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―治療のために―
402話 復活の竜崎?
しおりを挟む「よいしょっと…。ありがとうアリシャ、もう大丈夫だよ」
「ん」
またもアリシャに仕切り壁役をしてもらい、服を着直した竜崎。最後に彼女からローブをかけてもらい、ようやくまともな姿へと戻ることができた。
「キヨト、身体、どう? 痛くない?」
「ん? えーと……」
アリシャに問われ、手足をくるくる動かしてみる竜崎。すると――。
「お~! 痛みがほとんど消えてる!」
喜ぶ彼。先程までのふらつきも、体調不良さも消え去っている様子である。 どうやらメサイアの見立て通り、痛みの主原因はあの呪いの残滓だったらしい。
「ものがものだし、少しの間留まって経過観察させてね! 今のうちにお部屋準備させとくから!」
メサイアはシュルシュルと人間サイズに縮まりながら、そう伝える。そんな彼女に、竜崎とニアロンは心底有難そうにお礼を述べた。
「ありがとうメサイア…!」
―おかげで助かった―
「いいのいいのお礼なんて! リュウちゃんとニアちゃんのたっめだっから~♪」
パサパサと白翼を動かしながら微笑むメサイア。―ふと、その頭上から、イブリートの雄々しき声が響いた。
「なればリュウザキ、ニアロン! ひとつ復活の証明として、我らを召喚してみよ!」
「なに、別に仰々しくとは言わぬ。端末程度で構わん。 ただし、我ら高位精霊六柱、全員をだ」
厳めしい恐竜のような頭を動かし、そう命じるイブリート。他の魔神達からは一切の異議は出ない。
そんな中さくらは、少し竜崎のことを案じていた。つい先程目覚め、今しがたまでふらつき、ようやく本調子が垣間見えた彼なのだ。出し抜けにそんなことをさせるのは酷な気が…。
「―わかった。やるぞ、ニアロン!」
―任せろ。どうせなら、少し派手にいくか!―
さくらの心配は杞憂。メサイアに目で許可を貰った竜崎は二つ返事同然に了承。そして、今までついていた補助杖をクルクルと持ち直した。
さらに、ニアロンも童女形態から大人形態へと変身。そして――。
「「―――。―――。―――。」」
片や杖を構え、片やその彼の背を包むように。一糸乱れぬ詠唱を。手を動かし陣を空に描き、術式の足運びを織り交ぜる彼らには、もはや先程までの弱りは窺えなかった。
「――。――――。―――――。」
目を閉じただひたすらに魔術を編み続ける竜崎達に、さくら達はほうっと見惚れてしまう。華麗と称しても良いほどの二人の動きから、目が離せないのだ。
――と、さくら達は気づく。竜崎達の足元に、複数の巨大な魔法陣が重なって生成されたことに。そしてそれは生成主の指示に従うように、それぞれが自在に動き出したではないか。
竜崎達を囲むように周り、時にはさくら達の足元にまで。色とりどりに輝きつつ踊るその魔法陣は、実に美しい。まさにカレイドスコープの如し。
「中々に無茶するのう」
それを見つめていた賢者は、ふぉっふぉっと笑う。その意は、さくら達にも充分に理解できた。
イブリートから『高位精霊六柱同時召喚』を命ぜられ、応えた竜崎が作り出したのは巨大な召喚魔法陣。その数は当然六枚。
端末程度…つまりは簡単なもので良いと言われているのに、わざわざそんなものを作り出しているということは――。
「―――。――――。―――――。」
長い詠唱も、そろそろ終盤なのであろう。竜崎は額に汗を浮かべつつ、杖を軽く掲げる。ニアロンもそれを支えるように手を置き――。
「――――――――!」
その杖先を、目の前に並ぶ高位精霊達へ振りかざした。
すると、巨大魔方陣はそれに従い地を這う。そして、それぞれの放つ色と同じ高位精霊達の目の前で止まり――。
「「『我らが友よ。高位精霊よ。我らが前に姿を見せ給え』!!」」
互いに合わせるように詠唱を締める竜崎とニアロン。 刹那、六枚の巨大魔法陣の輝きは眩いほどの光を発し―。
カッッッッッッ!
――火が、水が、氷が、雷が、土が、風が。魔法陣から噴き上がるように現れたそれらが、周囲を逆巻かせ圧倒するように巨大な柱を形成する。
そして、その中より出でたるは―――。
「「「「「「見事だ、リュウザキ、ニアロン!」」」」」」
さくら達の目の前に立ち並ぶ高位精霊達と同じ大きさ、同じ姿を持つ、召喚された彼らであった。
病み上がりの身でありながら、ここまでの巨大な召喚を成し遂げられる竜崎には流石の一言を送るべきであろう。ただ……。
(なんか、とんでもないことに……!)
さくらには思わず、変な笑いが込み上げていた。確かに凄いのだが…。
「「フン、やるではないか。期待以上だ」」
――と、火の高位精霊イブリート。
「「ね。さっきまで昏睡してたとは思えないわ」」
――と、水の高位精霊エナリアス。
「「素晴らしいですわリュウザキ! 完全復活ですわね!」」
――と、氷の高位精霊フリムスカ。
「「けど、ここまでおっきい私達を呼び出さなくて良かったんじゃない?」」
――と、雷の高位精霊サレンディール。
「「証明。コレハ彼ラノ気概デアリ、我ラヘノ謝儀デモアロウ」
――と、土の高位精霊アスグラド。
「「うふふ ふふふ 良い事ね。 元気いっぱい 喜ばしい♪」」
――と、風の高位精霊エーリエル。
……そう。高位精霊達が、今や二人ずつ。合計で12柱いるのである。 しかも全員が巨体なため、とても広いはずのこの場がかなり満員気味。
そして精霊ごとに、同時に同じ言葉を口にしているため…もはや二重音声なのだ。耳がおかしくなってくる。
片や自身の力で顕現した六柱と、竜崎達により召喚された六柱。召喚術の性質である『召喚相手の力の一部を借り受け呼び出す』という道理からは外れておらず、加えて彼らは魔神とも呼ばれる特殊存在。
つまり、この状態はなんらおかしいことではないのだが……。これ以上にはないであろう奇妙極まりない絵面に、さくら達はもはや笑ってしまうしかなかったのである。
……とはいえ、さくらは先程とは別な不安を感じていた。勿論、竜崎について。
以前も竜崎は、巨大な高位精霊を召喚したことが幾度かある。しかしさくらの前で召喚した際は、その時特有の事情があったとはいえ…魔力切れなどで倒れたのだ。
もしかして、今回も……? 気が気じゃなくなった彼女が竜崎へと視線を移すと……。
「っ……」
フラッ……
「あっ…!」
思わず声をあげてしまうさくら。やっぱり竜崎がふらつき、倒れかけたのである。幸いにして、近くに居たアリシャが即座に支え助けた。
「キヨト…!?」
「いや…大丈夫…。 ちょっと、魔力を一気に消費し過ぎて、ふらついただけだから…」
―目覚めたてとしてはやりすぎたなぁ…―
ポシュンと童女形態に戻ったニアロンも、竜崎に続き苦笑いを浮かべる。そこに、ソフィアが呆れたようにツッコミを入れた。
「治療しに来てんのに無茶して倒れちゃ意味ないでしょうよ……」
「「ごもっともで……」」
アリシャに肩を借りながらそう返す竜崎達。そんな彼らを、12柱の高位精霊とニルザルルとメサイアの全魔神は、微笑ましそうに、そして満悦の表情で見つめていたのであった。
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