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第17話「腐触毒の使い手!強敵汚穢」
しおりを挟む光也の母親が入院している都立総合病院へ達樹達は急ぐ。
場所も病院となるとそんなところで暴れられたら多くの被害者が出る。
達樹と瑠璃華(in光也)は全速力で空を駆けていた。
『憎愚との距離だいたい1キロくらいです!』
「ちっ……ギリギリ間に合うかってとこだな!」
(お袋……美乃梨……無事でいてくれ……!)
――――――――――
東京都立総合病院 15時05分
一方その頃。総合病院内には和気藹々と最近の出来事。学校や友達、兄との日常を語る美乃梨と市導詩織の姿があった。
「それでねっ!いこちゃんと一緒にお母さんが教えてくれたカフェに行ってきて、その時の写真っ!ほら!」
「あら~!とっても美味しそう!ちょこって乗ってるイチゴがこれまたオシャレね」
「そーなのっ!特産のこだわり抜いたのを使ってるらしくってめっちゃ美味しかった!」
そんな穏やかで安息な安息の場に迫り来る邪悪なる存在。汚穢は既に病院へ辿り着いていた。
「ウマソウな匂いがする……シカモ2匹もおるド……!タラフク食らエルべ!!」
汚穢はその巨体からは想像つかないほどのスピードで一気に詩織達のいる病室まで飛び上がる。
そして窓越しに詩織達の姿を捉えて興奮のあまりその身は震え上がり激しく昂る。
恍惚な笑みを浮かべながら舌を硬化させ窓をぶち抜こうとする。
「いったダキマアアアァァァァァ!!」
次の瞬間。響き渡る斬撃音。長く伸び切った汚穢の舌は詩織達に届くことはなかった。無数に切り刻まれた舌は地面へと落下する。
『間に合った!!』
「ざまぁみなさいっての!!」
「ゴヘェ!?な、なんダベェ!?」
危機一髪。瑠璃華の装備する短刀による斬撃により汚穢の攻撃はなんとか防がれた。
「こ、今度はクロカミツインテダベ!?この子もタイプダベ!!」
突然の奇襲に困惑するも興奮する汚穢。
目の前に広がる数々の食欲を駆り立てられる女というフルコース。だが次に提供されたものは決して煌びやかで、か弱く、可愛らしい雌とは程遠い……
「茶髪のサイドテール……オトコ?」
汚穢の眼前に瞬時に現れたのはサイドテールを携える男。纏うのは闘志と殺気。右拳に想力を十二分に込めて渾身の右ストレートが汚穢の顔面へと叩き込まれる。
「ブブォォッ!!」
殴られた勢いで宙を舞う汚穢。どんどんと病院から距離が離れていく。
「追うわよ!!」
「おうっ!!」
殴り飛ばされた汚穢を達樹と瑠璃華は追いかける。
「な、なんか凄い音した気がしたけど……それに風も……何かあったのかしら?」
「え?!う、うん……なんだったんだろね。あはは」
(一瞬だけど何かが窓の奥にいたような……流石に気のせいだよね……)
――――――――――
達樹達が汚穢の元へと辿り着く。周りに人気はあまりいない広々とした団地まで殴り飛ばしていた。
「お……オマエらァ……!!オデのことナグリやがったなぁ……!!ユルサネぞ!!」
「殺る気満々ね……くるわよ!」
「あ、あぁ……!」
「あんた、まさかもうバテてんの?」
「んなわけねーだろ!いくぞ!!」
達樹、瑠璃華対汚穢との戦闘が幕を開ける。四つん這いで無邪気な赤ん坊が若く迫り来る汚穢に対し最初に仕掛けたのは達樹だった。
(なんだこいつ……ガラ空きじゃねぇか。こんなもんぶちこんでくださいって言ってるようなもんだぜ!)
もう一度フルパワーの殴打が汚穢へ炸裂する。だが確かに感じる違和感。先ほどとは異なる感触。
(手応えがねぇ!?)
「さっきはビックリしたからチット痛かったけんど……その程度のパンチ。オデにはキカンど!!」
「ぐっっ!!」
そのまま衝撃を跳ね返されたように吹き飛ばされる。
「オデはニンゲンを食べマクッテるからナァ……脂肪?ってヤツツイチマッテテよぉ……こんなんじゃ女のゴにモテねぇからよォ……コマッテんだよナ」
(要は生半可な物理は効かねぇよってことだな……何よりもさっきからずっと右手がひりひりしやがる。なんかされたっぽいな……)
汚穢の固有能力はその贅肉からなる物理攻撃の無効化などという単純な物ではない。それらはあくまで汚穢の生活習慣のだらしなさから付与されたものである。
汚穢の憎愚としての固有能力は『腐触毒《ふふどく》』
極限までに存在が腐敗しきった事で肉体を覆う皮膚の隅々まで行き渡った猛毒。この能力は直接触れた物の動きを徐々に奪っていきやがて接触回数が増えると命も脅かされる事になる。
「おい!あいつの身体!触ったらヤバそうだ!さっきから右手がひりひりする!!」
「あんな汚物最初から触れる気ないわよ。でも警戒はしたほうが良さそうね」
「おマエら奏者ダロ?しかもツヨクねぇ!オラワカルド!」
「言ってくれるじゃない……」
「この前殺した奏者よりもオマエらはヨエェ。アド奏者はダメだ。中にあるアイドルインシ?ってやつが不味くシテルンダドきっと。この前食った奏者も中にいたオンナがコロさないでって泣いてうるさかったんだど!だからマトメテ二人ともクッテヤッタど!!」
「貴様ぁ……!!」
ここまで怒りを覚えたのは久しぶりだった。完膚なきまでの邪悪を目の前にした達樹の脳裏には事前に聞いていた格上との交戦時の対処法。恐怖心。敵前逃亡という選択肢は消え失せていた。
(今すぐあいつをボコボコにぶん殴りたい……だがこれ以上無闇な接触はやべぇ……)
隼人と違い完全にアイドル因子の力を引き出せていない達樹はただ闇雲に想力を身体の部位に宿し物理でゴリ押す事しかできない。達樹は肉弾戦以外の戦闘方法を現状持ち得ていない。
思考する中汚穢が迫り来る。肥大させた剛腕を振りかざし達樹と瑠璃華に襲いかかる。
(受ける事もできねぇ!避けるしかない!)
達樹は大きくジャンプする事で一旦の回避に成功する。だが次の一手。伸びる舌による攻撃は空中故に回避が困難だった。
「しくった!」
舌が達樹へと接触する直前。瑠璃華の短刀によりそれは阻止される。だが先ほどとは違い舌の硬度は増しており防ぐことが精一杯だった。
「助かった!」
「よそ見する暇あるなら策を一つでも考えなさい……今の所こっちに奴を倒す術がないわ」
唯一の対抗策である瑠璃華の短刀も致命傷を与えるには至らない。
汚穢の言う通り戦力差は明らかであり圧倒的に達樹達が劣勢。またもに効いた攻撃は初撃の不意打ちのみ。そして消耗し続ける二人に対し汚穢はほぼ無傷。勝利は絶望的であった。
そして瑠璃華にも異変が訪れる。
「!?……くっ……」
(意識が……グラつく……!!)
「どうした!?」
(こんな所で!?……クッッッソ!!)
アイドル因子が現世へと留まり続ける時間には限りがある。所謂タイムオーバー。戦闘前から桐咲瑠璃華へ肉体の主導権を譲渡させていた故に起こってしまった災難。
桐咲瑠璃華のアイドル因子が引っ込み身体は本来の市導光也の物になる。
「なっ!?おい!!瑠璃華!!……クソッ!反応がねぇ……!」
戦闘時は常に瑠璃華主体で行っていた光也は達樹らと違い自らが主体となって戦う術を知らない。故に自らの身体にアイドル因子の力を宿す幻身は不可能であった。
「アで?ツインテちゃんも引っ込んじまったダカ?じゃあもうオモシロくもなんともねぇべ。二人ともコロシテくってまうド」
(…………光也…………)
達樹は思考する。今すべき最善手を。
「光也。お前は一旦退け。この辺に人がいたら避難するように声をかけてくれ」
「は!?お前はどうすんだよ!」
「こいつと殺り合うに決まってんだろ」
「バカか!効いてねぇんだよ!お前の攻撃は!それに触れたらやべぇって言ってただろうが!!」
「本格的にやばくなる前に畳み掛けて倒せばいい」
「んな無茶な……!」
そう言う達樹の手は小刻みに震えていた。勝利の確証など持ち得ていないことは光也には明白だった。
それでも達樹は戦線から退こうとはしなかった。
「昨日知り合っただけの仲だけどよ。お前には死んでほしくないんだわ。だから、頼む」
「…………っ!」
光也は走り出し戦線から離脱する。とにかく全力で走る。
汚穢は特に追おうともしない。眼中にないからである。
「オマエヒトリだけカ……10秒モツかナァ?」
「悪りぃがとことん付き合ってもらうぜ……俺の命が尽きるまでなぁ!!」
――――――to be continued――――――
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