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第68話「交わる太刀と大刀・未萌奈vs和斗」
しおりを挟む豪快に結牙を振るう和斗。身の丈を優に超える大刀を問答無用と言わんばかりに振るいその勢いから風圧が発生し未萌奈に攻撃の暇を与えない。
「随分がさつな剣ね。繊細さを微塵も感じない」
「だろうなぁ!言われ慣れたぜ!でもお前俺の剣が半端なさ過ぎて近づけねぇだろ!!」
結牙から発せられる一撃一撃は非常に強烈。加えて重々しい大刀から放たれた一撃にも関わらず次の攻撃に移る際に隙が生じない。
斬ろうとしているよりも力の塊その物が振るわれていると言っていい。
粗暴で雑な攻撃ではあるが直撃すれば十分致命傷になり得る。迂闊な接近は愚行。何かしら策を持ってして挑まなければ相手の攻撃を掻い潜る事はできない。
これまでも攻めに転じようとしたが巨大且つロングリーチの攻撃の前に何度か斬撃を受けてしまっていた。
(闇夜失闇は奏者相手だと相性が悪い……あいつを術中に嵌めたとしても完全顕現されたら逆に想力を使い果たしたこっちの隙を突かれる)
「あんまりレディーを傷つけたくはねぇんだ。俺がつえぇのはもうわかっただろ?ここらで辞めちゃわね?」
「断固拒否する」
完全顕現は奏者の内に宿るアイドルをこの世に顕現させる。完全顕現は奏者の肉体がアイドルである少女達の姿に移り変わるのではなく存在そのものが入れ替わる。
その時点で奏者に与えられていたダメージや状態異常は肉体の内側に引っ込んだ奏者自身に付随され完全顕現されたアイドルには引き継がれない。
一人が一時的に負傷や毒を負い戦闘不能となったとしてもアイドル因子を完全顕現させる事によって代打として戦闘が可能である。
(実質2対1のようなもの。でも関係ない。やってやる。その上で勝つ!!)
未萌奈は想力を捻出し無数の鴉を創造。空中から鴉の群れを和斗へ向けて放つ。
鴉の群衆が迫り来る中和斗は渋りながらも結牙へ想力を注ぎその刃から衝撃波を鴉の群れに向け放つ。
「無頼音淘!!」
ズゴオオォッッ!!
結牙から大振りながらも放たれた宙を這う斬撃が想力により実体化された鴉の群れを一掃する。だが一方で未萌奈の姿を見失ってしまう。
(消えた。まぁどう考えても攻めに来てるよな。上か背後か少なくとも俺の視覚ってのが普通だよな。ならなんにせよだ)
「豪転薙響!!」
未萌奈の位置を完全に把握したわけではない上で放ったのは渾身の力を込めての回転斬り。回転により生じた風圧により衝撃波が発生。その絶大な威力に大地が軋む。
「……いねぇ」
周囲を見渡すがそれでも未萌奈の姿は見当たらない。口振りや態度から逃亡する事は考えにくい。
未萌奈自身遠距離からの攻撃手段も乏しい事から距離を取ったとも考えにくいと隈なく未萌奈の気配を探るが全く居場所が特定できない。
(ま、まじでいねええぇぇぇ!!まさか本当に逃げたのか!?超優勢に格好良く立ち回れてたってのによぉ!)
相手の思いもよらぬ行動に情緒が掻き乱される。上空、死角、物陰どこを見渡しても未萌奈の姿は見当たらない。
「まぁしゃーねぇか。……うし、切り替えてこ」
自分の強さを誇示することも撃破することも叶わず落胆する和斗。仕方ないかとこの場を去ろうとした瞬間。地面に空いた穴から1匹の鴉が勢い良く飛び出してくる。
「っ!?」
その鴉は瞬く間に未萌奈へと変化する。未萌奈は鴉の群れを発生させた際に自らも鴉へと擬態。
和斗が駆けつけた際に結牙により作られた穴は身を潜め、攻めに転ずる気を狙っていた。続け様に漆黒の太刀。『黒鴉』を標的に向けて構える。
和斗も負けじと結牙で対抗しようとするも右腕がまともに動かなくなっている事に気づく。
「ちょっ!なんだよこれぇ!?」
「ぷち闇夜失闇。右腕verってとこかな」
『罰羽』
鴉の羽を飛び道具として敵目掛けて放つ中距離技。ダメージ量は少なく致命傷を与える事は出来ないが未萌奈の想力を持続的に注ぎ続けることが出来る。
闇夜失闇の使用条件は私の想力を一定数注入する事。
五感全てを奪う規模での闇夜失闇は完全顕現により帳消しにされる恐れがあった為、痛みを最小限に教えた罰羽を交戦の際に仕込ませていた。
蚊にでも刺されたか程度の痛みにより和斗は罰羽を認識できずまんまと未萌奈の術中にハマってしまっていた。
だが和斗にも曲がりなりにも奏者として戦い続け磨き上げてきた日々がある。この程度でみすみすやられるような男ではなかった。
「片腕だろうがやってやる!みっともなかろうが足掻いてやんぜえぇぇ!!」
和斗は左腕と気合い、そして根性で大刀、結牙を振るい二人の刃が交差する。
甲高い金切り音を発しながら拮抗する刃。和斗も圧倒的不利であるにも関わらず両者一歩も引けを取らない中。
ザシュッッ!!
両者の意地がぶつかり合う中刃通しは離れ、瞬間血飛沫が舞う。
「……ぁぁ……畜生……負けちまったよ……だせぇなぁ……」
ドサッ
渾身の力のぶつかり合いを制し一太刀加えたのは未萌奈であった。和斗は未萌奈の強力な一撃の前に地面に倒れ込む。
「まずは一勝……」
そう呟くと未萌奈の幻装は解除されそのまま地面に横たわる。激闘の末に未萌奈も大きく疲弊してしまっておりそのまま和斗と共に気絶してしまった。
――――――――――
同日 想武島 9:15分
一方その頃隼人は友哉の沐雨扇弓の前に劣勢を強いられていた。
未だに謎が解けない友哉の固有能力の打開策を見出せぬまま隼人へ六度目の矢が放たれる。
ザッ!!
緩急をつけてスピードが逐一変わる弓の前に翻弄される隼人。1本の矢をなんとか撃ち落とすが2本の矢を頬に掠めてしまう。
「少陽」
(くっ……2本当たっちまった!)
「これで上卦も完成した……チェックメイトだよ紅城刹那。僕の八卦占易の前に君はなす術もなく敗北する」
―――― to be continued ――――
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