アイドル・インシデント〜偶像慈変〜

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第64話「インターバル・地獄のマラソンを終えて」

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 2023年 8月2日 2:00分 想武島 中央区域

 輝世達樹ら五番隊は惜しくも合格ラインには乗ること叶わなかった。宿泊施設は使えず野宿を強いられた達樹達は宿泊できない以上特に断る理由も無いため理玖達の誘いに乗ることにし一向は想武島の密林区域を掻き分けある程度開けた中央区域まで到達。
 せっかくのキャンプなら一緒に楽しみたいと各自奏者は己に宿るアイドル因子達を実像化させ、アイドル達と共にキャンプの準備や寝床の制作に取り掛かる。
 群れるのは嫌いだと早々に立ち去っていった宗治を追い十一番隊の三人は離脱したが食糧調達班が戻ってきた事で魚を炙りながら本格的にキャンプが始まる。

「感動的な光景だよ都姫ちゃん!君のためにこんなに大勢の人が集まってくれたよ」

「それはとっても嬉しいんですけど……あのあの!」

 折笠都姫はとても申し訳なさそうに眉をひそめながら達樹達へ向かいその心内を語る。

「さっきは理玖さん達が邪魔しちゃってすいませんっ。いつも私のためならって言ってすぐ暴走しちゃうんです……」

 都姫の健気に謝る様に居た堪れなく居た堪れなくなった達樹は気にしないでと優しくフォローする。

「こらこら都姫ちゃん。その言い方だとまるで僕達が悪いことをしたみたいじゃないか」

「悪い事してますよ十分っ!龍二さんも!マラソンそっちのけで喧嘩してたって聞きましたよ!」

 都姫の怒りの矛先が龍二にも向けられる。一切気に留めず食事へ貪りついていた龍二はやるせない表情を浮かべて言い訳混じりの反論をする。

「どんだけ走っても一瞬で戻されちまうしよ……なんつーか、開き直たと言うか」

「龍二にはこの手の繊細な事は絶対出来ねぇだろうしあたしは鼻から期待してなかったけどな」

 そう語るのは宮守龍二の内に宿るアイドル因子。冴島耀。金髪ショートヘアの少女であり市導光也の内に宿るアイドル因子こと桐咲瑠璃華と同一の世界からこの世界にやって来ている。

「へっへっ……だそうだぜ!」

「なんで自慢げなんですか!」

 堂々と全く悪びれた様子もなく開き直る呆れる龍二を見ていつもの事ではあるが都姫は全くもうとやや呆れてしまう。

「まぁこれからも一緒に戦ってく仲なんだし軽く自己紹介でもしちゃおうや。俺は二番隊不破賢人。イケてるものが好き。横にいるビューティーお姉さんは瀬川菜緒って言ってめちゃくちゃイケてるお姉さんだ」

「色々何回も言いすぎよ!」

 瀬川菜緒。昨今の覚醒者としては珍しく最愛恋ら隊長格に宿る東城明日香達と同一の世界から来たアイドルである。光也達と同じく雷の力を大槌に宿し戦う。

「明日香ちゃん達の世界から来たアイドルって珍しいのか?」

 達樹のふと浮かんだ疑問に賢人が答える。

「珍しいというより大半は5年以上前に覚醒してる傾向が大半を占めてるんだって。今の俺達みたいに覚醒したらどの世界から来たアイドルなのかーっていちいち検証する必要がないくらい菜緒ちゃん達の世界のアイドルに偏ってたらしい」

「巽隊長が言ってたぜ!俺達は第三世代だってな!」

 唐突に咀嚼中の食べカスを撒き散らしたから発言する八番隊隊員姫村和斗。

「汚いもん飛ばすな」

「おぐっ!!」

 同じく八番隊隊員の石動聖愛による怒りの裏拳が和斗の顔面に激突する。
 一瞬たじろいだ後すぐさま聖愛へガンを飛ばしまくる和斗を八番隊隊員。荒木詩亜が内気な性格であるにも関わらずおどおどしながらも仲裁に入り事は荒げずに済んだ。

「そんな睨むなって隼人。俺達が険悪だと優菜ちゃんも悲しむよ?」

「僕は君の余りの下劣さにとても心を痛めてるけどね」

 横目に聖愛を非難するこじんまりとした中に凛々しさも感じさせる片目を隠したヘアスタイルの少女は石動聖愛に宿るライア・ソルシェール。この中では最年少となり中学三年生の代である。そんなライアに対し「ガキはだまっちょれ」としなやかにあしらう。

「お前が唐突に裏切ったからだろ。サイコなのかって思ったねあれは」

「それはほら~万が一間に合わなかった時が怖くってさ?少しでも順位上になりたかったのよ。肌のケアとか毎日欠かさずやってるから野宿はマジ勘弁だったし……虫とかも多そうだしさ」

「一日くらい何もしなくても変わりゃしないだろうが」

「もお~その油断が美貌の劣化を速めるんだよ!アイドル辞めたからって美意識下がりすぎじゃない?」

「へ?アイドル?隼人アイドルだったの?」

「ん?……あれ?言ってなかったの?」

 達樹も光也は初めて聞いた衝撃の事実につい聞き返してしまう。
 違和感はあった。アイドル知識が豊富の咲弓が幾度となく隼人に対して見た事があると言っていた事や、Delight以外の芸能事務所に訪れる際にどことなく素顔を隠すようなそぶりがちらほら見てとれた。
 隼人自身も自分から公にするタイプではない事もあり、思い返せば隼人の過去を二人はほとんど知らない。この事実を知っているのは五番隊の隊員だと優菜一人だけだった。
 
「……別に隠してた訳じゃない。長い期間してた訳でもないし、メジャーデビューしてた訳でもない。わざわざ言う必要も無いと思ったから言わなかっただけだ」

「……そ、そうか」

 そう語る隼人の目はどこかもの悲しそうだった。
 興味本位に適当で迂闊な質問はしてはいけない。彼の心を無闇に傷つける事になりかねないからと良心がそう訴えて来た。
 達樹達はそのまま詮索する事はせず場の空気が凍てつく。
 盛大にやらかしてしまったと聖愛は思わぬ所で暴発させてしまった地雷に冷や汗をかく中小声でライアに詰められ続ける。
 そんな冷え切った空気をぶち壊したのは三番隊の女抗者。尾道ミーシャだった。

「ダメよみんな!せっかくこんなに集まってるんだもの暗いムードでいちゃ勿体ないわ!ここは未来のスーパーアイドルこと尾道ミーシャが落ち込んだ貴方にエールを込めて歌を歌ってあげる!」

「いや、別に落ち込んではないよ」

「なっ!やめろバカ!もっと変な空気になるから!」
 
「ミーシャ殿。拙者、華ノCageの『お前はもう萌え死んでいる』リクエストしてよろしか?」

「勿論!構わないわ!」

「卓夫!てめぇもそそのかすんじゃねぇ!」

 あいつツッコミポジションだったのかと達樹は三番隊の全体の色を鑑みた上で烈矢の心労を労い同情してしまう。

 気が付けば場の空気はすっかり和み、和気藹々とした語り場となっていた。

 そんな中、夜も更け眠りに着こうとした所に茂みの奥からラフな格好の恋と一海の二人が現れる。

「楽しくやってるみたいだな若人の諸君」

「恋さん!こんな時間にどうしたんすか」

「明日の説明を説明しにきた。めちゃんこ眠いから迅速に且つ簡潔に説明する」

 恋、一海の口から明日の第二プログラムの実施内容が明かされる。

「第二プログラムは一言で例えるなら……将棋だ」

 ―――― to be continued ――――
 
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