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第10話「ギブアンドテイク」

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「い、異世界転生ってそんなアホな……ラノベじゃあるまいし」

「他にどう説明すんのよ。端的に説明できたと思ってるけど?」

 そうドヤ顔で瑠璃華は語る。隼人の中の優菜ってやつも確かに言われてみたら異世界転生かも!とか言ってテンションが上がっている。
 瑠璃華達はこの世界とは別の異なる世界の住人らしい。元いた世界の記憶は曖昧で、元の世界で何かがあってアイドル因子といういわば魂のような形でこの世界に降り立ったと。
 共通しているのはアイドルであったという事。そしてこの世界での使命、憎愚と戦う事。憎愚を絶滅させれば元いた世界に帰れるという事。その為に瑠璃華は戦っているとのことだ。

「で、金髪男に聞きたいんだけどるりとこいつを引き剥がす方法があるみたいな事言ってたわよね?具体的にどうするの?」

「詳しくは分からないけど俺達の本部に行けば上の人らがなんとかしてくれるらしい。ただ一つだけ言われたのは分離したアイドル因子がどうなるのかは不明って事」

「それって……死ぬかもしれないって事かよ」

「そうかもしれないし彼女達の元いた世界に帰るのかもしれない。はたまた別の誰かに移り住む事になるのか、虚空を彷徨うことになるのか……それらは観測できない事だ。想像と予測の範疇を超えない」

「……なるほど、であれば分離は却下ね」

瑠璃華が目の色ひとつ変えずそう言い切る。そりゃそうだ。死ぬかもしれないんだから。だが状況が好転する可能性もあると瑠璃華は語る。

「別の人間に移り変わるかもってのは少し唆られるわね。まぁあくまで可能性の一端でしかないし当てにはできないけど……」
 
 瑠璃華は憎愚対峙に率先的で俺達と共に奏者として戦う事に異議は特になさそうだ。そんな逸材を引っぺがさないと行けなくなってる原因は元の人間、市導光也に戦う意思が無い事。平穏を望む彼の心理が戦いを望む瑠璃華を拒んでしまっている。その事でシンクロ率の隔離を生み出し本来の力を発揮できてないどころか自我を失いかけてもいる……どうすりゃいいんだ。

「答えが出たわ」

「聞かせてもらおうか」

「あんた達とるりとの妥協点を考えた。死ぬ可能性があるようなハイリスクは犯したく無い。かと言ってるりの都合で一人の人間の人生狂わす気もない。でもちょっとだけ時間をちょうだい」

「何する気?」

「説得するのよこいつを。この意気地なしが戦う気になってくれれば問題ないわけでしょ?あんた達も協力しなさい」

 相変わらず偉そうだが確かに今の話を聞いて無理やりってのはかなり気が引ける。
 俺達に課せられた任務はあくまで勧誘だ。光也の心の有り様でなんとかなる問題な訳だし説得の余地はあるだろう。
 俺たちは瑠璃華の提案を引き受け、瑠璃華は「るりがいるとややこしくなりそうだからしばらく引っ込んどくわ」と光也へ身体の主導権を引き渡し、光也の自我が戻る。

「……話はだいたい聞いてた。お前らの言いたい事も予想がつく。でもだからと言って素直にはい戦いますってはならねぇ。理由はさっき言ったよな」

 死にたくない。そんなもんは人間誰しも思ってる事だ。当たり前すぎて俺も深く考えた事なんてないくらいに全ての人間に平等に与えられてる権利だ。
 俺だって死にたくはない。でも死ぬ気は毛頭ない。大切な誰かが、罪のない誰かが傷つくのを黙ってられないだから闘える。少なくとも俺は。

「そんなお人好しじゃないんでな。お前らと違って」
 
 言葉では否定しつつどこか光也からはもどかしさが感じとれた。何かに縛られてるような、重圧を感じさせる何かを背負ってるようにも見えた。

「そろそろ寝てーんだけど帰っていいか?」

お前家おまえんち広い?」

「は?普通だよ普通」

「じゃあ今晩は泊まらせてもらおうかな」

「はぁ!?」

隼人も目を見開いて驚いている。光也も思いも知らぬ返答だったようでかなりの声量で驚いていた。

「もうちょっとお前と話がしたくてさ。俺って人当たりは良いと思うし親には上手い事言ってやるから。憎愚が出たとしても俺達が代わりに行ってやるし悪くないだろ?」

「まぁ……それなら」

「じゃ決定!お前家スマブ◯ある~~??」

若い奴らだけで楽しんでおいでと隼人は近隣でホテルを取り待機するとのことだ。そんな歳の差があるわけじゃないんだがまぁいい。
 図々しくも光也と肩を組み俺達は光也宅へ向かい始めた。

 ――――――――――
同日 東京某所 廃墟 17:30分

「ふー今日も豊作だったなぁ~~良い女の子いっぱいだった……ってちょ……っ!臭っ!!なになに!?」

ここは東京都心の片隅にある誰も近づこうともしない不気味な廃墟。そこは人喰らう異形の化け物、憎愚の溜まり場とかしている。
 そこにいつものように帰ってきた上級憎愚。負薄は謎の異臭に困惑していた。
 目の前にある巨体と無惨に散らばるおびただしいほどの人間であった部位を見てその異臭の原因がすぐに何か理解した。

「ちょっとぉ~~汚穢おわい君だっけ?もうちょっとさ?綺麗に食べようよ~~……って、ちょいまち!これぷるぷるきらりんの子達じゃない!?もうちょっと寝かしてから食べようと思ってたのにー!!」

ぷるぷるきらりんとは無名のアイドル事務所が完全新規アイドルを結成すべく、完全未経験から応募をかけ結成された新人アイドルグループのグループ名を指す。
 SNSなどでも発信すらされていない段階なので関係者しか知り得ない存在であったがこの巨体憎愚により全員喰い殺されてしまった。

「誰よそいつら……」

「そこらのドルオタ顔負けの知識量に俺は引いている」

 同じく上級憎愚である悲哀、哀憐が負薄へ軽蔑の眼差しを送る。

「悲哀達が興味なさすぎるんだってー……せっかく頭弱そうなやつばっかで期待してたのにさー!」

 やや機嫌を損ねる負薄であったがまぁいっかと開き直り、巨体の憎愚、汚穢へとゴミを片付けるよう告げる。

「ア、ゴベン!ビンナ!!オデこんな散らかしちまっテ!!コレ全部クウから!!」

 そう言うと地べたを這いつくばり細かな指や耳先、飛び散った血すらもなんの躊躇もなく舐め始める。

「見っともないってもぉ~~……とりあえず食べたらどこか適当に散歩しに行くことをおすすめするよ」

「ワカツタ!!」

 悪臭は死体から漂う匂いだけではなく汚穢そのものからも発せられている。一刻も早く自分の住処から悪臭の原因を排除したい負薄の思惑通り汚穢は再び人を喰らうべく駆け出していった。

「あいつ俺達に並べるかな?」

「自我はあるが何もかも荒削りだ。知性もかけらも無い。期待はできないな」

「今は暖かく見守ってあげましょ。彼はまだ生まれたての赤ちゃんみたいなものだもの」

 ――――――――――
東京 同日 市導光也宅 18時25分

 市導光也宅へ到着した俺と光也。チャイムを鳴らすと元気よく出迎えてくれたのは一人の少女だった。

「はいはーいおかえり~ってあれ!?お兄ちゃんまた怪我してるの!?」

 セーラー服に身を包む黒髪ショートの女の子が慌てて救急箱を取りに行こうとするが光也がいらねぇと拒絶。
 不服そうにほっぺたを膨らませて軽い口論が始まってしまった。この様子を見るに割とよくある事なんだろう。あと可愛い。

「……でそちらの方は?……もしかして友達!?」

「そっすね!」

「ちげーよ!!!」

 思い切り否定されてしまったが時間も時間なため晩御飯を食べる事になった。

「二人分だけだと思ってたからご飯足りるかなぁ~~??足りなかったら言ってくださいね!」

「いやいや!こっちも何の連絡もなしに来ちゃったから気にしないで」

 絵に描いたような良い子である。黒髪ショートの元気っ娘。名前は美乃梨みのりって言うらしい。普通に恋してしまいそうなくらい清純な穢れを知らない女の子って感じだ。これがって尊いって奴なんだな。

「お前あんな良い子にきつくあたんなよ。男のツンデレはきしょいぞ」

「うるせぇ、兄弟だと色々あんだよ」

 そうこうしてる間に美味そうな匂いと共に晩飯が用意されていく。今日のメインは回鍋肉のようだ。3人仲良く食卓を囲み箸を進めていく。

「めっちゃ美味しい!!」

「えへへ、ありがとうございます!あーあー、お兄ちゃんもこれくらい素直だったらモチベーションも上がるのにな」

「……残さず毎日食ってんだからいいだろ」

 談笑しながら晩飯の時間が終わる。美乃梨ちゃんが食器を洗いさってる間に気になったことを聞いてみる事にする。

「お前ら二人暮らしなのか?」

「おふくろがいる。5年前から入院してるけどな」

 いじっていたスマホを置き光也は神妙な顔つきでそう語る。
 母親が入院してるので5年前から家事を分担して生活してるらしくこいつの部屋も覗いてみたが意外にも綺麗だった。
 最近は瑠璃華に緊急出動させられる為出勤は控えていたがバイトもしているとの事だ。

「生活費流石に足りなくねぇか?高校生のバイト一本じゃ無理だろ」

「印税が入ってくるからな。それでなんとかいけてる」

「いんぜい?」

「おふくろは昔アイドルだったんだよ。カラオケとかで歌われたら歌手に印税が入るって言うだろ。それだよ」

「びっくらぽんだぜ」

 それから家事を終えた美乃梨ちゃんも会話に加わって来た。楽しそうに母親の話をする美乃梨ちゃん。仲睦まじい暖かな家族の形が容易に想像できた。だが一方で光也の表情は笑ってこそいるがどことなく暗い。嫌悪とは違う別の負の感情を抱いているように見える。

それから夜も更けて俺達は光也の部屋にて就寝に着くことにする。勿論布団は別々な。
 おやすみと光也が眠りに着こうとするがさっきの件がどうしても頭から離れない。聞きたくてもかなりセンシティブな話題な気がして上手く話しかけるきっかけが掴めない。
 まぁ仕方がないかと眠りに着こうとすると胸の内から何か高鳴りを感じる。騒がしくもどこか暖かいこの感覚は最近よくあるあれでしかない。

『話は聞いていましたよ!』

何処からともなくいつもの夢に出てくる少女の声が聞こえてくる。気づいたら俺の頭部にサイドテールが出現している事から昼間の隼人と同じ状態だろうと推測する。

「……達樹の中のアイドルか?夜中だからボリューム下げてくれ」

『あっすいません。あの!私聞いてて思ったんです。光也さん過去に何か辛い事があったのかなって』

「……別に何もねぇよ」

『お母さんの事で何かあったんじゃないですか?』

そう少女が言うと光也は目線を逸らし沈黙する。次第に寝そべっていた身体を起き上がらせて語り始めた。

「おふくろが入院してるのは俺のせいなんだ」

 ―――――― to be continued ――――――
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