【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

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―火山国家ゴスタリア―

16話 火山国家ゴスタリア①

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「ふあぁ…」

朝。今日も授業があるらしく、揃って寮を出る。と、タマが何かを感知した。

「ご主人、街の方がなにやら騒がしいです」
「ん? 本当だ。朝にしてはやけに…」



「特報! 特報だよ!」
なにか事件でも起きたようで、街のそこいらで号外がばらまかれていた。なんの騒ぎなのか辺りを見回す一行だったが、竜崎はするりと人の間を抜け配達人に声をかける。

「3部もらっていいかい?」

「はいよ! おやこれはリュウザキ様!貴方様には少しお辛い内容かもしれません」

「何かあったの?」

「はい、ゴスタリアの方で少々…。詳しくはこちらを」
手渡された号外を持ち帰り、ナディとさくらに配る。竜崎はタマが見えやすいように膝を落としながら改めて内容を確認してみる。

「ゴスタリア王国、複数の火山の機能大幅低下により一時火精霊石等の出荷を停止…!」

「えっ!そんな!この国の火精霊石はほとんどがゴスタリアから仕入れているのに…!学園どころか家庭やお店にも大打撃です!」
ナディが大事件とばかりに声をあげる。

「専任精霊術士が利益増加のために独断で多数のサラマンドに強化魔術をかけ暴走させたと自白。全て討伐せざるを得なかったことが直接の原因か、謀反人として投獄中…ですってご主人」

「竜崎さん、ここって…」
「あぁ。昨日手助けに行った国だね。こうなったか…」

―しかし昨日の今日で犯人確保か。しかも身内ときた。自首や徹底捜査により、であれば良いんだが―

「少し気になるね。あの精霊術士は長年王家に仕えてきた忠義者のはずなんだけど。賢者に連絡をとるか、もしかしたら『動く』必要があるかもしれない」

―そうしとくべきだな。幸い今日は午前終了だ。午後からは動けるだろう―




昼休み。本日分の授業が終わった生徒達は続々と帰っていた。竜崎達もまた昼食をとろうと食堂に出向いていると、丁度来訪してきた客の姿が見えた。

赤と灰を基調とした鎧を纏った、一目で騎士とわかる美しい女性だった。従者を一人連れ、凛然と歩く姿にさくらが見惚れていると、彼女は竜崎を認めこちらに近づいてきた。

「あの方って…」

「ゴスタリアの騎士団長だね」
―こちらにくるということは、朝の件関係だな―



「ご無沙汰しております。リュウザキ先生」

「こちらこそ、バルスタイン団長。火山の件でしょうか」

「はい。こちらにも情報が届いているようですね。少し他聞を憚る話なのですが…」
ちらりと辺りを見回す。周囲は先生生徒が相当人数おり、内緒話をできる状況ではなかった。

「わかりました。一応学園長にも話を通しておきたいのですが、よろしいでしょうか」

「寧ろこちらからもお願いさせてください。あと敬語でなくて構いませんよ、先生。王宮ではないんですから。失礼ながらもう一つ。先日調査隊の救援にいらしてくださった際、もう一人女の子がいたと。こちらの方でしょうか」
さくらを指す騎士団長。しかし竜崎はそれよりも気になることがあったようで、驚いたように聞く。

「私達の名前が記録に残ってたということ?」

「えぇ。名簿に記載されておりました」

「参ったな、だからか…。名前を残さないようにしといてくれと言ったのに…。 そう、この子。雪谷さくらさん」

「は、初めまして。さくらです」

「初めまして。私はバルスタイン・フォーナー。ゴスタリアの騎士団長を務めさせていただいております。さくらさん、貴方も関係者として列席していただきたいのですがよろしいですか?」

「は、はい!」



学園長室、横の応接間。
そこに集まったのは、竜崎、さくら、学園長、バルスタインとその従者の5人。

「まずは単刀直入に失礼いたします。リュウザキ先生、お力をお貸しください」
深々と頭を下げる彼女達に彼は答える。

「勿論、私にできることなら。多分、私が手を貸した事が原因の一つでもあるでしょうし」

「いえ。そんなことは…」
なにか心当たりがあるのだろう、含むように否定する。竜崎は学園長に説明がてら言葉を続ける。

「サラマンドにかけられた魔術には専任精霊術士の癖が僅かに出ていました。あの方のことですから国家転覆狙いで、とは考えにくいです。どうせ起こってしまったこと、もし王家の指示ならば闇に葬れれば良しと対処法のみ伝えて足早に退散させていただいたのですが…詰めが甘かったです。もっと強く頼んでおくべきでした。私の名前が残っていたことで犯人を作り出すように仕向けてしまったのでしょう」

「はい…。申し上げにくいのですが、その通りです。王がリュウザキ先生の名前を見つけてしまったのです。先生に見つかるということは『勇者一行』に見つかったということ。先生次第で賢者様や観測者達、引いては諸国の王に報告がなされ、調査が入る可能性もあります。王の指示とわかれば間違いなく国民の支持を失います。もしそうなれば…」

―暴動も待ったなし、か。国の一大産業を潰したんだものな―

「国民に犯人捜しを迫られ、精霊術士を謀反人として投獄をしているのが現状になります」

―なるほどな。一番最悪な結果になったな。本当に王の策謀だったか―



全てをお話するために参りました。と前置きをし、バルスタインは話始める。

「事の顛末は数年前に遡ります。当時、火山の機能低下が観測されていました。サラマンドの寿命が近いことの現れではあるのですが、運の悪いことに複数同時に発生してしまったのです。そのため王主導の元、サラマンドに強化魔術をかけることで時期をずらそうとしたのですが…」
目を伏せる彼女。後悔するように告白を続けた。

「うまく行き過ぎてしまったのです。通常より多くの精霊石の生産を可能にしてしまい、それに味を占めた王は我々が止めるの聞かず、続行の指示を出しました。結果、先日の暴走事件を引き起こしてしまったというわけです。火の精霊石は出産国が限られている品。余すことなく売り捌くことができ、比例して国庫は潤沢になりました。それが王を惑わせたのでしょう」

止められなかったのは自分の責任というように拳を強く握りしめる。そんな彼女を学園長は宥める。

「バルスタインちゃん。貴方はよく頑張ったわ。そうやって自分の責任としちゃう癖は相変わらずね」

「すみません、学園長…」


小声で竜崎に尋ねるさくら。

「バルスタインさんってここの卒業生なんですか…?」
「うん。当時からすごくいい子だったよ。男女問わずファンたくさんいたね」


「うーん。しかし名前を残さないよう担当の人には厳命していたんだけど…」
首をひねる竜崎、言い出しにくそうにバルスタインが答える。

「その事なんですが…私も先生の名前があるのに言伝すら無いのはおかしいと思い、担当の者に話を聞いたんです。そうしたら、とある傭兵の方が『命の恩人なのに名前が無いのはおかしい!』と無理やり聞き出して名簿に書き込んだらしくて…修正を行う暇もなく王の元に届けられてしまったらしいのです」

「あちゃー…」

あの時助けた傭兵がそこまで恩義を感じてくれたのはさくらとしても嬉しかったが、ありがた迷惑になってしまったようだ。というか―
「私の名前伝えてないはずなんですけど…」

「それが…名簿には『命の恩人の強い女の子』と。王が読み飛ばしてくれるのを期待していたのですが、それで目についたようで…」

嬉しいやら悲しいやら。まさかこんなことが国の危機に繋がるとはあの傭兵も考えつかなかっただろう。


―それで、私達はどうすればいいんだ?―
ニアロンが本題に入る。

「…こんなことを言うと不敬罪で捕まるかもしれません。ですがこれは王の先を案じてのことです」
自分に言い聞かせるように呟くバルスタイン。そして顔を上げ、意を決して願いを伝えた。

「王を懲らしめて頂きたいのです。先代より王位を引き継ぎ、私が子供の頃からこれまで立派に国政を執り行ってくださいました。ですが長年仕えてきた忠臣に詰め腹を切らせるような真似、まかり通る道理はありません。同じ過ちを繰り返さぬよう、ここで正して頂きたいのです。これは臣下全員の総意です。是非お願いいたします」
再度頭を地に擦りつける勢いで頼み込む彼女に顔を上げさせ、竜崎は問う。

「投獄は本当にあの王様の決定かい?」

ピクッとほんの小さく体が震えるバルスタイン。彼はそれを見逃さなかった。
「昔もよく仲裁役として板挟みになって辛そうにしていたね。大丈夫。全部話してみて?」

竜崎の優しく諭す言葉に負け、彼女は人払いをする。それを聞き、従者は部屋を出る。それを確認し、白状するように話し始めた。

「先生には敵いませんね…。実は出立前、精霊術士殿にをお話を伺ってきました。あの方は王を庇うために自ら投獄を願ったのです」

「やっぱりか、あの人らしい。一度相談してくだされば良かったのに…。バルスタイン、君自身の所感はどうなんだ?」

「私は…。いえ、確かに正して頂きたいのは本当です。ですが、私には王は充分に反省しているように見えました。精霊術士殿は王にとって育ての親も同然、王も自らが責任をとらなければならないことは理解しております。ただ、あと一歩が踏み出せない、そういった印象です。リュウザキ先生、もし諫めるのならば優しく諭す程度にお願いします…ただでさえ周囲から睨まれている中、これ以上詰め寄られると王の心が壊れてしまいます」

王としての在り方、王個人としての感情、精霊術士の意向、臣下の意見、民の不安。彼女はその全ての間に挟まれ、最善の道を模索してリュウザキの元に訪れたのだろう。胸中の重圧と心労は計り知れない。それなのに恨むことなく全てを気遣っていた彼女の姿に、さくらは騎士の在り方を見ることができた。


「話してくれてありがとう。となると賢者や学園長や私が出向いてもあまり効果ないかもな。君の言う通り、むしろ悪化させるだけだろう」

「そうね。あの子は追い詰められると泣き出す癖があるから」

学園長の一言に部屋の空気が固まる。竜崎がゴスタリア王を不憫に思いながら彼女を諫めた。
「学園長…。あの方が学園に在籍していらっしゃったことは存じておりますが…30年ほど前の話は蒸し返さないであげてください。名誉のためにも…」




「改めて、どうするかだけど」
空気を変えるようにゴホンと咳払いをし、竜崎は続ける。

「彼に一歩を踏み出させる必要があるけど、私達が正攻法で訪ねて忠言するのは危険。ならば精霊に叱ってもらうというのはどう?」
「あら、いいかも。サラマンドを倒してしまったのだし当然の報いと思うかもしれないわね」

名案と褒める学園長とは反対に、バルスタインは困惑する。
「しかし一体どうやって…。サラマンドを王の前にお連れするのですか?」

「いや、もっと確実な方法がある。協力してくれればいいんだけど…」

そういい、紙とペンを取り出しサラサラと何かを書き込んでいく竜崎。しばらく書くことに集中していたが、終わったらしく魔法陣が書かれた紙を机の上に置く。

「あらま。彼は協力してくれるかしら」
どうやら学園長は気づいたらしい。さくらとバルスタインはなにが起きるかわからなかった。

「さて、二アロン。いくよ」
―任せろ―

2人同時に複雑な詠唱をしていく。目の前の魔法陣は燃え盛り、炎の中から何かが現れた。

「我を呼んだな、リュウザキ」

現れたのはあのイブリート。ただ…
(ちっちゃい…!)

さくらがそう思うのは無理もない。あれだけ大きかった高位精霊は今回は小学生ほどの大きさしかなかった。
「あぁ。お願いがあるんだけど」
「ほう。国1つ焼くか?殲滅戦か?任せろ」
意気込むイブリートを止めるように学園長が割って入る。

「違うのよイブリートちゃん。とある王様を叱ってほしいの」

「ん?お、もしかして貴殿は。久しいな。いつ以来だ?あの時の勝負は今も忘れられぬ。自らの死を意識した稀有な戦いだった」

「懐かしいわねぇ。最近忙しくて。今度また手合わせしましょう」

「フハハハ!望むところだ!」
流れるように結ばれる決闘の約束に頭がついていかないさくらとバルスタイン。竜崎が代わりに詳細を説明した。



「と、いうことなんだ」
「ふん。やはりあの異常はゴスタリアか。我らの力で生きていることを忘れたようだな」

「ご存知でしたので…!?」
驚くバルスタインを一瞥し、イブリートはフンと鼻で笑う。
「その鎧、ゴスタリアの騎士か。我は火を司る精霊だ。どれだけ遠くても我が子であるサラマンドに異常が起きていることはわかる。人の営みに口を挟むのは無粋と思い、黙っていたがな」

彼女は平伏しながら必死に嘆願する。
「申し訳ございませんイブリート様!不合理な願いと知ってお頼み申し上げます。我が王をお戒めください!」

「ふむ…我は子らを殺された身。協力する義理もそちらの王を生かす必要もない。それがわかって言っているのか?」

イブリートの周囲が熱で歪む。その圧に危険な存在だということを改めて認識するさくら。だがバルスタインは引かなかった。
「貴方様しか頼むことができないのです!我が王は心優しき方です。気の迷いでの出来事。どうかお許しを、事が収まり次第我が身を貴方に捧げます」

「ほう、その身をか。まだ若い貴様が、愚王のためにか」

「王を、ひいては民を守るため。命は惜しくございません」
凛と言い切る彼女をイブリートは品定めするように見回す。

「フッフッフ…。いい体をしている。よかろう、引き受けよう。ただし、条件がある」
「はい、なんなりと」

覚悟を決め宣告を待つバルスタイン。イブリートはにんまりと笑い口を開く。

「お主も相当の武人と見た。実に昂る。我が永炎の地に来い。闘おうではないか!兵をいくら連れてきても策を巡らせても構わん!なに、殺すつもりなぞ毛頭ない。全身全霊で挑んでこい!我を楽しませてみよ!」

予想外の回答に呆けるバルスタイン、苦笑いする竜崎と学園長。さくらは椅子から滑り落ちかけた。

「なんだ?何と勘違いした?我は精霊。人の肉なぞ要らぬぞ」
騙されたな。とニヤつくイブリート。やれやれ、と竜崎が締める。
「イブリート、私が王の前に召喚するから適度に脅してくれ。バルスタイン、実行はいつが良い?」

「あ、は、はい!早ければ早いほど良いのですが…」

「よし、今日の夜実行しよう。日が暮れ始めたらそちらの王宮に向かう」

「はい、いってらっしゃい。調査隊の竜使っていいわよ。表向きは別の場所への単身調査にしとくわね」

「ありがとうございます、学園長」

「ちょうどいいわ、さくらさんも行ったら?この世界にきて色々と見てみたいでしょう?」

「え、はい、まあ、確かに」

確かに見てみてみたい、漫画や絵本に描かれている王族の華麗な生活がその通りなのか。バルスタインには悪いが少しだけ楽しみなさくらだった。
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