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4章ー剣友ー

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「なあカナタ。しばらくウチにいるわけだし、せっかくなら我が家で何か学びたいことはあるか?」
「いいの!?」
 シュラフトから嬉しいことを言ってもらえて、キャピキャピしてしまう。習うなら何がいいかな、とあれこれ悩んでいると意外な提案をされた。
「カナタさえ良ければ、ディシター試験の勉強をしてみないか?実は父君も乗り気なんだ」
 え、それは大丈夫な感じのやつなのか?国家資格なんて受かる気がしない。それにそもそも、忘れてたけどココってゲームの中だよな?変な感じ。でも国外出て見たいし、そういうイベクエなのかな。
「何だどうした?俺はカナタなら受かると思うけど」
「分かったよ。それじゃあよろしく頼む」
 こうして、俺達の地獄のような訓練漬けの日々が始まった。まず、治癒魔法が使える小さな魔具を身につける。その後はひたすら体をイジメていく。その間、筆記試験の問題を出題されて答えられなければペナルティが累積していく。試験まであと何ヶ月だ?死ぬってこれ。ここまでやる必要ないんじゃないのか?
 そうして気づけば、俺たちは7ヶ月に及ぶ特訓生活をなんとかやり切ったのだった。

「これだけやったら流石に受かるよね?」
「うん。いや、受からないと父君を恨む」
「だな」
 ははは、と生気のない声がでる。明日は一日休んで試験に備えよう。そう固く握手を交わして自室に籠った。


 一次はなんとかパス出来たので、二次試験に臨む。試験会場にはたくさんの受験者が集まっていて、緊張感が張り詰めていた。何人も途中棄権した人達が出てくる。あまりにも脱落者が多いので俺もシュラフトも緊張していた。内容はある程度公表されているが、それでも難関試験である事には変わりない。
「俺らの番だな…」
「やるしかない。父君もきっと信じている」
 各々、自分の剣を持って試験官の前へ立つ。俺は背中にかけた剣の柄に右手を伸ばす。身の丈よりも二尺ほど大きな巨剣を引き抜いて、左足を擦り引き両手で絞るように握りながら前方へ構えた。すると、会場にいた誰もが目を丸くしてこちらを凝視してきた。
「えっ??」
 あまりの視線の多さにこちらも困惑する。シュラフトだけは訓練の時に見ていたからか、落ち着けと言うように微かに口角を上げていた。そのせいで、余計に気になって仕方がない。
「あの…何でそんなに驚かれるんです?」
 恐る恐る尋ねると、ああすまない、と言って快く教えてくれた。
「あのな、この試験では我々が相手をするだろう?そもそも我々ディシターはスピードを生かした剣を得意とするから、君のようにスピードの代わりにパワーを求める者はまず居ないんだよ」
 それを聞いて一つ確信が持てたことがある。きっとシュラフトは分かっていて言わなかったに違いない。試験から落とそうというわけではないのは分かる。多分、試験官達を驚かせたかったのだろう。思わずシュラフトに視線をやると、ふいっとそっぽを向かれた。確信犯だ。
「まあいずれにせよ、我々が認めれば良いだけだ。相性も加味して公正に判断する」
「改めてよろしくお願いします」
 では!と一言発せられ、ついに実技試験が始まった。開始と同時に繰り出される連撃が凄まじい速度で襲いかかってくる。巨剣の柄を右手で握り、左手で刀身を押さえ斜めに構えて盾にする。それでも両腕にぶつかってくる衝撃は凄まじい。すると、急に感覚が緩くなったかと思えば、直後に背後を取られた。
「しまっ…!」
「遅いっ」
 ズバンッと空気を切り裂く音が唸る。間一髪で躱わした。刹那、こちらは刀身を垂直に叩き上げて半円を描くように前中央から背後に斬り飛ばす。
 間合いができたが、向こうもすかさず剣を振りかざしてくる。それを右にひらりと躱わし、回転の勢いで巨剣を横一閃に薙ぎ払う。そのまま右の肩へ流し担いで、前方へ縦に一撃、重ねて二撃、巨剣の慣性に委ねて宙に浮きながら回転斬りを繰り出す。このリーチの長さゆえにバックステップで躱し切れなかったらしく、剣で受け止められた。
 だが、巨剣の圧倒的な質量に耐えられる剣などほとんど無いに等しい。試験官の剣がメキンッという音を立てて刀身の真ん中で真っ二つに折れた。

 試験官の目が鳩のような点になり、声を殺して無音で叫び上げた。そして震える声で話しかけて来た。
「見事だ。試験の結果は後日郵送にて連絡する。だが、そうするまでもないな。おめでとう」
「ありがとうございます」
 気付けば隣のエリアで受けていたシュラフトも、ちょうど終わったところらしく上がった息を整えながらこちらへ歩いてきた。いつもなのだが、やはり貴族というだけあって背筋がいい。正直なところ若干羨ましいまである。
「お疲れ」
「シュラフトは涼しい顔してるな?」
「冗談言うなって、汗でビチャビチャだよ」
 彼の爽やかな笑顔には元気づけられる。
「ところで、その剣は名が刻まれてないよな」
「あー、特に思い入れもないしそこら辺で拾ったなまくらをちょっと研いだだけだからな」
 その鈍であの剣を折れるとか…などと苦笑されたが、同時に良いことも教えてくれた。
「これを機に職人に依頼して研いでもらったら命名をしたらどうだ?」
「めいめい…?」
 聞くと、命名とは等身の根元に剣の名を刻む儀式で剣に命を宿し生涯を共にすると言う。そうする事で人生を賭けて鍛え上げていくのだそうだ。つまり、さっきポッキリやっちゃった剣もあの人にとっては己が四肢同然だった訳だ。
「あの人に申し訳ないな…」
「あの人お前が立ち去ってから号泣してたらしいぞ」
「本当にごめんなさい」
 シュラフトは父親から教わったという《剣友》なる言葉を教えてくれた。
「さっき言ったように、剣は己が四肢となる。だが、父君はそれだけでは一流にはなれないと仰っていた。」
 《剣友》とは、剣が自分の意のままに何でも言う事を聞くと思うな、友のように慕い絆を結べという意味らしい。理解ができても実践が難しい類の教えだ。それが出来るようになるには、相当な鍛錬が必要だろう。
「剣友…ね、こいつが友達になるのか。なんか辺な感じだな」
「そのなりだと、剣にリードが必要になりそうだな」
「それは困る」
 剣友ジョークで盛り上がっているとは彼の父親も予想外に違いない。

「シュラフト、なぜ呼び出されたかわかるか?」
「はい」
「試験後だったからと言って甘やかしはしないぞ。次はないからな」
「申し訳ありません」
 しっかりバレてたし、ちゃんと怒られた。研ぎ澄まされた剣の切先のような視線がキンッとこちらに向く。無言の圧が半端ない。
「も、申し訳ありませんでした」
「ハハ、まだ何も言っておらぬぞ?」
 そう言われればそうなのだが、あの雰囲気ではそうせざるを得ないだろう。冗談だと笑われたがこちらは顔が引き攣って動けなくなっていた。
 合否結果が送達されて来たのは、それから数日後のことだった。
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