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―閑話―

119話 懇親会②

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「皆さん素晴らしい闘いでした!私もつい手に汗握っちゃいましたよ!」

エルフの副隊長にもそう褒められながら、さくら達は彼女についていく。この大広間、代表生徒達が騒ぎ楽しむ一角とは別に、貴族達がその喧騒をBGM代わりに優雅に食事をし語らいあうエリアがある。どうやらそこの、さらに奥に学園長はいるようだ。

「お、あの子達は学園の」

「流石は名高き『学園』の選ばれた生徒達だ。今年も質が良かった」

「良い顔をしている。うちで雇っている魔術士を辞めさせて、あの子らを代わりに雇いたいものだ」


そんな会話が聞こえてくる中、さくらはふと考える。なぜ学園長が呼んでいるというのに、伝令を仰せつかったのがエルフの副隊長なのか。その疑問は、目的地であろう一際豪奢なテーブルを見て瞬時に氷解した。


「しかしゴスタリアの、やらかしたな」
グラスを傾けながら、エルフの女王は隣に座るゴスタリア王にそう切り出す。彼は深々と頭を下げた。

「周辺各国には多大なご迷惑をおかけいたしました」

それを見て、学園長が茶々を入れる。
「泣かずに対処できたのは偉いわね」

「先生、当時の話はご勘弁を…」

そう縮こまるゴスタリア王を助けるように、今度はアリシャバージル王が口を開く。
「じゃが、そのような大事を起こしたというのに民から挙がる非難の声が少ないというのは、やはり人徳だの。自らの罪を認め、悔いることができるのも立派なこと。権力に驕った者はそれが出来ぬものだ」

「違いない。先代のも良き王だったが、当代の王も良き人物ということよ。多少威厳は足りぬがな」
と、エルフの女王はいじるように笑った。


なんとそのテーブルを囲んでいたのは学園長に加え、エルフの女王にゴスタリア王、そしてアリシャバージル王。王様揃い踏みにさくら達は思わず身を固くする。とはいえ王達の口調に荘厳なものはなく、彼らもまた懇親会として楽しんでいるようだ。

「学園の方々をお連れいたしました」

副隊長はビッと敬礼をする。エルフの女王は手で礼と指示を送り、彼女を下がらせた。

「3人共お疲れ様、良い闘いっぷりだったわよ」

学園長の労いの言葉を皮切りに、各王が次々と称賛の言葉を述べる。

「伝統ある竜使役弓術を凌ぐどころか、逆手に取るとは実に面白い策を考えるな」
とエルフの女王。
「我が国の代表達を助ける余力まであるとは、見事だ」
とゴスタリア王。
「流石はリュウザキとジョージの愛弟子だの」
とアリシャバージル王。

まさかまさかの直々に王からお褒めを預かり、メストとクラウスは緊張したまま頭を下げる。さくらのみ幾度か顔を合わせているせいか、他2人に比べて緊張は薄い。

と、ゴスタリアの王がさくらに話しかけてくる。
「我が国の代表達から聞いたが、試合前の口争いを仲裁してくれたそうではないか。礼を言わせてくれ」

そんなことを直接言われると思っていなかった彼女は、比較的低めだった緊張度が一気に上昇、思わず泡ついてしまう。

「あ、えっと、出すぎた真似をしてごめんなさい…!」

「いやいや、そう畏まらないでくれ。よければ代表達の元にも行ってあげてくれないか?向こうも君達のことを探しているようだったからな」



王の頼み通り、ゴスタリア生徒の元に出向くさくら達。ようやく見つけた彼らは罪悪感に包まれたような顔をしていた。

「ごめん…。折角助けて貰ったのに、力になれなくて…」

どうやら魔族の子らを相手に何もできなかったのを悔いているらしい。だがさくらにはそれよりも気になることがあった。

「ううん、そんなに気にしないで。それよりあの悪口を言っていた子は?」

「あれ以降何も。顔を合わせてもすぐさまバツが悪そうに顔を背けてくるし。他の人に何かお説教でもされたのかな」

それを聞いてホッとする。良かった、復讐とかはなさそうだ。と、そこに鳥人の子、ワルワスの声が響いた。

「クラウス、ここにいたか!お、ゴスタリアの代表達、試合中は悪いことしたな。許してくれよ」

フランクに謝る彼に、ゴスタリアの子らは少し呆けながら頷く。それを見て、ワルワスは笑顔を強めた。

「さあ学園の、こっちで飲み明かそうぜ。ジュースだけどな!ゴスタリアのも、仲直りがてら一緒に食おう!」

半ば無理やりに連れてかれるクラウスとゴスタリアチーム。その勢いに押され多少戸惑ったさくらとメストも遅れてついていこうとするが、そこに聞き覚えのある声がかけられた。

「お二人とも、試合お疲れ様でした」

「バルスタイン団長!」

ゴスタリア王国騎士団長、バルスタイン・フォーナー。先程も王の周囲を警護していた彼女が自身から出向いてくれたのだ。

「王に無理をお願いしまして、少し警護を離れる許可を頂きました」

「バルスタイン団長、僕の動き如何でしたでしょうか…?」

憧れの人を前に、恐る恐る聞くメスト。バルスタインはにっこりと微笑んだ。

「えぇ。惚れ惚れする立ち回りでした。メストさんの実力は既に私と同じくらいなのかもしれませんね」

「いえ滅相もない!団長殿の武勇は聞いております。おそらく僕が苦戦したサラマンドもあっという間に倒すでしょう」

「買い被り過ぎですよ。そうだ、リュウザキ先生に依頼いたしました赤い竜の調査、是非いらっしゃってください。その際に我が騎士団をご案内させていだきます」

「えっそんな。よろしいのですか!?」

「はい、勿論。リュウザキ先生には私から進言させていただきます」

やった!と小さくガッツポーズをするメスト。よほど嬉しいらしい。一方さくらはなんとはなしに竜崎を探してみるが…

「あれ?竜崎さんは?」

上手く見つからない。代わりにバルスタインが教えてくれた。

「先生方はあちらに」

見ると、竜崎は広間の一角にて沢山の生徒に囲まれて精霊術の講釈をしていた。中には大人である貴族や各国の教師達も混じっている。そして最前列で傾聴しているのはあのサラマンドを召喚した魔族の子達だった。ニアロンはそんな竜崎の頭の上でグラス片手に浮きながらくつろいでいる。

そしてジョージも別の場所で剣の指南を行っている。こちらにもまた、大人が入り混じっている様子だった。

「こんなところでも授業を…?」
訝しむさくら。バルスタインはそんな彼女に説明をしてくれた。

「『勇者一行の術士』リュウザキと『無双の勇』ジョージの名はカリスマですからね。かの高位精霊と対等に話せる魔術士は魔王様と賢者様、そしてリュウザキ先生ぐらいですし、ジョージ先生はたった一人で押し寄せる数万の敵軍に立ち向かい、怪我一つなくその全てを打倒したほどの実力者。教えを乞いたい方々は数多くいらっしゃるのです」


と、休憩の時間に入ったのか竜崎が水を取りに移動する。バルスタインは彼に駆け寄り言葉を交わすとすぐに戻ってきた。

「許可を頂いてきました。さくらさんも是非」
そう言いながらバルスタインはさくらに目配せをする。あの事件の真相を知っている者同士、それで通じ合うものがあった。



「ちょっと怖かったけど、楽しかったなぁ…」
バルスタインとの約束後、テンションが上がって騒いでいるクラウスとワルワス達を眺めながらさくらは試合を振り返る。戦闘経験も何もない自分が、攻撃を捌き、魔術を使い、相手を倒した。そして最後には持ちうる魔力全てを籠めた水の大技。しかも一流の魔術士よりも素晴らしいとまで言われたではないか。勿論自分の力だけではないが、自身の魔術が通用したのが楽しくて仕方なかったのだ。これならば、この異世界でも問題なく暮らしていけるかも!そう思うさくらであった。
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