【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

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―火山国家ゴスタリア―

18話 火山国家ゴスタリア③

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「そんなことが!?」
「できるのですか!?」
騎士達は目を見開く。

「本来はできない。火山の魔力が無ければ生まれることができないからね。でも今回は死火山になったわけでもなく、人為的にサラマンドを暴走させただけだから―」
そういうと竜崎は手のひらに何かを召喚する。何と今度はSDキャラサイズになったイブリートが姿を現した。

「あの火山群は未だ問題なく稼働している。機能が低下しているのも主であるサラマンドがいなくなったからだ。時間をかけさえすれば火の力が溜まり、新たな子が生まれるだろうよ」
イブリートのお墨付きが出て、胸をなでおろす騎士達。

「それで、サラマンドを生まれさせるっていうのは…」
さくらの質問にもイブリートが答えた。

「我が子らは力を過剰に吸収し暴走したが、それは個体に限界があるという現れだ。今の火山は吸われなかった魔力が沈静化しているだけに過ぎない。それを起こすことができれば、即座にも可能だ」


「魔力を…起こす?」
さくらの頭の上にはハテナマークが浮かぶ。

「刺激を与えて、活性化させるということでしょうか?」
バルスタインの推測に小さいイブリートは頷く。

「その通りだ。荒療治だが一番効果的だ。小さな刺激では意味がない。特大の魔術を与える必要がある。小さな村なら消し炭にできるほどの、な」

「そんな…そのような魔術を扱える者なぞこの国には居りません。余程の使い手でなければ…!」

そう言い、彼女はハッと気づく。イブリートは笑う。
「誰が我を召喚した? 我を打ち倒すほどの実力者集団、『勇者一行』の一味、リュウザキとニアロンだぞ?」

―なんだその紹介の仕方は…―
ニアロンは呆れる。竜崎も苦笑していた。


「でもどうやってその魔術を?まさか火口から?」

「そのまさかだ」

「なっ!そんなことをしたら噴火の可能性が!」
慌てるバルスタインをイブリートは訂正する。
「可能性だと? 間違いなく噴火するだろうな」

「火山の麓には幾つもの街や村があります!それを見殺しにしろと?」

「知ったことか。我は方法を提示しただけのこと。対策なぞ国を守る貴様らが考えることだ」
我の役割は終わった。闘いの時を待っておるぞ。そう言いイブリートは消えた。

「王が民に謝罪を行った後に正式にリュウザキ様を招いて…」
「それが妥当か…。しかし集落を潰すことになる。民の反感は一層増すだろう。それならば…」
急遽対策を練る二人の騎士。竜崎は溜息をつく。

「惑わすだけ惑わして帰るなよ…。2人ともちょっといいかい?」
パンパンと手が打たれ、ようやく2人は竜崎の方を向く。

「イブリートの言う通りその方法でサラマンドは生まれるけど、噴火もしてしまう。それは火山内部で一気に励起するからだ。それを制御してやれば、噴火させることなく安全に済ませることはできるよ」
全てを解決する回答に食いつく騎士。それを抑えるように彼は言葉を続けた。

「ここで問題があるんだ。制御する役もかなりの技術がいる。直接マグマに飛び込めれば比較的楽だが、マグマが大丈夫な種族でも魔力酔いで沈むだろう。外から調整するしかないけど、私一人で両方やろうとすると、魔力的にも時間的にも多分失敗しちゃう」

それを聞き、再度作戦会議をするバルスタインと従者。
「どうすれば…賢者様をお呼びするか…学園から先生が信を置く方をお呼びするか…それとも金を払い実力者を集めるか…」

竜崎はにこにこしながらそれを止めた。
「それには及ばない。一人当てがあるんだ。すごい魔術を使える子に」

そう言うと、彼はさくらのほうを向いた。
「さくらさん。協力してくれるかい?」



「えええ!?私ですか!?」
まさかの指名を受けたさくらは驚きすぎて思わず後ずさりしてしまう。

「うん。あの武器、持ってきたでしょう。それで魔術を与える側をお願いしたいんだ」
確かに持ってきてはいた。しかしこれで…?

「そんな大きな攻撃、できません…」

「大丈夫、火の基礎魔術は朝の授業で教えたし。それで充分だよ」

お願い、と手を合わせ頼み込む竜崎。バルスタイン達の視線もあり、断るわけにもいかなかった。

「でも、この前の爆発はニアロンさんの魔力があったからですし…」

「そう。逆にいえば魔力さえあればいけるんだ。ということで、ニアロン、さくらさんに憑りついてくれ」

―やれやれ、ようやく出番だな―




今は静かな火山の上空。火口直上でさくらとニアロン、バルスタインは竜に乗り待機していた。

「ニアロンさん。誰にでも移動できたんですね」

―合う合わないはあるけどな。ただ宿主の生気を吸うから明日は体がだるくなるかもしれないが…。すまないな、折角の休みなのに―

「いいです。いつでも休ませてくれるって竜崎さん言ってくれましたし。私の身体はどうですか?」

―快適なぐらいだ。長年竜崎と共にいたから、そちらの世界の体に慣れたんだろうな。しかし、さくら少し痩せ気味じゃないか?もっと食べたほうがいいぞ、成長期なんだから―

「お母さんみたいなこと言いますね…」



「本当に大丈夫なんですか、さくらさん」
竜を安定させ、不安げに振り向くバルスタイン。そう言われると大丈夫な保証は一切ない。なにせこの力を使うのは2度目だ。

「わからないです…」

―心配し過ぎだ、バルスタイン。清人はできないやつに無理な頼みはしない。さくらも自信を持て―



―よし、さくら、竜の上に立ってくれ。バルスタインはさくらを支えてくれ―
羽ばたく竜の上に立つ。不安定だが、バルスタインがしっかりと腰を支えてくれている。

―さくら、いつでもいいぞ!手筈はさっき説明した通りだ。まずは火の魔術を詠唱。巨大な火の球か熱線、なんでもいい、イメージをしろ。それを目の前に作り出したらその武器で叩き入れるんだ―

「はい! 『我、汝の力を解放せん』…!」
蓋が開き、そこに手を触れる。バチバチと音を立てて動き出す立体魔法陣を確認し、想像力を膨らませるために目を閉じる。

とはいっても、熱線?火球?そんなもの漫画の中でしか見たことがない。イメージしろって言われても…。

「火球…球…ボール…。テニスボール?」
そうか、テニスボールをイメージすれば!えっと…いつも使っているあれをイメージして…それを燃やして…大きくすれば…


―…くら!さくら!止めろ!大きすぎだ!―
ニアロンに呼びかけられ目を開ける。目の前が真っ赤だった。

「へ?」

間抜けな声を出してしまう。一瞬わからなかったが、ラケットの先には自分どころか乗っている竜すらも簡単に飲み込む大きさの火の球テニスボールができていた。

「え、ええええ!?ど、どうしよう!」
―落ち着けさくら!振り回すんじゃないぞ!―

「なっ…これがリュウザキ先生が認めた子の力…」


―いいか?大きく外しさえしなければ清人が下から誘導できる。そこまで気負わず、思いっきりいけ!―

「はい!」

ラケットを大きく振りかぶる。それを合図に火の球はラケットから外れ、空中で静止する。それを火口めがけて力強く振り抜いた。
「えーい!」

パッコーン!

鏡の力もあり、火球は勢いをつけて火口に入っていく。その様はまるで隕石のよう。

「…お見事です!」

―上手いものだ。さて、一応離れるぞ―




火山、火口付近、竜崎は空から降ってきた火の球を見送っていた。

「テニスボール…」

この世界には存在しない、20年前に見たっきりのそれが、巨大で燃えているそれが隕石の如く火口内に落ちていく。

「おっと、見とれている場合じゃないな」

急いで術式を広げる。丁度火球が到達したのか地面が揺れ始める。

「さて…」

意識を集中させる。行うべきことは2つ。火の力を纏め上げ噴火を防ぐこと、そしてサラマンドを生まれさせること。

術式を内部に降ろしていく。ここは感覚勝負だ。まだ下か、まだ、まだ…

「―ここか」

マグマに触れるのを感じとり、即座に手を組む。動き出したマグマを包み込み、噴火をしないように流れを作ってやる。上手くいったのだろう、術式越しに火の力が潮流をなしていることが伝わってくる。

「来たな」

不意に、高まったマグマ内で何かが発生する。最初は小さな玉のような代物が、徐々に徐々に膨らんでくる。やがて形を変え、手が生え、足が生え、尾が生える。目を開け上に昇ってくるのを感じとり術式を消し去る。表面まで上がってきたそれは大きな産声を上げた。

「ウォオオオオオン!」

「よしよし。いい子だ、よく生まれてきてくれた」

これで一安心。竜崎は息をつく。

「さて、あと何か所できるかな」

マグマの中を遊泳しているサラマンドに手を振り、彼は次の地点に移動した。


数カ所行ったところで流石に国民も異変に気づき、家から出てきてざわついている。

「頃合いかな。これだけやれば産業としても問題なく稼働できるな。バレないうちに帰ろう」

「ありがとうございました!なんとお礼を申し上げたらいいか…」

「そういうのは全て終わった後で、ね。対処しきれなかったら直ぐに飛んでくるから連絡してくれ」
感謝の敬礼をするバルスタイン達を労い、飛び上がる。

その際見えた夜の暗闇に脈動するような火口が浮かぶ様は、怖さがあるが、それを凌ぐ美しさを誇っていた。



「さくらさんがいなければあの方法は実現できなかったよ。ありがとう。国1つの大騒動を救えたかもね」
―ゴスタリアの英雄になるかもな。事情を知るバルスタイン達の間だけだが―

帰還途中、そう褒められ、照れてしまうさくら。まさか自分でもあそこまで上手くいくとは思わなかった。

深夜でも煌々と輝くゴスタリア王国を背に、達成感に満たされながらさくら達はアリシャバージルへの帰途についた。
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