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―魔界へ―
36話 魔王
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無事にエナリアスとの面会も済み、とうとう村を離れる時となった。
「それでは、この子達はお預かりします」
村人達に見送られ、領主の息子ベルンとその友人で被害者の青年を追加で乗せた竜は飛び上がる。
「さて、とりあえず目指すは魔都だな」
手綱を操りながら竜崎は目的地を定めた。聞きなれぬ単語にさくらは聞き返す。
「魔都?」
「現魔王がおわしめすところだ。人界は色々な国家が軒を連ねているけど、魔界で国は一つ。魔王が頂点に立つ魔都のみなんだ。あとは精霊や魔神を信仰している人達が独自に村や街を興しているね」
へえーと声を漏らすさくら。あれ?確か…
「確か前の魔王って倒されたんですよね?新しい魔王ってどんな方なんですか?」
「現魔王は戦争の際反乱軍についた、前魔王の息子だね。良いやつだよ」
「皆、到着したよ」
しばらく空の旅が続き、ようやく声がかかる。ぐっすりだったさくら達は身体を起こした。
「わあ!」
さくらがまず驚いたのは、人の多さ。今身を寄せているアリシャバージルも中々人が多いが、ここはその比ではない。武器を携えた戦士、物流を担う商人、買い出しに出てきた人々。過密というのはこういうことだ、と示すかのような風景だった。
街中を歩く人々も赤や青、灰色など様々な肌を持つ魔族が主だっていた。彼らにも羽や尾が当然のように生えている。それが混雑を助長している気がしないでもないが。
そんな街を見下ろすように、権威を示すようにそびえ立つ城がある。荘厳や奥ゆかしいという言葉よりもおどろおどろしいという言葉が似合う文字通りの「魔王の城」だった。
ここに来てイメージ通りの城が出てきて少々面食らうさくら。これで空は陰り雷鳴轟くという様子ならばそれっぽいものだが、今は晴れ晴れしい青空と太陽が背景。台無しである。
賑わう街の空中を通過し、そのまま王城に入る。竜崎の顔が効き、あれよあれよという間に魔王に謁見することになった。
謁見の間。竜崎だけではなく、さくらやメスト達も謁見を許可された。緊張で体が震えているベルンと青年は今にも倒れそうだった。
ギイィと扉が開かれ、魔王が現れる。傍に控える衛兵は全員少しの乱れなく敬礼をする。さくらも竜崎達に倣い頭を下げた。
「正面からくるとは珍しいな、リュウザキ。どこぞの王からの使いか?」
顔をあげる許しをもらい、恐る恐る顔をあげるさくら。魔王とはどんな見た目をしているのだろうか…
(えっ!?)
ゲームに出てくる魔王のような、言ってしまえば人外じみた気持ち悪い姿を想像していた。だが、目の前に鎮座している魔王は全く違った。
灰色の肌、目鼻の整った端正な顔立ち、服の隙間から見えるほどよく鍛え上げられた肉体。優しげな雰囲気が漂う竜崎と対照的に、彼は威厳とカリスマにあふれていた。
「貴重なお時間を割いていただき、有難き幸せにございます」
ありきたりの謝辞から始める竜崎。すると魔王は面倒そうに手を振る。
「世辞も敬語も要らん。我とお前の仲だろう」
「ですが…」
周囲を気にし言い淀む竜崎。だが彼は頑なだった。
「我が構わんと言っている」
取り付く島もない。竜崎は諦め、まるで友達と話すように切り出した。
「今回来たのは王の使いじゃないんだ。実は―」
「ほう、そんなことがあったのか。情報、感謝する。その村周辺に兵を回しておこう」
魔術士の話を聞き、捜索及び逮捕に尽力することを確約する魔王。すぐさま近場の兵に指示を出す。
「それで、後ろに控える2人がそうか?」
「あぁ。魔王軍に入隊して研鑽を積んでもらうことで話が纏まったんだ」
ベルンと青年を見つめる魔王。彼らは蛇に睨まれた蛙のように直立不動のまま固まってしまった。
「双方ともとんだ災難に合ったものだな。とはいえ、軍での生活は逃げ場になるほど甘くないぞ?」
脅す魔王。その圧力に思わず唾を飲み込むさくら。だが彼らは声を掠らせながらもはっきりと答えた。
「私は自らの行いを悔い、弱さを克服して友に償うために志願しました!」とベルン
「私は魔王軍で身を鍛え、友と村を守るために志願しました!」と青年
そう宣言した2人を見て魔王は楽しそうに笑った。
「おい、あいつを呼んできてくれ」
魔王が誰かを呼ぶ。少し経って入ってきたのは一人の女性だった。彼女の額からは角が生えており、普通の人間ではないことが窺える。
竜崎は彼女に推薦状を渡す。どうやら彼女が「教官」らしい。
渡された書状を読み終えると苦々し気な表情を浮かべる教官。言葉を探っている様子だったが、魔王が許しを与える。
「無礼講で構わんぞ。我のことは気にするな」
教官は魔王に深々と一礼。大きくため息をつく。
「リュウザキ、お前は問題児ばかり連れてくるな…」
「突然ですまない、でも彼らは将来有望だ。既に改心と目標設定はできている」
だから許してくれ、と竜崎は謝った。と、教官は魔王をちらりとみやる。彼は笑顔のままただ一言。
「好きにしろ」
言質を取った教官は悪戯気な表情を浮かべた。
「良いところに来たんだ。リュウザキ、一つ条件を付けさせてもらうぞ」
「なんでも引き受けるよ」
お礼代わりとどんな内容でも受け入れる気の竜崎。彼女は満を持して内容を発表した。
「うちの兵と一戦交えてもらおう」
「それでは、この子達はお預かりします」
村人達に見送られ、領主の息子ベルンとその友人で被害者の青年を追加で乗せた竜は飛び上がる。
「さて、とりあえず目指すは魔都だな」
手綱を操りながら竜崎は目的地を定めた。聞きなれぬ単語にさくらは聞き返す。
「魔都?」
「現魔王がおわしめすところだ。人界は色々な国家が軒を連ねているけど、魔界で国は一つ。魔王が頂点に立つ魔都のみなんだ。あとは精霊や魔神を信仰している人達が独自に村や街を興しているね」
へえーと声を漏らすさくら。あれ?確か…
「確か前の魔王って倒されたんですよね?新しい魔王ってどんな方なんですか?」
「現魔王は戦争の際反乱軍についた、前魔王の息子だね。良いやつだよ」
「皆、到着したよ」
しばらく空の旅が続き、ようやく声がかかる。ぐっすりだったさくら達は身体を起こした。
「わあ!」
さくらがまず驚いたのは、人の多さ。今身を寄せているアリシャバージルも中々人が多いが、ここはその比ではない。武器を携えた戦士、物流を担う商人、買い出しに出てきた人々。過密というのはこういうことだ、と示すかのような風景だった。
街中を歩く人々も赤や青、灰色など様々な肌を持つ魔族が主だっていた。彼らにも羽や尾が当然のように生えている。それが混雑を助長している気がしないでもないが。
そんな街を見下ろすように、権威を示すようにそびえ立つ城がある。荘厳や奥ゆかしいという言葉よりもおどろおどろしいという言葉が似合う文字通りの「魔王の城」だった。
ここに来てイメージ通りの城が出てきて少々面食らうさくら。これで空は陰り雷鳴轟くという様子ならばそれっぽいものだが、今は晴れ晴れしい青空と太陽が背景。台無しである。
賑わう街の空中を通過し、そのまま王城に入る。竜崎の顔が効き、あれよあれよという間に魔王に謁見することになった。
謁見の間。竜崎だけではなく、さくらやメスト達も謁見を許可された。緊張で体が震えているベルンと青年は今にも倒れそうだった。
ギイィと扉が開かれ、魔王が現れる。傍に控える衛兵は全員少しの乱れなく敬礼をする。さくらも竜崎達に倣い頭を下げた。
「正面からくるとは珍しいな、リュウザキ。どこぞの王からの使いか?」
顔をあげる許しをもらい、恐る恐る顔をあげるさくら。魔王とはどんな見た目をしているのだろうか…
(えっ!?)
ゲームに出てくる魔王のような、言ってしまえば人外じみた気持ち悪い姿を想像していた。だが、目の前に鎮座している魔王は全く違った。
灰色の肌、目鼻の整った端正な顔立ち、服の隙間から見えるほどよく鍛え上げられた肉体。優しげな雰囲気が漂う竜崎と対照的に、彼は威厳とカリスマにあふれていた。
「貴重なお時間を割いていただき、有難き幸せにございます」
ありきたりの謝辞から始める竜崎。すると魔王は面倒そうに手を振る。
「世辞も敬語も要らん。我とお前の仲だろう」
「ですが…」
周囲を気にし言い淀む竜崎。だが彼は頑なだった。
「我が構わんと言っている」
取り付く島もない。竜崎は諦め、まるで友達と話すように切り出した。
「今回来たのは王の使いじゃないんだ。実は―」
「ほう、そんなことがあったのか。情報、感謝する。その村周辺に兵を回しておこう」
魔術士の話を聞き、捜索及び逮捕に尽力することを確約する魔王。すぐさま近場の兵に指示を出す。
「それで、後ろに控える2人がそうか?」
「あぁ。魔王軍に入隊して研鑽を積んでもらうことで話が纏まったんだ」
ベルンと青年を見つめる魔王。彼らは蛇に睨まれた蛙のように直立不動のまま固まってしまった。
「双方ともとんだ災難に合ったものだな。とはいえ、軍での生活は逃げ場になるほど甘くないぞ?」
脅す魔王。その圧力に思わず唾を飲み込むさくら。だが彼らは声を掠らせながらもはっきりと答えた。
「私は自らの行いを悔い、弱さを克服して友に償うために志願しました!」とベルン
「私は魔王軍で身を鍛え、友と村を守るために志願しました!」と青年
そう宣言した2人を見て魔王は楽しそうに笑った。
「おい、あいつを呼んできてくれ」
魔王が誰かを呼ぶ。少し経って入ってきたのは一人の女性だった。彼女の額からは角が生えており、普通の人間ではないことが窺える。
竜崎は彼女に推薦状を渡す。どうやら彼女が「教官」らしい。
渡された書状を読み終えると苦々し気な表情を浮かべる教官。言葉を探っている様子だったが、魔王が許しを与える。
「無礼講で構わんぞ。我のことは気にするな」
教官は魔王に深々と一礼。大きくため息をつく。
「リュウザキ、お前は問題児ばかり連れてくるな…」
「突然ですまない、でも彼らは将来有望だ。既に改心と目標設定はできている」
だから許してくれ、と竜崎は謝った。と、教官は魔王をちらりとみやる。彼は笑顔のままただ一言。
「好きにしろ」
言質を取った教官は悪戯気な表情を浮かべた。
「良いところに来たんだ。リュウザキ、一つ条件を付けさせてもらうぞ」
「なんでも引き受けるよ」
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「うちの兵と一戦交えてもらおう」
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