【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

文字の大きさ
上 下
61 / 391
―とある胎動―

60話 召喚術・使役術講師グレミリオ

しおりを挟む


「自分で対処できないなら奥深くに行かないの。何かあったら親御さん悲しんじゃうわよォ」


腕を組みながらそう諭す彼女、もとい彼はグレミリオ・ハーリー。学園の講師の1人である。


本人曰く召喚術講師らしいが、今使った魔術はどうみても召喚術ではない。それを証拠に、あれだけ猛っていた蜂達は、今やグレミリオに指示を待つようにふわふわと飛び続けていた。



「グレミリオ先生、突然走り出してどうしたんですか…?」

―と、草を掻き分け、現れたのはメルティ―ソン。グレミリオと同じく召喚術講師の女性である。そしてその手に持った籠には、沢山の薬草が入っていた。




「先生方も薬草摘みのクエストですか?」

「あらぁん、違うわよ。使役術の授業に使うお団子用の薬草集め。買うと意外と高いのよね」

「…使役術?」


グレミリオの返答に、前にメルティ―ソンから聞いたことを思い出すさくら。使役術、確か召喚術の応用版だった気が…。



「えっと…使役術というのは、召喚で呼び出した獣だけではなく、その場にいる魔物も手懐ける術なんです…。慣れない人はテイム用のアイテムが必須でして…。そしてグレミリオ先生はその使役術のエキスパートでもあるんです」


「やだぁ、メルティちゃんあんまり持ち上げないでぇ! 恥ずかしいわぁ」



メルティ―ソンの解説に身をくねらせながら照れるグレミリオ。

先程蜂を鎮めたのは、その使役術とやららしい。あんな大群を一瞬で自分の配下に置くとは、使役術恐るべし。






「それで、蜂を怒らせたのはどっちかしらん?」

グレミリオの問いかけに答えるように、ネリーは男子を睨みつける。彼らは仕方なしに手を挙げた。


「何をしたんですか…?」

「売れる果物を見つけて…取ろうと木に昇ったらハチの巣を蹴り落としちゃいました…」


メルティ―ソンの優しい問いかけに、おずおずと詳細を伝える男子生徒達。するとグレミリオはやれやれと肩を竦めた。


「それは怒っちゃうわね、家を壊されたんだもの。じゃ、その場所に案内してちょうだいな」





壊れた蜂の巣をどうする気なのだろう。男子達は訝しみながらも彼を案内する。さくら達もそれに続いてみた。…その背後から蜂の大群が付いてくるのがとんでもなく気になるが。




「あらぁーこれは盛大に壊したわねぇ!」


到着した先、木の下に落ちていたのは、綺麗に真っ二つになった蜂の巣。これでは蜂が怒って襲ってくるのもわかる気がする。


するとグレミリオは、妙な言葉を口にした。


「じゃ、簡単に直しちゃいましょ!」







メルティ―ソン以外の者達…さくら達の頭に?マークが浮かぶ中、さらっと詠唱するグレミリオ。魔法陣をつくり、何かを呼び出した。



ウワワン、ウワワンッ


「「「ひっ…!?」」」



なんと、大量に現れたのは同じような蜂の大群。ネリーや男子は思わず悲鳴をあげ、メルティ―ソンの後ろへと隠れた。



さくらも正直隠れたかったが…グレミリオが手助けを欲し、本来その役目を買って出そうなメルティ―ソンが皆に掴まれて動けなくなっている。


アイナもビビっている様子で、モカも耳と尻尾が潰れている状態なため、仕方なしに恐る恐る協力を申し出た。




「そう、そっち持って…このまま動かないで」


グレミリオとさくら、2人がかりで割れた巣をぴったり合わせる。すると、そこにグレミリオが呼び出した蜂が群がりだしたではないか。


手に時たま触れる蜂の感触に全身鳥肌が立つさくらだったが、ここで落としてしまったら元の木阿弥。口内を噛んで気を保った。




体感、5分ほど経っただろうか。もっと短かった可能性はあるが…。 気づけば群がっていた蜂は離れ、魔法陣の中に消えていった。


「うん、オッケーね。ありがとうさくらちゃん」


グレミリオの言葉にさくらが視線を下ろすと、蜂の巣は最初から割れていなかったようにぴったりとくっついていた。先程の蜂達が直していったらしい。



それを受け取り、魔法陣を階段状に配置して木の上へと昇っていくグレミリオ。元々蜂の巣があったであろう場所に魔術を施し、修理した蜂の巣をぶら下げた。


「これで良し、と! 魔力で無理やり止めただけだから、今の内に上から補強しちゃってねぇ」


彼はブンブンと飛んでいる蜂にそう伝える。蜂達はまるで理解しているように一斉に巣へと戻って補修作業を始めた。






その一連の行動に唖然とするさくら達。 そんな彼女達を余所に、グレミリオはスタリと着地する。


と、それと同時に何かを見つけたらしい。彼は地面へと身を屈ませた。



「あら、これは? …ちょっと色が変ね…」


地面に落ちた衝撃で中身が漏れたのだろう、そこには蜂蜜が少量こぼれていた。グレミリオはそれをひと掬い、捏ねたり匂いを嗅いだりしていたが…急にペロっと舐めた。



「…これは!?」


少し顔色が変わる彼、だがすぐに普段通りになった。そして、さくらへもう一つお願いをしてきた。


「さくらちゃん、もうちょっと協力してもらっていーい?精霊を何体か呼び出せるかしら?」




言われた通り、中位精霊を何体が呼び出すさくら。グレミリオとメルティ―ソンも、妖精を呼び出す。


「極彩色の花を探して欲しいの。この辺りには無いはずのドギツイ色した花だから、すぐわかると思うわ」


そんなグレミリオからの指示を受けた妖精精霊達は散開していく。 ―少しして、さくらが呼んだ精霊が戻ってきた。何か見つけたらしい。








「うわっ…毒々しい…」


精霊に連れられやってきた先。そこに生えていた花に、さくら達は顔を顰める。


少し人の手が入ったかのように感じられるその場には、気持ち悪くなるぐらいの色使いをした虹色の花が数十本ほど、そよそよと風を受けていたのだ。




「やっぱりあったわね…。これは魔界の薬草よォ。人界の在来生物に影響があると困るから、全部抜いちゃいましょう。 ち・な・み・に…一本でネリーちゃんが持っている花束以上の価値になるわぁ」


グレミリオからそれを聞いたネリー達は目を輝かせ、一目散に引き抜いていく。あっという間にその場は、土や雑草だけの空き地となってしまった。




「さ、帰りましょう!」


グレミリオの号令で全員揃って意気揚々と買い取り業者に向かっていく。これでしばらく遊んで暮らせると、子供たちはまだ交換していないのに使い道を話し合っていた。


それを見守るように数歩遅れて歩いていくグレミリオとメルティ―ソン。2人は、少々神妙な顔を浮かべていた。



「メルティちゃん」


「はい、グレミリオ先生」


「あの花、多分生えていたといっても買い取り業者が信じてくれないだろうから、ついていってあげてくれないかしらぁ? 下手すれば盗んできたと思われちゃうかも。その籠は私が貰うわ」


「わかりました。 そちらはお願いします」








任を受け、さくら達と共に街へと向かうメルティ―ソン。一方のグレミリオは、学園へと。



自分達の準備室に荷物を置き、足早にどこかへと。 その手に先程見つけたあの花の一本を持ち、道中竜崎を捕まえ、向かったところは学園長室だった。






「まさか、この花が森に…!?」

「そうなの。おかしいわよねぇ…」


グレミリオから報告を聞き、眉を潜める竜崎。学園長もまた、グレミリオから渡された極彩色の花を睨みながら唸っていた。


「この極彩色花は、魔界奥地に生える花。こちらでは自生が難しい…というより不可能に近いはずですが、誰かが植えて管理していたと?」




空気張り詰める学園長室内。そんな中、竜崎と一緒に眉を潜めていたニアロンは確認がてら花の効能をそらんじだした。


―その花の成分は取り扱い危険指定になるほどの強力な麻酔効果。そして副作用として…―


「催眠効果もある。特に動物には抜群の。魔術を全く使えない人でも手懐けられるわ」


そうグレミリオが引き継ぐ。さらに、学園長が付け加えた。


「そして摂取量が多ければ急激に、そして過度な発育を引き起こします。 …先日、メストちゃん達がこの辺りでは珍しい巨大魔猪を倒したと聞きました。まさか…」




各員、嫌な予感を共有するかのように頷き合う。 そして、グレミリオが口を開いた。


「学園長、一応警戒を呼び掛けるべきですわ。 誰かが売るためだけに勝手に栽培しているだけならば、まだマシなのでしょうけど…」


「えぇ。グレミリオ先生の仰る通りね。急ぎ教員達に周知させましょう。 クエスト受付の方にも連絡を入れておきます」



動き出す学園長。竜崎もそれに続いた。


「では私は、国王陛下と賢者様に伝達を。人を借りて周囲の捜索及び調査を行います」


「私もお手伝いするわ、リュウザキちゃん。 そうそう!さくらちゃんにお礼をしたいんだけど、彼女の好み、わかるかしらぁ?」


―この間、街角にあるあの店のケーキを食べたがっていたぞ―



そんな会話をしつつ、早速出向く竜崎達とグレミリオ。その2人を見送り、学園長は職員室へと。


「少しきな臭くなってきたわね…。なにも起きなければいいのだけど…」


そう言葉を漏らしながら―。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

処理中です...