【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

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―はじまりの村へ―

70話 エアスト村②

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翌日のことである。さくらと竜崎は、とある山の下へと案内されていた。


そして目の前には、木や石が処理され、山肌が丸裸になったような超巨大な円形マーク。どうやら、ここにトンネルを掘ってくれということらしい。



早速準備運動をする竜崎とニアロン。それを傍で見守るさくら。―そして、彼らからかなりの距離をとって、『リュウザキが来ている』と聞きつけた人々が沢山集まり、見物をしていた。




「まるで見世物みたいですね…」


その好奇の視線群に何故か少しムッとしてしまったさくらは、若干皮肉交じりの台詞を口にする。しかし竜崎自身は…。



「最近はいつもこうだね。ちょっと緊張するよ」


あまり気にしていない様子。 本人が嫌がってないなら良いのかな…?と考えつつ、さくらは仕方なしにとある問いかけを。



「ところで、なんで皆さんはあんな離れているんですか?」






さくらが指摘した通り、見物客達は結構遠い位置に。そして簡易的に建てられた柵に阻まれ、目を凝らしたり双眼鏡を使ったりしてこちらを見ているのだ。


しかも彼らだけではない。工事担当の職員や、作業員、クレアの夫…現村長もまた、見物客とは別の場所とはいえ、だいぶ距離を取っている。 


無論、作業の邪魔になるからなのだろうけど…。そう訝しむさくらに、ニアロンはさらっと告げた。



―そりゃ、近くにいると危険だからだ―







「えっ、じゃあ私ここにいちゃいけないんじゃ…?」


ニアロンの一言に驚くさくら。竜崎もやっと気づいたらしく、あっ、と声を小さく漏らした。


「それもそうだね。 まあ別に守ってあげられるし、ここに居ていいよ。 もちろん、怖かったらむこうに合流してて」



そう言ってくれる竜崎。今更大人数の観客席に戻るわけにはいかず、さくらは竜崎の言葉を信じその場にいることを選んだ。


そして、そういえば…と兼ねてからの質問をぶつけた。



「トンネルってそもそも、どう作るものなんですか?」



「さあ?」








「さあって……」


竜崎の予想外の回答に戸惑うさくら。 一方の彼は、腕を組み顎に手を当て考えるポーズ。


「えーと…地下鉄を掘るときの大きい、シールドだっけか? それを使うやり方は、向こうの世界にいた頃にテレビでみたけど…それ以外はわかんないな…」


「…大丈夫なんですか…?」


もはや不安しか残らないさくら。それでも、竜崎はしっかりと頷いた。


「まあそのシールド工法?を参考にした自己流だけど…何回かやって成功してるし、崩壊したという報告も聞かないから大丈夫だよ」



それに何か返したくなるさくらだったが、何分自身もトンネルの作り方なんてしらない。砂場や海での砂山遊びが精々。


故に彼女は口を閉じ、もしもに備えて竜崎の背に隠れることしかできなかった。








―と、そんな折。空から竜に乗った伝令役が降りてくる。どうやら山向こうから飛んできたらしい。


「反対側、避難と障壁展開終わりました!いつでもいけます!」


「はーい、では行きます」


軽やかに返事をした竜崎は、くるくるくるとバトンを回すように折り畳み杖を展開する。そして、そのまま地面をトンと突いた。


すると、足元に浮かび上がったのは大きな魔法陣。それは4つに分化し、赤、青、黄、緑の各色に分かれ輝く。


そこから現れたのは上位精霊の面々。火のサラマンド、水のウルディーネ、土のノウム、風のシルブ。それぞれが、自らの力を示すように高らかに吼えた。





「「「おおぉおおおー!!」」」

それに負けないほどの、見物客の声援がさくらの元にまで聞こえる。竜崎はひょいっと杖を動かし、そんな彼らにアピールするように、精霊達を見物客の前にパレードさせる。


「すごい…!大きい…!」

「なんて迫力…!」

「流石、リュウザキ様…!」


こちらの世界の住人でも、普通に過ごしている限り、全く見ることのない強大な力を持った上位精霊達。間近に見た観客からは、そんな絶賛の拍手が巻き起こった。







少しばかりの後、竜崎は上位精霊達を呼び戻す。そして片手を前に突き出し、手のひらを上にむける。


帰ってきた精霊達は彼を取り囲むように陣取り、その手に上に力を籠めていく。巨大な彼らの全身から放たれるその力は、炎弾やビームではなく、まるで糸の集合体のようなきめ細やかな属性のエネルギー。


それらはまるで絡み合うように、珠を作るように集合していく。さくらが瞬きを繰り返す間にみるみるうちに大きくなり、あっという間に竜崎の身の大きさを超え、更に膨張していく。



さくらはその全貌を見るために、そしてあまりにも大きすぎるエネルギーから反射的に逃げるかのように、竜崎の傍から少し離れてしまう。それほどまでに力強かったのだ。






気づけば魔力球の直径は、大きめの馬車が並んで二台は優に入り、それでもまだかなりの余地を残すぐらいの巨大さに。それを確認した竜崎は、精霊達に号令をかけた。


「よし、と。 こんなものかな。 皆、ありがとう」


主の指示で精霊達は消え、あとに残るは4色が渦巻く巨大魔力球。すると竜崎は杖を振り、それの形を変えていく。出来たのは…



「ドリル…ですか?」


「そう。これで掘るんだ」



さくらが気づいた通り、球体の一部分は尖ったあの形をしていた。…最も、ドリルらしい硬質さはなく、属性の力によって形成された不定形にも見える代物。


というか、球体というのも違う。竜崎はドリル先を作る際に全体像も作り変えたらしく、半円じみた、少し馬の蹄に似た形になっていた。






ともあれ、この見た目的に意外と力技らしい。それを山に押しつけてガリガリとやっていくのだろうか。


そう考えるさくらへ答えるように、属性ドリルは回転を始める。 …だが、様子がおかしい。どんどんと速さを増し、先の形状がまともに捉えられないほどに高速回転を始めたのだ。



そのあまりの激しさにビビってしまうさくら。竜崎はそんなドリルを片手に浮かべながら、杖を地面に刺した。そこからは小型の障壁が展開し、さくらはその裏に入ることを促された。




「さて、行くぞニアロン」


―準備は出来てるぞ―



竜崎はドリルを指定された位置に向け…なんと、その場から動かずに、両手で固定するように支えた。


当然ながら、ドリルとは接地して使うもの。それで穴を掘っていくもの。 なのに、彼は山肌から少し離れた位置のここで、セッティングをしたのだ。



「照準良し、固定完了―。準備は整った、やってくれ」


幾つかの魔術を詠唱し、竜崎はニアロンへ合図を出す。すると今までずっとストレッチ、それも腕周辺をぐるぐるとやっていた彼女が、竜崎の前へすっと入ってきた。



いったい何をする気なのだろう。はらはら見守るさくらを余所に、ニアロンは勢いよく腕を引き…。



―せーのっ  ぶっ飛べッ!!―



…思いっきり、ドリルへ正拳突きをかました。










カッッ!        




瞬間、響き割ったのは、耳がつんざかれるような激突音、もとい発射音。 そして刹那の間だけを挟み―。






ドガゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッ! 





四色に輝く属性ドリルは、轟音を立てながらマークの元に。山肌を貫き、内部へと怒涛の勢いで潜り込んでいった。





―要はニアロンの一撃により、魔力製のドリルは弾丸の如き勢いで撃ち出されたのである。力技中の力技に、さくらは口をあんぐり。



そんな間にも、ドリルは突き進む。全く勢いが衰えないそれは、道中の根や岩諸々全てを粉砕しながら、真っ直ぐに反対側へ。


ものの10秒足らずだろうか。あっという間に風穴…もとい、トンネルが完成してしまった。




「「「すっごい…」」」


遠き山向こうから出来立ての穴を通し吹き込んでくる風により、パラパラと飛んでくる小石や土。それを浴びながら、さくらと見物客はそう言葉を漏らすしかできなかった。









「よし、と。後は一旦…。さくらさん、これ外すよ」


軽く伸びをした竜崎は、さくらの前に設置していた杖を抜き取ると、ちょいちょいと振る。すると、トンネル内部の壁に薄い障壁ができた。



それとほぼ同時に、反対側から使者がトンネル内を駆けてきた。


「リュウザキ様、お見事です!」


「ありがとうございます。向こう側はどうですか?」


「魔力球なら障壁1枚目で止まりました。新記録達成ですね!」


「良かった。上手く行ったみたいで」


―この力加減か。覚えておこう―



安堵する竜崎と、手を握り開きをしながら感覚を覚えようとするニアロン。平然としている2人だが…なんという荒業だろうか…!



安全確保のためにゆっくり時間をかけて作られるはずのトンネルが、彼の手にかかれば一瞬である。

わざわざクレアが、遠くにいる竜崎を呼んだ理由がわかったさくらであった。

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