【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

文字の大きさ
上 下
129 / 391
―竜の魔神の元へ―

128話 竜の生くる地

しおりを挟む
「到着っと」

視界が戻り、新たな地についたことを確認するさくら。だがやはり室内のため様子がわからない。竜崎に連れられるまま外に出る。以前は極寒気候の山中や巨大樹の上だったが今回は果たして…

「わあ!」

目の前に広がるは木々や泉を湛えた青々とした大地。どうやらここは盆地のような形をしているらしく、周囲は切り立った霊峰群に囲まれている。そこに建てられた木や石製の建物。もし元の世界で当てはめるとするならばアルプスの景色だろうか。

だがやはり違うのは、空を飛び、地で寝ころび、泉で喉を潤す竜の姿があること。エルフの国では人が竜を使役している形だったが、ここでは竜が悠々自適に暮らしている。

と、さくらはとある違和感に気づく。
「あれ…でもここって魔界ですよね」
前にみた魔界は草木の色が人界側と違った。だがここは魔界であると聞いていたはずなのに、その様子があまり見受けられないのだ。竜崎がそれを解説してくれた。

「魔界は本来草木がちょっと毒々しいんだけど、この辺りは何故か人界側と同じような景色をしているんだ。前に竜は魔界からエルフの国に来たって話をしたでしょ? 彼らがエルフの国に居付いたのは景色がここと似ていたのが理由ではないかって説もあるんだよ」

なるほど、確かにどことなく雰囲気が似ている。とはいえ魔界は魔界。ところどころに紫やらなんやらの草木が入り混じりはしている。が、それはそれで良いアクセントとなっている。

「ここが、『竜の生くる地』…!」
姫様は感動で震えているご様子。それを見て微笑みながら、竜崎は先を促した。

「さ、近場の街に降りまして着替え用の部屋を借りましょう」



街中を進む竜崎達。さくらは驚いていた。店が結構多いのだ。食料品等を扱う店は勿論あるが、特に目立つのは武器や防具、アクセサリーを取り扱う店である。

「ここは竜の鱗や牙、角を利用した質の良い武器防具が手に入るんだ。生え変わったものや亡くなった竜から頂いて作っているんだけど、こことエルフの国以外では基本暴れる野良竜を討伐するか、高いお金を払って素材を仕入れるかしか作る手段がなくてね。ここに買いに来る人は結構いるんだよ」

竜崎にそう教わり見渡すと、戦士然とした雰囲気の人々が確かに沢山。どこの店も盛況である。続いて見受けられるのは…。

「意外と貴族の方が多いですね」

彼らは一目でそれとわかる服装をしているため、よく目立つ。貴族の護衛として雇われて来た戦士も多そうだ。

「竜は移動や戦闘の足として非常によく使われている。だから日頃のお礼に訪れる人が結構いるんだ。まあ実際はそれを建前に竜の素材を使った品を買いに来てる人がほとんどらしいんだけど。それでも拝礼に来る人は高位精霊の棲む地より多いよ」

「なんでですか?」

「精霊達の地は何かしら障害が多くてね。安全に行くためには巫女や魔術士の援助が居るんだけど、ここは最悪案内人だけでなんとかなるから。それでもたまに竜に襲われるみたいだけど。どうせ拝礼にくる人々は沢山の兵を引き連れてくるから問題はないみたい」

確かに以前連れて行ってもらった水の高位精霊エナリアスがいる「万水の地」は入口の地点で滝のような大雨が降っていた。気軽に入ったら水圧でぺしゃんこである。


と、きょろきょろ見渡していた姫様が口を開く。

「ここってエルフの方が多いのですね」

恐らくここに住んでいる人達であろうか、軽装で出歩く彼らには確かにエルフが多く見受けられる。それを聞いた竜崎は姫様を褒めた。

「よくお気づきになられました。この地には竜を信奉する人々が集まっているのですが、エルフは長い間竜と共に暮らしてきた歴史があります。ですので他種族に比べて信奉者が多めなのです。言ってしまえばここはエルフの国ラグナウルグルに続く、エルフの第二の故郷。先の戦争でも、中立を保つという国の決定に従えず飛び出した人々のほとんどは竜の魔神殿を守りたいという考えがあったと聞いています。ちなみに他には竜の素材で存分に腕を奮いたいドワーフの人達が多いですね」

へぇーと声を漏らすテレーズ姫に竜崎は思い出したかのように一つお願いをする。

「そうだ姫様。今更で申し訳ないのですが、部屋を借りる宿は私の知り合いが営むところで宜しいでしょうか。そのほうが色々と都合が良いので…」

「えぇ、構いませんわ。半ば隠密のようなものですし」


貴族が泊まるための高級そうな宿泊施設を横目に竜崎が扉を開いたのは一件の小さめな宿。

「あら、リュウザキ先生お久しぶりです」

彼の顔を見るなり、受付に座っていたエルフの女性は親し気に挨拶をする。

「突然でごめんね。いつものように部屋を貸してもらっていい?」

「えぇ勿論。ちなみに今回のお客様は…わ、ゴスタリアの姫様と団長殿。ようこそ遠路はるばる」

彼女達は敬意をこめた礼を交わす。

「ではお部屋にご案内いたします」

詳しい事情を一切聞かず、姫様達を空き部屋に案内するエルフの女性。その間、さくら達はフロントの休憩スペースで休ませてもらうことに。


すると戻ってきた女性がお茶を淹れ持ってきてくれた。

「はい、どうぞ。こちらは新しい生徒さんですか?」

―あぁ。以前精霊伝令で伝えた内容に関わる子だ―

「そうでしたか!」

ニアロンとそう言葉を交わす彼女。竜崎がさくらに教えてくれた。

「この子は私の教え子の1人でね。この辺りの防衛隊長を竜の魔神から仰せつかっているんだ」



「それで、先生。少しお耳を…」

女性は他の客に聞こえないよう声を潜める。

「残念ながら以前お伝えしました通り、妙な魔術の痕跡等は見つからず、魔王様から通達がありました謎の魔術士についても目撃情報は今のところございません。ですが、ここ最近一部の竜の姿が消えているのです。中にはおよそ簡単に狩られる存在ではない巨大種も。調査隊にも依頼を行い、私達も探索を行いましたが不可解なことに遺体の痕跡はおろか、暴れた形跡すら一切見つけられずじまいです」

「そうか…少し警戒を強めたほうがいいな。私からも魔王に頼んで兵を回してもらうよ」

「是非お願いします」

そんな会話から竜崎がここに来たがった理由を察したさくらだった。何かが水面下で動いている。そんなことは流石の彼女にも察することはできた。



竜崎が何か書き物をしている間、暇となったさくらは近くに併設されているお土産コーナーへ。と、面白いものを見つけた。

「これこの世界にもあるんですか!?」

さくらが手にしたのは、よくお土産屋で見かける竜のキーホルダー。男の子がこぞって買いそうなあれである。

「まさかこれも竜崎さんの入れ知恵…?」

そう竜崎に問うと、彼は笑い飛ばした。

「いやいや、元からあったよ。私も初めて見た時は目を疑ったけどね」

「竜崎さんもこんなの買ってたんですか?」

「よく買って母親に叱られてたよ。そんなの買うぐらいならもっとご当地品買いなさいって。まあここのは本物の竜素材だ。胸を張って買っていいよ」

いや、要らない…。純粋にそう思ってしまった。その気持ちを隠すために、さくらは竜崎に購入するか聞いてみる。すると…。

「いや、それはもう持ってるからいいや」

「えっ?」

まさかの返答である。呆けるさくらにニアロンが呆れ顔で説明をしてくれた。

―こいつ、新しいのを見るたびに買っているんだ―

「いいじゃないか、だって本物なんだから。元の世界のものっぽくて懐かしい気持ち半分だし」

―もう半分は?―

「えっと…」

―正直に―

「かっこいいから…」

渋々白状する竜崎であった。




「リュウザキ様、さくらさん、お待たせいたしました!」

着替えが終わったらしく、楽し気な姫様の声が響く。その姿を見たさくらは思わずわっと声を漏らしてしまった。

「その格好って…」

先程の高貴なドレスはどこへやら。お召しになっていたのは薄汚れたような上着とホットパンツ。足にはタイツにロングブーツ。巻いたベルトからはお洒落な短剣がぶら下がり、長く美しい髪は短く纏められ、ゴーグル装備。まさにトレジャーハンターである。

「おー。一流の冒険者って感じですね」

拍手する竜崎とは打って変わって、御付きのバルスタインは苦々しい顔。

「いつの間にこんな服を…準備を手伝わせてくださらなかった訳がわかりました…」

「そりゃ内緒にするわ。だって間違いなく止められるもの!」

フンスとふんぞり返る姫様であった。

「リュウザキ先生、これでは魔神殿がお怒りになるのでは…?」
なんとか竜崎を使い、はしたない服装を止めさせようとするバルスタインだったが…

「いや?寧ろ面白がると思うよ。案内のし甲斐があるなぁ」

「…」

―諦めろ、バルスタイン―

「はい…」



ということで一行は馬車、ではなく竜が引く車に乗り目的地に。普段は警護の目があってできないのだろう、流れゆく景色をウキウキと眺める姫様と、それを見て複雑な感情を内包した顔をするバルスタイン。

そんな中、竜崎は先程書いていた手紙を紐付きの袋に詰めていた。

「それって魔王様宛の手紙ですか?」

「ううん、それはさっき送ってもらったよ。これは…後でのお楽しみ」

そんな間に馬車ならぬ竜車は到着。そこには厳重な柵と、案内人の詰め所。そして…。

「霧…?」

そこから先は山へと入る参道。しかし不自然にも、先が一切見通せないほどの濃霧がまるで瘴気のように覆っていたのだ。

「ここから先が竜の魔神が棲む地。本当の『竜の生くる地』だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...