【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

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―異世界の人々―

19話 変な指輪

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コンコンコンとドアをノックする音が聞こえる。

「んむぅ…お母さんもう少し寝かせて…。今日は休みだから」
寝ぼけた頭でそう言い、布団を深く被る。が、少しの間を置いて気づく。

「そうだ…世界違うんだっけ」
目を擦り擦り扉を開ける。そこにいたのは工房の娘、マリアだった。

「あ、おはようございます!さくらさんここにいらしたんですね!」

「あ、おはよう、ございます」

「いいですよぉ敬語なんて。名前もちゃん付けで構いませんし!」

「え、じゃあ…。どうしたん…どうしたの?」

「リュウザキさんに少し用がありまして…いや、さくらさんのほうがいいのかな?」
要領を得ない答え。さくらもよくわからず対応に困ってしまう。

「いつもならすぐ起きてきてくださるんですけど、今日はいくらノックしても起きてくださらないので…。タマちゃんに起こしてもらおうかと」

丁度タマも起きて出てくる。伸びをして、隣の部屋に入っていく。様子を窺う2人だが、少しして悲鳴が聞こえてきた。

「起きた!起きたから!舌が痛い!」



「いやー。ごめんね。ちょっと昨日は色々あって」
お茶を淹れてくる竜崎。部屋に招かれた2人はそれを頂く。ちなみにタマはというと、使命を果たしたからと部屋に戻りもう一眠り。

「とはいっても、もうお昼前ですよ?珍しいですね」

「面目ない…」

「じゃあ、一応これ持ってきたかいがありました!」
マリアはバッグから号外を取り出す。

「昨日の続報です!」

渡された記事を見てみると、そこには『ゴスタリア国王、先日の一件を撤回。自らの過ちとして謝罪』の文字がでかでかと書かれていた。精霊術士に跪き、首を垂れる王の絵も記載されていた。

「サラマンド暴走の一件は王の指示。精霊術士は王を案じ自ら投獄を決断…。なお奇跡的にサラマンドは復活しており、火山も正常に稼働。急な誕生に関係者は首を捻る。現在、代替わりの是非を国民投票中。しかし独自調査によると、先の大戦から国を率いた王に続投を求める声多数、か。元々人のいい王様だから皆許してくれたんだろう。よかったよかった」


さくらは裏面を見てみる。そこには驚くことが書いてあった。

「昨日未明に火山の周囲を飛び、火球を吐く竜の姿が。火の高位精霊イブリートの使いか、神の使いか議論が紛糾。情報を求む…」

「有力情報があれば王家から金一封が渡されるそうですよ!」
弾んだ声で教えてくれるマリア。さくらはくすぐったくなってしまう。

「リュウザキさんなら何か知っているかなーって思いまして!どうですか?」

「うーん。見当もつかないなー」
彼は平然と答えたが、少し楽しそうな声なのがさくらにはわかってしまった。

―何はともあれこれで火の精霊石は通常通り出荷してくれるだろうな。工房としてもよかったんじゃないか?―

「はい!武器やら窯やらに使う分を気にしていましたが、お値段据え置きでいけそうです!」
変わらず商売根性豊かな彼女に脱帽するさくらだった。


「ところで、これを教えに来てくれたの?」

「あっ!すっかり忘れてました!」
竜崎の問いで要件を思い出したマリアはバッグを漁り何かを取り出す。

「これなんですけど」
目の前に置かれたのは小さな箱。マリアはそれを開ける

「こ、これって…」
中に入っていたのは指輪だった。しかも2つ。どういうことなのかどきまぎするさくらだったが、竜崎は普通に手にとる。

「呪いの類はついてないけど…。これがどうかしたのかい?」

「実はこれ、さくらさんにお渡しした武器、あの鏡から調整のために削った欠片から作ったものなんです。勿体なかったから鋳溶かして指輪に作り替えてみたんですけど」

「へー。綺麗に出来るものだね」
廃材から作られたとは思えない出来に感心する竜崎。さくらも手に取ってみる。特に装飾はついていないが、アクセサリーとしては充分に思えた。

「この指輪が突如光ったり、赤くなったりしたんです。原因が全くわからなくて…なにかご存知ないですか?」
幽霊かなにかを見たかのように話すマリア。竜崎は一笑に付さず、真面目に話を聞いた。

「それっていつ頃の話だい?」

「えっと、一昨日の午後と昨日の真夜中です」

ん? さくらは何か引っかかるものを感じる。もしかして…。

「まさか…」
リュウザキはそう呟くと、指輪に向けて風属性の魔術を詠唱する。すると2つの指輪は緑に染まり、隣の部屋からタマが駆け込んできた。

「ご、ご主人!さくらさんの武器が勝手に動いたんですけど!」

「やっぱりかー。ごめんごめんタマ。大丈夫だよ。ここで寝てていいよ」
よくわからないという表情を浮かべながら、眠気が勝ったタマは竜崎のベッドで再度眠り直す。

「…そういうことですか?」
「そういうことみたいだね」

「どういうことですか?」
思い当たる節がある2人が顔を見合わせる中、事情を知らないマリアは首を傾げる。

「なるほどー。あの鏡と呼応して、ですか。一体何を使っているんでしょう?そんな金属の話、聞いたこともありません」

「わからないなー…。明日、詳しい先生に聞いてみるよ」

「是非!あ、もし産出場所がわかれば…」
チラリと竜崎をみやるマリア。彼は苦笑いを浮かべる。

「勿論。教えるよ」

「やったー! あ、こちらの指輪は差し上げます!元々リュウザキさんの物ですしね」



マリアが帰っていった後、残された指輪をどうするべきなのかさくらは迷っていた。

「2つあるし、それぞれ持っていようか。もしあの武器を盗られたらこれでなんとかなりそうだし」
クレアからもらった御守りにでも入れといたら?と竜崎の提案に乗っかり、そこに仕舞うことにした。



「先生!さくらちゃんいますかー!」
今度は女の子の声が響く。扉を開けるとネリー達仲良し3人組がいた。

「あれ、どうしたの?」
「さくらちゃんと遊ぼうと思って!」

その声を聞いてさくらも扉に寄る。
「え、まさか同衾ですか…?」
アイナは邪推する。

「違うよ、ちょっと武器のことで話してたんだ」

「そうだ!先生も一緒に行きませんかー?」
楽し気に聞くネリー。その目には奢ってもらおうという魂胆が見えていた。

と、窓辺に鳥が降りてくる。それをちらりと見、竜崎は申し訳なさそうに断る。

「ごめんね、ちょっと野暮用ができちゃった。4人で楽しんできて」
さくらに中身を補充した財布を渡し、竜崎も出かける用意をする。と、彼は思い出したように忠告する。

「あ、さくらさん。何があるかわからないから、遊びに行く時も武器は携帯していてね。ネリー達もそうしているでしょ」
たしかに彼女達を見ると、腰から剣や石入れをぶら下げていた。さくらは昨日と同じようにラケットを袋に詰め、背負っていくことにした。

「んじゃ、どこいくー?」

「私、服がみたいなー」

「私は工房行きたい」

答えるようにきゅーとさくらのお腹が鳴る。それを聞いた3人は笑いあう。
「まずは腹ごしらえだね!」




一方の竜崎は学園長室に来ていた。ノックをし、部屋に入る。

「お呼びでしょうか、学園長」

「えぇ。昨日の今日でごめんなさいね」

部屋にはアリシャバージルの騎士が座っており、彼の姿を見て起立敬礼をした。

「リュウザキ様。急にお呼びだてして申し訳ございません。少しお力をお借りしたく…」

「今回はなんでしょう。あ、どうぞお座りください」



「実は監視隊から近隣の森に盗賊団が住み着いたという報告がありました。かなりの手練れらしく、被害にあった国や村は数知れない一派のようです。ここで万全を期して捉えたいのですが…」

傍から見れば、一介の教師に無茶な協力を頼む騎士の絵。が、彼は二つ返事で了承した。

「わかりました。いつ頃決行で?」

「いつも申し訳ありません。今夜でどうでしょうか」

「ではそれで」

「ありがとうございます。報酬はいつものように…?」

「えぇ。学園にお支払いください」





深夜、他の人を起こさないように寮を出る竜崎、迎えに来た騎士と共にどこかに出かける。だが、その姿は昼間散々遊んできてテンションが上がりっぱなしのさくらに見られていた。

「こんな時間にどこにいくんだろう…」

「お仕事ですよ、さくらさん。ご主人は色々な人から頼られるんです。気にせず寝ましょう」
タマはそういうと、再度丸まって寝息をたて始めた。少し気になるが、明日聞けばいいか。とさくらも布団に入り直した。




「頭ぁ。いよいよ明日決行ですね!」

「声がでかいよ。少し黙りな」
近郊の森、自然にできた洞窟内で盗賊達は宴を開いていた。

「あのアリシャバージルですから良いもの沢山あるでしょうね」

「そうさ、騎士の装備を盗むだけでも高値がつく。質がいいからね。だが忘れちゃならない。目的は工房だ。武器やら魔道具を片っ端から盗んじまうよ!」

ヒャッホー!と声をあげ酒を飲みまくる盗賊達。お頭はそれを止めようとしたが、英気を養うのも準備の内か、と笑い自分も飲み始める。

リーン

何かが鳴る音がする。途端に鎮まる洞窟内。入口に見張りは立てているが、どうも聞きなれない音が気になったお頭は何人か向かわせる。
その指示を聞いて、待機している盗賊も武器を構えた。

少し待つが、見張りはおろか、向かわせた連中すら戻ってこない。流石は盗賊団の頭。危険性を感じ取り、子分に脱出命令を出す。
「お前ら、一旦引くよ」
「へい!」

と、何かが投げ込まれてくる。僅かな間をおいて煙を吹き出し始めた。

「なんだぁ? うっ…」
煙を吸い込んだ盗賊はことごとく倒れていく。

「まずい…!急げ!隠し穴から脱出するぞ!」
残りは数人となってしまった子分を引き連れ洞窟から逃げ出す。だが、そちらの出口は既にバレていたらしい。出た瞬間、小さな稲光が彼らを襲った。

「がっ…!」
「ぐっ!」
「ぎゃあ!」

暗闇の中響き渡る悲鳴。とうとう一人になってしまったお頭はナイフを引き抜き振り回す。
「どこだ!出て来い! …!」
背後に気配、気づいた時には既に遅く―

バチッ!

「うっ…」
バタリと地に崩れ落ちるお頭。それを確認し、犯人はフードをとる。

「ふぅ」

そこに駆け寄る騎士達。
「お疲れ様です!リュウザキ様!」

「取り逃がしはいませんか?」

「はっ!周囲を包囲していましたが、出てくるものは居りませんでした!」

「それは良かった。ここの人達と、洞窟内に眠っている人達。あと反対側の入り口にも倒れている人がいるからお願いします」

「はっ!ご協力ありがとうございました!よくお休みください!」



―私の出る幕すらなかったな。お香と雷精霊で片付くとは大した事ない連中だ。私も戦いたかったのに―

「そういうなって。昨日結構な魔力を使ったんだから休まなきゃ体がもたないだろう」

つまらなそうなニアロンを宥めつつ、欠伸をしながら竜崎は帰っていった。
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