【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

文字の大きさ
上 下
126 / 391
―ゴスタリアからの依頼―

125話 救いの手

しおりを挟む
「へっ!?」

素っ頓狂な声を出すさくらに説明するように、兵は言葉を続ける。

「実は私達、以前貴方と似た方を王宮内でお見掛けしたことがありまして…」

「そ、それっていつ頃の話ですか…?」

「先日の、火球を吐く竜が現れた日です」

間違いない、自分のことである。ローブのフードを冠らず歩き回っていたのが原因か。どうしよう。事情を知る竜崎とバルスタイン、ゴスタリアの老精霊術士は今話し合い中でこちらに気づいていないようだし、メリッサは別部屋にいってしまった。助け舟は流れてこない。

そして、はいそうですと答えられるわけもない。もしバレてしまったら王様どころか竜崎やバルスタインの顔にも泥を塗ることになる。かといって「師匠を変えました」とかの嘘を並べ立てると後でバレた時が怖い。そもそもそんな理由通らないだろう。それに、下手に誤魔化すと竜崎が来たのではないかと疑念がつくかもしれない。そうなったらバレるのは時間の問題である。

「えっと、あの…」
結局何も言うことはできず、しどろもどろになるさくら。兵の顔も少し不信感で陰り始める。マズい。本当にマズい。目の前がぐるんぐるんとし始めてしまう中、予想だにしない方向から救いの手が差し伸べられた。

「どうかしたのですか?」



ハッと声が聞こえた扉の方を見ると、そこにいたのは赤きドレスを纏った女性。彼女は―!

「姫様!」

驚いた兵は思わずそう叫び、急いで敬礼をする。竜崎達も気づき、敬服の姿勢をとる。

彼女はドレスを上げ挨拶をする。
「皆様、此度はありがとうございます。実は1つお願いがあって参りました。私もこの国を治める立場の者、是非この場で皆様の議論を傍聴させて頂きたいのです」

当然断る理由も必要もない。竜崎が代表し答えを返す。

「勿論です、どうぞ心ゆくまで」

「ありがとうございます、リュウザキ様」

慌てて彼女用の椅子を準備しようとする兵達を諌め、ゴスタリア姫はさくらのほうへと顔を向ける。

「こちらに座ってもよろしくて?」

コクコクコクと首を降るしかできないさくら。姫様は気品ある動作でふわりと座ると、さくらにしか聞こえない声で呟いた。
「少しびくびくしたままで。全く知らない貴族が横に座ったという感じでいてください」

突然の指示に驚きながらもさくらはそれに従う。すると姫様は、まるで初めて会ったかのような態度で自己紹介を行った。

「はじめまして。私はテレーズ・フォン・ゴスタリア。この国の王女です」

改めてさくらは彼女のご尊顔を拝見する。高貴さからわかりにくかったが、彼女は予想以上に若そうで、メストより少しだけ年上。恐らく20そこいらであることが窺えた。ほうっと数瞬見惚れたさくらも慌てて返す。

「雪谷さくら、です。さくら、とお呼びください」

「? 名前がそちらなのですか?わかりました。さくらさん、先程は兵が無礼を。どうかお許しくださいませ」

恭しく謝罪をする彼女。一国の姫に頭を下げさせるなんて恐れ多い。慌てて頭を上げてもらうさくらだった。


「ところで、何を問い詰めていたのですか?」

先程の兵を呼び寄せ、そう問う姫様。今度は兵側がしどろもどろになった。

「いえ、問い詰めたつもりは…ただ1つ気になることがございまして…」

「貴方にそのつもりはなくとも、突然に鎧を着こんだ兵に詰め寄られれば萎縮するというもの。もっとバルスタインから所作を学びなさい」

「はっ!申し訳ありません…!!」

「それで、気になることとは?」

「実は…先日火球を吐く竜が現れた日、王宮にいらしていた旅の魔術士の方がおりまして。その方の弟子に彼女が似ていると感じたのです」

やはりさくらと竜崎のことである。それを聞いた姫様は今思い出したかのような口ぶりで頷いた。

「あぁ。あのお年を召した方ですね。私もご無理を言ってお話を伺わせていただきました。…確かに似ていますね。さくらさん、少々失礼を。お顔をよく見せて頂いても?」

「は、はい…」

すっと覗き込まれ、さくらは顔を固くしてしまう。だが、はた、と目が合った時、その言いたいことが朧気ながら伝わってきた。「私に任せて」。彼女は目でそう知らせてきたのだ。

「そうね…かなり似てるわ、髪型とかそっくり。でも違うと断言できます。あの子よりずっと可愛らしいもの」

ビシリと言い切る姫。だが兵は意外にも抵抗をしてきた。

「しかし、背負っています袋も一緒ですし…」

しまった。さくらは思わず袋に触れる。こんなことになるなら以前竜崎から貰った高級袋にしてくればよかった。焦げてるが。

それもまた、姫様が助けてくれた。
「そうね…では、中身を見れば一目瞭然でしょう。私が見せていただいたあの子の袋の中身は魔導書と杖でした。さくらさん、お手数ですが…」

促され、さくらは袋を開ける。中から出てきたのは専用武器のラケットのみ。

「ほら、違うじゃない」

得意げな姫に兵は謝り、元の警備に戻るのだった。



「あ、ありがとうござ…!」

お礼をするさくらを止めるように一本指を口元に当てる姫様。そのまま彼女は近くにいる兵に聞こえるような声で話を続けた。

「その武器。もしや、先日の代表戦で活躍をなされた学園の方とはさくらさんのことで? まあやはり!父が興奮して語ってくださったので印象に残っておりますの!」

どうやら工作は続いているらしい。さくらは先程言われた通りのことを遵守する。それを見て、彼女は頷く。当たったようだ。

「リュウザキ様のお弟子とあれば、様々な経験をなされておるでしょう。宜しければいくつかお聞かせ願えません?」

姫様はそう切り出すと、さくらに顔を寄せ―。

「もちろん、ゴスタリアの話はこの場では抜きで」

そうウインクをした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...