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1章ー剣の国ー

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 三か月前、フルダイブ型VR.MMORPGの普及に伴って新ゲームを開発していると発表された。
ーその名も《  剣 の 国ヅァルトラント  》
 開発も佳境に入っていたとはいえ、開発段階にもかかわらず噂が噂を呼び世の話題を席巻。多くの種族が暮らす世界観が人気となった。そんな中、ベータテストの参加募集がかかった。新要素も追加されており、世間は大歓喜した(俺もその一人だ)。



2

ーウィーンー
 自動ドアをくぐるとベータテスト参加者たちが集まりつつあるところだった。受付を済ませ、それぞれのベータテスト参加番号に従ってダイビングケースへと向かう。
 コールドスリープでもするのかというガラス張りの筒状容器の中には、ひやりとするゲル状のベッドが敷かれている。
ーめっちゃ気持ちい……夏に寝るやつじゃない……帰りたくなくなっちゃう……
「それでは、ベータテストへの参加をありがとう。始まってからはシステムオペレーターが進行するわ。成瀬彼方なるせかなた君、準備はいいかしら?」
「おねがいします。」
「オーケー。じゃあ、始めるわね。システムスタート」
ーシステムを開始しますー
ースーー
「おー、そうやって閉まるんだ。」
ーヴンッー
「うおぁっ」

ーベータテストへのご参加ありがとうございます、ヅァルトラントへのアクセスを開始しますー
ーバイタルサポート・システムアサインープロダクトキー確認、入力完了ーライセンs…………


………
ー転送準備完了ーシステムチェック全工程コンプリートー
ーシステム、オールクリアー
ーこれよりダイブを開始しますー

ーキュィィィィッーカウントダウン開始ー
ー10ー09ー08ー
胸が高鳴るなか、徐々に意識が遠のいていく。
ー04ー03ー02ー01ー
ーフルダイブ……!ー
「うっ、まぶしっー、んー……。ん?おおー!!!!綺麗だなぁぁ、ははっ!こんなに大きいのか!ヅァルトラント!」
 スポーン地点はヅァールトラントの王都を一望する上空だった。落下し続ける状況に戸惑いはしたが、そのあまりの美しさに目が離せなかった。



3

 この世界では身体能力が底上げされているのか、はたまた着地点が湖だったからか。全身打撲で痛みはあるが、王都まで向かうくらいなら大丈夫そうだ。
「HPバーが出ないな、そこまでの怪我じゃないってことか」
 服が乾いたらひとまず王都まで行こうか。入れそうな宿を見つけて今日は寝よう。


ーチュンチュンッー
「んあ、?ああ、もう朝か。え、てかこっちにもスズメみたいな鳥いるんだな。目ぇ覚めちゃったよ」
 今日の目標は収入源を得ること。そのためにも、まずはギルドに行ってみようか。この宿を借りれたのは、敗走してきた冒険者だと思われて、身なりや文無しだという事が特に気にされなかったことが大きい。宿代はツケで払ってくれるというし、きっちり返さなくては。NPCに妙な義理を感じつつ、早速ギルドへ向かった。


「ここか、ー」
「そこの兄ちゃん、受付か?」
「あ、ええ。今日が初めてで」
「そーか!」
「はい。なんかすみません、他人と話すの慣れてなくて」
「ガッハッハ!そういう奴は真面目なのが多い。俺ぁ、そういうの嫌いじゃないぜ!まっ、これからよろしく頼むよ」
 酒癖悪そうなその男は、面長で彫りの深い整った顔立ちをしている。それを台無しにするように、にへらあと笑って見せた。しかも、187cmはありそうな身長に筋肉質って……。
「金なら持ってないですけど……」
「いやいやカツアゲじゃなくて!俺はハイネケン・アドヴォガート。ハインでいい。この名前はBESTBEta teSTerネーム。BEST先発組だ。見たとこ君は後発組か」
「カナタです。よろしくお願いします」
「おうっ。あ、それとな、真面目な話だ。気をつけろ。この国、いや、この世界はいろんな種族が共存してるのは知ってるな?向こうからすれば俺たち人間は見たことない種族だ。のっぺらぼうだとか言って怖がられちまう。しばらくは俺たち先行組を見習って犬耳のカチューシャでもつけとけ。これやるから」
「普通こういうのって猫耳じゃ……ありがとうございます」
「君はあれだなっ!とりあえず否定から入るのやめなよっ、おじさん傷ついちゃうっ!とりま中入って、列に並ぶか」
「ですね」
 一通り話してみると、思っていたよりも断然しっかりした人で驚いた。歳は三十二で、リアルでは起業して中堅くらいの会社を経営しているんだとか。人を見た目で判断するのは俺の悪い癖だ。それと、堅苦しいのは好かないらしくタメでよろしくとのことだった。

 さておき、手に入れたギルドカードを少し上に掲げてみると、俺にはダイヤのように輝いて見えた。
「とりま見て回るか。攻略するのに、ー」
「ー情報は必須」
「おうっ」
 そうして一緒に朝の王都に繰り出す。十六の高校生が三十二のおっさんとデートとか涙を禁じ得ない。相変わらず王都にふさわしい賑わいだ。流石は剣の国というだけあって多くのNPCが剣や刀を身につけている。
「そういや、少し説明があったかも知れねぇが、一応確認だ。こっちじゃ、リアルの体型と素顔がそのままキャラクタースキンになってる。つ・ま・り、俺のイケメンさも本物ってわけだ。で、俺の知り合いが俺と同等のイケメンでな、武器屋をやってる。隠れた名店だ。ジュニタ・イェネーファって奴がやってる。覚えとくといいよ。お洒落で大好きなんだ。今度連れてってやる」
「それなら明日は依頼を受けて、報酬金で武器でも見に行こうか」
「ああ、そうしてやってくれ」
「それじゃあ、あとは適当にふらついてるかな」
 俺たちは王都で一番繁盛しているというレストランや、ギルドの冒険者達が贔屓ひいきにしている雑貨屋、ハインの友人が営む知る人ぞ知る武器屋、その他にもたくさんの店を見て回った。そのどれもが、見覚えのある雰囲気をまとっている。
ーなろう系ばっかり見すぎたかな。
 住み心地は悪くないな、などと考えていたらあっという間に一日が過ぎた。
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