アイドル・インシデント〜偶像慈変〜

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第45話「捜索開始!野々原圭太と接触せよ」

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2023年 6月3日(土) エンゲージ事務所 レッスンルーム

 本来バラエティ番組への出演の予定だったシャインアンシェールの面々は敢えなくキャンセルせざるおえなくなった事から目前と迫った新曲お披露目ライブの自主練に励んでいた。

 目の前で初めて真剣かつ懸命にレッスンに勤しむ幼馴染の姿を見た達樹は素直に感心していた。

 (別人レベルで歌もダンスも上手くなってる……)

 以前達樹はアイドル活動を始める前に莉乃とはカラオケに行った事があった。
 その時以降まともに莉乃の歌を聞いたことがなかったが余りの上達ぶりに耳を疑った。
 身体能力やダンスのセンスも体育の時間を見るに人並みだったはずだがそこらの一般人とは一線を画すレベルに見えた。

「園華ちゃん。さっきのステップちょっとだけズレてたから気持ちワンテンポ早めにって意識したら丁度合うと思う」

「やっぱりそうだよね。うぅ~~ここのリズム苦手だなぁ」

「ちょっとクセがあって難しいけど頑張ろっ!何回かやればきっと出来るようになるよ!」

「あっ莉乃!そういえばここの演出の事で聞きたい事があるんですけど時間いいですか?」

「もちろん!どうしたの?」

 莉乃は三人をまとめるリーダー兼センターとして抜粋されているらしい。
 あまり積極的に人の前に立つ事をするような人間では無かった為、達樹は莉乃の精神面での成長も間近で実感した。

「見惚れちゃってんじゃん」

「は!?み、見惚れてねぇよ……」

 後半の声量が著しく小さくなり完全に否定しきれない達樹。
 莉乃達三人のアイドルとしての技量は認めざる終えなかった。

「まぁ確かに相当なクオリティだと思うよ。しかもデビューして半年ちょっとなんでしょ?学業と兼任してここまで仕上げれるのは中々出来る事じゃない」

 現在この場にいるのはシャインアンシェールの三人と達樹、隼人。
 交代制で二人が護衛の為莉乃達に付き添い、一人は野々原圭太の捜索兼パトロールへ出向くという手法を取っていた。
 そうしてる間に昼飯時になりレッスンを一旦切り上げ食堂へ向かう。
 光也も一旦戻り全員揃った事で昼食を食べ始める。

「何か収穫はあったか?」

「ある程度聞き込みはしたが圭太ってやつの態度がおかしいのは莉乃達に対してだけじゃないらしい。オタク仲間に対しても自然な会話がろくに出来ないとか……最近は学校もろくに行けてないんだとよ」

「そこまでの域となると憎愚絡みと見ていいよな」

「ぞぐ?」

「おまっ!!」

「えっ?……あっ」

 達樹はつい口を溢してしまうが隼人と光也二人でなんとかこの場を誤魔化しきった。
 憎愚の存在は前提として一般人には秘匿。例外として憎愚の存在を認識しつつ芸能活動に及ぶ人間も僅かにはいるがその数は全体の1割にも満たない。
 達樹は二人に謝罪のレクチャーをしつつ二人は重めのため息を吐く。
 一息ついた所に隼人は一人の視線を感じる。

「どうしたの咲弓ちゃん。俺になんか付いてる?」

「いえ、そう言う訳ではないんですが……どこかで見た事ある気がして……」

「あははっ。気のせいじゃないかな?俺はただのしがないごく普通の一般人だよ」

「むむ。そうですか……」

 膨れ上がり続ける既視感を拭いきれないまま会話は別の内容へと移り変わり達樹が莉乃達へ問う。

「明日の新曲お披露目ライブは予定通りするんだよな?」

「うん。この日のために頑張ってきたんだもん!」

「それまでに圭太って奴の身柄を拘束できればいいが、間に合わなかったら俺達で会場周りを厳重警戒って感じだな」

「身柄を拘束って……!その、暴力とかは極力やめてあげてね?」

 自分が殺されそうになってるにも関わらずそんな相手すらも思いやる莉乃に対して完全に了承はしきれないという意味を込めて返す。

「あぁ、な」

 食べ始めて30分弱。全員が食べ終わり達樹が席を立つ。

「それじゃ次は俺の番だな。ちょっくら行ってくるぜ」

 そう言い残して達樹は去っていく。
 莉乃達は引き続き明日の新曲お披露目ライブに向けて練習を再開した。

 ――――――――――
同日 東京都内 原宿 15:30分

 達樹は寺田卓夫を探す時と同様のやり方でアイドルがライブしている会場をしらみ潰しに憎愚退治をしながら巡っていた。

「うーん。やっぱそう簡単に見つかる訳ねぇか」

 この前は一発目でドンピシャだったが一向に見つかる気配はない。
 野々原圭太周辺のオタク仲間は先ほど光也により身辺調査、聞き込みは済んでいる。

『達樹さんっこう言う時は気持ちのリセットが大事です!ほらほら!丁度あんな所に美味しそうなスイーツを新発売してるコンビニがありますよ!』

「大我が食べてみたいだけだろ……まぁでもアリだな」

 軽く飲み物と新スイーツとやらを見てみようと一息つく為コンビニへと入店する。
 すると前方にレジで会計中の男性客に気がつく。全体的に痩せ細ってこそいるが目の前にいる彼こそ今現在進行形で探している人間。野々原圭太であった。

「あーーっ!!!」

 余りにも突然の邂逅に店内ということも忘れ大声を上げてしまう。その奇行に困惑し怯える圭太。

「ひっ!な、なんですか……」

「あっいやすいません。野々原圭太さんですよね?」

「えっ……そうですけど……どちらさまですか?」

 達樹はこういう時の際に便利だと言うことで予め受け取っていたDelightの社員証を見せる。すると見るからに顔色を悪くする圭太。

「でぃ、Delightの人!?」

 一目散に走って逃げ去ろうとする圭太。達樹は即座に走り去ろうとする圭太の腕を掴み動きを止める。

「す、すすすすいません!!悪気があった訳じゃなくって!俺もなんでこんな事したかわかんないって言うか!むしろ助けて欲しいって言うかぁ!!」

「わ、わかった。とりあえず外で話聞かせてください」

 店外に出て二人はベンチへと腰掛ける。達樹は傷付ける意思はない事を伝えてこれまでの経緯を聞く事にする。

「一ヶ月経つか経たないかくらいの時期かな。シャインアンシェールのライブ終わりに一人で帰ってる時に急に知らない男が現れたんだ。でいきなり『お前、推しに嫌われてるぞ』っていきなり訳わからない事言われて」

(完全に不審者じゃねぇか……)

「それから俺の意思に反して訳わからない言動を口にするようになった。さっきもまた見た事ない廃墟みたいなとこにいたし……最近は特に酷くて意識が無い時に好き勝手やられたりしてて、挙げ句の果てには殺害予告なんて……!俺がそんな事する訳ないのに……!!」

 圭太の苦悶の表情から彼の感情がひしひしと伝わってくる。
 彼に悪意はない。彼は自分の過ちを執拗に悔いていた。莉乃が思ったいた通り人を思いやる事のできる心優しい人間であると振る舞いを見て達樹はそう感じ取った。
 そして密かに真横まで接近しているからこそ感じ取れる微弱な憎力。
 
(この憎愚は内在型って奴だな。けいちゃんの時と同じだ。
 あの時は引っぺがして対応したけど……このレベルなら今対処出来る!)

「今から多少ファンタジーな物見せるかもしんねぇけど……誰にも言わないって約束できるか?」

「えっ?よくわからないけど言って欲しくないなら言わないよ」

「よしっ」

 達樹は己の身体を譲り渡し、春風大我を完全顕現させる。
 圭太が瞬きをし目を開くと達樹の姿は一瞬にして大我へと変化していた。

「えっ!?誰!?さっきの男の人は!?」

「細かい事は気にしないで大丈夫です!……ちょっとくすぐったいですよ」

「へっ?」

 大我が圭太へ手のひらを向けると優しいそよ風が圭太を包む。次第に圭太の中にある憎力は浄化され消滅していった。
 大我は任務完了です!と言い残して完全顕現を解き達樹の内へと戻って行く。

「これでもう奇行に走る事は無くなると思うぜ。何をしたかとかはあんま聞かないでくれ。上手く説明出来る気がしないから」

 大我による『ヒーリングウィンド』を受け彼の内に在った憎力は浄化された。
 呪縛から解き放たれ解放感に満ち溢れている圭太は身体が軽くなったようだと心の底から喜んでいた。
 達樹は野々原圭太と接触した旨ともう莉乃達を襲う心配は無い。新曲ライブの決行は問題ないと電話で隼人達に伝える。

「さて、任務完了ってとこだけど……」

 (圭太を憎愚にした奴が接触してくる可能性があるよな。明日以降は別の人に身辺保護は任せるとして、今日は俺がこのまま付き添っといた方がいいか)

「圭太をおかしくした奴がまた来るかもしれねぇからさ。今晩だけ一緒に居てもらってもいいか?」

「そんなのむしろこっちからお願いしたいくらいだよ。あんたは恩人だしね。ちょっと部屋は狭いかもだけど」

「あぁいいよ。俺枕だけあれば寝れるから」

「枕に拘るタイプぅ?布団とかじゃなくって?」

「あぁ結構言われんだけど枕めっちゃ気にするタイプでさ。
 ずっと使ってたらぺちゃんこになる枕あるじゃん?あれすげぇ苦手なんだよな。ある程度の高さがないと寝れなくて最悪枕二重に折ったりもするな」
 
「もうそれ専用の枕作ってもらった方がいいだろ」

「だよな!今年の誕プレは割と本気で枕が良いかもしれねぇ」

 そんな他愛のない会話を弾ませながら圭太の自宅へ向けて足を進めて行く。談笑し合い仲睦まじく会話する二人の間柄は少しずつ縮まり続けていた。

 ――――――――――
同日 東京某所 路地裏 16:00分

「……浄化されたか」

 都心部からは人里離れた東京都内。人気の少ない路地裏で人肉を食いちぎりながら悲哀が呟く。

「一手間増えたがまぁいい。むしろ好都合。料理ってのは手間暇かけて時間をかければかけるほど熟成されて美味くなるもんだ」

 ―――― to be continued ――――

 
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