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第77話「一点集中・一点特化!駆vs怒猿!」
しおりを挟むこれだけでわかる!第2章に入ってのぐじへんは
時は2023年。アイドル文化の繁栄により人間の醜欲を喰らい力を増していく憎愚陣営。
憎愚達に対抗すべく奏者達は迅速な戦力増強が急がれる中全国各地の新鋭達を集めてDelightの管轄する人工無人島。想武島にて合同強化合宿が行われる事になった。
そんな中主戦力が本州を離れた隙を付き暗躍する影が動き出す。
Deight本部へ侵入し陽葵の因子の強奪を目論むメンズ地下アイドルの毒独盛劉淵とブーシェ・ユリバサミに居残り組である十番隊隊員篠澤将人と共橋李世の二人が迎え打つ。
一方で20年前からアイドル因子を覚醒させ戦って来た歴戦の猛者である仙道巳早、会津翔太の前に突如として上級憎愚が現れ交戦を開始する。
更に想武島にまで地下アイドル達が出現。次々に奏者達を襲う中で今星空駆はアイドル因子を覚醒させ姫村和斗を狙い現れたメンズ地下アイドル崖尻怒猿と相対していた。
――――――――――
想武島 中央区域 9:53分
共信を済ませ相棒の名を知りアイドル因子の力を正常に扱えるようになった駆。
身体能力、攻撃速度、反射神経などありとあらゆるスペースが飛躍的に向上している中で怒猿の猛攻を捌いていく。一見優勢になったようにも見えなくもない戦況。
だが怒猿の言う通り駆はスタートラインになったに過ぎない。
「やはりな!扱いきれてねぇぞガキ!!」
怒猿の棍棒による打撃を受け止め駆は大きく後退する。骨の髄まで攻撃が響きこれまでのダメージの蓄積から全身が揺らぐ。
(これが琴音ちゃんの本来の力……!制御が難しい!!一撃一撃の挙動が速すぎて気を抜いたら明後日の方向に技が飛ぶ……!)
過剰なまでの力の奔流。身に余る力を使いこなすには本来ある程度の慣れが必要であるがこれは実戦。
命のやり取りの最中の緊迫感が漂う中で綺羅琴音というアイドルの力の本質を理解し扱い乗りこなす必要がある。
(長くは維持できない……解けたら立て直す術はない!思い出せ。手を差し伸べてくれてたのは琴音ちゃんだけじゃない!先輩達だって弱い俺の為にずっと寄り添ってくれていた!)
――――――――――
2023年 6月6日 Delight 本部グラウンド
「あだぁ!!」
同一隊である三宅力虎よって蹴り飛ばされる駆。砂埃が舞う中で戦闘訓練は駆の負傷具合も込みで一時休憩に入ることになった。
食堂で激痛に苛まれながらも一人昼食を取る中で後ろから不意に一番隊の先輩である女性抗者。セレナ・リデュアンヌから声をかけられる。
「隣よろしいですか?」
「ひ、一席開けてもらえればなんとか……」
「ダメです。そんな事ではいつまで経っても信頼関係など築けません」
そう言ってセレナは露骨に顔が引き攣る駆に対してお構いなしに無理やり隣へと座る。
「少しずつ着実に強くなっています。基礎的な動きは一通り身についたと思います。後駆さんに足りないものは……言わなくてもわかってるはずです」
駆は後ろめたさから視線が落ち黙り込む。駆の成長の妨げになっている要因は誰がどう見てもわかりきっていた。
駆は綺羅琴音と向き合う事を拒み目を背け続けている。
アイドルと心が通い合っていない事で従来の力を発揮できない。発揮しようとしていないと言った方が適切。
琴音の顕現不可時は自分一人だけの力で乗り切ろうと。乗り切れるはずだと自分に言い聞かせて不完全な状態のまま武を極めようとしていた。
未だにセレナとでさえ目線の一つも一秒足りとも合いはしない。
「貴方なりに努力しているのは伝わります。だから今すぐにとは言いません。ですが敵は容赦なくこちらの命を奪いに来ます。その時力及ばなかったという時に後悔して欲しくありません。なので私から一つアドバイス」
「格上との戦闘の際焦りは禁物です。一流はとても巧みに待ちます。そしてその機を逃さず確実に仕留める。駆さんのこれからの成長と健闘を心からお祈りしています」
そう言い残してセレナは食堂を去っていった。
――――――――――
想武島 中央区域 9:55分
(琴音ちゃんの力を完全に引き出せてない突貫工事の現状。細々した攻撃じゃこいつには届かない。時間的余裕もない今、一撃で仕留めるしかない!)
続く激しい攻防。駆の前蹴りと怒猿の拳がぶつかり合う。だが怒猿の手中に収まっていた握りっ屁が瞬間漂い駆の動きを鈍らせる。
そこに容赦なく叩き込まれる渾身の拳が駆のみぞおちを捉える殴り飛ばされる。
悪臭が鼻の中に居座り続ける嫌悪感と強烈な痛みに駆は悶え苦しむ。
「がっ!……がぁっ!!けほっ!!」
「粋がっていたがここまでだな。もうろくに動けまい。所詮どう足掻こうがお前がクズな事実は変わらんのだ」
数多のダメージにより疲労困憊の駆。それでも尚あれだけの啖呵を切ったのであれば死を覚悟して挑んでくるとそう読んでいた怒猿。だがその期待は瞬く間に裏切られる事となる。
立ち向かってくると思いきや駆はふらつきながらも怒猿へ背を向ける。そのみっともなさと諦めの速さに怒猿は酷く落胆し激しい怒りが込み上げる。
「つくづくイラつかせやがるぜ。口先だけの腰抜けが……お前みたいなどアホは今すぐあの世に送ってやる!!」
怒猿の怒声と共に下半身に憎力が集中し蓄積されていく。
「放屁フル出力!!|仏殺死屁」
怒猿は自身の憎力を大幅に放屁として変換し噴出。放屁の勢いのまま超速で背を向ける駆へと棍棒を振り翳し迫る。
対して駆は呼吸を整え瞳を閉じる。それは決して諦めからなるものでは無い。敵の平常心を奪い精神を乱れさせ隙を作る。この状況下における最適解。
駆は静かに一点集中による一撃必殺を確実に直撃させる為神経を研ぎ済ます。
「無様に死ねええぇぇぇ!!!」
(ここだ!!)
怒猿の殺意と気配が極限にまで迫った。怒猿が攻撃の射程圏内に入った事を確信し怒猿が棍棒を振るうよりも遥かに速くありったけの想力を右足に込めた上段回し蹴り『星砕を怒猿の脳天へぶちかます。
ドゴォォォ!!!!!!
怒猿は蹴り飛ばされるがまま大きく聳え立つ大樹の根元へと叩きつけられる。
「ば、バカなぁ……俺がこんな貧弱で愚図なガキなんかにぃ……!」
怒猿は衝撃の余り意識を失いその場に倒れこむ。
「はぁ……はぁ……お、終わった」
駆も想力、肉体に限界が訪れ幻身を解除する。すると脱力からかぷつんと張り詰めた糸が切れたように倒れそうになるが琴音が実像化し駆をそっと抱き抱える。
「あ、ありがとう琴音ちゃん」
「~~~~っ!今のもう一回!名前、もう一回言ってください!」
「こ、琴音ちゃん」
「ん~~~っ!まだ足りない~~っ!もう一回!いや、もう百回読んでくださーい!」
「喉枯れちゃうよ」
嬉々として喜びを全面に出す琴音。完全に力を使い果たした駆はされるがままだが悪い気はしていなかった。
「あんた達のイチャつきっぷりは本当見てると胸焼けしそうだわ」
「まぁいいんじゃねーの。一皮剥けたって奴だろうしな」
気づけば意識を取り戻していた未萌奈と和斗が生暖かい目線で二人のイチャつきっぷりを見守っていた。
「ふ。二人とも目が覚めたんだ。良かったぁ」
「おかげさまでね。まずは護ってくれてありがと……それと今の状況を知りたい。そこら中に憎力の気配を感じるのはどういう事?」
「それは俺もわかんない。いきなりあのおっさんが現れてそしたら和斗の事連れ去ろうとしてて……」
「俺を?はっモテる男はつれぇな」
「とにかく緊急事態なのは間違いないっぽいわね。私達はそのハゲの身柄を拘束して本部へ向かいましょ。万が一暴れ出さないよう四肢の感覚は奪っとくから」
相変わらずおぞましい事言う女だなと駆と和斗は身に染みつつもその辺の蔦で怒猿を縛り上げ三人は昇斗達がいる本部へと動き始める。
――――――――――
各奏者達が突如現れた地下アイドル達からの襲撃を受け応戦している現状。
一方その頃先ほど藤野裕也との戦いにおいて負傷した楠原隼人は明らかな異変を察知しつつ警戒しながら一人単独で行動していた。
(憎力の気配がそこら中から感じる。一体何がどうなってんだ!?みんなは無事なのか!?)
一先ず騒音の元へ向かい誰かしらとの合流を試みる最中。上空に気配を感じ身構え目線を上へ向ける。
するとそこには仏頂面で隼人を見下ろす漆黒の衣に包まれた男が一人。そしてその顔には見覚えがあった。
目の前に現れた男はかつて同じアイドルユニットとして活動してきたかつての仲間であり隼人がアイドルを引退した原因を作った元凶でもある男、溺愛魔虞無であった。
過去の記憶が呼び覚まされ隼人の全身を悪寒が支配して一気に鳥肌が立つ。
「よぉ……久しぶりだなぁ……刹那」
「っ!お前は……!!」
―――― to be continued ――――
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