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顧客リスト№65 『魔王軍の上級者向けダンジョン』

人間側 とある上級勇者の冒険Ⅱ

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―――――――――――――――――――――――……………………。



「……あれ? もしもーし?」


「聞こえてます~? 勇者パーティーさ~ん?」


「ピクリともしないんだけど。触手でつついてみる?」


「そうしよ~! ちょんちょ~んっ」



…………ッハ!? 立ったまま軽く気絶してた! 目の前に出てきた魔物と、その喋ってた内容があまりにも受け入れられなくて……!


う、うん。そんな訳ないよね。ボス役の代わりがいて、しかもそれが上位ミミックだなんて…………。



「あ、起きた! じゃあ改めて……」


「ボス代理のミミックで~す!」



………………もっかい気ぃ失いそう…………。








「――っく…! どういうことだ……! バサクの奴はどうした!?」


…あ。正気を取り戻したクーコさんが叫んで……。けど、ミミック二人はちょこんって並んだまま普通に答えて……。


「あなたたちがしつこく来て疲れたから」

「暫くお休みで~す!」


……え。 え? え!? えぇっ!!? えええええっっ!!!!?


「なんで!? どうして!?」


「だから、あなたたちのせいで休む暇なかったからー!」

「傷もいっぱい残っちゃってたしね~!」


そんな……! そんな! だって私達、その傷を当てにして……じわじわ体力が削れていってるのを期待して、何度も何度も挑んでたってのに……!!


それなのに休まれちゃったら、傷を治されちゃったら、全部水の泡! そんなの……そんなのっ!!


「ズルじゃんっ!!!」




「そ、そうですよ! ズルじゃないですか!」

「私達の努力を無下にするなんて……心が無いのですか!?」


叫んじゃった私に続き、アテナさんとエイダさんも怒りを露わに。けどミミックはやっぱり平然と。


「ズルだズルだって言うけどー」

「四人がかりのそっちのほうがズルくな~い?」


「「「「うぐっ……!」」」」


そ、それはそうかもだけど……! で、でも……! それはそういうもので……!


「それにバサクさんにはお休みも許さないって、ちょっと酷いよねー」

「ね~! そっちはここ最奥の間の前でしっかり休んで完璧状態なのに!」


「「「「うぐぅっ……」」」」


確かに……そうだけど…………! けど、けど……! 私達だってここまでくる手間が……!


「てかアイテム持ち込み幾らでも許可してるんだから、それぐらい当然じゃなーい?」

「それに~宝箱好き放題漁ってから来てるの、知ってますからね~?」


「「「「「ぐっ…………」」」」」


……でも……けど……! その……! あの……!!


「大体、バサクさんはあなたたち以外とも戦ってるんだから!」

「そ~そ~! 休みがあってもズルくもなんともないでしょ~!」


「「「「ぐ、ぅ…………」」」」」


…………だ、だ、だけどぉ…! 私達だって、私達だって!


「私達だって、まともに寝ないで来てたのに!!」


「いや寝なさいよ。なんでわざわざ体調不良で挑んで来てるのよ」

「健全な戦闘は健全な心と身体から、ってね~~!」


……もう……ぐうの音も出ない……。そうなんだけど……そうなんだけどさ……! 正論なんだけどさ! 卑怯なのはこっちなのかもしれないんだけどさ!


なんで…なんで、ミミックに説教されなきゃいけないの!? 私達から健全な心を奪った、卑怯戦法のミミックの癖にっ!!! 


「『ボス戦は一度失敗したら最初から』って相場が決まってるもんねー」


「あでも、最近はそうじゃないのもあるとか。だからゾンビアタックが横行してるって~」


「へー。クリア前提じゃなきゃいけないって大変ねぇ」


「ね~~!」


……こっちの気も知らず、なんかよくわからないことで盛り上がってるのが更にムカつく! ほんと、ミミック嫌いッ!!!








「――で、どうするの? 戦う? もし気が乗らないなら帰り道開いたげる」


「バサクさんが治るまで私達はいますけどね~。良い機会だからゆっくり休むのもアリかも?」


ひとしきり話し終えた後、急に聞いてくるミミック達。どうするって言われても……。


「……どうする?」

「どうします……?」

「どうしましょう……」


まさかの提案に、みんなで顔を見合わせてしまう……。なんか、全身から力が抜けちゃって…全てが面倒くさくなってきた……。


だって、ようやく倒せると思ってた大物にすんでのところで逃げられたなんて……。卑怯者…! ……あれ、卑怯なのは私達のほうだっけ? もうわかんない……。


なんか溜まってた疲れもぶわって噴き出してきた感じがして……。……そもそも何で魔王を倒さなきゃならないんだっけ? 魔王は邪知暴虐の悪ーい存在なんだっけ……? そういや詳しく聞いてないや……。


んー……頭回んない……。はぁ……。お言葉に甘えて帰ろうかな……。


「――待て」


へ? やる気をなくしかけていた私の背を叩くように、クーコさんの声が。でもそれは私に向けられたものじゃなく、ミミック達への……――。


「一つ聞こう。お前達はバサクの代理…それはわかった」


「そーよ。認可も貰ってるわ」

「ちっちゃいけどボスで~す!」


「ならば――。お前達を倒せば、バサクを倒したことに。つまり……このダンジョンをしたことになるのか?」




……あ! そうか!! そうかも!!! 代理とはいえボスなんだから、倒しちゃえば例の『魔王城への道』が開けるんだ!!!! 


「そうね! 私達は大目玉じゃ済まないけど!」

「せっきにんじゅ~だい!」


そしてミミック達もそれを認めた! そうと決まれば……!


「クーコさん、アテナさん、エイダさん、やろうっ!」


抜けたやる気が一気に回復! ううん寧ろ、やる気ブースト! あのとんでもなく強くてデッカいバサクさんに比べれば、ミミックの一人や二人程度、今の私達なら!!


「えぇ、やりましょう!」

「回復は任せてください!」


アテナさんとエイダさんも目に光を! クーコさんもフッと笑い、剣を構えて! よし、これならいける! 勝てる!


「おー! 流石勇者パーティーね!」

「そうこなくっちゃ~!」


ミミック達も触手をにゅるんと出し、戦闘態勢に! ――あ、そういえば……!


「そっち、二人だけでいいの?」


さっき1対4はズルって言われたから、敢えてそう聞いてみる! すると――。


「今のあなたたちならどっちかだけでも良かったんだけど……」

「負けるわけにはいきませんから~!」


……だって! 随分と余裕ぶってるじゃん! 道中のミミックをちょちょいのちょいで倒してきた私達相手に!


「じゃあ準備は良ーい?」

「かうんとだうん! さ~ん!」


なら……その自信満々な顔、潰してやる!


「「にー~!」」


鼻っ柱、へし折ってやる! 


「「いー~ち!」」


絶対に、わからせてやるんだから――……!!!


「「ぜろっ!」」






  ――――フッ






「……えっ」


え…………嘘。 消えた……消えた!!? ミミックが、視界から消え……――。


「まずは先制攻撃! 且つ……」


――! ミミックの声! どこに……っ目の前!?



「痛恨の一撃魔法! ――『死んじゃえ☆』」



えっ…………かはっ…………………………………………………………………………


…………………………………………………………………………………………………


…………………………………………………………………………………………………


…………………………………………………………………………………………………


…………………………………………………………………………………………………


…………………………………………………………………………………………………


「……さん…。 ……アさん……」


…………………………………………………………………………………………………


……………………ん…………………………………………………………………………


…………………………………………あれ…?……………………………………………


「……シアさん…。 ……ーシアさん…!」


……………この声……………………………………………………………………………


…………………………………………………エイダさんの………………………………



「ユーシアさん! 目覚めてください!」



…………………………ハッ!? えっ!!!!? 





「良かった…! お目覚めになられましたか!」


「え、エイダさん? どうして……!? あれ、なんで私倒れて!?」


確か……。ミミックが目の前に来たと思ったら、急に意識が無くなって……。……一体何が……?


「『即死魔法』です……! 間違いありません……!!」


急いで起き上がっていると、アテナさんの震える声が耳に。即死…魔法…?


「その名の通り、当たると即死してしまう攻撃魔法です……! それをなんでミミックが……!? 超が幾つもつくほど取得難易度が高いのに……! なんで……!!?」


アテナさん、身体もカタカタ震わせて……! けどそれを落ち着かせる暇もなく、エイダさんが注意喚起を。


「お気を付けください、ユーシアさん! 蘇生魔法で事なきは得ましたが……連発されてしまうと私では対処が難しく……!」


「そう心配しなくても、連発なんてできないわよ」

「うんうん。アストちゃんじゃないんだし~!」


――! ミミック二人の声! どこに……って、えぇ……。


「でも目覚めたようで何より!」

「勇者だもの、目覚めないとね~!」


クーコさんの前で煽るように飛び跳ねてる……! 時折攻撃を交えているとはいえ、明らかに攻める気がない……! まるで私の復活を待ってたかのように……ううん、実際待ってた! 


「さ、続きしましょー!」

「私ももう即死魔法は使わないから安心してね~!」


……舐められてる! すっごく舐められてる! ミミック、大嫌いッ!!







「さ、改めてー……」

「ばとる~すた~とっ!」


こっちの準備……私へのバフかけも完全に済んでから仕切り直すミミック達。相変わらず余裕ぶったまま……! 私が生き返るまで待ってたこと、後悔させてやるんだから!


……でも、気づいちゃったことがある。私達、色んなミミック対策を身につけてきたけど……この戦いだと、半分が息してない! 私の『やられた人のメッセージが見える能力』と、アテナさんの『見破る魔法』が使い物になってないのだ! 


だって、ミミックって普通隠れてる魔物でしょ!? それを見抜く方法は覚えたけど……こんなの、想定してないもん! ボス部屋で目の前に堂々と現れるなんて、聞いてないもん! 無茶言わないでよ!


……今更だけど…これもしかして、挑むの無謀だったんじゃ……? ……ううん! そんなことない! エイダさんの蘇生魔法はばっちり役に立ったし、クーコさんの貫通技も当たればきっと……!


それに、私達には経験がある! ミミックを手玉にとった経験が! それに私には魔物特効もあるし、勝てる! ……多分、勝てる!


「考え事してる暇、あるのかしら? とりゃっ!」


――ミミッ…! 危なあっ!?


「わぉ意外! いや、流石と言うべきね! 躱されちゃった!」


間一髪、ミミックの攻撃を回避し構え直す……! そうだ、考えてる暇なんてない! がむしゃらにやるしかない! ……けど…!


「ほらほらほらー!」

「ついてこれますか~!」


「「「「うっ……! 速い…!」」」」




……今まで、結構な数のミミックと戦ってきた。下位上位問わずにぶつかり、克服してきた。さっきのように、あのミミック触手を全部見切って会心の一撃を叩きこめるぐらいに強くなった。


だけど……! このミミック達の動き、そんな道中ミミックの比じゃないっ! 視認が……まともにできない!! 辛うじて残像が見えるぐらいにしか捉えられない!!!


こんなの、魔物特効を叩きこむどころじゃない……! ちょっとでも下手な動きをしたらこっちの誰かがやられちゃう! どうしたら……!


「アテナ! 私の右斜め前方に向けて範囲攻撃魔法を!」


「は、はい! 『サンダーストーム』!」


「わぁ! びっくりした~!」


「逃すか! ――くっ…!」



クーコさんはアテナさんと協力してなんとか動けてるけど……有効打を与えられてない。それどころか……!


「やりますね~! じゃあ反撃! しゃきききき~んっ!」


「な!? ぐぅっ…!?」


反撃として、触手刃による連撃が……って、触手が刃に!? えぇ!? で、でもどう見てもあの柔らかそうな触手が剣の刃みたいに鋭利さに……! クーコさんの剣とぶつかってキンキン剣戟の音してるし……!


「め~ん! ど~う! 小手……と見せかけて突き~!」


「ハァッ! っ……呑気そうに見えて、なんという痛烈無比な攻撃を……!」


しかもあのクーコさん相手に、正面切って戦えちゃってる……! このままだとジリ貧……!


「あなたの相手はこっちよ、勇者さん!」


って、気にしてる場合じゃなかった! こっちにも触手刃が――! こ、このっ! えいっ!



  ―――キンッ!



「痛ったあーい!? 嘘、こんな痛いの!? 想像以上なんだけど!」



……へ? とりあえず迫ってた触手刃を一本弾いたら、ミミックが飛び退いて……あ、そっか!


形変えたとしても、あれは触手! 触手なら、ミミックの身体の一部! つまり…魔物特効が乗る! 


ふ……ふふふふふっ! これで形勢逆転かも! 食らえ、私の番!


「エイダさん! 棘の鎧と支援攻撃、お願い!」


「承知いたしました! 『レリック・スパイクアーマー』! 『ジャッジメント・クロス』!」


クーコさんに倣い、こっちも魔法の援護を受け突撃! どう!? 少しでも掠れば大ダメージだよ!


「わお! わわっとー! 良い太刀筋してるじゃない!」


よしよし! ミミックは気軽に攻撃できず、回避専念を余儀なくされてる! このまま上手く追い詰めれば会心の一撃を……!


「なら……これならどーう?」




 ――――フッ




っ! さっき消えたのと同じ…! ミミックの素早さ全振り攻撃! とうとう何も見えなく……!


これじゃ攻撃を当てるどころじゃない! どうしたら……! なにか……ミミックの居場所を見つける方法は……ミミックを……見つける……!?


そうだ! イチかバチか! ミミック対策!


「アテナさん!」


「はいっ!」


「『ディテクト』を振り回して!」





「えっ!? わ、わかりました!」


一瞬困惑しつつも、見破る魔法を即座に詠唱し、杖を勢いよく振り回すアテナさん! 上手くいけば……!




 ―――ピカッ!




「そこっ!」


「きゃうっ!?」


やったぁっ! 光った方向へ瞬時に飛び込み、薙ぎ払うような一刀を! そしたら…当たった! 素早さでミミックを見破って、私の剣が刺さった!


どうどう!? 効いたでしょミミック! 私の魔物特効、とくと――……。


「あっぶなーい! 蓋でガードしなきゃバサクさんの二の舞だったわね!」


なっ……嘘……! 完全に隙を突いたはずだったのに……ガードされちゃったの!? 渾身の一振りだったのに……!


で、でもまだまだ! ミミックの動きを見破れる方法を見つけたんだから、勝ち目はまだあるっ!


「うーん! 流石バサクさんを手こずらせてるだけあるって感じ!」

「上手く攻めきれな~い! 強い強~い!」


――あれっ…? 急にミミック2人とも退いて……? ――嫌な予感!


「じゃ、こっちもちょっと本気で! ―――。―――!」

「アストちゃんとの修行の成果、見せたげる~! ―――。―――!!」


急に揃ってむにゃむにゃ言い出した…! もしかしてあれ……!


「あれは…! 詠唱です! 召喚術式!」


アテナさんが叫ぶ! ヤバいっ! そんなことされたら更に面倒に! 止めなきゃ――……


「「しょうかー~んっ!!」」


――うっ…! 遅かったみたい…! 一体何が呼び出されて……あっ……。


「じゃーんっ! サキュバスっ!」

「なっ……!?」


「じゃじゃ~んっ! アラクネっ!」

「えっ……!?」


「「じゃじゃじゃー~んっ! スケルトンっ!!」」

「っ……!?」



そ、そんな……! 召喚されたのって全部……みんなのトラウマ魔物!!?







「そーれとっつげきー!」

「ご~ご~っ!」


何体も召喚された魔物達を引き連れ、再度攻め入ってくるミミック達…! 対して、クーコさん達は……。


「「「ひっ……!?」」」


怯んじゃってる! 確かに大分大丈夫にはなったんだけど…こんなボス部屋で召喚されるなんて露程も思うわけないじゃん! てかさ――!


「卑怯じゃん! ズルじゃん!」


数増やすなんて聞いてない! そしてみんなが嫌いな魔物ばっか召喚してくるのは酷くない!? せめて……――。


「仲間を呼ぶ、とかならまだしも!」


「おー? 良いの?」

「良いんですね~!!」


……え。 え? ……なんか私、すっごく余計なこと言っちゃった気が……!


「っ……! また召喚術式を……!!」


アテナさんが……! こ、今度こそ止めなきゃ……駄目だ、囲まれちゃってる! 絶対ヤバ……――!


「「じゃじゃじゃじゃー~んっ! ミミックは なかまを よんだ!」」


「「「「「「「「「「シャアアアッッ!!!!」」」」」」」」」」


ひっ!? た、沢山の……!



「「「「ミミックッ!!?」」」」









宝箱型ミミックから触手ミミック、蜂とかの群体型ミミックまで!? わんさかと現れて、他の召喚魔物達と合わさってこっちに!!


「く……くぅっ…!」
「あ…うぅっ……!」
「はうぅ…………!」


ひたすらにみんなで攻撃して、アイテムも使いまくって凌いでいるけど……トラウマ刺激されちゃって、勢いよく押し込まれちゃってる! このままじゃ物量差で蹂躙されちゃう! 何とかしなきゃ…――!


「……エイダさん、私以外に出来る限りの防御魔法をかけてください! それと蘇生魔法の準備も!」


「えっ…!? アテナさん、何をなさる気で……!?」


「奥の手を使います…!! 皆さん、合図をしたらガードしながら下がってください!」


アテナさん…!? 一体何を!? 奥の手って……!?


「――今です!」


っ! とりあえず合図に従い、後退……えっ!? アテナさん、代わるように前に跳び出して……!



「アラクネさん、ごめんなさいっ! ――我が身犠牲に全て滅ぼせ!『メガトン・デストラクション』!」



!! アテナさんの身体に……エネルギーが集まって……!?








  ――――キュイィンッ カッ!  ドッゴオッッッッッッ!!!!!








「きゃあっ…!?」
「くっ……!?」


なっ……なに!? 大爆発!? ううん、これってもしかして……! 


!?」


多分間違いない! アテナさんを中心に、とんでもない爆発が起きたんだもん! 爆風と爆炎が辺りを包み、床は広範囲に焦げて……! アテナさん、こんな技を覚えて……!


「――っ! 蘇生を行います! お二人は警戒を!」


ハッと気づいたエイダさんの号令のもと、私とクーコさんは周囲の状況確認を。でも……サキュバスもアラクネもスケルトンも、沢山のミミックも、影も形もない。ぜーんぶ消滅した!


凄い…! エイダさんの奥の手、凄い! 多分これなら、あのボスミミック達も……――!




 ―――パカッ!




「ちょっと見くびりすぎてたわねー!」

「ね~! 勇者パーティーは伊達じゃないね~!」


…………うそ……。爆発を回避した様子もないのに、普通に宝箱が残ってる……。そして、ミミック達も平気な顔を見せて……。


そんな……あれでも駄目なんて……。アテナさんが文字通り身を張ったのに、傷一つないなんて……。じゃあ、どうやったら倒せるの……――



「……ユーシア、隙を作れるか?」










へ……? 意気消沈しかけてると、クーコさんがそんなことを。何か策が……?


「やはりミミックは箱で全てを無効化してくる。ならば……私のあの技を、全身全霊でぶつける!」


――そうだ…! もうそれしかない! 私の魔物特効攻撃も、アテナさんの大爆発も、決まれば倒せるはずだった! 多分!


でもまだミミック達がピンピンしてるのは、それが全部ミミックの箱に防がれちゃったから! ならもう…できることはただひとつ!


クーコさんのあの技を……箱を貫通し中のミミックを直接叩き切る、『ボックス・ピアッシングカッター』を当てるしかない!


「わかった…! 囮になってでも隙を作る!」


「頼む…! アテナが復活次第、行動に移すぞ!」


互いに頷き合い、時間稼ぎの牽制で場を誤魔化す…! と、そうこうしてるうちに…!


「――けほっ…! けほっけほっ…! うっ…ボスまでは無理でしたか……」


「深呼吸を、アテナさん! こちらの魔力回復薬もお飲みください! …もうアイテムの数が……」


アテナさん復活! ……けどさっきまでの戦いの中で、持ってきたアイテムは大分消費しちゃってる。きっと、次が最後の挑戦になる……!


だから、だから――! 持ちうる全てをっ!!!!







「「アテナ(さん)! エイダ(さん)! 最大火力で援護を!」」


「「っ! はいっ!!」」


即応してくれた二人は、全力の詠唱! 魔力全てを使い――!


「『ブレイズシュート』!『サンダーストーム』!『アイスマイン』!『ロックレイン』!『チェインエクスプロード』――!」


「『セイント・アロー』!『グレイス・スリープ』!『ジャッジメント・クロス』!『ブレスド・パニッシュメント』――!」


撃てる限りの攻撃魔法を、次々とミミック達へ! ……やっぱ躱されちゃうけど、広範囲の飽和攻撃でミミック達の動きを今日いち制限できてる!


「いくぞ、ユーシア!」


「うんっ!」


間髪入れず、私達もその中に飛び込む! エイダさんの魔法のおかげで多少は食らっちゃっても大丈夫だし、残りの回復薬を全部飲み切る勢いで――!


「はあああッ!! 『クレセントエッジ』!!」 


「とりゃああッ!! 『ブレイヴスタースラッシュ』!!」


「「わわわわわー~っ!」」


押せてる! 確実に押し込めてる! あと少し、あと一手――!


「あっとっと~…っ!」


――! ミミック片方の退避が遅れてる! 絶好の…チャンスッ!


「今っ!」


「わっ!?」


床が砕けるんじゃないかってぐらい蹴り、肉薄! そして――!!


「『ブレイヴスター・ヒーローアタック』ッッ!!」


渾身の大技を放つっ! ――――くっ…‥!


「あっぶな~いっ!」


箱でガードされた!! ……でも、それでいい! それを待ってた! この技こそが、最後のための囮!! つまり――!


「貰った! 『ボックス・ピアッシングカッター』ッッッ!!!」






 ―――ザンッッッッッッッッッッ!!!!!!






「キャうンッ~……」








「「「「――っ!!!!」」」


聞こえた……! 今、聞こえた! クーコさんの技が綺麗に入った音と、ミミックの断末魔が! そして数秒前まで跳ね回ってた宝箱が、ゴトンッて床に落ちて沈黙する音も! 


「や……やった! やったあっ!!!」

「倒せたんですね……!」

「凄い……素晴らしいですっ!」


やったんだ…! 私達、やったんだ! ボスなミミックを倒しきったんだ!! 圧倒的なあのミミックを、恐ろしいあのミミックを、見事倒して――……!


「――まだだッ!」


っ! クーコさん! そうだった…! ミミックは二人いるんだ! まだ喜ぶには早い!


……けど、片方は倒したんだから、あとは楽にいけ……――。




「――『よみがーえーれー!』」




……へっ…? この声…残ってるほうのミミックの……。――!? 今倒したミミックの宝箱が、急に光り出して……!?


「そ、そ、そんな……!! そんなこと……っ!!」


え、エイダさん!? なんでそんな震え声に……まさかっ!?


「あれは……です!!」



 ―――パカッ!



「ふっか~つっ!!」








……そ…………そ…………そんな……! そんな……! そんなぁっ!? そんなあっ!!? 


「もう。駄目でしょ、わざと食らって死んじゃー」

「えへへ~。ごめ~ん!」


蘇生魔法をかけたミミックが、復活したミミックを叱ってる……って、わざと!? 嘘だよね……負け惜しみだよね…!!?


「だってあの騎士の人の技、気になっちゃって~!」

「わかるけどねー。ま、勇者の技は食らわなかったから良いか!」


うっ……! すっごく余裕そうに…! 私達、全力を尽くしたってのに……っ!! なんでそんな……! そんなっ!!!



うぅううぅっっ……!  ミミック、大大大ッ嫌い!!  ――って、またミミック達、こっちの気もしらないでニッコリ笑いあって……――。




「さ! そろそろ終わりにしましょーか!」


「ね~! そろそろ向こうも限界みたいだし!」


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