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顧客リスト№33 『化け狸の古屋敷ダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌
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時は夜。とある地方にある、森の中の古く巨大なお屋敷。一面に草が這い、苔むすそこは今にも壊れそう。というか明らかに幾か所か崩れ落ちてる。
されど、侮るなかれ。中に入れば、まるで殿様の豪勢なお屋敷。かと思えば外面通りのボロボロであったり、そもそも大木が生えた野外であったり。
化かされたように感じるだろう。安心してほしい、実際化かされている。聞くところによると、数世代かけて作り上げられた幻術の類らしい。空間魔法と似て非なるものか。
さてさて、ではそんな『古屋敷ダンジョン』に棲んでいるのは…。
「「「月がぁ~♪出たで~た♪ 月がぁ出た~ぁ、ポンッ♪」」」
まんまるな月の下、屋敷の広い中庭。中央に座る私と社長を囲んで踊るは、半纏を来たタヌキ達。月に負けないぐらいにお腹を丸く膨らませ、ポコポンと叩く。
彼らは『化け狸』。私達に歓迎の舞を見せてくれているのだ。この絵面、なんかお伽噺とかに出てきそう。
「ま、ま!もう一本どうぞッポン!」
と、持っているお猪口にお酒が注がれる。注いでくれたのは、そんな化け狸の1人。二本足で立ち、前足?で器用に徳利を傾けてくれる。
だけど、ちょっとやりにくそう。と、本人もそう思ったようで…。
「ちょいと失礼しますポン」
ゴソゴソと尻尾を漁ると、取り出されたのは一枚の葉っぱ。それを頭に乗っけた化け狸はムムムと唸り…。
「ん~~ポンッ!」
ボウン!
瞬間、白い煙がブワリ。それが晴れると、そこにいたのは1人の可愛らしい少女。
頭に葉っぱを乗せた、茶髪おかっぱのようなその子は着物を着ている。しかし、その上に纏っている半纏はお酌をしてくれていた狸のもの。いや、それよりも…
ピコピコ
と、丸い耳が頭の上で動いている。
フワンフワン
と、太い尻尾がお尻でゆらりゆらり。
勿論、両方とも狸。もはや言うまでもなく、人へと化けたのだ。
「ふー!上手く化けれたポン!」
自身の手や顔をぺたりぺたりと触り、ご満悦の彼女こそが今回の依頼主。化け狸の『マミ』さん。上手く化けれたと言っているなら、尻尾とか出ているのはわざと…
「…あれ? お尻が…尻尾がスースーするポン? あっ!」
そう私がそう思ってる間に、異常に気づいたマミさんは尻尾をキュッと掴む。そしてなんとか服の下に押し込めようと躍起になり始めた。気づいてなかったらしい。
まあ今は人を騙すわけでもなし。マミさんには耳も尻尾もそのままでいてもらうことに。見ていて可愛いので。
「よぉー!ポポン!」
と、彼女はお腹を軽く叩く。丁度踊り終わりらしく、周りのタヌキ達はそれを合図に私達の前へ勢ぞろい。モフモフ沢山…。
それを確認したマミさん、くるりとこちらを振り返った。
「それじゃ、ご説明させてもらうポン。ここには、よく冒険者が来るポン。私達も化け修行の練習台とさせて貰っているのポンけど…」
マミさんはそこで一旦言葉を区切る。そして、尻尾と耳をへなりと垂らした。
「人だったり妖怪だったり魔物だったりに化けた時は上手く驚かせられるポン。でも物に化けると、何故かすぐにばれちゃうポン…」
その言葉に合わせ、目の前のタヌキ達もおでこに手を当て残念がるポーズ。「なんでだろぉ…」「なんでかなぁ…」と声も。…悪いけど、凄く微笑ましい。
「そ・こ・でポン! 箱に化けるのが得意なミミックの皆さんに教えを乞いたいんだポン!」
と、マミさんは声を張り、またまたお腹をポンと叩く。なるほど、事情はわかった。
最もミミックは箱に化けるんじゃなく、箱に潜んでいるだけではあるが…力にはなれるはず。
社長も同じ考えのようで、にっこり微笑み胸を…じゃなくお腹をポン!と叩いた。真似しなくても…可愛いから良いか。
「承知いたしました!因みに、どんな感じかを確認したいので、なにか手ごろなものに化けて頂いても?」
「ぽんぽーん! おまかせあれー!」
そう鳴くと、マミさんは手前の狸の子達に指示を送る。すると、その全員が毛の奥から葉っぱを取り出し、頭に乗せ…
「「「ポンッ!!」」」
ボゥン!
煙と共に化ける音。そして、煙が晴れた先にいたのは…。
「……あー…」
「…そういうことねぇ…」
思わず、社長共々苦笑いを浮かべてしまう。確かに、色々なものに化けられている。宝箱に戸棚、花瓶に置き物、銅像に茶釜…そのレパートリーは流石の一言。
…だけど、全部が全部、何かがポロリ。宝箱には尻尾が生え、戸棚には耳や手足。花瓶や置物を包んでいるのはタヌキの髭や体毛。ふわふわな花瓶っていかがなものか。
銅像に至っては、考える人ならぬ考える狸。椅子に腰かけ悩む素振りの狸そのものである。…あれ?あの子寝息立てて…確かに寝てそうなポーズだけど…! これがほんとの狸寝入り?
…そして、その全ての頭の上に葉っぱが乗っかっているのは一旦置いといて…これでは確かに駄目である。
能動的に仕掛ける『化け物変化』は多少雑でも、冒険者は隙を突かれ驚き慌てるだろう。だが、受動的、またはただ隠れるだけな『物への変化』はちょっと勝手が違う。
なにせ冒険者達も警戒する。となると、些細なことまで気づいてしまうのだ。勿論緊張状態の彼ら、そこまで理性的ではないにしろ…この変化の具合ならばバレるのも致し方なし。
加えて、全員普通にぷるぷる揺れているからかなり目立つ。…あと、ツッコまないでいたが、特にあの茶釜の子、手足どころか頭も尻尾も出て、亀みたいになっている。
だけどその顔は自慢げ。成功していると言わんばかり。駄目だこりゃ。
多分この様子だと、変な場所にいるのだろう。中庭で戸棚に化けたり、畳張りの広間のど真ん中で銅像に化けたりとか。
一応マミさんに聞いてみると…
「えっ! すごいっポン! なんでわかったポン!?」
うん。案の定。
「ならば、ミミックに加えて、幾つか箱や箪笥、その他諸々を貸し出しましょう! 我が社謹製の一品です。隠れ方だけではなく、化けるお手本にもしっかり使えますよ?」
「「「おぉー!!」」」
社長の提案に、タヌキ達は目を輝かせる。そして腹太鼓を鳴らし小躍りし始めた。
「やった!やった!やったポン!」
「師匠だ!師匠だ!ミミック師匠だポン!」
「沢山学ばせてもらうポン! 隠れ方、動き方…あと、物を沢山収納できる方法も教わるポン!」
ポポンがポンポン ポポポンポン。 面白い音とリズムを奏でるもので…。私が手拍子交じりに楽しんでいる間に、社長はマミさんと商談進行。
「因みに、お代金の方は何でお支払いで?」
「ポン! 採れたて山の幸、山の硬くしなやかな木々、私達の抜け毛や『化け葉っぱ』とかでどうポン?」
「アストー。…アスト?」
「ふぇっ!? あ、はい! えっと…」
社長に小突かれ、私は狸踊りに見惚れていた目を慌てて擦る。そして、マミさんが持ってきてくれた素材を鑑定。うん…!
「木々や抜け毛には魔力…妖気?が潤沢に含まれていますね。素材としては一級品ですし、お値段も良い感じです。山の幸は言わずもがな、美味しそうです」
「転移魔法陣はどう?」
「えぇ、それも問題ないと。この山自体にかなり魔力が流れています。問題なく設置できますので、食べ物が減る冬場でも、ミミック達は会社で食事を摂れますよ」
そう説明すると、マミさんは嬉しそうに腹鼓。良かった良かった。…ところで。
「この葉っぱ…『化け葉っぱ』でしたっけ? 量次第では正直これだけでも代金は充分なのですけど…」
もさりと積まれた葉っぱの一枚を拾い上げ、『鑑識眼』で見てみる。パッと見ただの木の葉なのに、中々なお値段が付けられている。
「それは私達『化け狸』の特製葉っぱポン! 普通の葉っぱを集めてムムムと念じると、変身用の『化け葉っぱ』に化けるんだポン!」
自慢げに胸…じゃないお腹を張るマミさん。今は人間の少女姿だから、お腹を張っても着物の帯が動くだけなのだけど…。
「すっごく極めた化け狸は葉っぱ無しでも化けられるポンけど、私達はこれがないと無理ポン。冒険者はこれを取りにダンジョンに来るポン」
そう説明をしてくれるマミさん。と、社長がピクッと反応した。
「ということは、狸以外も使えるんですか?」
「そうポン! 使ってみるポン?」
そう言われたら、試さないわけはない。使い方を簡単に教わり、社長も私も葉を頭に乗せ…せーのっ!
「「ぽんっ!!」」
ボウンッ!
モウモウと噴き出した煙が晴れて、恐る恐る自分の姿を確かめて見る。とりあえずタヌ耳とタヌ手になるよう念じたけど…
「やった…!タヌ手になってる!」
見事、成功。普段の指が、狸の爪に。頭を触ってみると、角の代わりに耳がピコピコ。…普段あるものが消えているというのも妙な気分。
すると、マミさんが思い出したかのようにポンと手を打った。
「あ、そうそう。言い忘れてたポン。狸以外がそれ使うと、必ず狸の尾が生えるポン!」
「えっ!」
慌てて確認してみると…あぁっ! 私の尻尾の横に、ふわふわ尻尾が…!!
わぁ…。両方とも自分の意志で動かせる…。すっごい違和感…。
そんな風に奇妙な感覚を楽しんでいると、横から社長の声が。
「私も化けるの成功したわ! 見て見てアスト!」
お。社長は一体、どん…な…変‥化…を…
「え…私…?」
そこにいたのは、私と同じ姿、スーツを着た私。…何言っているかわからないと思うが、だってそうなんだもの…。
「イエイ!」
と私らしからぬ決めポーズをとる彼女の尾は、魔族と狸の尻尾2本。頭には狸の耳はなく、角だけ。翼はちゃんとある。
ただ、2か所違うところが。一つは髪の色。社長と同じピンク色…。もう一つは、足元は靴ではなく、社長が入っていた宝箱…。
「えっ、社長ですか…?」
「ピンポーン!」
ケラケラと笑う私、もとい社長。ドッペルゲンガーってこんな気分なのだろか…。
「おー!浮ける浮ける!」
唖然としている私を余所に、社長は翼をはためかせ少し浮き上がる。でもしっかり足には宝箱。
楽しそう…私も社長に化ければ良かった。後で変化してみよう。角、翼、尻尾ありな悪魔族ミミック社長に。
「さてそれでは!契約が纏まったことを記念し腹太鼓一丁締めとしますっポン!」
マミさんがそう音頭を取ると、踊っていたタヌキ達も一斉にお腹を膨らませる。私達も変化したまま手を叩く準備を…
「「「いよぉ~っ ポンッッ!!」」」
「ぽんっ!」
「…社長、私の姿のままで腹太鼓鳴らさないでくださいよ…」
されど、侮るなかれ。中に入れば、まるで殿様の豪勢なお屋敷。かと思えば外面通りのボロボロであったり、そもそも大木が生えた野外であったり。
化かされたように感じるだろう。安心してほしい、実際化かされている。聞くところによると、数世代かけて作り上げられた幻術の類らしい。空間魔法と似て非なるものか。
さてさて、ではそんな『古屋敷ダンジョン』に棲んでいるのは…。
「「「月がぁ~♪出たで~た♪ 月がぁ出た~ぁ、ポンッ♪」」」
まんまるな月の下、屋敷の広い中庭。中央に座る私と社長を囲んで踊るは、半纏を来たタヌキ達。月に負けないぐらいにお腹を丸く膨らませ、ポコポンと叩く。
彼らは『化け狸』。私達に歓迎の舞を見せてくれているのだ。この絵面、なんかお伽噺とかに出てきそう。
「ま、ま!もう一本どうぞッポン!」
と、持っているお猪口にお酒が注がれる。注いでくれたのは、そんな化け狸の1人。二本足で立ち、前足?で器用に徳利を傾けてくれる。
だけど、ちょっとやりにくそう。と、本人もそう思ったようで…。
「ちょいと失礼しますポン」
ゴソゴソと尻尾を漁ると、取り出されたのは一枚の葉っぱ。それを頭に乗っけた化け狸はムムムと唸り…。
「ん~~ポンッ!」
ボウン!
瞬間、白い煙がブワリ。それが晴れると、そこにいたのは1人の可愛らしい少女。
頭に葉っぱを乗せた、茶髪おかっぱのようなその子は着物を着ている。しかし、その上に纏っている半纏はお酌をしてくれていた狸のもの。いや、それよりも…
ピコピコ
と、丸い耳が頭の上で動いている。
フワンフワン
と、太い尻尾がお尻でゆらりゆらり。
勿論、両方とも狸。もはや言うまでもなく、人へと化けたのだ。
「ふー!上手く化けれたポン!」
自身の手や顔をぺたりぺたりと触り、ご満悦の彼女こそが今回の依頼主。化け狸の『マミ』さん。上手く化けれたと言っているなら、尻尾とか出ているのはわざと…
「…あれ? お尻が…尻尾がスースーするポン? あっ!」
そう私がそう思ってる間に、異常に気づいたマミさんは尻尾をキュッと掴む。そしてなんとか服の下に押し込めようと躍起になり始めた。気づいてなかったらしい。
まあ今は人を騙すわけでもなし。マミさんには耳も尻尾もそのままでいてもらうことに。見ていて可愛いので。
「よぉー!ポポン!」
と、彼女はお腹を軽く叩く。丁度踊り終わりらしく、周りのタヌキ達はそれを合図に私達の前へ勢ぞろい。モフモフ沢山…。
それを確認したマミさん、くるりとこちらを振り返った。
「それじゃ、ご説明させてもらうポン。ここには、よく冒険者が来るポン。私達も化け修行の練習台とさせて貰っているのポンけど…」
マミさんはそこで一旦言葉を区切る。そして、尻尾と耳をへなりと垂らした。
「人だったり妖怪だったり魔物だったりに化けた時は上手く驚かせられるポン。でも物に化けると、何故かすぐにばれちゃうポン…」
その言葉に合わせ、目の前のタヌキ達もおでこに手を当て残念がるポーズ。「なんでだろぉ…」「なんでかなぁ…」と声も。…悪いけど、凄く微笑ましい。
「そ・こ・でポン! 箱に化けるのが得意なミミックの皆さんに教えを乞いたいんだポン!」
と、マミさんは声を張り、またまたお腹をポンと叩く。なるほど、事情はわかった。
最もミミックは箱に化けるんじゃなく、箱に潜んでいるだけではあるが…力にはなれるはず。
社長も同じ考えのようで、にっこり微笑み胸を…じゃなくお腹をポン!と叩いた。真似しなくても…可愛いから良いか。
「承知いたしました!因みに、どんな感じかを確認したいので、なにか手ごろなものに化けて頂いても?」
「ぽんぽーん! おまかせあれー!」
そう鳴くと、マミさんは手前の狸の子達に指示を送る。すると、その全員が毛の奥から葉っぱを取り出し、頭に乗せ…
「「「ポンッ!!」」」
ボゥン!
煙と共に化ける音。そして、煙が晴れた先にいたのは…。
「……あー…」
「…そういうことねぇ…」
思わず、社長共々苦笑いを浮かべてしまう。確かに、色々なものに化けられている。宝箱に戸棚、花瓶に置き物、銅像に茶釜…そのレパートリーは流石の一言。
…だけど、全部が全部、何かがポロリ。宝箱には尻尾が生え、戸棚には耳や手足。花瓶や置物を包んでいるのはタヌキの髭や体毛。ふわふわな花瓶っていかがなものか。
銅像に至っては、考える人ならぬ考える狸。椅子に腰かけ悩む素振りの狸そのものである。…あれ?あの子寝息立てて…確かに寝てそうなポーズだけど…! これがほんとの狸寝入り?
…そして、その全ての頭の上に葉っぱが乗っかっているのは一旦置いといて…これでは確かに駄目である。
能動的に仕掛ける『化け物変化』は多少雑でも、冒険者は隙を突かれ驚き慌てるだろう。だが、受動的、またはただ隠れるだけな『物への変化』はちょっと勝手が違う。
なにせ冒険者達も警戒する。となると、些細なことまで気づいてしまうのだ。勿論緊張状態の彼ら、そこまで理性的ではないにしろ…この変化の具合ならばバレるのも致し方なし。
加えて、全員普通にぷるぷる揺れているからかなり目立つ。…あと、ツッコまないでいたが、特にあの茶釜の子、手足どころか頭も尻尾も出て、亀みたいになっている。
だけどその顔は自慢げ。成功していると言わんばかり。駄目だこりゃ。
多分この様子だと、変な場所にいるのだろう。中庭で戸棚に化けたり、畳張りの広間のど真ん中で銅像に化けたりとか。
一応マミさんに聞いてみると…
「えっ! すごいっポン! なんでわかったポン!?」
うん。案の定。
「ならば、ミミックに加えて、幾つか箱や箪笥、その他諸々を貸し出しましょう! 我が社謹製の一品です。隠れ方だけではなく、化けるお手本にもしっかり使えますよ?」
「「「おぉー!!」」」
社長の提案に、タヌキ達は目を輝かせる。そして腹太鼓を鳴らし小躍りし始めた。
「やった!やった!やったポン!」
「師匠だ!師匠だ!ミミック師匠だポン!」
「沢山学ばせてもらうポン! 隠れ方、動き方…あと、物を沢山収納できる方法も教わるポン!」
ポポンがポンポン ポポポンポン。 面白い音とリズムを奏でるもので…。私が手拍子交じりに楽しんでいる間に、社長はマミさんと商談進行。
「因みに、お代金の方は何でお支払いで?」
「ポン! 採れたて山の幸、山の硬くしなやかな木々、私達の抜け毛や『化け葉っぱ』とかでどうポン?」
「アストー。…アスト?」
「ふぇっ!? あ、はい! えっと…」
社長に小突かれ、私は狸踊りに見惚れていた目を慌てて擦る。そして、マミさんが持ってきてくれた素材を鑑定。うん…!
「木々や抜け毛には魔力…妖気?が潤沢に含まれていますね。素材としては一級品ですし、お値段も良い感じです。山の幸は言わずもがな、美味しそうです」
「転移魔法陣はどう?」
「えぇ、それも問題ないと。この山自体にかなり魔力が流れています。問題なく設置できますので、食べ物が減る冬場でも、ミミック達は会社で食事を摂れますよ」
そう説明すると、マミさんは嬉しそうに腹鼓。良かった良かった。…ところで。
「この葉っぱ…『化け葉っぱ』でしたっけ? 量次第では正直これだけでも代金は充分なのですけど…」
もさりと積まれた葉っぱの一枚を拾い上げ、『鑑識眼』で見てみる。パッと見ただの木の葉なのに、中々なお値段が付けられている。
「それは私達『化け狸』の特製葉っぱポン! 普通の葉っぱを集めてムムムと念じると、変身用の『化け葉っぱ』に化けるんだポン!」
自慢げに胸…じゃないお腹を張るマミさん。今は人間の少女姿だから、お腹を張っても着物の帯が動くだけなのだけど…。
「すっごく極めた化け狸は葉っぱ無しでも化けられるポンけど、私達はこれがないと無理ポン。冒険者はこれを取りにダンジョンに来るポン」
そう説明をしてくれるマミさん。と、社長がピクッと反応した。
「ということは、狸以外も使えるんですか?」
「そうポン! 使ってみるポン?」
そう言われたら、試さないわけはない。使い方を簡単に教わり、社長も私も葉を頭に乗せ…せーのっ!
「「ぽんっ!!」」
ボウンッ!
モウモウと噴き出した煙が晴れて、恐る恐る自分の姿を確かめて見る。とりあえずタヌ耳とタヌ手になるよう念じたけど…
「やった…!タヌ手になってる!」
見事、成功。普段の指が、狸の爪に。頭を触ってみると、角の代わりに耳がピコピコ。…普段あるものが消えているというのも妙な気分。
すると、マミさんが思い出したかのようにポンと手を打った。
「あ、そうそう。言い忘れてたポン。狸以外がそれ使うと、必ず狸の尾が生えるポン!」
「えっ!」
慌てて確認してみると…あぁっ! 私の尻尾の横に、ふわふわ尻尾が…!!
わぁ…。両方とも自分の意志で動かせる…。すっごい違和感…。
そんな風に奇妙な感覚を楽しんでいると、横から社長の声が。
「私も化けるの成功したわ! 見て見てアスト!」
お。社長は一体、どん…な…変‥化…を…
「え…私…?」
そこにいたのは、私と同じ姿、スーツを着た私。…何言っているかわからないと思うが、だってそうなんだもの…。
「イエイ!」
と私らしからぬ決めポーズをとる彼女の尾は、魔族と狸の尻尾2本。頭には狸の耳はなく、角だけ。翼はちゃんとある。
ただ、2か所違うところが。一つは髪の色。社長と同じピンク色…。もう一つは、足元は靴ではなく、社長が入っていた宝箱…。
「えっ、社長ですか…?」
「ピンポーン!」
ケラケラと笑う私、もとい社長。ドッペルゲンガーってこんな気分なのだろか…。
「おー!浮ける浮ける!」
唖然としている私を余所に、社長は翼をはためかせ少し浮き上がる。でもしっかり足には宝箱。
楽しそう…私も社長に化ければ良かった。後で変化してみよう。角、翼、尻尾ありな悪魔族ミミック社長に。
「さてそれでは!契約が纏まったことを記念し腹太鼓一丁締めとしますっポン!」
マミさんがそう音頭を取ると、踊っていたタヌキ達も一斉にお腹を膨らませる。私達も変化したまま手を叩く準備を…
「「「いよぉ~っ ポンッッ!!」」」
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