたいのぅ」

そしてチラリと竜崎を見やる。露骨なその態度に思わず吹き出しながら竜崎は了承した。

「わかりましたよ。今晩お供させていただきます」

その言葉を聞くやいなや、賢者はすっと立ち上がった。

「ふぉっふぉ。よし、戻るかの」

たらふく酒を飲んだ後だというのに、彼の足取りはしっかりとしている。だが、どことなく楽し気でもある。それはお酒でストレス解消したというより、今晩の楽しみが出来たと言いたげな様子であった。
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