111 / 391
―代表戦、本戦―
110話 代表戦⑨
しおりを挟む
矢が射られる。返すように魔術を撃つ。未だ火が残る戦場の中、エルフの代表達とさくら達学園代表は戦っていた。
先程の乱入のおかげでクラウスが生き残り、人数差の心配は無くなった。だが、未だこちらが不利なのは変わらない。それに加えて足元が悪い。
先程獣人2人を追い払うために半ば怒り任せで放った魔術。その残り火がそこかしこにあり、邪魔なのだ。水精霊で消火を試みたいが、そちらに気を向けてしまうと隙ができてしまう。いくら広い闘技場とはいえ、足場を制限されてしまえば弓の独壇場。かなりマズい状況である。
まさに防戦一方、矢を防ぐので精一杯である。たまに出来る隙も、空を飛ぶ竜が襲い掛かってきて攻撃に出れない。
こんなことなら見栄を張らず、さっきの獣人達と共闘しておけば良かったと心の端で思ってしまう。
「―!」
さくらは思いっきり首を振る。ダメダメ。エルフの人達も共闘申し出を断ったということは、自力でなんとかできるという自負と誇りがあるということ。それなのにこっちが折れてはいけない。折れたくない。自分にそう言い聞かし、前を向く。
しかし…。さくらには気になっていたことがあった。
「なんで矢が尽きないんだろう?」
先程からずっと戦っているのに、彼らの矢は尽きることがない。獣人の乱入もあり、確実に消費させられているはず。今もそこいらには炎の矢なるものが残っている。
「魔力で矢自体を作り出している素振りもないし、どうやって?」
深呼吸をし、視野を広げて見てみる。すると、あることに気づいた。
「竜が、矢を…!」
さくら達が圧されているタイミングを見計らって、竜が地面に突き刺さる矢を回収していたのだ。
それはエルフの子達の足元に落とされ、彼らは隙を見て拾い、再利用していた。なんという抜群のチームワーク。だが、さくらはそこに一つの勝機を見出した。
「これを利用すれば一気に勝てるかも…!メスト先輩、クラウスくん、ちょっと思いついたことが…」
「なんだ?急に動きを変えた?」
エルフの代表達は面と向かっている学園代表が急に動き出したことに警戒を強める。火を大きく迂回しながらじりじりと距離を詰めてきた。
「やっぱり動きを制限するのは効果的ってことか。もっと火を追加してみる?」
「そうしよう。『炎の矢』!」
さくら達の周囲には続々と火矢が撃ち込まれ、迂闊に近寄れなくなる。さらに移動を繰り返すたびにすぐさま燃やされる。それを確認して、メストは微笑んだ。
「良かった、上手く乗ってきてくれたみたい。さくらさん大丈夫?中位精霊の使役は結構魔力使うけど、もちそう?」
「まだこれくらいなら大丈夫です。でも早めに動いて欲しい…」
副隊長妹は訝しんでいた。
「さくらさんが仕掛けてこない…?」
頭に浮かんだのは、お姉ちゃんから聞いた彼女の活躍ぶり。精霊術もさることながら、手持ちの武器で魔獣をいとも簡単に追い払ったと聞いている。逆にいえば、あの武器で何かをしてこない限り脅威度は低いということ。そんな彼女が精霊を出さず、他2人の代表に守られるように動いている。何か大技の準備でもしているのだろうか。
「早めに仕留めさせてもらいます。『曲の矢』!」
さくらにめがけて秘蔵の一矢が放たれる。クラウスが防御に動いたが、クイッとすり抜けてしまう。
「しまった…」
そのまま後ろにいたさくらにあわや当たる―!
キンッ!
「二度は通用しないよ!」
メストがすんでのところで弾き、難を逃れることができた。
「危なかった…。ありがとうございます」
「お安い御用さ。…そろそろだね。準備はいいかい?」
「はい!」
「そろそろ矢が減ってきたよ」
「みんな、お願い」
指示を聞き、竜達は矢の回収に向かう。既に学園代表がいなくなった地に刺さる矢を引っこ抜き、一本拾っては主人の足元に落としを繰り返す。エルフ達は牽制を行いながら、それを拾った。
「これ火がまだついているな」
「…? あれ、消せない…」
火矢の先についている火の魔術を消そうとするが、上手くいかない。それを見て、メストが号令をかけた。
「今ださくらさん!」
「精霊達、姿を現して!」
離れた位置にいるさくらの声はエルフ達には届かない。だが、代わりにメラメラと燃える火が蠢き形を成した。
ズッ…
「―!火の精霊!?」
副隊長妹が叫んだ時には時すでに遅く、精霊達は一斉にエルフの代表達それぞれのゼッケンに張り付いた。
そう。矢が燃えていたのは火の魔術のせいではなく、さくらが呼び出した精霊によるもの。移動を開始する直前、さくらは気づかれぬように火の中に精霊達を這わせ、矢に潜んでもらっていたのだ。
「ど、どうしよう!」
「竜は…しまった、矢の回収に!」
自身に矢を向けることはできず、竜は遠くに。そもそも懐に竜を潜らせ攻撃させたら自分にダメージが入る。対応が思いつかないうちに精霊はカッと輝き―。
ボンッ! ボンッ! ボンッ!
「きゅう…」
それぞれ倒れるエルフの3人。竜達は慌ててご主人達の元に戻り安否を確認するが、全員目を回し、ゼッケンも外れていた。
「勝った…勝てた…!」
獣人達の力を借りず、自らの力と作戦で勝ち取った勝利。思わずガッツポーズをとってしまうさくらだった。
先程の乱入のおかげでクラウスが生き残り、人数差の心配は無くなった。だが、未だこちらが不利なのは変わらない。それに加えて足元が悪い。
先程獣人2人を追い払うために半ば怒り任せで放った魔術。その残り火がそこかしこにあり、邪魔なのだ。水精霊で消火を試みたいが、そちらに気を向けてしまうと隙ができてしまう。いくら広い闘技場とはいえ、足場を制限されてしまえば弓の独壇場。かなりマズい状況である。
まさに防戦一方、矢を防ぐので精一杯である。たまに出来る隙も、空を飛ぶ竜が襲い掛かってきて攻撃に出れない。
こんなことなら見栄を張らず、さっきの獣人達と共闘しておけば良かったと心の端で思ってしまう。
「―!」
さくらは思いっきり首を振る。ダメダメ。エルフの人達も共闘申し出を断ったということは、自力でなんとかできるという自負と誇りがあるということ。それなのにこっちが折れてはいけない。折れたくない。自分にそう言い聞かし、前を向く。
しかし…。さくらには気になっていたことがあった。
「なんで矢が尽きないんだろう?」
先程からずっと戦っているのに、彼らの矢は尽きることがない。獣人の乱入もあり、確実に消費させられているはず。今もそこいらには炎の矢なるものが残っている。
「魔力で矢自体を作り出している素振りもないし、どうやって?」
深呼吸をし、視野を広げて見てみる。すると、あることに気づいた。
「竜が、矢を…!」
さくら達が圧されているタイミングを見計らって、竜が地面に突き刺さる矢を回収していたのだ。
それはエルフの子達の足元に落とされ、彼らは隙を見て拾い、再利用していた。なんという抜群のチームワーク。だが、さくらはそこに一つの勝機を見出した。
「これを利用すれば一気に勝てるかも…!メスト先輩、クラウスくん、ちょっと思いついたことが…」
「なんだ?急に動きを変えた?」
エルフの代表達は面と向かっている学園代表が急に動き出したことに警戒を強める。火を大きく迂回しながらじりじりと距離を詰めてきた。
「やっぱり動きを制限するのは効果的ってことか。もっと火を追加してみる?」
「そうしよう。『炎の矢』!」
さくら達の周囲には続々と火矢が撃ち込まれ、迂闊に近寄れなくなる。さらに移動を繰り返すたびにすぐさま燃やされる。それを確認して、メストは微笑んだ。
「良かった、上手く乗ってきてくれたみたい。さくらさん大丈夫?中位精霊の使役は結構魔力使うけど、もちそう?」
「まだこれくらいなら大丈夫です。でも早めに動いて欲しい…」
副隊長妹は訝しんでいた。
「さくらさんが仕掛けてこない…?」
頭に浮かんだのは、お姉ちゃんから聞いた彼女の活躍ぶり。精霊術もさることながら、手持ちの武器で魔獣をいとも簡単に追い払ったと聞いている。逆にいえば、あの武器で何かをしてこない限り脅威度は低いということ。そんな彼女が精霊を出さず、他2人の代表に守られるように動いている。何か大技の準備でもしているのだろうか。
「早めに仕留めさせてもらいます。『曲の矢』!」
さくらにめがけて秘蔵の一矢が放たれる。クラウスが防御に動いたが、クイッとすり抜けてしまう。
「しまった…」
そのまま後ろにいたさくらにあわや当たる―!
キンッ!
「二度は通用しないよ!」
メストがすんでのところで弾き、難を逃れることができた。
「危なかった…。ありがとうございます」
「お安い御用さ。…そろそろだね。準備はいいかい?」
「はい!」
「そろそろ矢が減ってきたよ」
「みんな、お願い」
指示を聞き、竜達は矢の回収に向かう。既に学園代表がいなくなった地に刺さる矢を引っこ抜き、一本拾っては主人の足元に落としを繰り返す。エルフ達は牽制を行いながら、それを拾った。
「これ火がまだついているな」
「…? あれ、消せない…」
火矢の先についている火の魔術を消そうとするが、上手くいかない。それを見て、メストが号令をかけた。
「今ださくらさん!」
「精霊達、姿を現して!」
離れた位置にいるさくらの声はエルフ達には届かない。だが、代わりにメラメラと燃える火が蠢き形を成した。
ズッ…
「―!火の精霊!?」
副隊長妹が叫んだ時には時すでに遅く、精霊達は一斉にエルフの代表達それぞれのゼッケンに張り付いた。
そう。矢が燃えていたのは火の魔術のせいではなく、さくらが呼び出した精霊によるもの。移動を開始する直前、さくらは気づかれぬように火の中に精霊達を這わせ、矢に潜んでもらっていたのだ。
「ど、どうしよう!」
「竜は…しまった、矢の回収に!」
自身に矢を向けることはできず、竜は遠くに。そもそも懐に竜を潜らせ攻撃させたら自分にダメージが入る。対応が思いつかないうちに精霊はカッと輝き―。
ボンッ! ボンッ! ボンッ!
「きゅう…」
それぞれ倒れるエルフの3人。竜達は慌ててご主人達の元に戻り安否を確認するが、全員目を回し、ゼッケンも外れていた。
「勝った…勝てた…!」
獣人達の力を借りず、自らの力と作戦で勝ち取った勝利。思わずガッツポーズをとってしまうさくらだった。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる