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―異世界の人々―

24話 杖

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放課後、さくらは竜崎と待ち合わせをしていた。

どうやら杖を買ってくれるらしく、片付けが終わるまで待っていることに。

一日かけて他の基礎講座も受講したおかげか、少し水を操れるようになったさくらは水を作り出してはいじってて遊んでいた。初めて自分の力のみで起こせた魔術に自然と頬が綻んでくる。

と、彼女の姿を見つけて3人組が近寄ってくる。ネリー、モカ、アイナの仲良しグループである。

「にやけちゃって、いいことあったの?さくらちゃん!」

突然顔を覗き込まれ、驚きのあまり手に浮かべていた水を吹っ飛ばしてしまう。見事にネリーの顔にかかってしまった。

「ぴゃっ!冷た!」

「あぁっ!ご、ごめんなさい」

「いや今のは驚かせたネリーが悪いよ」
モカにそう言われながら顔を拭かれるネリー。代わりにアイナが質問をした。

「こんなとこでどうしたの?よかったら一緒に帰らない?」

「えっと、竜崎さんと待ち合わせしていて。杖を選んでくれるって」

「えー!いいなー!私もついていく!」

顔を拭き終わったネリーがそう宣言する。他二人も少し気になるらしく、結局4人で竜崎が来るのを待つことになった。


ようやく竜崎が到着する。
「ごめんごめん遅くなっちゃって」

―なんか増えてるな―

と、ネリーが駄々っ子のような声をだした。

「先生遅いー!ネリー新しい杖欲しいなー」

「それは自分で買ってね。良いのは選んであげるから」

「やった!」



「そうだ、さくらちゃんって家でどんな杖使ってたの?」

店に向かう道中、ふとアイナがそう聞いてくる。

「どんな杖…」

どう答えよう…。杖なんてお爺ちゃんが使っているイメージしかない。短い杖なんてそれこそ指揮者が振っているぐらいだし。

答えあぐねているさくらを不審に思ったのか、ネリーが首を捻る。

「小型杖ってそこらへんのお母さんや子供も持ってるものなのに、さくらちゃん持ったことないの?あ、遠くの島国の方では全部指で印を組んで魔術を使うらしいけどそこ出身だったり?」

「うんまあそんな感じ…?」

なんとか事なきを得たが、いい加減正体を明かしたほうが楽になるかなと思ってしまう。とはいえタイミングが掴めない。


「そうだ!先生もいるし裏通りいかない?ね、先生!」

ネリーが素晴らしい思いつきをしたかのようにねだってくる。

「裏かー。あんまり連れていくべきじゃないんだけどなー」

竜崎は乗り気ではない。またもや謎の言葉が気になりさくらは問う。

「裏ってなんですか?」

「危険な魔術素材とか、表では売れないものを売る通りなんだ。一応騎士が年中監視をしているけど、怪しい素材も沢山あるし、昼でも薄暗いから生徒は極力いかないように学園から指示を出してるんだよ」

ちょっと興味はある。一人で行くのは流石に怖いが、今は竜崎がいる。モカとアイナも同じ気持ちらしく、彼女達も頼み始めた。だが決め手となったのはニアロンの一言だった。

―いいじゃないか。奥の方に進まなければ危険もそうない。杖ならあの店だろう―

「うーん。まあ確かにあそこが一番いいか。行ってみるか」



活気ある街並みから少し外れ、騎士が入口を警護するとある通りに入る。確かに竜崎が言った通り、薄暗く、ところどころにあるランプが光を補っていた。

「この店だよ。ここは一番品が揃っていてね、賢者御用達の店でもあるんだ」

チリンチリンと音を鳴らせ店内に入る。中は存外広く、大小長短様々な杖が並べられていた。

「ふぇっふぇっふぇ、いらっしゃい。おやリュウザキ様。本日は両手に花のようで」

「その花達に囚われちゃってね。連れてきちゃった」

店を切り盛りしている老婆と彼は顔馴染みらしく、軽口を言い合う。

「おぉー!」

ネリーが感嘆の声をあげる。モカとアイナも叫びこそしないが目を輝かせ商品を物色している。

―壊さないよう丁寧に扱えよ?一点ものも結構あるんだ―

ニアロンに忠告を受け、さくらもそちらを見てみる。シンプルな造りの杖や樹齢数千年はある木から作られた杖など、その種類は数多く。宝石が散りばめられた杖や水晶で作られた透明の杖などの趣味品らしきものから、細かく呪文が刻み込まれた杖や吸い込まれそうな魅力をもつ黒い杖など怪しげな杖も並べられていた。

竜崎はそれには目もくれず、さくらを指しながら老婆に頼み事をする。

「この子に合う杖を見繕って欲しいんだけど」

「はいはい。うーむ、この辺りはどうかねぇ」

老婆が裏に行く。どうやらそちらにも山ほど置いてあるらしい。孫なのだろうか、他の店員に10本ほどの杖を持たせ戻ってきた。

「これはどう?比較的初心者向けの杖よ。はい、握ってみて」

手渡された杖を握る。気分はそれだけで魔法使いだった。

「基礎魔術は習ってる?火以外ならなんでもいいから詠唱してごらんなさいな」

老婆にそう言われ試しに水魔術を詠唱してみる。だが何も起きない。

「あれ?おかしいね…。もう一回やってみてごらん」

再度試す。が、何も起きない。

「杖が合わないのかね。それじゃこっちを試してみるかい?」

別の杖を渡される。それと交換するように杖を店員に返却した途端。

バシュ!

勢いよく杖先から水が漏れる。あわや店内に水が飛び散るところだったが、すんでのとこでニアロンが固めていた。

―危ないな。水は凍らせとくから捨てといてくれ。 …やはりこうなったか―

水を氷に変え、店員に片付けてもらう。さくらはニアロンの最後の言葉が聞き取れなかったが、いつも竜崎任せの彼女が予測していたように水を止めたのが気になった。


「…もし。リュウザキ様。1つ宜しいでしょうか」
突然前置きをする老婆。少し声が震えている。表情も真剣なものになっていた。

「未だ王宮からの発表はございませぬ。極秘事項だったら申し訳ございません。ですが、聞かずにはおられませぬ…お許しください…。秘密は墓まで持っていくと約束しましょう」

一息入れる老婆、だが声は震えたままだった。

「そちらのお嬢ちゃん。リュウザキ様と同じ出身ではございませぬか…?」

それを聞き、耳だけで盗み聞きをしていた3人組が一斉に振り向く。老婆は続ける。

「杖の反応です。私は長い人生ずっと杖屋を営んでおります。20年前、リュウザキ様がご来店なされた時に同じ反応を見ました。今までみたこともないあの反応が」

真実をお教えください、と頭を下げる彼女だったが、竜崎は誤魔化そうとする。

「いやぁ。偶然じゃないかn」

「はい。私は竜崎さんと同じ世界、こことは違う異世界から来ました」
意を決したさくらの一言で動揺が瞬時に広がっていく。

ガチャンと物が落ちる音。裏で仕事していた店員が何か落としたようだ。

ガシャンと物が落ちる音。今度はネリーが手にしていた水晶杖を落としていた。ネリーはさくらの真実と落として割れた杖の値段によって固まり、モカは服に隠している尻尾がボワッと膨らみ、戦地出身のアイナは予言に繋げたのか少し震えていた。


「予言は関係ないし、別に隠すつもりもなかったんだ」
それを理解してもらうのに少し時間を要した。老婆は秘密にすると約束してくれたが、問題はネリー達のほうだった。

「本当なの…?」

「戦争がまた起きるんですか…?」

明らかに動揺しているネリーとアイナ。

「いや、だから予言じゃないから起きないよきっと」
そう宥めるモカも本心は気になっているのか竜崎達の様子をちらちらと窺っている。

「さっきも説明したけど、本当に予言ではないんだ。もしこれから何かが起きてもさくらさんとは関係ない。決して結び付けないで」
はっきりとした口調で言い切る竜崎。日頃の信頼があるからか、それを聞き彼女達も少し不安を解く。

「皆びっくりするからさ、あまり噂を広げないであげてね。さくらさんが色んな人に揉みくちゃにされちゃうかもしれないから」
今度は優しい口調で頼み込む。手を合わせられ、頭も下げられ、生徒達はコクコクと頷いた。


「あ、あの竜崎さんごめんなさい。勝手に言ってしまって…」

意外と惨事になってしまった状況。さくらは思わず謝る。だが竜崎は逆に謝り返した。

「ううん。こちらこそごめんね。変に脅しちゃったからずっと言い出せなかったみたいで。大丈夫、悪い事じゃないから皆受け入れてくれるよ。私もそうだったし」

―そうだぞ。誰かを殺したとか、そんな後ろ暗い内容じゃないんだ。気にするな、さくら。むしろ自慢していいんだぞ?―




「これ経費で通るかな。通らないよなぁ」

3人を帰した後、竜崎はネリーが落とした水晶杖をみて溜息をつく。老婆はこちらが原因と支払いを止めようとしたが、そういうわけにもいかず結局買い取った物だった。

―無理だろう。工房に売れば幾分か帰ってくるだろうよ―

「あーそっか。そうするか」

竜崎の時も合う杖はなく、結局ソフィアに作ってもらったらしい。そんな話を帰りながら聞かされ、さくらはあることを思い出す。

「あ」

「どうしたの?さくらさん」

「そういえばマリアちゃんにステッキ作ってもらってたんでした…」

「あっ」
―あっ―
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