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第41話「いつでも見守ってるから」
しおりを挟む2023年 6月2日 7:25分
5年前に死んだはずである元地下アイドル。金塚謙也が憎愚の力を得て蘇り、かつての自分のファンを無差別に惨殺する事件が発生していた。
金塚謙也の撃破及び標的対象の護衛を任された輝世達樹、三竹未萌奈は窮地に陥りながらも達樹は己に宿るアイドル因子と心を通わせ真なる力を発現。三つ巴の力を合わせ金塚謙也を撃破したのであった。そんな日の翌日の早朝。
――――――――――
『達樹さん!もう朝ですよっ!!』
達樹の意識が朦朧とする中で早朝から元気ハツラツな聞き覚えしかない声が脳内に響き渡る。
昨日の疲れが一晩寝ただけで取り切れる訳もなく密かに開いた瞳を再び閉じる。
「……あと3分だけ」
『ダメですっ!!いっつもそれで起きてないじゃないですかっ!ただでさえ昨日は学校サボってるんですからね!』
朝から手痛い喝を入れられてしまい言い返せない達樹は眠い目を擦りながらも全身筋肉痛で悲鳴を上げている身体を無理やり叩き起こす。
『おはようございます!達樹さんっ!』
「おはよう。大我」
輝世達樹の内に宿る別世界からやって来たアイドルの少女。名前は春風大我。
ちょこっと生やしているサイドテールが似合う明るくちょっぴりおバカな女の子である。
先日のぶつかり合いによりようやく名前で呼び合える関係となった大我は心の底から喜んでいた。
『もう朝食出来てるみたいですよ!早く着替えて!顔も洗って!』
大我に言われるまま朝のルーティンを済ませて食卓に着く。
毎日のように食べていた母親の朝食もDelightで過ごす日々も増えて来た事で心なしが懐かしさを感じる。
更に気合いが入っている事が一瞬で見て取れるほど今日の朝食は主食がハンバーグからスパゲッティサラダ等を始めとしたボリューミーな内容あった。
「か、母ちゃん。なんか量多くない?」
「良いから食べなさい。ちなみにお残しは許しません」
「まじかよ!」
達樹は目の前に広がる料理を急いで食していく。
早朝の胃袋に詰め込むには中々にハードな量であったが慣れ親しんだ家庭の味と母親の温もりを感じ完食する。
「ご……ごちそうさまでした」
「よく出来ました」
「美味かったけど腹パンパンだ……」
「ほら食べたならさっさと学校行く」
「さ、流石にちょっと休んでから……じゃねぇと吐く……」
達樹はテーブルに倒れ込む。
そんな達樹を見て母。純恋は問いかける。
「お母さんに言えない事やってるでしょ」
「!!?」
達規は奏者として働いてる事を母親には教えていない。理由は無論心配をかけるから。辞めさせられると思ったからである。
以前までは接客業でのアルバイトをしていたがここ1週間程で達樹を取り巻く環境は大きく変わった。
怪我をして帰ってくる日や連絡も無い日も頻出して来ている日々に違和感を感じない方が難しい話でもある。
なんとか誤魔化そうと頭を捻るがそんな事すらも母親からすればお見通しだった。
「心配しなくても別にやめろなんて言わないわ。そんなにボロボロになってでもやりたい事なんでしょ」
沈黙を返答として受け取り純恋は続ける。
「何か生きがいが見つかったんだなって見てたらわかるわ。
心配ではあるけど達樹が本気でやり甲斐を感じてるなら止めない。止めたって聞かないだろうし」
「お母さんから言えるのはたった一つ。
困ったり苦しい事があったらいつでもお母さんを頼りなさい。私はここでずっと達樹を見守ってるから」
「母ちゃん……」
「わかったらさっさと行く!あんたはバカなんだから内心点だけはしっかり取っとかないとダメなんだから!」
「お、おう!!」
慌てて身支度をして急いで家を出る。
長年寄り添って来た肉親の前では過度な説明は不要なんだなと心地良い気分で風を切るように走る。
『良いお母さんですね』
「あぁ」
しばらく走っていると見えて来たのは見覚えのある幼馴染。桂木莉乃の姿。少し勢いを増して追いつき横並びとなる。
「珍しいな。お前がこんな時間にいるなんてよ」
「いやぁ最近新曲のレッスンが立て続けでね。つい寝過ぎちゃった」
「お前が寝過ぎんのはいつもの事だろ」
「誰にも迷惑かけてないんだからいいでしょ。今日だって寝るのが遅くなっちゃったからこんな時間なだけだもん」
「そうだな。こんなバカでかい寝癖を見落とすくらいには焦ってた訳だ」
「えっ!嘘っ!?どこ!?」
莉乃は手鏡を取り出し走りながらも身嗜みを確認し出す。
「別に後で治しゃいいだろ」
「ダメだよ!いつ誰が見てるかわかんないし……」
アイドルたるものいつ誰に見られてるかわからない。故にプライベートの時間でも身嗜みや私的行動には気を回せと所属事務所から念押しして言われているらしい。
「大変だな芸能人ってのも」
「大変なのは達樹の方もなんじゃない?なんかまた怪我してるし。最近本当何してるの?Delightってそんなハードなの?」
「それはまぁ……なんつーか……あれだ。自衛隊みたいな事もしてるんだよ」
「アイドル関連の会社なんだよね?」
「は、幅広い事業を展開してんだよ!」
「ふーん」
莉乃は半信半疑に思いつつも達樹はその場をやり過ごす事に成功する。
(なんとか誤魔化せたな……)
『これは誤魔化せたと言っていいんでしょうか……』
二人は談笑し合いながらもなんとかギリギリで一限目に間に合う事に成功しそのまま授業を受ける。
一方その頃Delightでは各地に散りばめられていた各手練れの奏者達が下國昇斗により集められていた。
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