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―閑話―
140話 結末、そして新たな依頼
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あれから数日後、さくらの元にゴスタリアのテレーズ姫から手紙が届いた。
結局竜崎の提言もあり、賢者や沢山の魔術士の協力の元、竜形態のニルザルルは呼び出されゴスタリア王城から民へと演説を行った。その内容は勿論火の高位精霊イブリートがニルザルルに協力を依頼しサラマンドを生まれさせたというものである。
「かつての戦争の際、ゴスタリアの現王が敵味方問わず礼を尽くしていたことはイブリートも知っている。自らの罪を悔いこの先の人生を民へと捧げるという誓いもあやつは信じ認めた。だが叱った手前、自らが手を下すことを良しとしなくてな。わらわが動いたというわけよ」
つまり全ては王の過去の行動と人徳に胸打たれたイブリートによるものだという話で纏まったのだ。竜の魔神が直々にそう言うのならば事実なのだろう、有難いことに民はそう信じてくれた。これで一件落着である。
そして、肝心の『謎の火球吐く竜』については―。
「彼の竜はわらわの使い。手出しを試みれば罰が下ると心得よ」
彼女のその一言によって、たむろしていたハンター達は続々と去っているらしい。命あっての物種、魔神を敵に回すほどの度胸は無かったと見える。
とはいえ今でも極一部ではゴスタリア王は愚王として批判をされているらしい。だが、王はそれを甘んじて受け入れイブリートとの約束通り今日も立派に執政を執り行っているようだ。
バルスタインが描いた竜のキャラクターもぬいぐるみにされ売られることに。最も乗り気でなかったのはバルスタイン張本人だが、その説得は団長補佐の騎士メリッサとその友人となったメストが行った。どうやら竜崎達がいない間に二人して説得する策を練っていたらしい。結局バルスタインは圧し負け許可。試作品一号はお礼の品と共に恐る恐るニルザルルに差し出されたようだが、気に入ってくれたらしい。一般の人からしたら山のような巨大な竜が小さなぬいぐるみをどうするか疑問に思うだろうが、彼女の本当の姿を知っているさくらとしては、ぬいぐるみをクッションとして抱き本を読む竜人少女の姿が思い浮かぶ。
「さくらさん、以前伝えた思いは変わりません。学園を卒業なされた後、もしよろしければ是非我が国へといらしてください。私と共に国を支えて欲しいのです」
姫様の手紙はそう締めくくられていた。次期女王となるであろう彼女からのラブコールである。
そんな手紙を大切に仕舞い、湧き上がる気持ちを誰にも気取られることないよう胸へと隠して今日もさくらは学園で授業を受ける。姫様のお誘いはとても嬉しいものである。だが、今のままではいけない。せめて竜崎のように上位精霊をいとも簡単に呼び出せるようにならなくては!その道のりは非常に険しいものであることはわかっている。でも、あの時ニアロンの助力ありきとはいえウルディーネを操ることは出来たのだ。竜崎はこの世界に来て20年。ならば自分もそれだけかければ…!根拠のない自信ではあるが、未来がパアッと開ける気分は心地よいものであった。
残念なことにその有り余る気合が漏れていることに本人は気づいておらず、竜崎やニアロンから温かい視線を送られているのだが…。それはそれ。
そんな日の昼休み、さくらは竜崎と共にカファテリアに向かう。と、そこに声がかけられた。
「キ~ヨト、ちょっといい?」
そこにいたのは勇者一行が1人、『発明家』ソフィアだった。
「あれ、どうしたの?」
「へっへ~、お願いがあってね。あでもその前に…さくらちゃん代表戦準優勝おめでとう!」
彼女はそう言いながら装着していた妙な手甲の手のひらをさくらの前で広げて見せる。すると―。
パァン!
軽い音と共に舞ったのはカラフルな紙テープと紙吹雪。これって…!
「クラッカー…!」
驚いたような顔のさくらを見て、してやったりとソフィアは笑った。
「あたり!面白いわよねこれ。竜崎から話を聞いて作ったものだけど、手持ち型のやつ、結構売れ行きいいのよ!」
彼女の工房はパーティグッズまで手掛けているらしい。多才である。ところで…。
「それも売っているんですか…?」
さくらは彼女の手甲を指さす。クラッカーが仕込まれているだけにしては大仰すぎる。だがソフィアは紙テープをプチプチ千切ってポケットに仕舞いながらそれを否定した。
「これは私の特製品よ!言うなれば万能手甲ってやつかしら。今つけてるこれにはこんな機能もあるわよ?」
ブオォォォ…
空気を吸い込む音が響き始める。彼女がそれを散らばった紙吹雪に近づけると、スポスポと吸い込まれていった。
「掃除機!」
「そう!これならキヨトに叱られることはないわ!」
見透かしているぞと言わんばかりにほくそ笑みながら竜崎を見るソフィア。散った紙をどうするんだ?と苦言を呈そうとしていた竜崎は肩を竦めるしかなかった。
「それで、お願いがあるって言ってたけど」
とりあえず話を戻す竜崎。するとソフィアはそれを止めた。
「えーと、でもその前に…ご飯、奢るわね」
突然の提案。嬉しいことだが何故?さくらが首を捻っていると、ニアロンが笑いながら指摘した。
―また面倒事だな?―
「うっ…ならちょい良い店まで許容するわ」
どうやら図星らしい。交渉材料のレベルを上げてきた。
―だとよ清人―
ニヤつくニアロンに促され、竜崎もまたニヤつきながら考える。
「私はどこでもいいけど…。そうだ、さくらさんは何食べたい?ソフィアからの準優勝祝いだって」
「えっ!」
まさかの振りに驚くさくら。そしてソフィアは苦笑い。
「そう来たかー…。いいわ!どんと来なさい!」
どうやら覚悟を決めたようだ。少々悪い気もするが、さくらは有難く奢ってもらうことにした。
結局竜崎の提言もあり、賢者や沢山の魔術士の協力の元、竜形態のニルザルルは呼び出されゴスタリア王城から民へと演説を行った。その内容は勿論火の高位精霊イブリートがニルザルルに協力を依頼しサラマンドを生まれさせたというものである。
「かつての戦争の際、ゴスタリアの現王が敵味方問わず礼を尽くしていたことはイブリートも知っている。自らの罪を悔いこの先の人生を民へと捧げるという誓いもあやつは信じ認めた。だが叱った手前、自らが手を下すことを良しとしなくてな。わらわが動いたというわけよ」
つまり全ては王の過去の行動と人徳に胸打たれたイブリートによるものだという話で纏まったのだ。竜の魔神が直々にそう言うのならば事実なのだろう、有難いことに民はそう信じてくれた。これで一件落着である。
そして、肝心の『謎の火球吐く竜』については―。
「彼の竜はわらわの使い。手出しを試みれば罰が下ると心得よ」
彼女のその一言によって、たむろしていたハンター達は続々と去っているらしい。命あっての物種、魔神を敵に回すほどの度胸は無かったと見える。
とはいえ今でも極一部ではゴスタリア王は愚王として批判をされているらしい。だが、王はそれを甘んじて受け入れイブリートとの約束通り今日も立派に執政を執り行っているようだ。
バルスタインが描いた竜のキャラクターもぬいぐるみにされ売られることに。最も乗り気でなかったのはバルスタイン張本人だが、その説得は団長補佐の騎士メリッサとその友人となったメストが行った。どうやら竜崎達がいない間に二人して説得する策を練っていたらしい。結局バルスタインは圧し負け許可。試作品一号はお礼の品と共に恐る恐るニルザルルに差し出されたようだが、気に入ってくれたらしい。一般の人からしたら山のような巨大な竜が小さなぬいぐるみをどうするか疑問に思うだろうが、彼女の本当の姿を知っているさくらとしては、ぬいぐるみをクッションとして抱き本を読む竜人少女の姿が思い浮かぶ。
「さくらさん、以前伝えた思いは変わりません。学園を卒業なされた後、もしよろしければ是非我が国へといらしてください。私と共に国を支えて欲しいのです」
姫様の手紙はそう締めくくられていた。次期女王となるであろう彼女からのラブコールである。
そんな手紙を大切に仕舞い、湧き上がる気持ちを誰にも気取られることないよう胸へと隠して今日もさくらは学園で授業を受ける。姫様のお誘いはとても嬉しいものである。だが、今のままではいけない。せめて竜崎のように上位精霊をいとも簡単に呼び出せるようにならなくては!その道のりは非常に険しいものであることはわかっている。でも、あの時ニアロンの助力ありきとはいえウルディーネを操ることは出来たのだ。竜崎はこの世界に来て20年。ならば自分もそれだけかければ…!根拠のない自信ではあるが、未来がパアッと開ける気分は心地よいものであった。
残念なことにその有り余る気合が漏れていることに本人は気づいておらず、竜崎やニアロンから温かい視線を送られているのだが…。それはそれ。
そんな日の昼休み、さくらは竜崎と共にカファテリアに向かう。と、そこに声がかけられた。
「キ~ヨト、ちょっといい?」
そこにいたのは勇者一行が1人、『発明家』ソフィアだった。
「あれ、どうしたの?」
「へっへ~、お願いがあってね。あでもその前に…さくらちゃん代表戦準優勝おめでとう!」
彼女はそう言いながら装着していた妙な手甲の手のひらをさくらの前で広げて見せる。すると―。
パァン!
軽い音と共に舞ったのはカラフルな紙テープと紙吹雪。これって…!
「クラッカー…!」
驚いたような顔のさくらを見て、してやったりとソフィアは笑った。
「あたり!面白いわよねこれ。竜崎から話を聞いて作ったものだけど、手持ち型のやつ、結構売れ行きいいのよ!」
彼女の工房はパーティグッズまで手掛けているらしい。多才である。ところで…。
「それも売っているんですか…?」
さくらは彼女の手甲を指さす。クラッカーが仕込まれているだけにしては大仰すぎる。だがソフィアは紙テープをプチプチ千切ってポケットに仕舞いながらそれを否定した。
「これは私の特製品よ!言うなれば万能手甲ってやつかしら。今つけてるこれにはこんな機能もあるわよ?」
ブオォォォ…
空気を吸い込む音が響き始める。彼女がそれを散らばった紙吹雪に近づけると、スポスポと吸い込まれていった。
「掃除機!」
「そう!これならキヨトに叱られることはないわ!」
見透かしているぞと言わんばかりにほくそ笑みながら竜崎を見るソフィア。散った紙をどうするんだ?と苦言を呈そうとしていた竜崎は肩を竦めるしかなかった。
「それで、お願いがあるって言ってたけど」
とりあえず話を戻す竜崎。するとソフィアはそれを止めた。
「えーと、でもその前に…ご飯、奢るわね」
突然の提案。嬉しいことだが何故?さくらが首を捻っていると、ニアロンが笑いながら指摘した。
―また面倒事だな?―
「うっ…ならちょい良い店まで許容するわ」
どうやら図星らしい。交渉材料のレベルを上げてきた。
―だとよ清人―
ニヤつくニアロンに促され、竜崎もまたニヤつきながら考える。
「私はどこでもいいけど…。そうだ、さくらさんは何食べたい?ソフィアからの準優勝祝いだって」
「えっ!」
まさかの振りに驚くさくら。そしてソフィアは苦笑い。
「そう来たかー…。いいわ!どんと来なさい!」
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