アイドル・インシデント〜偶像慈変〜

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第80話「綺麗な君でいて欲しい」

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 前回までのぐじへんは
 楠原隼人はかつて紅城刹那と名乗りメンズ地下アイドルとして活動していた。そして今想武島へ数多の地下アイドル達が突如が出現し各奏者は交戦を開始。
 楠原隼人の前にはかつての地下アイドルとしてユニットを組んでいた仲間。溺愛魔虞無できあいまぐなが現れ隼人の中に宿るアイドル因子を手中に収めるべく隼人へ襲いかかる。

 ――――――――――
  魔虞無は両腕に岩漿を纏い超高熱を帯びた強堅且つ圧倒的な破壊力を秘めた拳を振るい隼人へ猛攻をしかける。
 ウィザリングブレイガンによる斬撃、銃撃も難なく防がれてしまう。

(ぐっ……!信じられないくらいの熱気だ。近づくと焼かれるような痛みが生じる。護りに想力を裂かざるおえない……!)
 隼人は燃え盛る程野熱気から身体を護るべく身体に外側に想力を纏わせる事で正常な戦闘を可能にしている。
 反撃の隙を見計らいながら攻め手にかける戦いを繰り広げる隼人であったがその拍子抜け具合に魔虞無は苛立ちを覚え更に猛攻は過激な物となる。

「俺の宿幻輪に宿っている力は皆森真夏みなもりまなつっつーアイドルをベースに形成された物。能力は簡単に言うなら太陽が如く炎熱。全てを溶かし飲み込む『獄炎』とでも言おうか。少なからずお前の纏う軟弱な炎とは雲泥の差がある」

「……っよく喋るじゃねぇか」

「そりゃあようやくいけ好かねぇお前をボコせるんだからな。そりゃテンション爆上がっちまうよ!!」

 魔虞無は左手の手の平からまるで火山の噴火の如く熱波を放出し瞬時に間合いを詰め巨大な右拳で殴打、更に爆発と共に隼人の上半身を殴り飛ばし後方の大木へと叩きつけられる。

 (一撃も重いっ!!)

 殴られた衝撃と叩きつけられた衝撃によりただでさえ覚束ない意識が更に遠のきそうになる。

 (完全顕現……するか?いや、今の想力量じゃ30秒持つかも怪しい。安易には使えない!だがこのまま攻撃に全振りして挑んだとしても常時放たれてる熱波のせいで間違いなく動きに隙が生じる……となれば俺の炎の相性と俺達の強さを彷彿とさせるイメージとも直結する……)

 隼人は昨晩のキャンプで二番隊の隊員である宮守龍二と各々の戦闘スタイルや戦い方について語り合い情報共有をしていた。
 龍二も火をメインウェポンとして扱う事から強さのイメージの合致も去ることながら力の運用にも順応性があり学ぶ事も多かった。
 隼人は現状を打破すべくイマジネーションを激らせ強靭なドラゴンの爪を思い描く事で隼人の両手には業炎の炎で形成された龍の翼腕が顕現し隼人の両腕はより強固な炎により護られる。

「出来た……ドラゴネルクローとでも名付けようか」

「何するかと思ったらくだらねぇ……何度も同じことを言わせんな!てめぇの軟弱な炎じゃ俺には届かねぇんだよ!!」

 魔虞無は右手を天高く翳し掌から無数のマグマが纏った岩石を放出し辺り一体へと降り注がせ無差別攻撃。
 降り注ぐ岩石と共に再び魔虞無が拳を構え隼人へと迫る。

(直接触れないならいける!この翼腕に更に優菜ちゃんと共有済みのイメージを重ね合わせる!)

 隼人は右腕に自ら想像し磨き上げたイマジネーションを上乗せし瞬時に右腕を巨大化させ一気に薙ぎ笑払う事で岩石を粉砕する。
 一つの力が分散されたこの技は威力や硬度も分散されており砕く事も容易であった。
 こんなにも一瞬で打ち砕かれるとは思っていなかった魔虞無は距離を縮める中で微かに動揺する。
 舐め腐っていた故の慢心であったと即座に冷静さを欠けないよう言い聞かせそのまま拳を振るい隼人はそれらを良く腕で捕縛。両者取っ組み合いの状態になるが隼人は超至近距離となった故にジリジリと熱射による痛みが蓄積される。

「ぐっ……!!」

「さぁ……がっちりホールドしたのは良いとして、こっからどうする?」

 両者両腕が使えない状況の中隼人だけが消耗し続けている。このままの状況が続くと肉体的ダメージも甚大となり完全に身動きが取れなくなる中で隼人は取り乱す事なく力強く魔虞無を鋭く見据える。

「高熱を発する両腕のせいで近づく事はままならない上に安易な遠距離攻撃は防がれるが両腕以外の装甲はない。憎力の大半を腕に凝縮でもしてるんだろ。とすりゃ他の守りは薄い……なら後はそこにどうやって一撃ぶち込むか……!」

 そう言う隼人だが両腕はがっつり魔虞無の両手を拘束することに使ってしまっている為身動きが取れない中。突如として隼人の胸部に龍の顔を模した業炎のエネルギー『ドラゴネルヘッド』が出現し開口と共に膨大な破壊力を秘めた火炎をチャージする。

「!?」

「外さない!!」

 隼人はドラゴネルヘッドから渾身の力を込めた超高熱度の火炎放射『ブレイジングブレス』をゼロ距離で放出。
 業火に呑まれつつ魔虞無は火炎と共に隼人の視界から一瞬で消え去るほどの勢いで吹き飛んでいった。

「はぁ……はぁ……」

 見渡す限り他に敵の気配はなく隼人は気の緩みと想力を使い果たした事から一瞬で幻身が解除されその場に倒れ込む。

『大丈夫ですか隼人さんっ!!』

「あぁ……なんとか……」

 内から聞こえる優菜の声も心なしかか細く聞こえる。激戦に続く激戦が故に意識も朧げとなっていく。
 立ち上がり身を潜めたいが少しの力も入らずただ地べたに突っ伏す事しか今はできなかった。
 そんな立ち上がる気力もない隼人の頭上から聞き覚えのある高圧的な男の声が聞こえてくる。

「手貸してやろうか?刹那」

 その声の正体は先ほど消し炭になってもおかしくない威力の火炎放射を叩き込み致命傷を負わせたはずの溺愛魔虞無だった。魔虞無は軽傷こそしているが全く気にも止めていない様子で隼人を悠々と見下している。

「な……なに……っ!」

「流石にこれ以上は動けそうにねぇな?」

「くっ……!!」

 再び想力を練り上げ立ちあがろうとする隼人だが少しも力が入らない。完全顕現し身体の主導権を譲るだけの想力も残されておらず意識が徐々に薄くなっていく。

「なんでピンピンしてんなか知りてぇか?そもそも俺はアイドル因子の力と憎愚の力の二つを兼ね備えてるんだぜ。もう片方は弱点をカバーすることに普通使うもんだろうよ」

 魔虞無は徐ろに上着とインナーを捲し上げブレイジングブレスを喰らったはずの箇所を堂々と見せびらかす。
 するとそこにはブレスにより焦げ目が付いた堅牢な装甲により護られていた。
 そして魔虞無の合図と共に装甲は解除、魔虞無の身体を着脱し生物の形を成し現れたのは一万年前に絶滅した動物であるグリプトドン。グリプトドンはドスンと地ならしを鳴らしながら地面へと着地する。

「こいつは頑丈さが売りでな。致命傷を負いそうな場合はこいつが俺の身を守る盾となるって寸法よ……と俺とお前との格差をハッキリと理解させたところでだ」

 魔虞無は隼人の髪を容赦無く掴み上げ睨め付けながらニッコリ言い放ち隼人の顔面を片手で覆う。

「今から俺の能力で清廉潔白すぎて気職悪りぃお前の意識を沈め、俺達の配下に置き一切抗う事の出来ねぇ自我の無い奴隷にする。お前がしたくねぇ事をお前らの正義に反する事を山ほどさせてやる。
 お前の尊厳を踏み躙って大悪人に仕立て上げてぇ一生償いきれねぇ程の後悔と罪を背負わせてやる!俺の気に触る善性を持っちまった自分と過去俺に媚び諂わなかったアイドル時代の自分を呪うんだな!!」

「ぅぐ……っ!!」

 隼人の顔を握り締める力がより一層強くなり膨大な憎力が秘められた溶岩が隼人の全身を包み始める。

「堕ちろ!!紅城刹那ぁ!!」

『隼人さんっ!!!!!』

 ―――――――――― 

 

 (…………ダメだ、少しも力が入らねぇ。優菜ちゃんが何かを言っている……)
 
 (……あぁ聞こえない。意識も声も遠のいていく。自分が自分でなくなっていく感覚。果てのない暗闇の中に突き進んでいってる感覚だ)
 
 (あいつの言う事が本当なら俺の自我は奪われこいつらの言う事に従う事しか出来ない奴隷になる事になる。
 そうなればたくさんの人を襲い傷付ける事になるだろう。それは人一倍正義感が強くて、誰かの為に一生懸命で、不器用だろうが誰かの助けになれるならとがむしゃらに手を差し伸べる。ヒーローに憧れる優菜ちゃんにとって最も苦しく耐え難い苦行を強いる事になる。そんな事はあっちゃいけない。
 汚れるのは俺だけでいい。真っ直ぐで素直で純粋な、綺麗な君でいてほしい。そんな君に俺は救われたんだから。
 せめて……優菜ちゃんだけでも……どうにか…………
 

 ――――――――――
 優菜の必死な叫びも隼人には届いていない。意識も完全に遠いていき視界も朦朧とする中で一つの見知った人影を捉える。

「隼人……?」

 その人影の正体は結界外を目指し疾走していた達樹だった。
 達樹は倒れる隼人と目前に佇む魔虞無を見てその足を止める。
 身体中溶岩に包まれ消えゆくギリギリの意識の中で隼人は決断した。

 (成功する保証もない出来るかもわからない完全博打だ……達樹には……押し付けるみたいになっちまうが……これ以外に思いつかない……!)

 隼人はありったけの想力を練り上げ体内から一玉の赤い光の塊を放出。その光の塊は灯野優菜の存在そのものだった。
 隼人は最後の力を振り絞り微かに動く左手をこちらへ向かってくる達樹へ向けて振り放ち達樹の中へ強制的に入り込んでいく。

(アイドル因子が移り変わった!?あの男に譲渡したってのか!?)
「クソが!余計な事しやがったな!?」

 隼人を取り囲む溶岩の侵食スピードが早まる。
 隼人は溶岩に埋もれていく隼人は最後にか細い声で達樹へ語りかける。

「達樹……」

「!」

「……優菜ちゃんを頼む……」

「!!!っ」

 そう言い残すと隼人な全身は完全に溶岩へ飲み込まれる。
 状況は全く把握できていないが達樹の本能は今抱くべき感情とぶちのめすべき相手を即座に理解した。
 達樹は想力を全開にし即座に右手に疾風を宿した想力を込め拳を振るい魔虞無はそれを岩礁腕で受け止め拳と拳が激しく拮抗する。

「俺の仲間になにしてんだてめぇは!!!」

「丁度いい……まだまだ暴れ足りなかった所だ!!」

 ―――― to be continued ーーーー
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