上 下
10 / 31
―治療のために―

395話 神域の中には

しおりを挟む

「し…失礼しま~す……」


メサイア達に導かれ、さくらは彼女の部屋神域である塔の内部へと入る。


巨大な塔ゆえ、中はどうやら幾つかの部屋に区分けされているらしい。最もそれでも広いのだが。


そしてここは、エントランスホールのようなところ。 …が、広がっている景色は奇妙の一言であった。何故なら――。


「えっ…!? ええっ!? そ…空!?」



――なんと、一面の青空であったのだから。







部屋内部の全てを包み、どこまでも広がるようなその図は、まさに圧巻の一言。しかし…塔なのだから、周囲は壁なはず。


いや、そもそもこれは…窓から見えるそれではない。まるで遥か上空の……まさに空を飛んでいるかのような風景。


それを証明するかの如く、目の前に白い雲が流れていく。だがそれは、実物ではなく……。


「映像…?」


呟くさくら。実際の空と見紛うほどだが、雲は壁を進むのみ。それに驚いていると、ソフィアがちょいちょいと床を指さした。


「下を見ると、もっと驚くわよ」


「へ…? わっ!?」


言われた通り真下に目をやったさくらは、ゾッと足を怯ませてしまう。そこに広がっていたのも…青空。


そしてその彼方に、自分が今いるはずの『聖都』の街並みが…上空から見る形で映っていたのだ。






その光景に、さくらと、ここに初めて入ったシベルとマーサは声を失う。なにせ、まるで自分達が空中にいるような景色なのだ。


地に足が付いている感覚があるため、これはやはり映像とわかる。だがそれでも、原始的な恐怖というか…高いところの怖さが身を包む。



さくらもマーサもシベルも、竜やシルブ風の上位精霊などで空を駆けたことは幾度もある。


そしてさくらに限っては、元の世界で似た景色を目にしたことがある。タワーの展望台とかにある、下を見るための窓。


しかし、目の前のこれは、それらの何十倍の迫力であろうか……。あまりにも精巧すぎるのだ。本当に、空中に浮いている気分……。




「? あ、ごめんなさ~い!怖かった? ごめんねママ気が利かなくて…!」


と、その様子に気づいたメサイアが謝ってくる。そして仄かに目を光らせ―。


「…あ! 折角だし、面白い物みせちゃう! 周りをよく見ていてね~」


途中で何かを思いついたのか、さくら達へそう告げる彼女。するとバサリと白翼を広げ、ポーズをとった。



周囲の空の光景と相まって、その姿はまさしく『民を見守る女神』。その様子にさくらが見惚れていると―。


「そーれっ!」


彼女は全ての翼をひと扇ぎ。すると周囲の壁や床の映像は、瞬く間に白羽に包まれ…。


「じゃじゃーん!」


「「「……へっ……??」」」




……白羽が消え、周りは再度景色が。それは青空ではなく…聖なる女神を祀るに相応しい装飾が彫り込まれた、まさしく神殿と呼ぶべき意匠の壁床。


そしてその中に映っていたのは…。


「わ、私…!? う、ううん…! 竜崎さん達も…全員いる…!?」


、さくら達であった。






上から、斜めから、横から……。先程まで青空、そして白羽が映っていた周囲の映像には、紛れもない自分達の姿が。


勿論それは録画とかではない。さくらが手を動かしても、他の誰かがちょっと身体を揺らしても、周囲に映る自分達は一切のラグなく同じ行動をする。


その図はまるでミラーハウス。一面の鏡張りのよう。その得も言われぬ圧にさくら達が混乱していると、竜崎達が宥めるように教えてくれた。



「びっくりした? これもメサイアの力でね。この神聖国家メサイアの領地内であれば、どこでも見ることができるんだって」


―色んな場所を同時に見ることも可能なんだと。 な、メサイア―


ニアロンの言葉を受け、魔神メサイアはにっこり。そして、再度羽を振るう。すると―。



「「「おぉ~…!」」」


歓声をあげるさくら達。自分達に代わって各壁に映し出されたのは、聖都の様々な光景。広場、水路、教会、そして神殿内の他部屋の様子――。


まるで各地にあるメサイア像や、神殿各所にいる彼女の分身の視界を通してみているかのよう。 いや、それ以上。竜崎の言う通り、領域内ならばどこでも見ることが可能なようである。




そしてこれはつまり…。彼女が正真正銘の『民を見守る女神』であるということの証明でもあるのだろう。


塔の中に身を置き、その状態のまま国中へ心をくばることができる―。 塔の先端から放たれている『聖なる輝き』に乗せ、随所に思いやりを届けることができる―。



優しく、情け深く、温かい―。魔神メサイアは間違いなく、聖なる存在なのだ。











「メサイア…。早くキヨトを」


―と、相変わらず竜崎の腕を抱く勇者アリシャが先を急かす。少しは待ってくれたようだが、内心気が気じゃないというようにそわそわしていた。


さくら達もそれで、ハッと。今回は観光に来たわけじゃない。竜崎の治療のためにやってきたのである。


「あちゃ! ごめんなさいアリちゃん! リュウちゃん達が心配だからついてきたのだもんね~!」


魔神メサイアも軽く謝り、アリシャの頭を軽くなでなで。そして再度竜崎の手を取った。


「それに、これ以上を待たせると、どうなることやら! さ、こっちよ~」


そう笑いながら、とある巨大扉へと向かう彼女。 それに続きながら、ふとさくらは考えを巡らす。




先程から口にされている『皆』とは一体…? 賢者を始めとした実力者以上で、魔神メサイアの神域に集っている…。


およそ限定されそうな条件だが……。そう悩むさくらを余所に、扉はゴゴゴと開く。その先には…。


「っっっ…!!」


今しがた目にしたメサイアの能力の、更に数倍驚くものが…いや『者達』が待っていた。それは――。









「ようやく来たか、我らが友よ。 まずはその無事を祝おう」


――開幕、雄々しき口調で迎えたのは…筋骨隆々の巨体を火に包む、業炎の化身『イブリート』




「本当ね~。フリムスカの話を聞いた時は、私達も肝が冷えたわよ」


――それに続き、ふぅっと安堵の息を吐いたのは…人魚の如き姿をした、大水の化身『エナリアス』




「ワタクシがもっと上手く立ち回れていたら……」


――と、自らの行いを悔いるかのように俯くのは…雪のロングコートを着る、氷雪の化身『フリムスカ』




「アンタは悪くないでしょ! 簡易召喚だったし、リュウザキも怪我を負ってたし!」


――そんな彼女を励ますは…蒼雷のビキニを身につけ稲妻の紋様を持つ、天雷の化身『サレンディール』




「肯定。 加エテ、状況ガ状況。破壊ヲ許サレル場デハナク、相手ガ規格外トクレバ致シ方ナシ」


――それに同意を示すは…遮光器土偶のような顔と土石で出来た身体を持つ、大地の化身『アスグラド』




「あらあらうふふ あらうふふ。 その言葉は 労わりは リュウザキちゃんにも伝えてね♪」


――そして変わらず歌うように言葉を紡ぐは…傘を手に風のドレスを身につけた、旋風の化身『エーリエル』




「違いないな。 安心するがい、リュウザキ、ニアロン。わらわ達はお前達を愛するが故に、この場に集ったのだ」


――そう全員の心を代弁するかのように竜崎へ顔を向けたのは…クリスタルのように美しき鱗を纏う、竜の長『ニルザルル』






さくらは、彼らから目が離せなかった。声も出せなかった。身体も完全に強張ってしまった。


しかしそれでも、頭の中は『納得…!』の一言が占めていた。条件を満たす存在、それにこれ以上適した者達はいないと。





その通り。今さくら達の目の前に居るのは、火水氷雷土風…全属性の最高位存在である『高位精霊』。そして、全ての竜の頂点に立つ『神竜』。



そう――。『魔神』と呼ばれし存在が、此処に集結していたのである――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

玲眠の真珠姫

紺坂紫乃
ファンタジー
空に神龍族、地上に龍人族、海に龍神族が暮らす『龍』の世界――三龍大戦から約五百年、大戦で最前線に立った海底竜宮の龍王姫・セツカは魂を真珠に封じて眠りについていた。彼女を目覚めさせる為、義弟にして恋人であった若き隻眼の将軍ロン・ツーエンは、セツカの伯父であり、義父でもある龍王の命によって空と地上へと旅立つ――この純愛の先に待ち受けるものとは? ロンの悲願は成就なるか。中華風幻獣冒険大河ファンタジー、開幕!!

魔王女さまのレコンキスタ ~勇者と魔王、並び立ち~

空戸乃間
ファンタジー
《ファンタジーVS宇宙人》 剣と魔法を武器として、宇宙からの襲撃者に勝てるのか⁈ 人間と魔族が争い続ける世界【オーリア】 百年にわたる人魔戦争に終止符をうつため、勇者率いる戦士達は黒の大陸へと渡り魔王城へと攻め入り、前進し続ける勇者達は、玉座で待つ魔王との最後の決戦に挑むことになる。 しかし、勇者達が魔王と剣を交えている最中に新たな脅威が現れた。 ――あれは一体何なんだ? その光景を目の当たりにした誰もが、同じ事を思ったはずだ。 勇者も、魔王も、 人間も、魔族も隔たり無く 彼らは雲を燃やして現れた、空に浮かぶ巨大な円盤を見上げていた  ―――――――――――― ゆっくり更新していきますのでどうぞよろしくお願いします 一言感想とかでも嬉しいので、どうぞよろしく!!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

天之琉華譚 唐紅のザンカ

ナクアル
キャラ文芸
 由緒正しい四神家の出身でありながら、落ちこぼれである天笠弥咲。 道楽でやっている古物商店の店先で倒れていた浪人から一宿一飯のお礼だと“曰く付きの古書”を押し付けられる。 しかしそれを機に周辺で不審死が相次ぎ、天笠弥咲は知らぬ存ぜぬを決め込んでいたが、不思議な出来事により自身の大切な妹が拷問を受けていると聞き殺人犯を捜索し始める。 その矢先、偶然出くわした殺人現場で極彩色の着物を身に着け、唐紅色の髪をした天女が吐き捨てる。「お前のその瞳は凄く汚い色だな?」そんな失礼極まりない第一声が天笠弥咲と奴隷少女ザンカの出会いだった。

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

処理中です...