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―勇者―
85話 勇者と共に
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「それで、今日はどうしたの?」
風呂上りの彼女の髪を当然の如く手入れしてあげながら竜崎は問う。
「エルフの皆が道を作りたいらしくて、力を使おうとしたら貰った武器壊しちゃった」
「なるほどね」
―やっぱり専用の武器じゃなければ釣り合わないか。ところでなんであのボロい布を着てきたんだ?―
「前にキヨトが『街に入る時はしっかりと服を着なさい』って言ってたから」
「いや言ったけど…。だからってあんな道端に捨てられてそうな布を被らなくても…。それなら普通に入ってきて良かったよ」
「そう?じゃあ今度からそのまま来る」
「いや服を着て来てくれよ…?」
竜崎達と勇者による夫婦漫才のような光景が繰り広げられている中、場違い感で心配になったさくらは手を挙げる。
「あの~。私ここにいていいんですか?」
竜崎を呼んできた後、どうしようか迷っていたさくらはなし崩し的に勇者の対面に座っていたのだ。
「いいよいいよ。アリシャ、こちらがこの間話したさくらさん。俺と同じ世界から来た」
「初めまして」
ぺこりと頭を下げる勇者、先に竜崎が事情を話していたとはいえ、一切驚くような素振りをみせない。
「は、初めまして」
慌ててさくらも返す。しかし…この人が勇者なのか。竜崎が用意した服を着て座っている彼女は全くもって「勇者らしさ」がない。ゲームとかによく出てくる彼らは凄い血筋を持っていたり、熱血漢だったり、凶悪な敵に立ち向かうための勇気に溢れている。
だが、目の前の勇者は違う。美人ではあるが、どこかおっとりした雰囲気を漂わせている。昨日吟遊詩人が謡った通りの覇気や実力は感じられないのだ。どちらかというと竜崎に似た、優しい性格の人にしか見えない。
「だから、キヨトにもエルフの国に来てほしい」
挨拶もそこそこに、話の続きを切り出す勇者。彼女の髪を整え終わった竜崎はクローゼットに向かう。
「ならあの武器もいるでしょ」
扉に触れ、厳重な封印を解いていく。以前そこから古い携帯やらさくらの武器になった鏡を取り出していたが、まだ何か入っているらしい。彼が取り出したのは、一本の剣だった。
「はい、どうぞ」
勇者は剣を受け取ると、鞘から引き抜き刀身を確かめる。飾りが全くない、武骨なそれを見て、彼女は微笑む。
「うん、変わらない」
―そりゃ変わらないだろ。『神具』なんだから―
呆れるように言うニアロンの言葉が引っかかり、さくらは質問してみる。
「そういえば神具ってなんなんですか?私が貰った鏡もマリアちゃんがそう呼んでいましたけど…」
―神具とは誰が作ったかわからない、人智を超えた力を持つ道具類の総称だ―
なるほど、あの鏡の力はそういうことだったのか。ということは…
「じゃああの剣も何か特殊な能力が?」
―あれは、『絶対に壊れない』剣だ。アリシャが力いっぱい武器を振ると大抵どれもすぐに砕けてしまうから、愛剣として使っているんだ。鍛冶屋泣かせだな―
キンと剣を収めた勇者は立ち上がり、竜崎の手を引っ張った。
「行こう」
「今からか?」
「転移魔術をお願いしてきた」
「わかったわかった」
よいしょと竜崎も立ち上がる。残されたさくらはそれを眺めていたが、
「さくらも行く?」
勇者から唐突に呼び捨てで呼ばれる。
「え!えーっと…。いいんですか?」
ちらりと竜崎を見る。
「いいんじゃない?心配なら課外授業として通すよ」
教員である竜崎がそう言うのであれば構わないのだろう。勇者の伝説を昨日聞いたばかり、実は内心ウズウズしていたのだった。
と、隣の部屋のドアをトントンと叩く音が微かに聞こえる。そして聞きなれた声が。
「さくらちゃーん!」
そういえばネリー達を待たせていたんだと慌ててさくらは外に出る。
「あ、そっちにいたの?」
「教科書忘れたって帰ってから大分経つのに戻ってこないから心配したよ」
「ごめん皆、実は…」
説明しようとするが、後から出てきた勇者がそれを遮った。
「さくらの友達? 一緒に行く?」
「「「へ?」」」
「は、初めまして!!ネリー・グレイスです!よ、よろしくおねばいいたします!」
初めて会う勇者にネリーはカチンコチンに緊張していた。以前賢者に会った時の比ではない。自己紹介も噛んだ。
「よろしく、ネリー」
「ひゃい!」
また噛んだ。
「ほ、ほんとにいいんですか?」
アイナとモカも身を固くしている。突然勇者との同行に誘われ、転移魔術を使うために王宮へ連れてこられたのだ。それも仕方ない。
「滅多にない機会だし、存分に楽しんで。気になるならレポート課題でも付け加える?」
ブンブンと顔を振る生徒達、竜崎は冗談だよ、と笑う。
「皆様、転移魔術の準備が出来ました。こちらへどうぞ」
勇者+術士+生徒4人のパーティーは転移魔法陣に足を踏み入れる。さくらはこの間体験したが、ネリー達は初体験のようで、ずっとキョロキョロと辺りを見回していた。
「では皆様、行ってらっしゃいませ。エルフの国へ」
モノリスが輝く。転移が始まり、視界が光で包まれた。
風呂上りの彼女の髪を当然の如く手入れしてあげながら竜崎は問う。
「エルフの皆が道を作りたいらしくて、力を使おうとしたら貰った武器壊しちゃった」
「なるほどね」
―やっぱり専用の武器じゃなければ釣り合わないか。ところでなんであのボロい布を着てきたんだ?―
「前にキヨトが『街に入る時はしっかりと服を着なさい』って言ってたから」
「いや言ったけど…。だからってあんな道端に捨てられてそうな布を被らなくても…。それなら普通に入ってきて良かったよ」
「そう?じゃあ今度からそのまま来る」
「いや服を着て来てくれよ…?」
竜崎達と勇者による夫婦漫才のような光景が繰り広げられている中、場違い感で心配になったさくらは手を挙げる。
「あの~。私ここにいていいんですか?」
竜崎を呼んできた後、どうしようか迷っていたさくらはなし崩し的に勇者の対面に座っていたのだ。
「いいよいいよ。アリシャ、こちらがこの間話したさくらさん。俺と同じ世界から来た」
「初めまして」
ぺこりと頭を下げる勇者、先に竜崎が事情を話していたとはいえ、一切驚くような素振りをみせない。
「は、初めまして」
慌ててさくらも返す。しかし…この人が勇者なのか。竜崎が用意した服を着て座っている彼女は全くもって「勇者らしさ」がない。ゲームとかによく出てくる彼らは凄い血筋を持っていたり、熱血漢だったり、凶悪な敵に立ち向かうための勇気に溢れている。
だが、目の前の勇者は違う。美人ではあるが、どこかおっとりした雰囲気を漂わせている。昨日吟遊詩人が謡った通りの覇気や実力は感じられないのだ。どちらかというと竜崎に似た、優しい性格の人にしか見えない。
「だから、キヨトにもエルフの国に来てほしい」
挨拶もそこそこに、話の続きを切り出す勇者。彼女の髪を整え終わった竜崎はクローゼットに向かう。
「ならあの武器もいるでしょ」
扉に触れ、厳重な封印を解いていく。以前そこから古い携帯やらさくらの武器になった鏡を取り出していたが、まだ何か入っているらしい。彼が取り出したのは、一本の剣だった。
「はい、どうぞ」
勇者は剣を受け取ると、鞘から引き抜き刀身を確かめる。飾りが全くない、武骨なそれを見て、彼女は微笑む。
「うん、変わらない」
―そりゃ変わらないだろ。『神具』なんだから―
呆れるように言うニアロンの言葉が引っかかり、さくらは質問してみる。
「そういえば神具ってなんなんですか?私が貰った鏡もマリアちゃんがそう呼んでいましたけど…」
―神具とは誰が作ったかわからない、人智を超えた力を持つ道具類の総称だ―
なるほど、あの鏡の力はそういうことだったのか。ということは…
「じゃああの剣も何か特殊な能力が?」
―あれは、『絶対に壊れない』剣だ。アリシャが力いっぱい武器を振ると大抵どれもすぐに砕けてしまうから、愛剣として使っているんだ。鍛冶屋泣かせだな―
キンと剣を収めた勇者は立ち上がり、竜崎の手を引っ張った。
「行こう」
「今からか?」
「転移魔術をお願いしてきた」
「わかったわかった」
よいしょと竜崎も立ち上がる。残されたさくらはそれを眺めていたが、
「さくらも行く?」
勇者から唐突に呼び捨てで呼ばれる。
「え!えーっと…。いいんですか?」
ちらりと竜崎を見る。
「いいんじゃない?心配なら課外授業として通すよ」
教員である竜崎がそう言うのであれば構わないのだろう。勇者の伝説を昨日聞いたばかり、実は内心ウズウズしていたのだった。
と、隣の部屋のドアをトントンと叩く音が微かに聞こえる。そして聞きなれた声が。
「さくらちゃーん!」
そういえばネリー達を待たせていたんだと慌ててさくらは外に出る。
「あ、そっちにいたの?」
「教科書忘れたって帰ってから大分経つのに戻ってこないから心配したよ」
「ごめん皆、実は…」
説明しようとするが、後から出てきた勇者がそれを遮った。
「さくらの友達? 一緒に行く?」
「「「へ?」」」
「は、初めまして!!ネリー・グレイスです!よ、よろしくおねばいいたします!」
初めて会う勇者にネリーはカチンコチンに緊張していた。以前賢者に会った時の比ではない。自己紹介も噛んだ。
「よろしく、ネリー」
「ひゃい!」
また噛んだ。
「ほ、ほんとにいいんですか?」
アイナとモカも身を固くしている。突然勇者との同行に誘われ、転移魔術を使うために王宮へ連れてこられたのだ。それも仕方ない。
「滅多にない機会だし、存分に楽しんで。気になるならレポート課題でも付け加える?」
ブンブンと顔を振る生徒達、竜崎は冗談だよ、と笑う。
「皆様、転移魔術の準備が出来ました。こちらへどうぞ」
勇者+術士+生徒4人のパーティーは転移魔法陣に足を踏み入れる。さくらはこの間体験したが、ネリー達は初体験のようで、ずっとキョロキョロと辺りを見回していた。
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