アイドル・インシデント〜偶像慈変〜

朱鷺羽処理

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第69話「攻略不能!?八卦占易の真髄」

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「次の一撃はこれまでの比じゃない。だらだらした戦闘は嫌いでね。ここで沈んでもらう」

風山漸ふうざんぜん

そう言って沐雨扇弓もくうせんきゅうから空を切る勢いで放たれた矢にはこれまでとは異なる風の力が宿されていた。
 当たれば細切れに成りかねない程の鋭利さに回避を試みるが身動きが取れないことに気付く。

 (なんだこれは!?根か!?)

 目線を落とすと木の根が地面から絡みつくように隼人の両足を拘束していた。
 疾風を宿した矢は猛スピードで隼人へ迫り行く。

「……くっ!!」

 友哉の風山漸が直撃する直前、容易にはこの根は振り解かないと判断した隼人は完全顕現し灯野優菜へ姿を変え、そのまま足元へ向けて高火力の熱波を放ち上空へ飛翔する事で回避に成功する。

「ここからは私がお相手しますっ!」

「女の子であっても手心は加えないよ。求めてもいないだろうけど」

 友哉は依然冷静に続け様に先程と同様に3本の矢を放つ。
 優菜は1本の矢を避け2本の矢を炎を纏った拳で薙ぎ払う。

「少陽」

 (っ……また!)

 その後3本の矢による同時攻撃が計4度行われる。その度に呟かれる意味深な単語の解読を隼人は内に潜む事でより冷静に的確に行っていた。

『少陰』

「え?」

 友哉が呟くよりも前に隼人は矢の結果から友哉の言の葉を言い当てた。

『あいつが意味深に呟いてる用語は全部で4種類。全弾当たれば老陰、外れれば老陽。1本当たれば少陰、2本なら少陽』

「そ、そうなんですか?」

「この短時間で的確に法則を読み解いた事は賞賛に値するがそれだけじゃ僕の八卦占易はっけせんえきは攻略できない。その程度の理解度では逆転の糸口には繋がらない」

 友哉の言う通りであり読み解いた情報も雀の涙程の後押しとしかなっていない為全く心的余裕には繋がらない。
 友哉の能力は未知且つ難解な謎が多すぎる故隼人でも突破口を見出すことが困難であった。

 (ただ火力で殴ってくる脳筋とは真逆……何かしら元ネタがあるっぽいけど全く見当がつかない……!わかってるのはあいつは3×6の矢を放つ攻撃の後、結果次第で法則性のある言葉を呟いていること。その意味深な言葉も全くピンとこない……攻め手に欠ける)

 思考する間も与えないとばかりに友哉は6撃目の矢を放つ。優菜はこれらを全て回避し次の一手に身構える。

「向かう所敵なし。これは……可哀想に、手痛い所では済まなそうだ」

「!?」

 瞬間沐雨扇弓もくうせんきゅうに備えられた矢に電光と業炎が猛々しく渦巻く。更に獰猛な牙が獲物を噛み砕かんとせん圧を放ちながら矢の先を渦巻いていた。
 誰がどう見ても理解できる。次の一手の絶大な破壊力を全身で感じ取った。

噬嗑ぜいこうは、とおる。ごくを用うるに利あり……火雷噬嗑からいぜいこう

 業火と豪雷を宿した屈強な牙を携えた一撃が優菜へ向けて放たれる。

 (さっきと違って拘束はないが規模がデカすぎる!避けれない!!受けるしかない!!)

 ドゴォォォォォォ!!!!!

 地面も衝撃のあまりに抉れ、木々が強風で波打つ中砂埃が舞いうっすらと友哉の視界に人影を捉える。

「……ぐふっ……っ!!」

 そこ血反吐を吐きながらボロボロになりながらも辛うじて立っているのは優菜ではなく隼人だった。
 隼人は火雷噬嗑が直撃する直前に完全顕現を解き自ら火雷噬嗑をありったけの力を持ってして受け止め切っていた。

「懸命な判断とは言えないな。何故完全顕現を解いた」

「……がっ……!!」

 立っていることすらままならない隼人は限界に達し片膝をつく。顔を見上げることすら苦痛なほど身体は限界に達していた。

「これが実戦だとしても同じ事を言うのかい?彼女のフル出力での一撃ならかなりの負傷はあれどここまでの大事には至らなかっただろうに。
 差し詰めアイドルが重傷を負う事が気がかりだったんだろう。君の甘ったるいその采配は奏者として正しい優しさとは言い難いな」

「……いちいちうるせぇな……お前は黙って見てられるのかよ」

「アイドルに対して必要以上に情を抱きすぎるのも考え物だよ紅城刹那。パートナーとして労わる事も大事だが時として非情さも戦場に於いては必要になってくる。
 まぁ君は奏者になって日が浅いからね。君の浅薄さを執拗に責めたりはしないさ」

「充分責めてると思うぜ……自覚なさそうだけどさ」

「まぁ気に病む必要はないよ。どう足掻いても君が僕に勝てる可能性は万に一つも無かったんだから……後は擦り傷でも加えれば終わりかな」

 地に伏す隼人へ向けて鳥内に備えられた刃が向けられる。隼人も抗おうとするが甚大なる負傷が故にぴくりとも力が入らない。
 意識が遠のきそうになる中隼人の内で優菜が声を荒げながら大丈夫ですか!?とひたすら訴えかけ続けている。
 自分の未熟さを憂いながらもとどめの刃が隼人へ振り下ろさようとしたその時。

 ズゴオオォッッ!!

 二太刀の斬撃が友哉を襲い咄嗟に友哉は回避し距離を取る。
 隼人の窮地に駆け付けたのは同チーム仲間である市導光也と石動聖愛であった。

「随分こっ酷くやられてんじゃねーか隼人」
 
「あ~あ~フルボッコじゃぁ~ん。紅城刹那のそんなだっさい姿見たくなかったなぁ~~」

「お、お前ら……」

 光也は想力を少し隼人へ分け与え、そのまま戦線離脱するよう促す。

「あいつの力は未知数だ。能力の謎を紐解かないと勝機はないぞ」

「まぁその辺は俺に任せて。あいつは同じ関西管轄なんである程度知識はあるから……大丈夫、今度は裏切りませんて」

「……って訳だ。ここからは俺達で相手してやる。文句ねぇよな」

「構わないよ。君達二人がかりだとしても到底僕に届く事はないからね」

 かくして隼人に代わり新鋭対中堅による2対1の戦いの火蓋が切って落とされた。

―――― to be continued ――――
 

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