アイドル・インシデント〜偶像慈変〜

朱鷺羽処理

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第43話「緊急任務発生!幼馴染への殺害予告」

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 「強化合宿ぅ?」

 放課後最愛恋によりDelightに強制拉致されて来た輝世達樹、市導光也、楠原隼人。
 そんな三人に告げられたのは8月頭に開催される強化合宿の一件であった。

「そ。全国各地の腕の立つルーキー達を集めて合同訓練するの。嬉しいでしょ?」

「嬉しいっていうか訓練っても内容もわかんねぇし」

「そんなもん殴り合い蹴り合いボコし合いよ」

 いつも通りまともに説明する気のない適当さに呆れつつも聞く三人を機に止める事なく恋は続ける。

「この件は全員に知れ渡ってるはず。優秀な成績を残した人にはそれ相応の報酬もあるみたいだし……俺達『憎愚特化戦力部隊五番隊』も張り切って行きましょう」

「??ごばん?……なんて?」

 聞き覚えのない用語につい達樹が疑問の言葉を発する。
 脳内の整理が追いつかなく三人の頭上には?マークが浮かんでいる。

「あれ?言ってなかったっけ?まぁいいや。俺達は五番隊だから覚えといて」

「また適当な」

 何はともあれ自分達の状況を理解した達樹達。
 8月に行われる強化合宿に向けて日々の鍛錬。これまで通り憎愚の殲滅など課せられる任務を果たしていき、力だけでなく人間力を身につけていく事を念頭に入れて日々臨もうと考えながら4人で長ったらしい廊下を歩く。
 すると目に付いたのは深刻な顔で受付の人間と話す2人の女性。その内の一人は達樹達にとっては見覚えしかない人物だった。

「莉乃!?」

「えっ達樹!?に光也君達も……さっきぶりだね?」

 まさかの鉢合わせに驚く表情を見せるのは数十分前まで学び屋を共にしていた同級生であり達樹の幼馴染である桂木莉乃。
 放課後となった直後。莉乃はマネージャーに連れられ二人でDelightへと訪れていた。

「エンゲージの方ですよね。いつもご贔屓頂きありがとうございます。私達で良ければ要件お伺いしましょうか?」

 最愛恋の立場による事からの信頼と莉乃の知り合いだと言うことを把握したマネージャー。
 達樹達を連れてカフェスペースへ移動し彼女達から今回の要件を耳にする。

「殺害予告!?」

 驚愕する達樹。他の面々も事の重大さを理解する。
 昨日莉乃に対しての殺害を予告する内容を記した紙切れが一枚郵便受けに入っていたと語るマネージャー。
 莉乃の普段の振る舞いは素晴らしくファンとも良好な関係を築いているはずで恨みを買うような事はしていない。
 こういった事態になった事も納得がいっていないと不満を口にする。

「誰か心当たりのある人間はいないんですか?」

「最近露骨に様子がおかしくなったファンなら一人……」

「け、圭太君はそんな人じゃないよ!いつも丁寧で優しい人だもん!」

 マネージャーが指す人間に心当たりがあった莉乃は即座に否定する。間近で接して来た人間だからこそ否定せずにはいられなかった。

「それも前までの話でしょ?数週間ほど前から彼の様子はおかしかった。彼を変える大きな何かがあったと考えるのが妥当よ」

「それでも殺害予告なんて……」

 莉乃の表情から受け入れられないという一心がひしひしと伝わってくる。
 それだけ普段の振る舞いからは考えられない奇怪な行動を取っていると言える。
 莉乃の態度から圭太という人間の人間性を汲み取れた達樹達はこの一件も憎愚が絡んでいると推測する。

「とにかく状況は把握しました。その一件、私達が承りましょう」

「大丈夫なんですか?……なんと言うかその……かなり危ないと思うんですけど」

 全く怯える事なく果敢に挑まんとする達樹達へ不安そうに話しかける莉乃。
 恋に対しての抵抗は然程ないが達樹達に関しては莉乃からすれば何の変哲のないただの同級生と一教師であり、こういった危険な案件を任せるのはいささか不安が残る。

「心配すんな。お前は今まで通りアイドル活動に専念してりゃいい」

 達樹は意気揚々と胸を張って宣言する。

「でも!怪我とかしちゃうかもだし……」

「大丈夫だよ。まだまだガキンチョだけど……こいつらもうちで働く立派なプロの一員なんでね。達樹達が心配なのはわかるけどここはどうか俺たちに任せてくれないかな」

「そこまで言うなら……わかりました。でも無茶はさせないでくださいねっ!」

 納得はいっていないが渋々受け入れる莉乃。
 こうして莉乃達は達樹を連れて所属事務所である株式会社エンゲージ事務所へと向かい同期メンバー達と合流する。

 ――――――――――
 同日 東京某所 廃墟

「ふぅ~~今日も満腹満腹っとぉ……戻ったよぉ哀憐!」

「あら早かったわね」

「いつにも増して豊作だったもんでね」

 今日も変わらず人間を喰らい食欲を満たしアジトへと戻って来た負薄。
 哀憐の恋との戦闘による傷もすっかり癒えており彼女の身体には傷一つ付いていない。

「あれ?悲哀は?いっつもそこで寝てるのに」

「食事に出てるわ。最近ちらほら出てってるわよ」

「まじぃ!?悲哀もついにやる気になってくれたかぁ……感涙ものだね」

 白々しく涙ぐむ演技を披露する負薄を気に留める事なく、哀憐も自らの標的を探しに出向こうと歩き出す。

「それじゃ私もそろそろ狩りに出ようかしら」

「えぇ~!?俺今帰って来たばっかだよ!?一人じゃ寂しいじゃあ~~ん!」

「ごめんなさい負薄。私も鈍らせたくないの」

 そう言い残し哀憐は足早に廃墟を去っていった。

「まぁ……みんなやる気があってよろしいって事でいいか」
 (……にしてもあいつやられちゃったか。惜しい人材を無くしたけどまぁ収穫はあったしイーブンかな)

「せっかくやる気になってくれてるみたいだし……輝世達樹への干渉は悲哀に任せようか」

 達樹達の知らない所で密かに暗躍し続ける負薄達。
 一方其の頃達樹達は桂木莉乃が所属する大手芸能事務所『エンゲージ』へ赴いていた。

 ―――― to be continued ――――

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