【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

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―代表戦、予選―

96話 予選

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―どうした?やけにやる気に満ち溢れているな―

「負けられない相手ができました!」

竜崎に稽古をつけてもらいながら、さくらはそう答える。絶対あいつクラウスに一泡吹かせてやる!そんな思いでいっぱいだった。

「ライバルができるのはいいことだけど、力み過ぎないようにね」

「はい!」

―既に力んでるな。良い方に向かえばいいが…―




そんなこんなで時はあっという間に過ぎ、いよいよ予選当日と相成った。さくら達参加者は練習場の一角に集められ、円を描くように枠内に並べられた。

その中にはメストを含む先輩達も含まれている。そして、あのクラウスという少年も。彼はしきりにこっちを気にしていた。


ざわざわと緊張が包む中、学園長が説明兼宣誓を行う。

「今から代表戦出場選手を決める予選を行います。今皆さんにつけてもらったゼッケンはある程度のダメージを受けたら勝手に剥がれ落ちるという特殊な魔術を施してあります。それが外れたら敗北扱いとなるのですぐに枠外へと出てください。怪我で動けなくなった場合やこちら側が危険だと判断した場合、先生方による救出作業が入るので安心して力を揮ってくださいね」

学園長が示した先には簡易救護室。保健医と共に竜崎やジョージ、オズヴァルドなど複数の教員が待機していた。

「各自、悔いの内容に。では、はじめ!」

ピィィィィィ!

笛が吹かれ、生徒達は一斉に動き始める。近場の相手に突撃する者、魔術の詠唱を始める者、距離をとり周囲の様子を窺う者。至る所でぶつかり合う音が聞こえ始める。

そんな彼らの中でも、一際素早く動いた人物がいた。まるで標的を最初から決めていたかのような動きでさくらの元に近寄ってくる。そう、クラウスである。

「もらったぁ!」

思いっきり剣を振り下ろす彼に、さくらはラケットを構え応戦。

ガキン!

手が若干痺れてしまうものの、初太刀は防げた。剣の間合いから逃げるようにすぐに離れる。

「逃がすか!」

他の生徒なんぞ興味ないと言わんばかりに追いかけてくる彼に対して、さくらは精霊を呼び出した。

「皆、あの子を止めて!」

精霊達は風を起こしたり、水で地面をぬかるませたり、砂で目潰しをしたりと妨害をする。あわよくば反撃をする機会を狙うが、さくらが攻撃に転じれるほどの大きな隙を与えることはできなかった。

とはいっても乱戦の中。その攻撃は他の生徒に当たって更に混沌を引き起こすが、2人とも目の前のライバルしか眼中になかった。


「ちょこまかと!」

人混みに巻き込まれ追いつけず、一方的に飛んでくる魔術を躱すので精一杯なクラウスは業を煮やす。自身の剣に魔術を施し始め…。

「ジョージ先生直伝!『地裂』!」

そのまま地面を強く刺した。

ガガガガガガッ!!

大きな音を立てながら、さくら目掛けて一直線に地面が隆起し始める。線上にいた他生徒数名がそれに足をとられ転倒する。ぶつかったら確実に隙となる。さくらはイチかバチかジャンプをし―。

「浮遊魔術!」

ふわっと浮き、攻撃を避ける。地面の隆起は音を立てながらそのまま足元を通り過ぎていった。

「なにっ!?」

「お返し! 火の精霊よ!火球を撃って!」

召喚されていた火の精霊達数体は彼にむけて一斉に火の球を勢いよく打ち出す。当たればひとたまりもないが、クラウスはそれをなんとか横に逸らした。

「くっ…やるな!」

「そっちこそ!」


矢や魔術が飛び交う中、追いかけっこは続く。クラウスは剣に魔術を纏わせ射出する斬撃で牽制を行うが、メストのもっと速く鋭く大きい斬撃を練習時にみていたさくらはそれを難なく躱す。

対してさくらが放った精霊達の攻撃も、ジョージ先生から対処を学んでいたのだろう。胸のゼッケンに当たるような攻撃は全て弾かれた。


いい加減さくらも逃げるのが面倒になってきた。くるりと踵を返し、クラウスに立ち向かう。

ガキィン!

またも剣とラケットがぶつかり合う。剣術主体の戦い方と男子の膂力が合わさり、さくらは圧されてしまう。

「なんだ、この前吹っ飛ばしたのはやっぱり偶然か!」

一番警戒していたあの力、神具の鏡による「弾き返す」攻撃をいつまで経ってもしてこない彼女に対してクラウスはそう煽る。さくらはそこに隙を見出した。

「今それは封印しているの!」

自身が押さえている間に彼の胸元に精霊を滑り込ませる。一撃で決めるため、高威力の技を指示、精霊は溜め始める。

キィィィィイン―!

「―!危なっ!」

残念ながら間に合わず、魔術はクラウスの一刀で精霊ごと吹き飛ばされてしまった。しかし充分に警戒させることができたようで、先程までの威勢は鎮まり、さくらは絶好の反撃チャンスを手に入れた。

「精霊達!いくよ!」

精霊術の極意、それは「一対多」の状況に持ち込めること。精霊達を自分の手足、いや自分の分身のように動かすことで一気に場の流れを得ることができる。

それが上手くハマり、相手の間合いだというのにさくらは善戦していた。四方八方から飛んでくる精霊達の攻撃の対処に追われ、クラウスは攻めるに攻めきれない。このままいけば勝てる!そう踏んださくらだったが…。

ヒュン、ヒュンヒュン!

顔横を掠める魔術弾に思わず怯む。クラウスの攻撃かと思ったが、飛んできた方向が違う。見ると彼の方にも飛んできていた。

今まで流れ弾は幾つも飛んできていたが、急にさくら達を狙った攻撃が増えてきたのだ。中には剣や槍を振り回しながら接近し漁夫の利を狙う者まで。それらを剣戟の合間に躱し弾きを繰り返していた2人だったが、そのしつこさにとうとう同時にキレた。

「「あーもう!!」」

示し合わせたわけではない。だというのに、向かい合っていたさくらとクラウスは一斉にくるりと背を向け敵を捉えた。

「真剣勝負の!」

「邪魔をしないで!」

近場に迫る生徒達をクラウスは切り捨てていく。遠くから魔術を撃っている生徒にはさくらが属性を付与した魔術テニスボールを打ち込む。水を差された怒りからか、2人の攻撃は正確無比。今までいがみ合っていたはずの彼らが突然反撃に出たことに対処できず、1人、2人、3人、4人…と取り囲んでいた他生徒達はあっという間に屠られていった。


「もう邪魔者はいない!さあ決着をつけるぞ!」

「望むところ!」

改めて向き合いそう言葉を応酬する。そしてふと気づく。あれ、ということは…。

ピィィィィィ!

「そこまで!」

学園長の笛と声が響き、ようやく冷静になった2人は周りを見渡す。既に闘っている生徒はおらず、唯一生き残ったメストが拍手をしていた。

「2人共すごいね。連携取れてたよ」

「「えっ?」」

「え、無意識だったのかい?君達の攻撃の余波で結構な数の生徒がやられて、最後の協力技で残った子達も一気に散らされたんだよ」

そう言われ、先程倒した生徒達を見る。全員が目を回し、竜崎達の手によって救護されていた。


と、そこに学園長が近づいてくる。
「3人共、お見事ね。代表は皆に決まりよ。いい闘いっぷりだったわ」

がむしゃらだっただけに実感が湧いていなかったのが、彼女の言葉でようやく理解することができた。褒められ、嬉しくなったさくらとクラウスは揃って照れる。

「ところで、2人の勝負は決着がついていないみたいだけど、続ける?」

学園長の悪戯気な提案にさくら達はチラリとアイコンタクトを交わし、また別の機会にと辞退する。2人共代表に内定したほうの喜びが上回ってしまい、内心それどころではなかったのだ。
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