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―はじまりの村へ―
68話 始まりの村からの便り
しおりを挟む本日もまた快晴。青空が広がり、心地よい風が吹く。
今日も今日とて魔術を学ぶため竜崎と共に学園に向かうさくらだったが、ふと空を見上げると、一羽の大きな鳥が飛んでいた。
伝令を鳥に託すこの世界では珍しいことではないが、その鳥には少し見覚えがあった。
「クレアさんの…」
さくらがこの世界で最初に降り立った村、エアスト村。言葉がわからず混乱しているところを助けてくれ、竜崎へと繋いでくれた命の恩人にも等しい存在、クレア。
そんな彼女が使っていた鳥に似ている、そう思ったのだ。
とはいえあれは村長用の伝書鳥らしく、他の村でも同じような鳥を飼っている可能性が高い。自ずと今空を飛んでいっている鳥がクレアのものである確率は下がってしまう。
ならきっと、王様か誰かに何かの報告書を持ってきたのだろう。そう思って眺めていたが…。
「あっ!!」
鳥は王宮や街の方へ曲がらず、そのまま学園内に急降下していったのだ。さくらは思わず、隣を歩いていた竜崎の服を引っ張った。
「竜崎さん!今鳥が!」
「え? なに?」
「そんなに焦らなくても」
学園に到着直後。さくらは竜崎よりも前に出て、早足で伝書鳥待機所に向かう。
もしかしたら自分以外の転移者が現れたのかもしれない…!? そんなことを考えながら場の扉を開け中に入ると…朝だというのに、かなりの人が待っていた。
「うわなんですかこの人数…」
「学園や学院宛ての書類や各先生方への個人的な手紙、調査隊の依頼とかもここに来るからね。朝は混むんだ」
そう説明してくれる竜崎。確かに並んでいるのは教員や学院の関係者ばかり。とりあえず手続きを済ませ待つことに。
その間竜崎は挨拶をしたりされたり世間話を交えたり。先日のことが話題になっているのか、さくらも色々と話しかけられた。
「リュウザキ様、こちらへどうぞ―」
呼ばれて向かう竜崎。それにさくらもついていく。
「本日はお早いですね。はい、こちらが届いた分でございます」
「ちょっと気になることがありましてね。 ありがとうございます」
軽く礼を言い、10枚ほどの手紙を受け取った竜崎。綺麗に封が為されている立派なそれらを見て、さくらは少し驚いた。
「いつもこんなに手紙を貰っているんですか?」
元の世界だったら、手紙なんて塾の広告か年賀状ぐらいしか見ないのだ。ましてや、蝋で封してあるやつなんて…。
「まあそうだね。あでも、卒業生にさくらさんの転移について色々調べて貰っているから、ちょっと多いかな」
そう答える竜崎。そういえばそうだったと、さくらは口を閉じる。この世界に来た理由をわざわざ調べてもらっていたことを忘れてかけていたのだ。
「残念ながら、それらしい情報は無いんだけどね…」
彼は申し訳なさそうな様子に。意外と異世界生活を謳歌しているさくらも、若干申し訳なく感じてしまった。
「お、ほんとだ。さくらさんが言った通り、クレアから来てるね」
内一つの封筒を開く竜崎。中に入っていたのは、2通の手紙だった。
「こっちはさくらさん宛てだって」
まさかの自分宛ということにびっくりしつつ、受け取って読んでみるさくら。そこには小学生のような、平仮名が書いてあった。
『さくらさんへ おげんきですか いせかいでたいへんだとおもいますが あきらめないでください 清人を こきつかってくださいね』
それは恐らく、クレアが頑張って書いた日本語。流石に新たな異世界転移者が現れたという報告ではなかったが…。今でも気にかけてくれているらしい。
感極まり、思わず貰った御守りを握るさくら。というかさらりと竜崎を名前呼びで、こき使えと書いてある。2人の仲の良さが窺える。
「なんて書いてあったの?」
ひょいと覗き込んでくる竜崎からさくらは思わず手紙を隠してしまった。
「内緒です!」
「? まあいいや。 どうやらクレアが頼みたいことがあるらしくてね、時間がある時に来てくれって」
―さくらも是非連れてこいってな。清人、いつ行く?―
ニアロンに問われ、少し考える竜崎。しかしすぐに口を開いた。
「そうだな、今週末で良いんじゃないか? 丁度騒動も収まったことだしね」
そして週末。準備を整え、竜崎達は街なかにある竜の発着場へと。 ふと、さくらは竜崎にとある質問をした。
「そういえば、今回はタマちゃんに乗っていかないんですか?」
「結構遠いからね。タマって長距離移動はそう得意じゃないし、竜の方が速かったりするしね」
確かにあの時、タマちゃんはぐったりしてた…と思い返すさくら。と、更に一つの疑問が思い浮かぶ。
「じゃあ、なんで私を迎えに来てくれた時、タマちゃんだったんですか?」
「えーと、なんていうか…。精霊で飛ぶと魔力消費も激しいし…。この間勇者の元に行った時は、タマにエルフの果実酒を飲ませる約束があったからで……」
明らかにしどろもどろになる竜崎。なにかやましいことでもあるのだろうか。さくらが首を傾げていると、代わりにニアロンが笑いながら答えた。
―さくら、いじめるのは止めてやれ。なにせ清人が転移してきて以来の、初の出来事だったんだ。コイツ、内心動転しまくりでな。道中で突然薬草茶を煎じ始めた際は流石に頭がおかしくなったかと思ったよ―
その言葉で、さくらはあの日のことを思い出す。確かに気がリラックスするお茶を持ってきていた。まさか、来る途中で作っていたとは…。
「いやだって…気づいた時には引き返せない位置まで来てたし…。せめて気持ちが安らぐお茶ぐらいは作っていくべきかなって…」
恥ずかしそうに、ぽつりぽつりと漏らす竜崎。 それを聞いてさくらは少し吹き出してしまう。特殊な出来事で混乱していたのは自分だけではなく、彼もだったようだ。
「でも、あのお茶のおかげでだいぶ落ち着けましたよ! ありがとうございます!」
「そう言ってもらえるとありがたいよ。さあ行こうか、いや戻ろうか、か?どっちでもいいな。いざエアスト村へ」
さくらにお礼を言われ、竜崎は若干照れ隠しをするように号令をかけたのであった。
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