【第二部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪

文字の大きさ
上 下
11 / 31
―治療のために―

396話 集いし魔神達①

しおりを挟む

聖なる魔神の神域にて聳え立ち、竜崎達を見下ろしたるは、7柱の巨神。




燃え盛る炎を背負うは―。マグマのような赤黒き肌と強靭な体躯を誇り、狂暴なる肉食恐竜の如き顔を持つ『火の高位精霊』【魔神】“イブリート”



豪雨と激流を背負うは―。うしおのような蒼き肌と人魚の如き美しき身体と魚の脚、クラゲの触手を髪とする『水の高位精霊』【魔神】“エナリアス”



凍てつく寒威かんいを背負うは―。手足や髪を氷、縦ロールの先に氷柱つららと、氷華の如き白睫毛、ロシア帽と長外套に似た深雪を纏った『氷の高位精霊』【魔神】“フリムスカ”



唸る雷光を背負うは―。雷霆のような黄光肌と蒼白光の手足を持ち、短髪全てを避雷針の如く尖らせ、常に迅雷たいする女雷様かみなりさまな『雷の高位精霊』【魔神】“サレンディール”



泰然たる岩土を背負うは―。苔土や煉瓦、岩石で身を構成し、座禅を組む足は流砂。そして巨大な平石に乗り、土偶の王冠や全身を煌びやかな鉱物で装飾した『土の高位精霊』【魔神】“アスグラド”



颯々さっさつたる風渦を背負うは―。雲のフリル付き緑風りょくふうドレスを着、風の羽を髪とし綺麗に纏め、竜巻製の小シルクハットを被った淑女『風の高位精霊』【魔神】“エーリエル”



光を受け七色に、また神秘の脈動を見せるは―。金剛石や水晶を凌ぐほどに美麗な鱗、硝子のように滑らかな翼被膜、取り込まれそうなほどに深蒼の瞳を湛える弩級竜『竜の魔神』【神竜】“ニルザルル”




――およそ世界を統べる存在と言っても過言ではないであろう、彼らが。全ての者を拝させるほどの威光放つ彼らが―。


竜崎とニアロンのため、この場に集ったというのである―。






数度目にさせてもらった魔神、初めてお目にかかった魔神。そんな彼らの勢揃いっぷりに、身を震わせてしまうさくら。マーサとシベルも、知っていたとはいえ動けなくなっている。


そんな中平然としているのは、勇者一行のみ。そしてその中でも渦中の人である竜崎が、一切臆することなく進み出た。



「皆…有難う。集まってくれて」


アリシャの介助を一旦辞退し、杖を突きながらも単独の力で深々と礼を示す彼。そして、申し訳なさそうに唇を噛んだ。


「私の力が未熟だったばかりに、皆を不安にさせて――」


「フン…。 それ以上は口にせぬことだな、我が友よ」


―と、彼の自戒を止めたのはイブリート。 顔を上げた竜崎に示すように、彼は竜頭を動かした。


「お前が自らを省みれば省みるほど、居た堪れなくなる奴がいる」


その言葉の先に居たのは…やはり―。


「違いますのリュウザキ…。全てはワタクシの力不足なのですわ…」


氷の高位精霊、フリムスカであった。







あの転移装置を巡る戦いの際、攻め立てる巨躯の獣人…『ビルグドア』への対抗策として、竜崎が召喚した存在こそが彼女、フリムスカ。


意気揚々と登場した彼女は、前に竜崎から教わったらしい、この世界には存在しない道具であるガトリング砲を生成。そして氷の弾丸を以てビルグドアを叩いた。 その能力は凄まじく、一時は善戦と転じた。


――しかし、謎の魔術士『ナナシ』による奇策、及びビルグドアの異能…『強化術紋』と『複腕』、そして奪われてしまった『神具の鏡』―。それにより、決着はついてしまった。



散々戦局を掻き乱され、砕くことすら不可能に近い硬氷は次々破壊され、フリムスカは消滅させられてしまったのだ。



そしてその後どうなったかは……言うまでもないだろう。余力を失った竜崎は必死の抵抗を試みたものの、結果は惨敗。腹を抉り貫かれ、呪いを解放され、魔導書は盗まれ、そして…死線を彷徨った。



無論、あの戦いにおいて竜崎陣営に悪い者はいない。悪行を働いたのは魔術士と獣人の方なのだから。



しかしそれでも―。フリムスカは自らを責めていた。『氷の高位精霊』『魔神』とも呼ばれている自身が、得体のしれぬ相手にとはいえ遅れをとったこと。そして友である竜崎達を守り切れなかったことを。







「あなたのせいじゃないでしょ、フリムスカ。力をほとんど出せない緊急簡易召喚、制限された戦場、アリシャに並ぶ実力者、そして神具の鏡。 勝つ方が難しいわよ」


落ち込む様子のフリムスカの両肩に手を置き、慰めるエナリアス。他魔神達も同意を示すように頷く。


「ま、その服とか色々を教えてくれたリュウザキに報いれなかったって気持ちもあるんでしょうけど…。苛まれすぎよ」


更にエナリアスはそう宥め、フリムスカの雪のロングコートを撫でる。そこでさくらはちょっと合点がいった。


他の高位精霊達に比べフリムスカだけ、ガトリングやらコートやらとやけに…なんというか『現代かぶれ』的な、異世界に相応しくない恰好をしていると思っていたのだ。


それもこれも、どうやら竜崎の入れ知恵…もとい、『元の世界』の話が元になっているらしい。多分彼は『そんなのがある』と伝えただけだろうが…。よほど気に入られた様子である。



そしてそれを教えてくれた大切な友人だからこそ、フリムスカは竜崎を守れなかったことを強く悔やんでいるのであろう。






「エナリアス達の言う通りだよ、フリムスカ」


―すると、竜崎が再度足を動かす。ふらつきを堪えるように動く彼は、フリムスカの前へと。 そして彼女の顔をしっかり見上げ、しっかり見つめた。


「君があの時召喚に応じてくれなければ、そして戦ってくれなければ―。私は、ううん、は間違いなく死んでいた。 私とさくらさんは殺されて、ニアロンは消滅していた」


そう述べながら竜崎は、軽く背後を見る。遠くにはさくらが、近くにはニアロンが。命あって、その場に立っている。


それを喜ぶように目を細めた竜崎は、フリムスカへ、心からの真摯な感謝の言葉を伝えた。


「だから―。有難う、フリムスカ。 私達を守ってくれて、本当にありがとう」


「―! リュウザキ……! …うぅぅ…!」


それを受け、そしてニアロンとさくらの礼を受け、フリムスカは感極まったらしく、氷の涙を流したのであった―。





「フッ…。まあ誰があの場に呼ばれたところで、同じように戦い―。そして負けた際には、同じように自分を責めていたであろうがな」


「…なれ…空気を読めと…。 というかせめて、機を読めと…」

「ほんと…。ニルザルルに同意するわ…」


……と、余計?な一言を口にするイブリートを、ニルザルルとサレンディールが窘める一幕もあった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

処理中です...