69 / 391
―はじまりの村へ―
68話 始まりの村からの便り
しおりを挟む本日もまた快晴。青空が広がり、心地よい風が吹く。
今日も今日とて魔術を学ぶため竜崎と共に学園に向かうさくらだったが、ふと空を見上げると、一羽の大きな鳥が飛んでいた。
伝令を鳥に託すこの世界では珍しいことではないが、その鳥には少し見覚えがあった。
「クレアさんの…」
さくらがこの世界で最初に降り立った村、エアスト村。言葉がわからず混乱しているところを助けてくれ、竜崎へと繋いでくれた命の恩人にも等しい存在、クレア。
そんな彼女が使っていた鳥に似ている、そう思ったのだ。
とはいえあれは村長用の伝書鳥らしく、他の村でも同じような鳥を飼っている可能性が高い。自ずと今空を飛んでいっている鳥がクレアのものである確率は下がってしまう。
ならきっと、王様か誰かに何かの報告書を持ってきたのだろう。そう思って眺めていたが…。
「あっ!!」
鳥は王宮や街の方へ曲がらず、そのまま学園内に急降下していったのだ。さくらは思わず、隣を歩いていた竜崎の服を引っ張った。
「竜崎さん!今鳥が!」
「え? なに?」
「そんなに焦らなくても」
学園に到着直後。さくらは竜崎よりも前に出て、早足で伝書鳥待機所に向かう。
もしかしたら自分以外の転移者が現れたのかもしれない…!? そんなことを考えながら場の扉を開け中に入ると…朝だというのに、かなりの人が待っていた。
「うわなんですかこの人数…」
「学園や学院宛ての書類や各先生方への個人的な手紙、調査隊の依頼とかもここに来るからね。朝は混むんだ」
そう説明してくれる竜崎。確かに並んでいるのは教員や学院の関係者ばかり。とりあえず手続きを済ませ待つことに。
その間竜崎は挨拶をしたりされたり世間話を交えたり。先日のことが話題になっているのか、さくらも色々と話しかけられた。
「リュウザキ様、こちらへどうぞ―」
呼ばれて向かう竜崎。それにさくらもついていく。
「本日はお早いですね。はい、こちらが届いた分でございます」
「ちょっと気になることがありましてね。 ありがとうございます」
軽く礼を言い、10枚ほどの手紙を受け取った竜崎。綺麗に封が為されている立派なそれらを見て、さくらは少し驚いた。
「いつもこんなに手紙を貰っているんですか?」
元の世界だったら、手紙なんて塾の広告か年賀状ぐらいしか見ないのだ。ましてや、蝋で封してあるやつなんて…。
「まあそうだね。あでも、卒業生にさくらさんの転移について色々調べて貰っているから、ちょっと多いかな」
そう答える竜崎。そういえばそうだったと、さくらは口を閉じる。この世界に来た理由をわざわざ調べてもらっていたことを忘れてかけていたのだ。
「残念ながら、それらしい情報は無いんだけどね…」
彼は申し訳なさそうな様子に。意外と異世界生活を謳歌しているさくらも、若干申し訳なく感じてしまった。
「お、ほんとだ。さくらさんが言った通り、クレアから来てるね」
内一つの封筒を開く竜崎。中に入っていたのは、2通の手紙だった。
「こっちはさくらさん宛てだって」
まさかの自分宛ということにびっくりしつつ、受け取って読んでみるさくら。そこには小学生のような、平仮名が書いてあった。
『さくらさんへ おげんきですか いせかいでたいへんだとおもいますが あきらめないでください 清人を こきつかってくださいね』
それは恐らく、クレアが頑張って書いた日本語。流石に新たな異世界転移者が現れたという報告ではなかったが…。今でも気にかけてくれているらしい。
感極まり、思わず貰った御守りを握るさくら。というかさらりと竜崎を名前呼びで、こき使えと書いてある。2人の仲の良さが窺える。
「なんて書いてあったの?」
ひょいと覗き込んでくる竜崎からさくらは思わず手紙を隠してしまった。
「内緒です!」
「? まあいいや。 どうやらクレアが頼みたいことがあるらしくてね、時間がある時に来てくれって」
―さくらも是非連れてこいってな。清人、いつ行く?―
ニアロンに問われ、少し考える竜崎。しかしすぐに口を開いた。
「そうだな、今週末で良いんじゃないか? 丁度騒動も収まったことだしね」
そして週末。準備を整え、竜崎達は街なかにある竜の発着場へと。 ふと、さくらは竜崎にとある質問をした。
「そういえば、今回はタマちゃんに乗っていかないんですか?」
「結構遠いからね。タマって長距離移動はそう得意じゃないし、竜の方が速かったりするしね」
確かにあの時、タマちゃんはぐったりしてた…と思い返すさくら。と、更に一つの疑問が思い浮かぶ。
「じゃあ、なんで私を迎えに来てくれた時、タマちゃんだったんですか?」
「えーと、なんていうか…。精霊で飛ぶと魔力消費も激しいし…。この間勇者の元に行った時は、タマにエルフの果実酒を飲ませる約束があったからで……」
明らかにしどろもどろになる竜崎。なにかやましいことでもあるのだろうか。さくらが首を傾げていると、代わりにニアロンが笑いながら答えた。
―さくら、いじめるのは止めてやれ。なにせ清人が転移してきて以来の、初の出来事だったんだ。コイツ、内心動転しまくりでな。道中で突然薬草茶を煎じ始めた際は流石に頭がおかしくなったかと思ったよ―
その言葉で、さくらはあの日のことを思い出す。確かに気がリラックスするお茶を持ってきていた。まさか、来る途中で作っていたとは…。
「いやだって…気づいた時には引き返せない位置まで来てたし…。せめて気持ちが安らぐお茶ぐらいは作っていくべきかなって…」
恥ずかしそうに、ぽつりぽつりと漏らす竜崎。 それを聞いてさくらは少し吹き出してしまう。特殊な出来事で混乱していたのは自分だけではなく、彼もだったようだ。
「でも、あのお茶のおかげでだいぶ落ち着けましたよ! ありがとうございます!」
「そう言ってもらえるとありがたいよ。さあ行こうか、いや戻ろうか、か?どっちでもいいな。いざエアスト村へ」
さくらにお礼を言われ、竜崎は若干照れ隠しをするように号令をかけたのであった。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる