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第63話「第一プログラム終了!疾走せよ奏者達」
しおりを挟む同日 想武島 23時45分 90km地点
幾度となくおばちゃんアンドロイドに捕縛され投げ飛ばされ続けて来た達樹と烈矢も終了15分前にていよいよ90km地点まで辿り着いていた。
「山ほど投げられまくって来たがいよいよクライマックスだぜ達樹ぃ!!莉乃かわ莉乃かわ!気合い入れてけぇ!!」
「はまち鯛まぐろえんがわ蛸芽ねぎぃ!!」
「どんだけ寿司が食いてぇんだてめぇはよぉ!!」
無心の末の成功率も高くなって来ており順調に進めば間に合う。だが焦りこそが進む意志を何より全面に押し出す事となる。
必死に込み上がってくる焦りを抑え込みつつもあくまでこれまでと同じように衝突し合いゴールへ向けて突き進む。
その最中後方から激しい叫び声を上げながら迫り来る男達の姿があった。
後方から迫る二人組は互いに攻撃し合う事をやめ達樹達へ襲いかかる。
ギィッ!!
達樹達は力のぶつけ合いを中断し両者迫り来る攻撃を受け止める互いに距離を取る。
「そんなに急いでどこへ行くんだい?二人とも」
「いやぁ……そりゃゴールだろ」
馬鹿げた質問を皇子のような振る舞いで投げかける青髪の男を呆れた顔で気だるげにツッコむ男は前髪をくくり俗っぽい所謂ギャル男のような見た目をしている。
彼らは龍二と同じく二番隊隊員。柳楽理玖、不破賢人。
「あんたは都姫ちゃんの!」
達樹の目線は一騎へ向けられている。明らかに顔見知りである反応を見て烈矢が達樹へと問う。
「知り合いか?」
「ちょっと前に一度だけ会った事がある。大我の知り合いだって聞いたから」
合宿の手前。達樹を含む新鋭奏者達は同一世界線からのアイドルを備えた奏者達とあらかた接触している。
同一世界の戦友との接触は異世界転移の影響で朧げとなっている従来の力を取り戻すことへ繋がり何より彼女達アイドルの心的保養にも繋がる。
「盛り上がっていたところ割って入って申し訳ない。君達に一つお願いしたくてね」
理玖が口を開く。
「お願い?」
「このままゴールしないでもらえないかな?」
余りにもとち狂った提案に一瞬二人の思考が固まる。
やっとの思いで満身創痍になりながらも死に物狂いになりながらもゴール目前まで辿り着いた。
そんな不可解な提案に乗る訳はなく烈矢は受け入れる気はさらさら無いながらも返答する。
「一応理由は聞いてやるよ」
「都姫ちゃんはお嬢様だからね。キャンプという物をした事がないらしい。憧れだったと言ってる。僕はその憧れを叶えてあげたいんだ」
「別に今じゃなくていいだろ!」
「いやダメだ。今を逃すと別の物にきっと興味が湧いている。時間は有限にも関わらず人の欲望には限りがない。今この瞬間に抱いている彼女の好奇心を無碍にはしたくないんだ」
「そもそも間に合わなくても野宿ってだけだぜ。それくらい別に良くねぇ?無人島サバイバルみたいで楽しそうじゃん。親睦も深まりそうだし」
これは昇級のかかった試験でもなければ失格すれば命を落とすといったデメリットがある訳ではなく処罰も人によっては軽い物。故にこういった罰をむしろ好意的に受け取る人種も出てくる。
「俺たちは今そういう気分じゃない。それでも強制すんのか」
「強制は良くない。気乗りせず参加されても都姫ちゃんが悲しんでしまう。それは良くない。だから……」
「僕達の力を全身全霊で感じてもらう事で納得してもらう事としよう」
理玖の手元に大型の槍斧、賢人の手元に大槌が現れ臨戦態勢に入る。
「結局無理やりじゃねぇか!」
「来るぞ!!」
達樹、烈矢は幻身、幻装をし向かってくる理玖の攻撃を達樹が、賢人の攻撃を烈矢が受け止める。丁度残り時間は10分を切る。
ギギィィ!!
理玖の槍斧。ガルディオールの斧部による振り下ろしを達樹へ向けて放つ。達樹は片手で受け止めてもう片方の腕で反撃を試みたが片腕では防ぎきれないと咄嗟に判断し両腕で受け止める。
「ナイス判断だ……流石は同胞といったところかな」
「ぐっ……!!」
(力がとんでもねぇぞ……!!少しでも気緩めたら両腕とも持ってかれそうだ!!)
理玖の武装顕現により現れる大型の槍斧。一般的にはハルバードと呼ばれるこの武器は多用途性に富んでおりリーチの長さもさることながら斬撃、刺突を得意とする。
「ぐぐぐっ……!!ぅらぁっ!!」
地面へと捩じ込まれそうになりながらも何とか抗い力任せにガルディオールを振り退ける。
一瞬のみでも生み出したこの隙を利用して威力よりも空圧に特化したゲイルインパクトを打ち込もうと右拳に想力を込める……も寸前で持ち直されロングリーチの薙ぎ払いにより阻止され思うように自分のペースへ持ち込む事が出来ない。
烈矢も賢人が振るう巨大なハンマー『轟豪怒の圧倒的破壊力の前に苦戦していた。
(烈矢もすぐには終わりそうにねぇぞ。二人とも喧嘩売ってくるだけはある……!数分で片付けられる相手じゃねぇ!)
目の前の敵との戦いに専念するのは今置かれている状況を鑑みるに最適な答えではない。中途半端な心持ちで理玖たちに付き合いタイムアップになってしまったらきっとやるせ無い心情になる。達樹にとってそれは避けたい事だった。
理玖達の目的は残りの10分弱ここに達樹達を留まらせてタイムアップさせようという物。下手に先ほどの進み方を行おうとすると容易に勘付かれてしまう。
無論先ほどの龍二同様ニ番隊の好戦的な振る舞いを考えると純粋に戦いを楽しんでもいるだろう。ここから導き出される結論は。
(本気で向き合ってるという姿勢を見せつつ、絶好のタイミングで相手の攻撃に合わせて一気に距離を突き放す。烈矢も同じ事を考えてるはずだ)
こちらも全身全霊で戦っているという意志は持ち合わせていなければならない。彼らの相手をするだけで手一杯でゴールする事など頭には無いと思わせるくらいの気迫が必要となる。
(本当の心内は悟らせないように隠した上で、それをも勝る意志を示し続けなきゃいけない……ここまで来たんだ。やり切ってやる!)
達樹達はゴールする事を念頭に置きつつ全力全開の力を解放し理玖達へ挑む。
死に物狂いで立ち向かい戦いへの意志を示し続ける。いつか来る好機を信じて。
血飛沫が舞う浜辺の戦いも激化していき時刻は23:55分を切る。
(ぐうぅぅ!!時間がねぇ……!!ゴールは見えてるってのにあと一歩が足りねぇ!!)
敢えての後退や攻撃の誘導を利用して直線上にゴールを捉える位置まで辿り着いた達樹達。だがゴール目前まで距離を縮めていることは理玖達も当然認識している。
「僕達をここまで誘導して来たことは褒めてあげよう。少々熱が入りすぎたみたいだ。だがここからはそう上手く事は運ばせないよ」
両者共ゴールは目先に捉えた。もう敵の心理を欺く小細工は不要。残された道はただ一瞬の隙を見逃さず爆進するのみ。
(とんずらここうとしても目的がバレバレな以上考えなしに突っ走った所で簡単に阻止される。
無心でいちかばちかで衝撃波の勢いで進もうとしてもここまで時間がないとなるとリスクが高すぎる……考えろ……何か手は必ずあるはずだ!)
考えてる間にも理玖達は猛攻を止めない。時間は刻一刻と過ぎていく。
「おらおら時間ねぇよぉ!?大人しく俺らとガチンコバトルしてた方がいいんじゃねぇ!?」
「うるせぇ!!十分すぎる程ガチンコでやってんだろうがクソアホ陽キャ共がぁ!!」
烈矢の怒号が飛ぶ中時刻は23:58分。規定時間まで1分を切る。
理玖、賢人は一切の隙を見せず達樹達と一定の距離感を守り続ける。
そんな危機的状況の中後方が騒がしい。達樹にとって聞き覚えのある男達の声が聞こえてくる。
「またなんかバトってるやついるよ!こんなゴール目前なのにさ!頭おかしいでしょ完全にいいぃぃぃ!!3.1415926535おおぉぉぉ!!!」
「生き抜け~この戦国乱世おおぉぉぉ一騎当千の勝ち鬨を上げろおぉぉ!!むむ!?あれは達樹殿と烈矢殿!?」
後方から迫って来るのは推しのアイドルソングを熱唱しながら互いに力をぶつけ合い向かってくる寺田卓夫とひたすら円周率を唱え続けている星空駆であった。
「卓夫!駆!」
「君達も招待してあげよう!優雅なティーパーティーへとね!!」
ガルディオールの矛先が卓夫達へも向けられる。だが達樹から完全にターゲットが移行したわけでは無い。
生半可に戦線離脱を試みても容易に阻止される事は想定できた。それだけ相手の視野と行動範囲は広大。
理玖はその自らのポテンシャルをフルで活かし並行して卓夫達をも足止めしようと考えていた。
だが人間誰しも気を向ける人数には限界がある。確実に先ほどまでと比べると注意は散漫となり隙はつきやすくなっている。
(土壇場ってやつだ!考えろ!何か策を!!)
達樹は極限に思考を研ぎ澄ませる矢先降りて来た天啓。だが成功には協力者の存在が必要不可欠。だが代案を考える暇もない。即座に行動に移す。
「烈矢走れえぇぇ!!」
「っ!?」
突然の敵前逃亡の指示。だがその迫真の叫びと形相から何かしらの意図があると受け取る。
賢人を蹴り飛ばしゴールへ向けて両者走り出す。
「考えなしの愚策……逃す訳がないだろう!」
「考えなしじゃねぇよ!!」
達樹と烈矢はフル出力の想力を脚に宿しゴール目掛けて一直線に駆ける。その一点にのみ絞り想力を注いだ。
これ以上なく移動のために割かれた想力に反応してムキムキマッチョおばちゃん投型が達樹達を捕縛するべく襲いかかる。
(来た!!研ぎ澄ませ!集中しろ!……絶対に捕まるな!!)
刹那の一瞬。息を整え集中する。迫り来るおばちゃんアンドロイドの動きを限界ギリギリまで目で捉え続け寸前ですり抜けるように回避。
終盤の土壇場にて極限に追い込まれた精神力の末、初めておばちゃんアンドロイドを出し抜く事に成功する。
「続きはこのおばはんが受けて立つってよ!!」
両者は理玖達へ押し付けるかのようにおばちゃんアンドロイドを理玖達へ向けて蹴り飛ばす。咄嗟の出来事に理玖達へおばちゃんアンドロイドが直撃し数秒の隙を作り出す事に成功する。
だが完全に破壊しない限り想力を使い走り続ける達樹達からターゲットが変わることはない。他のおばちゃんアンドロイド達も達樹達へ向けて襲いかかる。
「俺達の動きは止められただろうが根本の解決にはなってないなぁ。数の暴力ですぐに投げ飛ばされるぞ」
賢人の言う通り大量に襲いかかるおばちゃんアンドロイドの前二人は敢えなく捕縛され後方へ向けて投げ飛ばされる。
「ほら言わんこっちゃない」
「……いや、賢人待て。まずい!後方には至近距離に!」
「卓夫おおおぉぉぉ!!!!駆ううぅぅぅ!!!」
「!……なるほど完全に理解しましたぞ達樹殿の考え!!駆殿!達樹殿達が飛んでくる方向目掛けて飛んでください!迎撃します!!」
「きーーっ!!ミスっても文句言うなよ絶対!!」
卓夫は達樹の思惑を理解し駆と共に飛翔する。
達樹の思惑はおばちゃんアンドロイドに投げ飛ばされる動線上で卓夫と駆と接触し、互いの想力を衝突させその勢いのままゴール目掛けて突き進もうと言うものであった。
四人は想力をそれぞれ拳、己の武装へ注ぎ込みその強大な力は衝突し合う。
達樹と烈矢は二人をぶちのめすイメージを強く持ち力を振るい二人はゴール先の地面へ叩きつけるというイメージを持ち力を振るう。
その結果達樹と烈矢の二人はゴール方向目掛けて豪速球の如く猛スピードで進む事に成功する。
ゴール目掛けて飛ばされる最中、烈矢は起重機腕を展開し後方へ吹き飛ばされる卓夫と駆をクレーン状の腕で捕まえる。
「ナイスキャッチですぞ烈矢殿ぉ!!」
「このまま突っ切れええぇぇ!!!」
ドゴォォォォォン!!!
ゴール地点を示すフィニッシュテープを大幅に超過した地点に激しい爆音と共に4人は着弾する。
「な、なんとか……間に合いましたかな……」
「時間は!?」
達樹の必死な確認にゴール地点で待機していた十番隊隊長。成瀬博也が答える。
「時刻はたった今0時を刻んだ。ギリギリだったなお前ら」
四人はほっと安堵の息を吐き脱力の末その場へ倒れ込む。
「達成感に満ち溢れてるとこ悪いけどお前らこのマラソンはただ時間内にゴールすりゃいいって訳じゃないって事覚えてるか」
「あ!!」
「確か6位以内に入らないといけねぇんだったな」
四人の空気感は一変、一気に不安と心配が込み上げてくる中博也か口を開く。
「ゴールが同率で複数存在した場合最もゴールした人数の多い隊が優先される。よって本プログラムの6位入賞隊は三人全員が時間内にゴールした一番隊とする」
「いよっしゃああぁぁ!!!信じてましたよ先輩方あああぁぁぁぁ!!!」
狂喜の雄叫びを上げる駆。釈然としない達樹達。烈矢が同隊の仲間である尾道ミーシャに関して博也へ現状を問いかける。
「み、ミーシャはゴールしてねぇのか!?」
「してない。ついでにいうと五番隊はお前しかゴールしてない」
「なっ!?嘘だろおいいいぃぃぃぃ!!!!」
少し遅れて理玖も龍二が静かにゴールイン。達樹達へ歩み寄る。
「さぁ寝てる暇はないよ君達。楽しいパーティーの始まりさ」
「「う、うるせえええぇぇぇぇ!!!!」」
達樹達の阿鼻叫喚が飛び交う中猛然たる第一プログラムはこうして幕を閉じる事になった。
―――― to be continued ーーーー
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