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閑話⑪

アストの奇妙な一日:アストのお家(で☆)騒動④

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「探しものはなんですか~♪ 見つけにくいものですか~♪」


「いや社長の箱でしょう…。 確かに見つけにくい状況ではありますが…」


歌うように口ずさむ社長に、思わずツッコむ。すると入っているぬいぐるみ…リビングアーマー型ぬいぐるみの首の穴からひょっこり顔を出したまま、ケラケラ笑ってきた。


「あら、じゃあ私と踊る?」


「なんでですか!?」








――えっと、そんな会話はともかく…。社長の宝箱探し、スタート。


……なんかちょっと、冒険者達みたい。いつも追い払っている彼らと似た行動をするなんて、妙な感じ。


ただ、状況は全く違う。目当ては宝箱の中身ではなく、宝箱そのものなのだから。



それに場所もダンジョンじゃなく、我がアスタロト家。まあ、入り組んでいる点は同じかも。流石にダンジョンほどじゃないけど。


そして私の装備も、よく冒険者が装備している鎧や剣、杖やローブとかではない。先程から着ている悪魔族ドレスと、リビングアーマーを模した大きめのぬいぐるみ。


勿論、襲ってくるミミックなんていない。たった一人、ぬいぐるみに入って楽しそうにしているミミック社長がいるだけである。




因みにこのぬいぐるみ、私が小さいころからずーっと持っている思い出の品。結構大きく、当時は両手で抱えるようにして家の至る所へと持ち歩き遊んでいた。


成長した今でも、片腕に抱えるようにして持った方が楽なサイズ。あとメイドたちがしっかり手入れしてくれていたおかげか、当時と変わらない柔らかな感触。


そしてリビングアーマー…『動く鎧』魔物を象っているため、首部分が蓋みたいに開き、胴体内部には空洞が設けられているのだ。社長はそこに収まっている訳で。



ふふっ…なんだか凄く懐かしい…! 子供の頃はここに色んな物を入れて、ポーチ代わりにしていた。お菓子とかお花とかお絵描きセットとかを詰め込んでいたのだ。


そして今は、社長を詰めて。流石ミミック、問題なくすっぽりであり。更に蓋代わりのぬいぐるみ頭部を閉じて、完全にぬいぐるみと化した。



…そういえば社長、さっき『一切れのパンとナイフとランプも詰めたいわね!』とか言っていたけど…なんだったんだろう。


流石に手元にそんな物はなかったので、代わりに私の魔導書や持ってきた残りのお土産お菓子とかを詰めたけども。








まあそれはともかく―。ダンジョンほどではないとはいえ、我が家は広い。せめて、どのメイドが宝箱を持っていったか分かればいいのだけど…。


「…社長、本当に箱を持っていったメイドの顔、見ていないんですか?」


「えぇ。どうせ探検するんだから、何も手がかり無く探したほうが楽しいかなーって!」


社長に聞いても、そんな回答が返ってくるばかり。やはり宝箱を落とすことで異音を立て、メイドを呼び寄せたらしいのだけど…。もう……。



…ただ、なーんか怪しい気がする。嘘ついている…というか、何か隠している感じ。 普段、社長が何かを企んでいる時の様子に若干似ているから。


まあ話す気はなさそうだし、今はそれでいいかも。我が家を色々と探検紹介して、それでみつからなかったら改めて、で。 多分何か策はあるのだろうし。



んー…。とはいえ、本当に目星無しでは面倒である。とりあえずメイドの誰かを捕まえ、聞いてみるとしよ…―。



「おや、お嬢様。 ぬいぐるみをお持ちになって、どちらへ赴かれるのですか?」


「あ、ネヴィリー!」







丁度出会ったのは、メイドのネヴィリー。先程振りである。ナイスタイミング、早速…!


「ネヴィリー、聞きたいことがあるのだけど。宝ば……―。 ……あっ…」


そこまで口にし、ハタと思いとどまる。彼女に話しちゃいけない気がする…!!



違う、ネヴィリーのお叱りが怖いのではない…! のだ…! だって…。


「宝ば…? もしや、宝箱にございましょうか? 先程お嬢様から頂きました…―」


「う、ううん! それではなくて、えっと…その……!」


私の言葉から推測し、そう口にするネヴィリー。 そして私はあわあわ。



……ここで、箱の柄とかを伝えて聞けば、もしかしたらヒントが得られるかもしれない。けど、それはしてはいけない…!


だって、ネヴィリーと社長、顔を合わせたことがあるんだもの…! この場合は、ネヴィリーと社長の箱、だけども…。


ネヴィリー、記憶力良いし…箱の模様とか覚えている気がするのだ。 特にあの時はずっと宝箱を持った私と暫く一緒に居て色々したし、箱の中から登場した社長とかに気を失いもしたので、忘れられる出来事ではないはず。


下手に説明して、勘づかれてしまったら一巻の終わり…! 当然、『前に顔を合わせた社長の箱と同じ』とかも言えるわけがない…!!




ならそれを逆手にとって、敢えて社長の存在を明かす……。 ――いや、それは危険すぎる!


あの時は社長が謎の耳打ちをして、全てを納得したような顔で帰っていった。が、それは市場だったから。アスタロト家に社長を連れ込んだとなれば、どうなることか…!


怒涛の説教を食らうだけではない。両親たちに連絡が行ってしまえば……『元居たところに帰してきなさい』なんて、小動物を拾って来た時の反応で済むわけがない!


そう―。私が一番嫌な結末、『ミミック派遣会社を辞めさせられる』ということにもなりかねないのだ!!





「お嬢様…?」


まごつく私を、首を傾げるように見てくるネヴィリー…。眼鏡の奥の瞳は、訝しむというより心配する感じ…。


あの怖い、お叱りスイッチの入った時の瞳じゃなくて良かったが…変なことを口にした瞬間変化しそう…!


どうすれば…! なんて聞けば……! そうだ!



「えっとネヴィリー。私がお父様方へ挨拶をしに行っている間に、誰か私の部屋に入りませんでしたか?」


「――。 ……? いえ、存じ上げませんが…。 もしや、その者が何か不始末を…!」


「いいえ! 違いますから! そう言う事じゃないですから!!」


この間みたいに早とちりしかける彼女を慌てて止める。…ということは、ネヴィリーではないのは確定か。


なら次は、どう聞くべきか…。うーん…ううーん……。





「お嬢様。何かお困りごとであれば、このネヴィリーになんなりと。 差し当たり、お部屋に踏み込みましたメイド探しは引き受けさせていただきます」


「うん…ありがとう…。 ……あのね、ネヴィリー。私、もう一つ宝箱を持ってきていて……それがね…」


「盗み出された、と…!? なんという不届き者でしょうか! 見つけ次第仕置きを…!!」


「だからそうじゃなくて…。 自由に持ち出しできるようにしていたというか……。えーと……」


やっぱり説明に困り、口ごもってしまう…。変に説明失敗して、事が大きくなってしまえば何の意味もない。



……こうなったら致し方ない。社長の箱だというのは明かし、その上で秘密にして貰うしかない。便利だから借りてきたとか、寂しいから借りてきたとか、適当に言い訳をして……!


もうそれしかない…! ネヴィリーならば口も堅いし、信頼できる。そうと決まれば…!


「あの、ネヴィリー…! 実は……―」


 パカッ!

「お久しぶりです、ネヴィリーさん!」









……へ!? なぜ、えっ、どうして、えええぇっ!? ええええええっ!?!?


本日三回目の、大仰天…!! なんで社長、ぬいぐるみから顔を出しちゃったの!? いや本当なんで!?!?


折角私が頑張って誤魔化し続けていたのが台無し!! …って、マズい…!ネヴィリーは…!!



「―――――――ッッッ…!!!!!」


ああ…!! 眼鏡を凌ぐぐらいに目を大きく見開いて…!! 口をパクパクさせて……!!


そのまま震えるように手を動かして…!! メイド服の裾を摘まんで……!!



「―――こちらこそ、お久しゅうございます。ミミン様」



わあ…。見事に挨拶を返した……。 流石ネヴィリー……。











「……なるほど、そういうことでございましたか」


「そうなんですよ! ごめんなさい、メイドの皆さんに迷惑をおかけしてしまって…」


結局、社長の口から全てを詳らかに。さしものネヴィリーも、私の上司&(一応)来客である社長には雷を落とす気はなさそう。


多分、社長が少女の体つきだというのも関係してそうだが…。…いや、あんまり関係ないかも。だって私が社長ぐらいの身長だった時も、ネヴィリーは怒るべきところは怒ってくれたから。



「事情は承知いたしました。わたくしも各使用人達にそれとなく当たってみましょう」


「できればわかっても、暫くは秘密にしといてください! アストとの探検を楽しみたいので!」


「ふふっ。 えぇ、畏まりました」


……って社長、変なお願いしてるし…。ネヴィリーも笑いながら承諾したし…。


まあ、折角社長が我が家に来てくれたのだ。色々案内したいのは確か。リミットは恐らく食事時までだが、まだかなり時間はある。


では、改めて宝箱探しを開始。――っと、その前に…。


「ネヴィリー、社長の宝箱を誰が受け取って、それがどこに運ばれたか、目星がつきませんか?」


一番初めに聞こうとした質問をネヴィリーにぶつける。すると彼女は少し思い当たる節を探るように考え……―。


「…申し訳ございません、お嬢様。これと言った見当は……」


そう頭を下げ謝罪を。まあその分社長との探検が楽しめるし、問題は全くない。 なら、手近なところから探ってみることに…―



「ですが、敢えて申し上げるとなれば…。可能性としては、使用人全員が挙げられましょう」







…へ? そりゃ、現状はそうかもしれないけど…。 ネヴィリーのこの言い方、裏があるのは間違いない。


「どういうことですか?」


「実は今、私共使用人の間で流行りとなっているものがございまして…。 少々、ご説明にお時間を頂いても宜しいでしょうか」


私の問いに、ネヴィリーはそう伺いを。勿論と頷くと、彼女は一礼をし話始めた。


「以前お嬢様から頂きました、『魔法の宝箱』。とても素晴らしいお品物でございますので、共用品とさせて頂いているのです。 今でも使用予約が一週間以上埋まることもあるほどで」


「えっ! 貴女の手紙で人気だとは聞いていましたが…そこまでだったなんて! もう一つ持ってきて良かった…!」


思わず嬉しくなってしまう…! するとネヴィリーは微笑み、その件について再度礼を述べ、こう続けた。


「頂いてから少し後のことになります。その宝箱があまりにも便利なため、私共使用人が『是非各部署に導入を』とご主人様に切願させて頂いたのですよ」





「そうだったんですか!?」


まさかの展開にびっくり…! ネヴィリーはコクリと頷いた。


「はい。そしてご主人様は快諾なさってくださいました。私共はこぞって市場に赴き、魔法の宝箱以外の様々な『箱』も買い付けさせて頂いたのでございます」


うわあ……。良かった、鉢合わせなくて……!! 本当良かった……!!! 私がネヴィリーの二の舞を回避できたことにそう安堵していると…。



「しかしながら中々に値が張り、販売数が少ないこともありまして…。未だ充分に行き渡っていないのです。 ですので先程お嬢様が更におひとつ賜ってくださりました際は、思わず心が浮き立ってしまいました!」


彼女は上機嫌に感謝の意を。そこまで喜んでもらえると、持ってきた甲斐があるというもの!



…そして、販売数が少ないのは仕方ない。だってあれ、ラティッカさん達の暇潰しなのだから。


更に言えばラティッカさん達って、仮に貴族からの依頼が来ても気が乗らない限り断る性格。どんな大金を積まれたって、気が向かなければ無視しそう。


あぁご安心を。社長や私、ミミック達の頼みやお願いは即座に聞いてくれるので。






「――ということでございまして、ミミン様が仰る通りに『自由にどうぞ』表示があったのであれば、誰であれ喜んで頂戴した可能性があるのでございます」


「そういうこと、ね…。 社長のせいですよ? 変なことしたから、メイドの気持ちを弄ぶような結果になっているんです」


「ごめんなさーい! 会社に帰ったらすぐに、その人が欲しがる箱を用意させてもらうから!」


リビングアーマーぬいぐるみに収まったまま、てへっと謝る社長。 そしてネヴィリーに聞いた。


「ということはネヴィリーさん。その各部署とやらに向かえば…?」


「えぇ、もしかしたら見つかるかもしれません」


「だってアスト! そうと決まればレッツゴー!」


ぬいぐるみの腕を器用に動かし、社長は意気揚々と冒険開始の宣言を。


それなら我が家の紹介も出来るし、実に好都合。 それでは、出発といこう!


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