【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

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―竜の魔神の元へ―

136話 話合い

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「そうだった…」
さくらも今更ながらに気づく。城を出立する前、道中で話を詰めようと約束していた竜崎達。だがその実、多少の話し合いこそしていたらしいが、肝心の目的を決めている素振りはなかった。かくいう自身も冒険に集中していて今回の目的を忘れていたのだ。

姫様達も顔面蒼白気味。魔神にわざわざ謁見の時間をとってもらったというのにこの醜態である。相手の機嫌を損ねてしまえば滅ぼされるのは自分達なのだ。

だが、目の前の神竜はそれを見て吹き出した。

「冒険が楽しくて忘れたか?なれら子供のようだな。特にリュウザキ。今の汝の顔、前にミルスパールのやつが汝を修行に連れてきた際と同じような顔をしておるぞ」

不問に処すどころかむしろウケた様子だった。



「とはいえ、何も決まってないわけではなかろう?申してみよ」
音頭をとるニルザルルに丁重に頭を下げ、姫様は幾つかの候補を提示した。

「はい。此度参りました目的はご存知の通り、『我が国に現れた火球吐く竜の正体』についてお言葉をいただくことにあります。そして、私共が考えた案は三つ。一つ目は『ニルザルル様は無関係と証言していただきまして、リュウザキ様にイブリート様の元に赴いてもらう』案。二つ目は『ニルザルル様とイブリート様が協力をされていたという証言をいただく』案。三つ目は『全てニルザルル様がお力を貸してくださったという証言をいただく』案でございます」

「ふむ…。別にわらわが全てやったということにしても良い。だが、汝の父、現ゴスタリア王と会ったのは数回あるかないかだ。ほとんど交流がないゴスタリアを急に救うというのは何ともおかしな話だ。リュウザキ、汝はどう思う?」

「私も同感です…あ。同感だ。ゴホン…個人的に推すのは二つ目、『竜の魔神と火の高位精霊が結託していた』だよ。伝えた通り、イブリートに叱ってもらったから間違いなく関係は強い。だけど乗っていた竜を目撃されてしまったから、ニルザルルの関わりもあったほうが自然だ」

「で、あろうな。ふむ…」

彼の意見を聞いた魔神は手を口元に当て、少し考える様子。だがすぐにそれを止めると、竜崎に指示を飛ばした。

「何はともあれ、あいつがいなければ話は纏まらぬ。勝手に決めて食い違いが出ると後が面倒だ。呼んでくれ」

「わかった」

ニルザルルの要請を受け、竜崎はまたもや懐を漁る。取り出したのは先程竜の連絡を待っていた際に書いていた紙。そこには複雑な魔法陣が描かれていた。

「「これって…!」」

声を揃え驚くのはさくらとバルスタイン。この図形、見たことあるのだ。どこで?以前、共に学園長室の応接間で、である。

「準備はしていたんだ。ニアロン」

―あぁ―

椅子の上に置いた紙に向け、以前と同じように複雑な詠唱が同時に行われる。目の前の魔法陣は燃え盛り、炎の中からあの人物、もとい精霊が現れる。

「今日は何用だ?リュウザキ」

出てきたのは恐竜頭で筋骨隆々、業火を纏う火の高位精霊イブリートだった。今回もまた人間サイズである。

「この間ぶりだな。イブリートよ」

「む? おぉ、ニルザルルか。ということは予想通りということか?」

「そういうことだ。気づいたのはゴスタリア王本人らしいぞ」

「ほう、そうであったか。民を大事にする王らしく細部に気が回るようだ」

言葉を交わす魔神2人。友人の間柄のような口調である。だが、その内容は意味深。もしや…。

「このことを予測なされていたのですか!?」

思わずバルスタインが身を乗り出す。イブリートは悠然と答えた。

「バルスタイン、だったな。その通りだ。お主らが我が地に来た際、お主らの王は竜の正体についてやけにしつこく食い下がったからな。いずれこのような状況になることは想像に難くなかった」

「なら先に言ってくれれば良かったのに…」

流石に予想外だったらしく、竜崎はそう愚痴る。ニルザルルは楽しそうに彼を宥めた。

「少し賭けをしていてな。残念ながら、此度はイブリートの勝利だ」



「じゃあ…」

サラマンドを生まれさせた張本人として名乗りを上げてくれるのかい?そう言葉を続けようとした竜崎だったが、イブリートはそれを突っぱねた。

「いや、それは断る」

「良いではないか。汝がやったということにしておけば」

融通がきかない奴だな、と溜め息をつくニルザルル。イブリートはフンと鼻を鳴らした。

「我がそのようなことをすると思うか?」

「でもイブリートがやったことにしてほしいし、ここで頷いてくれなければ次は永炎の地に行って交渉するよ」

なおも食い下がる竜崎。イブリートはやれやれと息を吐いた。

「こういう時のお前はしつこいな。それならば、素直に自分がやったと言えばよかろう。嘘に嘘を重ねて何になる」

「いや、国という大きな組織には円滑に回すための誤魔化しも必要事項だ。イブリートだって真実が知れ渡った時の私達が受けるリスクはわかっているだろう?私やさくらさんが無惨に殺されても良いのか?」

自らの命を脅し材料とする彼。だがイブリートには意外と効いたらしい。

「むぅ…。友をむざむざ散らすのは我の信条に反する。だが、そちらの少女に関してはどうでも良い。いくらだとして、友と認めた者以外を守るほど我はお人好しではない」

「あっ」

流れるように放たれた彼の一言にさくらは思わず小さい声を出す。だが、既に遅かった。

「「!!!?」」

目を白黒させながら、さくらの顔を見る姫様とバルスタイン。その驚きようは魔神の姿が少女だったと知ったときと同じほどである。もしカップを持っていたら落として割っていたであろう。

「なんだ、伝えておらんかったのか」

悪びれないイブリートに対し、ニルザルルはまた溜息をついた。

「イブリート…。汝、もう少し空気を読め」
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