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―代表戦、本戦―
99話 代表戦直前 参加生徒達
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時が流れるのは実に早く、あっという間に代表戦本戦の開催日となった。さくら達は馬車に乗り、コロッセオに向かう。
「緊張してきました…」
さくらは心臓の鼓動を抑えるために深い息を吐く。この一週間、出来るだけのことはしてきた。泣いても笑ってもこれが本番なのだ。
「僕もだよ。頑張ろうね」
メストは優しく励ましてくれる。もう一人の代表、クラウスはというと…。
「…」
黙って窓の外を眺めていた。
「緊張してるの?」
「誰が…!」
さくらの問いかけに気丈に答えるが、明らかに声が上ずっている。ガッチガチらしい。一緒に乗っていた竜崎が案じてくれた。
「緊張を解く方法を一つ教えてあげるよ。手の上に「人」という字を…あ、そうか漢字じゃないか…。そうだな、自分の名前を手のひらに指で書いてごらん」
半信半疑で竜崎の手振りに続くクラウス。さくらも乗じることに。
「今手に書いた名前は『緊張で小さくなった自分』だ。手のひらに収まるぐらいに小さく弱い自分に心を乱されて、思うように力が出せないんじゃ勿体ない。そんな悪い奴、パクリと食べて飲み込んじゃえばいいんだ」
そう言い、口へと放り込む動作をする竜崎。元の世界では使い古された緊張をほぐすおまじないだが、こちらの世界には無いのか、竜崎独自の解釈も合わさりクラウスには効いたようだ。ゴクンと飲み込んだ彼の顔は大分ほぐれていた。
見ると、メストも真似をしていた。声や素振りからはわからなかったが、やはり彼女も緊張しているらしい。
準備があるという竜崎と別れ、さくら達は選手待機所に向かう。石造りの古風な通路を歩いていると、まるでローマ時代とかにタイムトリップした気持ちになってしまう。いやローマではなく異世界にトリップならぬスリップしてきているわけだが。
部屋に到着すると、既に他の代表選手達が何チームも控えていた。それぞれの制服や伝統装束、特別に誂えた衣装を身に纏い、各員スパーをしたり、図を広げて策を練ったり、武器や魔導書のチェックを行う等抜かりがない。さくら達も空いているところに移動し、最終調整を始めることにした。
「色んな人がいるなぁ…」
腰を落ち着け改めて見回してみるとその人種は多種多様。人間に始まり獣人族、エルフ、魔族、マーマン族、ドワーフ族、オーガ族。種族が統一されたチームが良く見受けられるが、さくら達と同じように複数の種族が入り混じるチームもある。肌の色や髪の色、見た目が全く違う彼らを見るのだけでも少し楽しくなるさくらだった。
そんな折、突然喧嘩声が飛び交う。
「もう一度言ってみろ!」
「何度でも言ってやるぜ!お前らのとこの王様はクズ野郎だ!なんで今も平然と王座に座ってられるのか不思議でならないな!」
なんだなんだと様子を窺う野次馬にさくら達も乗っかる。中央で争っていたのは勿論どこかの国の代表同士、だがけなされている方の生徒達が来ている制服の色合いには見覚えがあった。赤と灰を基調としたそれは「火山国家ゴスタリア」のものだった。
「私達の王様は常に民のことを考えてくれているのよ!」
「ハッ!それでサラマンドを軒並み殺してしまうとかいう大惨事を起こしてりゃ世話ねえぜ!そんな国の代表なんか日和っていて弱いに決まっているな!」
「なんだと!?」
まさに一触即発。そのまま見ているわけにもいかず、さくらは仲裁に入った。
「両方とも落ち着いてください!」
「あ? 誰だお前!」
「邪魔をするな!」
反射的に言葉を返す彼らだったが、相手が女の子、かつ「学園」の制服を着ていることに気づき言葉を詰まらせる。それをいいことに、さくらは喧嘩を売った側に詰め寄る。
「そんな風に人を罵るのは良くないと思います。試合なんですから正々堂々といきましょう」
「その子の言う通りだ。すぐに始まるんだ、どんな思いを抱えてようが実力で示せばいいさ!」
さくらの言葉に呼応するように、豪快に笑いながら野次馬を押しのけて出てきたチームが一つ。同年代のはずなのにまるで大人の様な得体の良さ、そして頭に生える特徴的な角。オーガ族の代表選手らしい。学園の生徒とオーガ族に囲まれ、形成不利と悟った相手の生徒は舌打ちして去っていった。
「…一応お礼を言っとくよ。ありがとう」
怒りを抑えた声ながらもゴスタリアの代表生徒達は礼をする。
「ううん。ゴスタリアの王様が良い人なのは知っているから」
さくらの言葉に少し驚いた顔を見せた彼らは、嬉しそうに微笑んだ。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。王様は私達の誇りなんだ」
「よおよお、学園の。勇気があるな!」
バシィン!
「きゃっ!」
突然背中を叩かれ、さくらは小さな悲鳴をあげてしまう。犯人はオーガ族の代表の1人だった。
「痛いんですけど…」
「あ、ごめんな。別種族相手だと力加減が今一つ分からなくて。いやしかし、そんなちっこい体でよくあの騒ぎに飛び込めたな。丁度俺達も止めに入ろうとしていたんだ。俺達は『オーガの里 オグノトス』の代表だ。よろしく頼むぜ」
手が差し出され、さくらはそれを握り返す。が―。
「痛っ―!」
ただの握手というにはあまりにも力が強い、万力で挟まれたような感覚を受け顔を歪ませる。それに気づいたオーガは慌てて手を離した。
「ありゃ、またやっちゃった。ほんとすまねえ。しかし、他種族はほんと華奢だな。俺達と勝負できるのか?」
「できますよ!」
潰された手をひらひらさせて冷やしながらさくらは言い返す。威勢のいい返事に彼はご満悦。
「そりゃあいい、狙わせてもらうぜ。学園の代表を倒したとあれば誉れ高いからな。俺達には秘密兵器がある。気をつけるこったな!」
そう言い放ち、またも豪快に笑いながら自分達の居場所に戻っていった。
「秘密兵器…」
嵐の如き彼らの背を見送り、さくらはその言葉を反芻する。もしやそれって「限界突破機構」のことか…?そう訝しむ彼女の背に恐る恐る声がかけられた。
「あ、あの。もしかしてさくらさんですか?」
知り合いなんていないであろうこの場で突然名を呼ばれたことに驚き振り返る。そこにいたのは肩に小型の竜を乗せたエルフの大人しそうな女の子だった。
「は、はい。そうですけど…」
「やっぱり…!えっと、以前お姉ちゃんがお世話になりました」
ぺこりと頭を下げる彼女には悪いが、エルフにそんな知り合いは…。改めて彼女の姿をまじまじとみてみる。どことなく誰かに似ているような…。
「あっ!もしかして、エルフの国で案内してくれた副隊長の!?」
「はい!その妹になります!私はまだお姉ちゃんのように大きな竜は扱えませんけど、この子と共に戦います。是非よろしくお願いしますね!」
撫でられクルル…と喉を鳴らしていた肩乗り竜は主人の礼に合わせて首を下げた。
さくらがメスト達の元に戻ってくると、彼女達は魔族の生徒達と話していた。
「あ、さくらさん。この方達は魔界代表のチームの一つだよ」
紹介された面々はメストのような青肌ではなく、灰色の肌やさくらと同じような肌の色をもっていたが、魔族の特徴である翼はしっかり生えていた。内一人が恭しく言葉を続けた。
「今聞いたんですけど、さくらさんもメストさんと同じく、あのリュウザキ様のお弟子らしいじゃないですか」
「弟子…。まあそうです」
弟子というより保護されている立場なのだが。
「以前のアリーナでリュウザキ様と戦った男性、覚えています?」
「え。確か竜崎さんと同じ精霊使いの…」
かつて見学させてもらった魔王軍アリーナのエキシビションマッチ。そこで竜崎と相対したのが火の上位精霊サラマンドを操る若き精霊術士、ノルヴァ・ノイモントだった。まあ正直言うと竜崎に簡単にいなされていたが。
さくらの言葉を聞き、魔族の生徒は頷いた。
「はい、ノルヴァ先輩です」
「先輩?」
「実は彼は私達が所属する訓練所の先輩にあたりまして、今も色々と精霊術を教わっているんです」
「ということは、敵討ち…?」
邪推し身構えるさくらを他の1人が笑いながら止める。
「いやいや、そんなことする気なんてありませんよ。リュウザキ様の偉大さは聞き及んでおりますし、先輩はあの戦いを思い返しては楽しそうに修行に励んでいます。まあ、個人的には弟子同士ということでちょっとライバル視はしてますけど」
彼らが戻った後、クラウスがぼそりと呟いた。
「色々喧嘩を売られたな」
さくらはハッとする。少なくともオーガ族、エルフ族、魔族のそれぞれ一チームずつからは宣戦布告を受けた形になっていたことにようやく気付いたのだ。
「クラウスくんもあんな感じに礼儀正しく宣戦布告をしてくれれば良かったのに」
「ぐっ…。でもまだ決着はついていないからな!」
「はいはい。代表戦に集中しよう」
さくらに軽くいなされ、彼は少し悔しそうだった。
「緊張してきました…」
さくらは心臓の鼓動を抑えるために深い息を吐く。この一週間、出来るだけのことはしてきた。泣いても笑ってもこれが本番なのだ。
「僕もだよ。頑張ろうね」
メストは優しく励ましてくれる。もう一人の代表、クラウスはというと…。
「…」
黙って窓の外を眺めていた。
「緊張してるの?」
「誰が…!」
さくらの問いかけに気丈に答えるが、明らかに声が上ずっている。ガッチガチらしい。一緒に乗っていた竜崎が案じてくれた。
「緊張を解く方法を一つ教えてあげるよ。手の上に「人」という字を…あ、そうか漢字じゃないか…。そうだな、自分の名前を手のひらに指で書いてごらん」
半信半疑で竜崎の手振りに続くクラウス。さくらも乗じることに。
「今手に書いた名前は『緊張で小さくなった自分』だ。手のひらに収まるぐらいに小さく弱い自分に心を乱されて、思うように力が出せないんじゃ勿体ない。そんな悪い奴、パクリと食べて飲み込んじゃえばいいんだ」
そう言い、口へと放り込む動作をする竜崎。元の世界では使い古された緊張をほぐすおまじないだが、こちらの世界には無いのか、竜崎独自の解釈も合わさりクラウスには効いたようだ。ゴクンと飲み込んだ彼の顔は大分ほぐれていた。
見ると、メストも真似をしていた。声や素振りからはわからなかったが、やはり彼女も緊張しているらしい。
準備があるという竜崎と別れ、さくら達は選手待機所に向かう。石造りの古風な通路を歩いていると、まるでローマ時代とかにタイムトリップした気持ちになってしまう。いやローマではなく異世界にトリップならぬスリップしてきているわけだが。
部屋に到着すると、既に他の代表選手達が何チームも控えていた。それぞれの制服や伝統装束、特別に誂えた衣装を身に纏い、各員スパーをしたり、図を広げて策を練ったり、武器や魔導書のチェックを行う等抜かりがない。さくら達も空いているところに移動し、最終調整を始めることにした。
「色んな人がいるなぁ…」
腰を落ち着け改めて見回してみるとその人種は多種多様。人間に始まり獣人族、エルフ、魔族、マーマン族、ドワーフ族、オーガ族。種族が統一されたチームが良く見受けられるが、さくら達と同じように複数の種族が入り混じるチームもある。肌の色や髪の色、見た目が全く違う彼らを見るのだけでも少し楽しくなるさくらだった。
そんな折、突然喧嘩声が飛び交う。
「もう一度言ってみろ!」
「何度でも言ってやるぜ!お前らのとこの王様はクズ野郎だ!なんで今も平然と王座に座ってられるのか不思議でならないな!」
なんだなんだと様子を窺う野次馬にさくら達も乗っかる。中央で争っていたのは勿論どこかの国の代表同士、だがけなされている方の生徒達が来ている制服の色合いには見覚えがあった。赤と灰を基調としたそれは「火山国家ゴスタリア」のものだった。
「私達の王様は常に民のことを考えてくれているのよ!」
「ハッ!それでサラマンドを軒並み殺してしまうとかいう大惨事を起こしてりゃ世話ねえぜ!そんな国の代表なんか日和っていて弱いに決まっているな!」
「なんだと!?」
まさに一触即発。そのまま見ているわけにもいかず、さくらは仲裁に入った。
「両方とも落ち着いてください!」
「あ? 誰だお前!」
「邪魔をするな!」
反射的に言葉を返す彼らだったが、相手が女の子、かつ「学園」の制服を着ていることに気づき言葉を詰まらせる。それをいいことに、さくらは喧嘩を売った側に詰め寄る。
「そんな風に人を罵るのは良くないと思います。試合なんですから正々堂々といきましょう」
「その子の言う通りだ。すぐに始まるんだ、どんな思いを抱えてようが実力で示せばいいさ!」
さくらの言葉に呼応するように、豪快に笑いながら野次馬を押しのけて出てきたチームが一つ。同年代のはずなのにまるで大人の様な得体の良さ、そして頭に生える特徴的な角。オーガ族の代表選手らしい。学園の生徒とオーガ族に囲まれ、形成不利と悟った相手の生徒は舌打ちして去っていった。
「…一応お礼を言っとくよ。ありがとう」
怒りを抑えた声ながらもゴスタリアの代表生徒達は礼をする。
「ううん。ゴスタリアの王様が良い人なのは知っているから」
さくらの言葉に少し驚いた顔を見せた彼らは、嬉しそうに微笑んだ。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。王様は私達の誇りなんだ」
「よおよお、学園の。勇気があるな!」
バシィン!
「きゃっ!」
突然背中を叩かれ、さくらは小さな悲鳴をあげてしまう。犯人はオーガ族の代表の1人だった。
「痛いんですけど…」
「あ、ごめんな。別種族相手だと力加減が今一つ分からなくて。いやしかし、そんなちっこい体でよくあの騒ぎに飛び込めたな。丁度俺達も止めに入ろうとしていたんだ。俺達は『オーガの里 オグノトス』の代表だ。よろしく頼むぜ」
手が差し出され、さくらはそれを握り返す。が―。
「痛っ―!」
ただの握手というにはあまりにも力が強い、万力で挟まれたような感覚を受け顔を歪ませる。それに気づいたオーガは慌てて手を離した。
「ありゃ、またやっちゃった。ほんとすまねえ。しかし、他種族はほんと華奢だな。俺達と勝負できるのか?」
「できますよ!」
潰された手をひらひらさせて冷やしながらさくらは言い返す。威勢のいい返事に彼はご満悦。
「そりゃあいい、狙わせてもらうぜ。学園の代表を倒したとあれば誉れ高いからな。俺達には秘密兵器がある。気をつけるこったな!」
そう言い放ち、またも豪快に笑いながら自分達の居場所に戻っていった。
「秘密兵器…」
嵐の如き彼らの背を見送り、さくらはその言葉を反芻する。もしやそれって「限界突破機構」のことか…?そう訝しむ彼女の背に恐る恐る声がかけられた。
「あ、あの。もしかしてさくらさんですか?」
知り合いなんていないであろうこの場で突然名を呼ばれたことに驚き振り返る。そこにいたのは肩に小型の竜を乗せたエルフの大人しそうな女の子だった。
「は、はい。そうですけど…」
「やっぱり…!えっと、以前お姉ちゃんがお世話になりました」
ぺこりと頭を下げる彼女には悪いが、エルフにそんな知り合いは…。改めて彼女の姿をまじまじとみてみる。どことなく誰かに似ているような…。
「あっ!もしかして、エルフの国で案内してくれた副隊長の!?」
「はい!その妹になります!私はまだお姉ちゃんのように大きな竜は扱えませんけど、この子と共に戦います。是非よろしくお願いしますね!」
撫でられクルル…と喉を鳴らしていた肩乗り竜は主人の礼に合わせて首を下げた。
さくらがメスト達の元に戻ってくると、彼女達は魔族の生徒達と話していた。
「あ、さくらさん。この方達は魔界代表のチームの一つだよ」
紹介された面々はメストのような青肌ではなく、灰色の肌やさくらと同じような肌の色をもっていたが、魔族の特徴である翼はしっかり生えていた。内一人が恭しく言葉を続けた。
「今聞いたんですけど、さくらさんもメストさんと同じく、あのリュウザキ様のお弟子らしいじゃないですか」
「弟子…。まあそうです」
弟子というより保護されている立場なのだが。
「以前のアリーナでリュウザキ様と戦った男性、覚えています?」
「え。確か竜崎さんと同じ精霊使いの…」
かつて見学させてもらった魔王軍アリーナのエキシビションマッチ。そこで竜崎と相対したのが火の上位精霊サラマンドを操る若き精霊術士、ノルヴァ・ノイモントだった。まあ正直言うと竜崎に簡単にいなされていたが。
さくらの言葉を聞き、魔族の生徒は頷いた。
「はい、ノルヴァ先輩です」
「先輩?」
「実は彼は私達が所属する訓練所の先輩にあたりまして、今も色々と精霊術を教わっているんです」
「ということは、敵討ち…?」
邪推し身構えるさくらを他の1人が笑いながら止める。
「いやいや、そんなことする気なんてありませんよ。リュウザキ様の偉大さは聞き及んでおりますし、先輩はあの戦いを思い返しては楽しそうに修行に励んでいます。まあ、個人的には弟子同士ということでちょっとライバル視はしてますけど」
彼らが戻った後、クラウスがぼそりと呟いた。
「色々喧嘩を売られたな」
さくらはハッとする。少なくともオーガ族、エルフ族、魔族のそれぞれ一チームずつからは宣戦布告を受けた形になっていたことにようやく気付いたのだ。
「クラウスくんもあんな感じに礼儀正しく宣戦布告をしてくれれば良かったのに」
「ぐっ…。でもまだ決着はついていないからな!」
「はいはい。代表戦に集中しよう」
さくらに軽くいなされ、彼は少し悔しそうだった。
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