【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

文字の大きさ
上 下
86 / 391
―勇者―

85話 勇者と共に

しおりを挟む
「それで、今日はどうしたの?」
風呂上りの彼女の髪を当然の如く手入れしてあげながら竜崎は問う。

「エルフの皆が道を作りたいらしくて、力を使おうとしたら貰った武器壊しちゃった」

「なるほどね」

―やっぱり専用の武器じゃなければ釣り合わないか。ところでなんであのボロい布を着てきたんだ?―

「前にキヨトが『街に入る時はしっかりと服を着なさい』って言ってたから」

「いや言ったけど…。だからってあんな道端に捨てられてそうな布を被らなくても…。それなら普通に入ってきて良かったよ」

「そう?じゃあ今度からそのまま来る」

「いや服を着て来てくれよ…?」


竜崎達と勇者による夫婦漫才のような光景が繰り広げられている中、場違い感で心配になったさくらは手を挙げる。

「あの~。私ここにいていいんですか?」

竜崎を呼んできた後、どうしようか迷っていたさくらはなし崩し的に勇者の対面に座っていたのだ。

「いいよいいよ。アリシャ、こちらがこの間話したさくらさん。俺と同じ世界から来た」

「初めまして」
ぺこりと頭を下げる勇者、先に竜崎が事情を話していたとはいえ、一切驚くような素振りをみせない。

「は、初めまして」
慌ててさくらも返す。しかし…この人が勇者なのか。竜崎が用意した服を着て座っている彼女は全くもって「勇者らしさ」がない。ゲームとかによく出てくる彼らは凄い血筋を持っていたり、熱血漢だったり、凶悪な敵に立ち向かうための勇気に溢れている。

だが、目の前の勇者は違う。美人ではあるが、どこかおっとりした雰囲気を漂わせている。昨日吟遊詩人が謡った通りの覇気や実力は感じられないのだ。どちらかというと竜崎に似た、優しい性格の人にしか見えない。



「だから、キヨトにもエルフの国に来てほしい」

挨拶もそこそこに、話の続きを切り出す勇者。彼女の髪を整え終わった竜崎はクローゼットに向かう。

「ならあの武器もいるでしょ」

扉に触れ、厳重な封印を解いていく。以前そこから古い携帯やらさくらの武器になった鏡を取り出していたが、まだ何か入っているらしい。彼が取り出したのは、一本の剣だった。

「はい、どうぞ」

勇者は剣を受け取ると、鞘から引き抜き刀身を確かめる。飾りが全くない、武骨なそれを見て、彼女は微笑む。

「うん、変わらない」

―そりゃ変わらないだろ。『神具』なんだから―

呆れるように言うニアロンの言葉が引っかかり、さくらは質問してみる。
「そういえば神具ってなんなんですか?私が貰った鏡もマリアちゃんがそう呼んでいましたけど…」

―神具とは誰が作ったかわからない、人智を超えた力を持つ道具類の総称だ―

なるほど、あの鏡の力はそういうことだったのか。ということは…

「じゃああの剣も何か特殊な能力が?」

―あれは、『絶対に壊れない』剣だ。アリシャが力いっぱい武器を振ると大抵どれもすぐに砕けてしまうから、愛剣として使っているんだ。鍛冶屋泣かせだな―


キンと剣を収めた勇者は立ち上がり、竜崎の手を引っ張った。

「行こう」

「今からか?」

「転移魔術をお願いしてきた」

「わかったわかった」

よいしょと竜崎も立ち上がる。残されたさくらはそれを眺めていたが、

「さくらも行く?」
勇者から唐突に呼び捨てで呼ばれる。

「え!えーっと…。いいんですか?」
ちらりと竜崎を見る。

「いいんじゃない?心配なら課外授業として通すよ」
教員である竜崎がそう言うのであれば構わないのだろう。勇者の伝説を昨日聞いたばかり、実は内心ウズウズしていたのだった。



と、隣の部屋のドアをトントンと叩く音が微かに聞こえる。そして聞きなれた声が。

「さくらちゃーん!」

そういえばネリー達を待たせていたんだと慌ててさくらは外に出る。

「あ、そっちにいたの?」
「教科書忘れたって帰ってから大分経つのに戻ってこないから心配したよ」

「ごめん皆、実は…」
説明しようとするが、後から出てきた勇者がそれを遮った。

「さくらの友達? 一緒に行く?」

「「「へ?」」」




「は、初めまして!!ネリー・グレイスです!よ、よろしくおねばいいたします!」
初めて会う勇者にネリーはカチンコチンに緊張していた。以前賢者に会った時の比ではない。自己紹介も噛んだ。

「よろしく、ネリー」
「ひゃい!」

また噛んだ。

「ほ、ほんとにいいんですか?」
アイナとモカも身を固くしている。突然勇者との同行に誘われ、転移魔術を使うために王宮へ連れてこられたのだ。それも仕方ない。

「滅多にない機会だし、存分に楽しんで。気になるならレポート課題でも付け加える?」
ブンブンと顔を振る生徒達、竜崎は冗談だよ、と笑う。


「皆様、転移魔術の準備が出来ました。こちらへどうぞ」

勇者+術士+生徒4人のパーティーは転移魔法陣に足を踏み入れる。さくらはこの間体験したが、ネリー達は初体験のようで、ずっとキョロキョロと辺りを見回していた。

「では皆様、行ってらっしゃいませ。エルフの国へ」

モノリスが輝く。転移が始まり、視界が光で包まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...