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顧客リスト№31 『ゴーレムの基地ダンジョン』

魔物側 社長秘書アストの日誌

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ゴオン ゴオン

キュイイイイイ

ピピピピピピ…


至るところから聞こえてくるのは、駆動音や電子音。無機質的な壁からは、光が幾何学模様の線として輝いている。

また、別の場所ではコードやホースのような管が大量に詰まっており、ごちゃっとした様子も見受けられる。

こういうのを、『近未来的』というのだっけ。んー?なんか違う? あれ、この世界の近未来ってなんだろ…?

というかそもそも『世界観』が……ま、いいや。



本日もまた依頼でとあるダンジョンを訪問中である。しかしここ、今までお邪魔させてもらったダンジョンと比べると中々な異様を誇っている。


普通ダンジョンというのは、岩や木や、土や煉瓦を始めとした壁床天井。勿論野外やお城、蜂の巣だったりと例外も沢山ある。

だけど、ここ『基地ダンジョン』は違う。こう言うのもあれだけど…温かみが少ないというか…。


先程述べた通り、壁も床も天井も、鉄…なのかな?を使ったのっぺりとした感じで、そこから漏れ出る人工的な光が辺りを照らしている。そのおかげで明るいのだけど、どこか暗めの印象もあるっちゃある。

というか、窓がないのだ。時刻は真昼だっていうのに、どこからも日光が入ってきている様子はない。

そんな閉鎖的空間…いやダンジョンって基本閉鎖的か。 そんな近未来的な空間にいる魔物達だが、これまた変わっている。



ズゥン…ズゥン…

「おー、立派ねぇ」

感嘆の声をあげる社長。目の前を歩いていくのは、巨大な人型人形『ゴーレム』。肩も足も太く、角ばっており、金属を主体にして作られている様子。

その他にも、マネキンのようなゴーレムや、空をプロペラで浮遊しているゴーレム、犬型を始めとした四足歩行型も。

勿論、冒険者がよく見かける煉瓦製の大きいゴーレムもいる。ゴールデンなのも…。

ん? ゴールデン二種類いるような? 片方は金ぴか人型巨大ゴーレムだけど、もう片方は…あれはどちらかというとケンタウロス…? 金ぴかだけど、ドラゴンを模した下半身だし。




さて、彼らゴーレム…『ロボット』『オートマタ』とも言われる彼らは、大きく二種類に分けられる。

内一つは、人形のような存在。これは製作者の命令に従い、定められた行動をする。意志は無く、道具と同義である。私達が作って訓練に使っているのもこちら側で、冒険者達にも使い手はいる。

もう一つ、『自分の意志を持つ』存在がいる。お肉ではない、金属や木材、機械の身体を持った『魔物』である。そちらは通称『アンドロイド』とも呼ばれている。


…まあ別に、深く考える必要はない。ゴブリン族、エルフ族、悪魔族と同じように、『ゴーレム族』という不思議な魔物だと認識して貰えれば。

ゴーレム達だってお肉な私達を不思議な存在だと思っているらしいし、お互い様なのであろう。


というか、ゴーレム達よりもっと不思議な魔物ミミックが私に抱えられているんだから、なにを今更…。






話は変わるが、普段こういったダンジョン訪問の際は私と社長がセットで行く。逆に言えば、それ以外の付き添いはいない。

…のだけど、今回は違う。ゴーレム達から依頼が来たと聞き、「是非同行させてくれ!」と詰め寄ってきた人達がいる。まあ、想像に難くないだろうけど…。


「いやあ! あのゴーレム外装の見事な曲線、いい仕事してんじゃないか!」

「むむっ…無駄を省いた合理性…それでいて美すらも感じさせる…!素晴らしいね…!」

「おおお! あそこの戦闘用ゴーレム、手についているのってアダマンタイトじゃないか! あっちの剣はミスリルだって!!?」


うるさっ。 私の背後で目をキラッキラ、鼻をフンスフンス、興奮しハイテンションな声をあげているのは、我が社の箱製造部門『箱工房』に勤めるラティッカさん達ドワーフの面々である。


彼女達曰く、この『基地ダンジョン』というのは、モノづくりを生業としている者達(主にドワーフ)にとって伝説的な場所らしい。ただ、アポがまともにとれないんだとか。

その理由は、『そういう人達は事あるごとにゴーレム達を解体しようとするから』らしい。内部構造が気になる気持ちはわからなくもないが、酷い理由である。


それ故、一応許可は貰ったとはいえ、私も社長もラティッカさん達を本当連れてきて良いか迷った。

でも、駄目っていったら子供の如く床に転がって駄々を捏ねそうだったから…。というか、実際床に大の字になってやりかけてたし。

結局、『もしゴーレム達に無理強いしたら、全員連帯責任で強制的に会社に帰すわよぉ…!』という社長の脅しの元、皆で来たわけである。




「な、なあ社長…アスト…もうそろそろ…!」

「「駄目 (です)!!」」

懇願するように私の裾を引っ張るラティッカさんに、2人揃ってぴしゃりと言い放つ。彼女達、ダンジョン内の探索をしたくて仕方がないのだ。

でも、まだ依頼主の方と顔合わせすらしていないのに勝手な行動をさせるわけにはいかない。もう…普段は豪放な人達なのに、ここに来てから本当に子供みたい。






グオオオオオン…

「「おおおー…!」」

各所にある様々な装置…電磁エレベーターやワープシステム、空中に浮かぶ謎のグラフを堪能しながら奥へ。なんかドワーフ達が目を輝かせる理由がわかってきた。

特に『動く歩道』。これは我が社にも至る所にあるが、魔法を使ったそれと比べてシステマチックでメカニカル。しかも時折ゲーミング。

…でも、ちょっと目が痛いかも。もしラティッカさん達が「会社をサイバーパンクにしよう!」とか言ったら止めよう。絶対チカチカする。



そんなこんなで最奥部に到着。かなり広く、天井もとても高い。と―。

「いらっしゃいませ、皆様」

ウィーンと音を立て、誰かがクレーンに乗って降りてくる。そして私達の前にスタンと降り、分度器で測ったような精巧な角度でお辞儀をしてくださった。

「私が皆様に依頼を致しました『α型ヒューマンゴーレム:タイプガイノイド:識別番号A-339』。個体名を『アミミク』と申します」


…何言っているかはちょっとよくわからないけど、こちらが今回の依頼主、アミミクさん。女性アンドロイドのゴーレムである。

作り物の様な美しい顔に、グラスファイバー?を使った髪が仄かに色鮮やかに煌めいている。髪留めも、四角張っていて回転していてなんか格好いい。

また、脚や腕は球体関節。すべすべしてる。ただ、着ている服が…。


「あのー…そちらの恰好は…?」

思わずツッコんでしまった。だって…やけにどぎついレオタードを着ているのだもの。そんな悪魔族でも滅多に着ないような…。しかも、関節を隠さない程度の薄手長手袋とタイツまで…。

「? あぁ、こちらですか。来客と面会する際は自慢の服を着るのがマナーだと他の子達から教わりました」

いやそりゃ機械の身体ならばアレとかソレとか隠すべきものはないかもしれないけど…。セレクトがそれなのは何故…。悪魔族でも滅多に着る人がいない服である。


せめて道中にいたアンドロイド達のように普通に服とかボディスーツみたいなのを…。そんなことを思っていると、アミミクさんは見るからにシュンと。

「…この格好は相応しくないのでしょうか?何分私は旧型なもので、流行がよくわからず…」

気づけば光っていた髪色も暗めに。どう弁解しようかと迷ってると、突然彼女は顔をあげ、髪色をパッと光らせた。

「なら、いっそ裸になってしまいましょう。 私達ゴーレムは特に服を着る必要はありませんから」

「いやいやいやいや! お似合いではありますから! ですから脱がないでください!」

恥ずかしさからか、ショートしたかのように突然ふっ切れたアミミクさん。私はそれをなんとか押しとどめるのであった。






とりあえず挨拶も済んだため、ドワーフの皆を解放。彼女達、まるで遊園地に来たかのように一斉に飛び出していった。口を酸っぱくして注意をしておいたから迷惑はかけないだろうけど…。

「…あれ? ラティッカさんは良いんですか?」

ふと見ると、箱工房の長であるラティッカさんだけその場に残っていた。さっきまであれだけ各所を見学したいと猛っていたのに。

「なに、もっと興味のあるモン見つけちまったからね!」

彼女はそうにんまりと微笑み、奥を顎で指す。この広い最奥部の奥には…。

「なんですあれ?」
「うーん? よくわからないわね…」

暗くてよくわからないけどなんか超巨大な何かがあるような…。私と社長が首を捻っていると、ラティッカさんが笑いながら急かした。

「まあその話は後で良いさ。ほら、アミミクさんがお待ちかねだよ!」

そうだった! 早速商談に移らないと!





「ざっと見た感じ、結構な箇所にトラップなりなんなりの防衛機構が組み込まれてるみたいだけど、あれじゃ冒険者を防ぎ切れないのかい?」

口を切ったのは結局ラティッカさん。今回は技術屋である彼女に任せた方が良さそうかも。

アミミクさんもそれに応えコクリと頷く。すると、髪飾りがガシャンと動き、円型になって赤くなった。当たり?

「はい。一般の冒険者であればそれで対処が可能ですが、少々厄介な方々が侵入してくるようになりまして」



「厄介?」

首を傾げる社長。アミミクさんは言葉を続けた。

「その方々は強力なバリア魔法の使い手です。電撃トラップも、レーザートラップも、火焔トラップもそれで防がれてしまい、意味を成しません。加えて―」

そこで一旦言葉を切る彼女。すると、髪飾りが雷のような形となりピカッと黄色く光った。

「私達を、強制的に『行動不能』に陥らせる特殊な魔法を使ってくるのです」




「強制的に行動不能…『麻痺』ですか?」

思いつく状態異常をあげてみるが、アミミクさんは横に首を振る。そして髪飾りがガシャンと変化し、緑の三角マークに。惜しいらしい。

「症状としてはそれに酷似していると言えます。ですが、私達ゴーレムや、設備にだけ効く特殊な魔法だと解析結果が導き出されています」

「なるほど、だから私達の会社に依頼を…」

ゴーレムしかいない此処で、そんな魔法は最凶。他の魔物に倒してもらうしかない。藁をもつかむ…ファイバーをもつかむ気持ちでの依頼であろう。



「因みに何かを盗られたりとかは?」

今度は社長が問う。すると、アミミクさんの髪飾りは今度は下矢印型へとガシャン。何にでもなるな、あれ…。

ん? 矢印が指しているのって…アミミクさん自身の身体?

「盗られるのは、私達の素体です。あの魔法を受けている間に、冒険者達は私達の身体を壊し、持って行ってしまいます。私も幾度か奪われてしまいました」

「えっ!? 大丈夫なんですか!?」

思わぬ回答にびっくり。しかしアミミクさんは意外と平然と。

「はい。私達は核さえあれば頭だけでも問題なく稼働できます」

こんな風に、と彼女は頭をカコンと外してみせる。 デュラハンみたい…。

「『身体を盗られても無事。そう、Androidならね。』というべきでしょうか」

なんかどこかで聞いたような…そしてなんか違うような…。





「ご事情はわかりました。今すぐにでも派遣したい…のですが、その前におひとつお聞きしたいことがありまして」

商談は纏まりかけ…その矢先、社長がちょっと苦い顔を浮かべた。

「食べ物の確保に若干の難がある気が…。 確か皆さんの食事って…」

そうだ、その問題があった。アミミクさんはちょっと小首を傾げながら答えた。

「私達ゴーレムの食事は、魔力及び機械オイルやエネルギーを充填するシステムです。ミミックの皆様はそれには対応されておりませんのでしょうか…色々食べることが出来ると聞いたのですが…」

「うーん…。流石に毎回それはちょっと…週数回程度ならまだしも…」

悩みつつ答える社長。一応大丈夫なんだ…。


するとアミミクさん、今度はとんでもない提案をしてきた。

「ならば専用の生産ロットを作れば、冒険者を使って缶詰を…」

「ちょ、ちょっと…!! それ以上は…!」

慌てて止めに入ってしまう。ん?…でも…ミミックは冒険者を食べるし…あれ…?良いのかな…??

「んんー、なんかそれはねぇ…」

と思ったら、社長も若干NGらしい。そして、何故か私に振ってきた。

「アストは食べたい?」

「え゛。いいえ…私は遠慮しておきます…。というか勘弁してください…」


でも、まさかここにきてそんな問題にぶち当たるとは。どうすべきか頭を捻っていると、アミミクさんは髪飾りを電球型にして光らせた。

「なら、ワープシステムを御社と接続いたしましょう。食事時はそれで行き来することを提案します。勿論、ワープで消費されるエネルギーは私達持ちで」

「それならオッケーです!」

社長が手を打ち、解決。良かった良かった。





「では、どう配置しましょうか。バリアを張って移動しているとなると、奇襲だけでは上手く倒せない可能性が高いですし…」

次なる問題は、ミミックの置き場所&戦い方。すると、満を持してというようにラティッカさんの自信満々な声が響いた。

「まーかせときなってアスト! ここからはアタシらの出番ってわけだ!」



ズイッと前に出たラティッカさん。奥にある巨大な何かを指さした。

「アミミクさん。奥のアレ、もしかしてミミックの力を使おうとしていないかい?」

それを聞いたアミミクさんは目を丸くし、髪飾りをビックリマークに。

「! お察しの通りです。私達の身体では上手く扱いきれず…。ですので、耐久力に秀で、触手による同時複数操作が可能なミミックの方々の力を借りようと思っていた所存です」

「良いねぇ。なら、アタシら『箱工房』のドワーフ総出でチューンアップを手伝わせてくれ!」

「こちらからも是非」


…よくわからぬままトントン拍子に進んでいくお話。社長と私が唖然とする中、ラティッカさんはこっちを振り向き微笑んだ。

「ということだ社長、アスト。ちょいとアタシらはここで居残りさせてもらうよ!ついでにうちの『冒険者オートマタ』の強化方法も教わってくるとするか!」


何はともあれ、任せてよさそうではある。社長は一つ咳ばらいをし、アミミクさんに向き直った。

「では、派遣決定です!アミミクさんとミミックで冒険者をミックミックにしてやりましょう!」


「…なんですそれ?」

謎の擬音語が気になり、聞いてみる。すると返ってきた答えは…。

「特に意味はないわ! 名前似てたからモジっただけよ!」
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