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顧客リスト№56 『マミーのピラミッドダンジョン』

人間側 とある盗賊の墓荒

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ヒャハハハハハ! 来てやったぜぇ『ピラミッドダンジョン』! 噂のお宝、根こそぎかっさらってやる!


なにせオレ達4人のジョブは『盗賊バンデッド』! 墓泥棒なんて容易いことだからよォ!






おっと、自己紹介が遅れちまったか! オレ達は見た通り、凄腕揃いの冒険者パーティ。特にオレなんかは『賞金稼ぎの王』として名を轟かせてもいるんだぜ。……元だがな。



そんなオレ達が今回来たのは、砂漠のど真ん中にあるピラミッドダンジョンっつー場所。マミーが支配するダンジョンで、中はピラミッドらしく面倒な罠まみれらしい。


だが、それを切り抜け最奥にたどり着き、待っているラスボスをブッ飛ばせば―。レアな宝がたっぷり貰えるらしい。


中には、プレミア価格な召喚用カードパピルスとかもあるみてえだ。良い稼ぎになりそうだぜ。



ククク…! さぁ覚悟しな、ピラミッドダンジョン!そしてマミー共!!












「く…くそっ…!! なぜだ…!なぜこんなダンジョンに…俺達が…!!」


意気揚々とピラミッドに入り、挑戦を始めたは良いが…。罠多すぎんだろ…! 酷いトコにゃあ数歩進むごとにひとつぐらいのペースであるじゃねえか…!


しかもどれもこれもが、即死級の代物…! 飛んでくる矢には毒が塗ってあるし、落ちてくる岩天井の速度は速えし、乱入してくるマミー共は強えし…!


……なぜか、このピラミッドに入ってから疲れがすぐ癒されるのは有難いが…。 なんだ?このピラミッドには変なパワーでも宿ってんのか?






てか、既に仲間1人やられちまってんだ…! しかも…やけに変な罠に…!



どういうのかというとよ…。起動しちまったら背後に、なんかよくわからない、白い布を被ったちびっこいのが複数現れて…襲って来やがったんだ!


前、どっかで聞いたことがあったんだ。『メジェド』とかいうみょうちきりんなカミサマのこと。それと見た目が一緒だから、てっきりそれかとビビっちまった…。



…実際のとこ、その白布はメジェドとかじゃあなかった。 まあ、カミサマがそう簡単に出てくるわけねえしな。当たり前か。



……だがよ、その正体は…。オレ達冒険者にとって、もっと恐ろしいヤツだった…! ……布の中身、宝箱だったんだよ!



わかんだろ!!?襲い掛かってくる宝箱なんて、『ミミック』しかいねえ!! 




なんで白布を被ってたかはわからねえけど、そいつらが牙をガキンガキンならして襲い掛かってきやがったんだ!


そこがおかしいってんだ! ミミックってのはそのものが罠みたいなものなのに、なんで罠のスイッチ押したら出てくるんだよ! せめて最初から待機しとけや!



勿論そんなツッコミをする余裕なんてあるわけなく、正体を悟った瞬間、オレ達はわき目もふらずに走りだしたさ!


こんな罠まみれで先に進むしかない一本道で、ミミックに追いかけられるなんて悪夢以外の何物でもねえ! ひたすらに逃げるしかなかった!



……だが結局、1人が逃げきれず食われたわけでよ…。ミミック共もそれで満足したみてえで、気づけば消えていたってわけだ。




できればやられた仲間は、他の2人のようにラスボス戦での囮としてとっておきたかったが…。ミミックから逃れられたんだから良しとしよう。


これ以上俺の盾役を減らさないためにも、罠を今まで以上に避け――――。



 カチッ









……罠のスイッチっぽいの踏んじまった。やべえ…。 外に放り出される落とし穴とかじゃないことを祈るしか…。




 ゴゴゴゴゴ…――




な、なんだあ? 正面の道にせり出てきたのは……棺桶?



しかも、ミイラとか入れる、人型のヤツだ。 っと…!閉じていた蓋がゆっくり開いていく…!


ということは、中に入ってるのは……。


「バアッッ!!」


……へっ! やっぱりマミーじゃねえか!






何を今更、たった一体のマミー如き!こちとらさっきマミー集団に襲われて、上手く逃げられてるんだ!


しかもこのマミー、上半身を伸ばしてこっちを掴もうとしてくるが、一向に棺桶の中からでてくる気配はねえ。 へっ、俺達に恐れをなして、足が震えてんのか?



これなら戦う必要すらねえ。無視して先に進むと……お?



へぇ…。よく見ると、このマミーが巻いている包帯…解けかけてんじゃねえか。まるで引っ張ってくださいと言わんばかりに、包帯の端っこがはみ出してやがる。


『マミーの魔包帯』は、中々に良い値がつくことは知っている。さっきのマミーの大群相手からは無理だったが…こいつからなら!




オレは仲間二人と目配せをし、即座に動く。ハッ!鈍い鈍い! ほ~ら簡単に包帯の端を…掴んだ!


あとは…そぅら! ひっぱって解いてやる! ヒャハハ! マミーのヤツ、棺桶の中でしどろもどろに回転させられてやがる!


お! おいおい、どうやら女マミーだったみてえだぜ。 丁度いい、どんな面か拝んでやる!



そらそら! もうちょっとで全部剥ぎ取れちまう……ぜ…………へ?



「ばあっっ!!」


…包帯を解いた中から現れたのは…。マミーじゃねえぞ…? どこかで見覚えがある魔物…。


そいつは俺達を嘲笑うように軽く脅してくると…手を幾本もの触手に…!!!?


ってこいつは!?!?


「「「上位ミミック!!」」」


「あったり~! 見事トラップに引っかかったわね!」










「「「ひいいいいっ!!!」」」


「待て待て~! 逃げずにトラップの効果受けなさ~い!」


必死に逃げる俺達…!!棺桶を滑走させ追ってくる上位ミミック…!!! 棺桶を宝箱代わりってアリかよ!?


てか、人型の棺桶がこっちに勢いよく迫ってくるの、超怖え! 頭部の方向から走って来てるから、ヘッドバッドが地を這って飛んできてるみたいだしよ!


くそったれ…! かくなる上は…!


「お前、生贄になれ!」

「へっ!? ちょ…兄貴!? うわああっ!!」


仲間の1人を捕まえ、追ってくるミミックへと蹴り飛ばす。 すると上位ミミックもそいつを仕留めるために止まった…! 作戦成功ってな!


「まあ酷い! ダンジョン挑戦者としてのマインドを失ってるわね~」


背後から上位ミミックのそんな声が聞こえてくるが…。知った事か! 逃げろ逃げろ!













「ふぅ…。 ひとまずなんとかなったか…」


ひたすらに逃げていたら、上位ミミックも追ってこなくなった。仲間一人を墓地…じゃねえ、復活魔法陣送りにした甲斐はあったか。


さてしかし…。まさかミミック登場二回目とは…。おかげで囮…いや仲間が残り1人になっちまった。


今度こそ、真剣に行かなきゃな。この先は罠を一つも起動させないで最奥まで…――――。




 ガコンッ








…………やめろ…。オレをそんな顔でみるんじゃねえ…。やめろ……。


……ああそうだよ! また罠のスイッチ踏んじまったよ! トラップにハマったよ! 悪いか!



チッ…! いいぜ…どんな罠でも来やがれ…! 最悪、残り1人の仲間を捧げて…!




 ズズズズズ…――




…少し先の岩壁が開きやがった。出てくるのは魔獣かマミーか、ミミックか…どれだ!?




 ズズ…ズリ…ズズ…



…なんだ? またマミーが一体だけじゃねえか…。いやさっきのはミミックだったんだがよ…。


こいつは普通に二本足で歩いているマミーだ。……だが…やけに弱っているような…。身体を引きずってるって感じだ。


罠役として酷使されてるとかか? ハッ!だったらご愁傷様だぜ! 



んでやっぱりこいつだけだし、戦う必要もない。さっさと脇をすり抜けて……あ。



……こいつも……包帯が解けかけている…。 マミーの魔包帯…。金……。







いや待て待て待て! さっきのことを思い出せ! 同じことをして、上位ミミックだったんだ!


…でも、こいつは箱に入ってねえし…。上位ミミックが化けた女マミーとかでもなさそうだ…。ふらふらしているけど、人のように歩行している…。


……こちとら、二人やられている。復活魔法の代金も、結構値が張るんだ。 ラスボスに勝てなかったとしても、ミイラみたいにされて無事に脱出できるとは聞くし……。


ここで更に魔包帯を手に入れられれば、だいぶ楽になる。 よぅし…!剥ぎ取ってやる!






消極的な最後の仲間一人のケツを蹴りあげ、そのふらふらマミーを包囲。隙を窺い…今だ!


「貰った! ……あ?」


……確かに、包帯の端は掴んだ。そして、引っ張った。


勿論、マミーの包帯は解け…。中の本体が……。




 グジュル……




ヒッ…!? な、内臓が…!?腸みてえな細長いものがはみ出して…!?!? ぐ…グロ……




――いや違う!! あれは…触手!! しかも大量の…!! 人型の包帯の中に、のか!?!?



危ねえ…良い子が視聴する、カードバトル番組とかがやってる時間帯には絶対に放送できねえスプラッタな絵面かと……。


いや、充分ヤベえ見た目だから、モザイクなり黒塗りなりで消されそうではあるんだが…。




……ってか、この触手共も、何処かでみたことある気が…――。


「ぐええっ……あ…兄貴ぃ……!」






――なっ…!? 聞こえてきたのは…オレの仲間の断末魔…! ハッと見ると…マミーもどきの中から伸びた触手に…縊られていやがる……!?


ッ! そうか…思い出した…! この触手は、『触手型ミミック』じゃねえか! ―いやおかしいだろ!



さっきの上位ミミックの、棺桶はわかる…。箱だしよ。 けど、このマミーもどきは意味わからねえ!


あれか!? 包帯で『包まれている容れ物』だからか!?死体を入れる容器ってか!? いや流石に反則だろうが!!



って、うおっ…! そんなツッコミ入れてる場合じゃねえ! 触手がこっちに伸びてきやがった!


最後の仲間までやられちまった今、戦う理由なんてねえ! 振り払って逃げるぜ! おおおおっ!!













ハァ…ハァ…ハァ…。なんとか…辿り着いたぜ…。最奥に……。


てかよ…今更だけどよ…。 現れるミミック共、どいつもこいつも他ダンジョンよりやけに生き生きしてねえか…? 


オレ達がピラミッドの謎パワーで回復できるみてえに、ミミック達にも何か変な効果あんのかもな…。まあ今更どうでも良いが…。



で、この扉を開けて中に入れば、ラスボスとの戦闘だが……囮役の三人、全員いなくなっちまった…。一対一の決闘ってか…。



なら、どんな汚い手段使ってでもボコして、お宝をせしめてやる! 今まで引っかかってきた分、相手を罠にハメてやる!


仮に負けても、殺されることは無いとは聞いている。『オレ様、死す』とかにはならねえってな。


見てろ…! ミミックはともかく、マミーの親玉なんかオレの相手にならねえってとこ、見せてやる!


無駄に長生きしてるだけのミイラ風情は、地獄に送ってやるぜ!! いざ…決闘デュエル!!
















 ドシャッ 

「もごぉ……!」


もごごごむごご…むぐぐ…! ぶはっ…!! く…クソがぁ!ミイラ取りがミイラにされちまった…!


身動きとれねえ…!! んで外に放り出されてるから熱っちい! 急いで解かなきゃ、オレまでカッピカピに干からびたミイラになっちまう!



…チクショウ…! あのマミーの親玉…王様?のヤロウ…とんでもなく強かった…! オレの行動を全て先読みしたかのような動きしやがって…!!


結果、ボロ負けだぜ…。 予想通り『オレ様、死す!』という展開にはならなかったけどよ…。


戦果はさっきミミックから巻き取ったのと、今オレの身体に巻き付いている『マミーの魔包帯』のみ…。仲間三人失った成果としては、ゴミのような代物…。


一時期は賞金稼ぎの王…賞金王と呼ばれたオレ様がこんな屈辱…。絶対許さねえ…!


リベンジしてやる!マミー共に『ひょ?』とでも言わせてやる! 次の機会じゃねえ…! 今すぐにだ!!








巻かれた魔包帯を引きちぎり、オレは一目散にピラミッドダンジョンの中に。そしてさっきと同じ道を選んで進む。



もう一度、ラスボスのヤロウに挑むのかって? 冗談! 勝てるわけねえだろあんな化け物に!


じゃあなんでまた挑んでるかって? それはな…攻略中にを見つけたからだ。


確かここら辺に…。あったあった! ククク…! 雑魚冒険者共の目は隠せても、百戦錬磨のオレの目は誤魔化せないぜェ!



なあ! 『隠し通路』ちゃんよォ!







オレのジョブを忘れてもらっちゃあ困る。『盗賊バンデッド』だぜ。今まで幾つのダンジョンに潜り、似たような代物を見つけて来たか。


こういったとこにはたまーにあるんだ。岩や煉瓦とかで隠された、魔物専用の道ってのが!

特にこのダンジョンは、罠まみれ。そういうギミックは幾らでも仕込めるだろうよ。



さて、この岩をほじくって…おりゃ!そりゃ!どりゃあ! ヘッ!予想通り、取り外せたぜぇ…!


そして…ビンゴ! 匂う匂う!奥の方から違う風を感じるじゃねえか! それじゃあ、ちょっくら荒らすとしようか!











狭い通路に身体を滑り込ませ、どんどん奥へ。 水や植物の匂いも漂って来た。これは期待できそうだぜ!


お、そうこうしているうちに出口が見えてきたな。 さぁて、何があるか……な……。



……は…? なんだぁ…これ……?





隠し通路から出た先に聳えていたのは…人何人分かはある、大きな砂石像。 いや、この形は確か…。


そうだ、『スフィンクス』だ。ピラミッドといえばなヤツ。 しかし、何故ここに…?




「そこなる闖入者よ。 我が問いに答えよ。 さすれば、この場は見逃そう――。」



…なっ!? 石像が…スフィンクスが喋っただと!?  うおおっ…! しかも震えだして…!



「既に汝は、我とその仲間に包囲されている。正しき答えを導かぬ限り、命無いものと思え――。」



ッハ!? しゅ…周囲を…!あの白布被ったメジェドもどきミミック共が…取り囲んでやがる…!いつの間に…!?


やられた、オレとしたことが…!浮かれちまってた…! こうなったら、素直に従うしか…!


オレがそう覚悟を決めると、スフィンクスのヤロウは悠然と問いかけを…―。



「では、問おう。 次の存在は如何なるものか。 『朝は四本脚、昼は二本脚、夜は二本脚』――」






「っ…! く…ククク…! その答えは単純だ! 『人間』だろ!」



やった…!どうやらツキは俺に味方した! そのなぞなぞの答えは、今叫んだ通り『人間』だ!


朝昼夜を人生の流れに見立て…朝は生まれたてのハイハイ赤ちゃん、昼はオレのような二本足、そして夜は老人の杖付き歩きってな!


スフィンクスの問いかけのなかじゃあ、最もオーソドックスなヤツだぜ! ホラさっさと負けを認めて、谷や崖から身を投げ…――。



「――『でもあり、五本脚でも六本脚でも七本脚にもなり、しかしながら基本はその脚を使わず移動するのは?』」








――…は? …は?? はぁ??? はああ!??? 


なんだそりゃ!? 聞いたこと無えぞ!? 間違いなく答えは『人間』ではねえし!


「ふむ…。汝の回答は『人間』か。 不正解だ。 最後まで聞いてから答えるべきであったな――。」


笑うスフィンクス…。いや最後まで聞いてもわかんねえよ…! なんだそりゃあ…!


「答えが知りたいという顔をしているな? ならば、処する前に教えてやろう。正しき答えは――…」


と、スフィンクスはそこで言葉を溜め出し…。…ん?ん!? 顔が、ガコンと開いた!? で、そこから現れたのは…!


「『ミミック』でーす!」


なああ!?!? また上位ミミックだとォ!?!?








「残念でした! それじゃ、雑魚は消えなさ~い!ってね!」


スフィンクスから顔を出した上位ミミックの号令に従い、周囲の白布被り宝箱ミミックは輪を縮めてくる…! もうオレが取れる手段は…。


「ま、待て! 待ちやがれ! その答えはおかしいだろ!」


さっきのなぞなぞに物言いすることだけ。すると、どうやら言い分を聞いてくれるらしい…。じゃあとりあえず…。


「お前のような上位ミミックや触手ミミックとかはまだしも…宝箱ミミックは無理だろ! 脚になるもの存在しねえじゃねえか!」


周囲を指さしながら、思っていたことをぶちまける。 それを聞いた上位ミミックはにししと笑い…。


「やって見せて!」


と、宝箱ミミック数体に合図。 やって見せてって……なっ!?



き…牙で…!舌で…!曲芸するかのように…! 接地させる牙の本数、一本から調整可能なのかよ…!



「…いやズルくねえか!? 足じゃねえぞ!?」


「『脚』って言ったんでーす! 『支え』って意味もあるから間違ってないでーす! 私の勝ちデース!」


駄目だ…。何言っても聞く気ねえ…。 というか仮に正解してても、問答無用で襲ってきてそうだなこれ…。



仕方ねえ…。もう諦めて死ぬしか……。





…なーんてな! オレは往生際が悪くてな! ミミックに曲芸立ちをさせたのが運の尽きだぜ!


その隙を突いて、この輪から脱出してやる! そぅらぁ!



「あっ! そっちは…!」


ヒャハハ! 上位ミミックの焦る声が聞こえるぜ! もう遅い! 


このままどっかに逃げ…ぐへえっ!?





何かに躓いて、その場にひっくり返っ…! な、何だ…!? …白布?


ヘッ…! ということは宝箱ミミックか! 一体ぐらいなら何とかして…!


「あーあー…よりにもよって…。その御方を怒らせて……」


…あ? あの上位ミミックのヤロウ、何言ってるんだ? ……うん?




……この白布ミミック…。ような…。 でも宝箱ミミックは、さっき見たように牙とかで立つはずだし…。


え、じゃあこれは…??? 困惑していると、またも上位ミミックの声が…。



「お手間を取らせてしまい申し訳ありませんが…。その者の処罰、お願いいたしますね。『神様』」



…え゛。 ということはこれ…本物の…メジェ…―。 




ア゛ッ…ガフッ……――。


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