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「牧場を拡張しよう」編

四十話めぇ~ 「ギャグ依存症だね」

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「誰だ、あのモヒカンは何者なんだ!? なぁなぁ、いったい何者なんだよ! 気になって眠れないよ!!」
「シゲキさん、せっかくのところ申し訳ないですが、どう考えてもモヒカンメカニックです」

 言うなよぉおおおおおおおおーーーーーーー!!
 せっかくこっちが盛り上げているんだからさ!!
 そこは一緒に「いったい何者!?」みたいな感じでやろうよ!

「無理です。あまりに見え見えでした。誰がどう見ても作者さんが好きなモヒカンメカニックです」

 そりゃそうだけどさー、そうなんだけどさー。
 それを言ったら身も蓋もないんだよな。

「そのうち仲間になりそうです」
「そこまで言ったら駄目よおおおおおお!」

 確実にフラグだよな。
 しかも面倒くさいからって伏線とか張らないから直(ちょく)なんだよな。
 もうダイレクトインだよ!


 そんなこったで俺たちはモヒ兄ちゃんの工場にクルマを運ぶことにした。
 モヒ兄ちゃんの工場は工場地帯の端っこのほうにあるようだ。
 そのあたりはティコも移動できる広い場所なので問題なくジープを運べた。

「じゃあ、サメごと入ってくれ」

 モヒ兄ちゃんがシャッターを上げてガレージの明かりをつける。
 うむ、ガレージは大きいので五メートルはあるティコも軽く入れそうだ。

「でかいな、ここは」
「そりゃクルマ用のガレージだからな。大型の戦車とかも入れるようになっているさ」
「うおお、戦車か! ここにもあるのか!?」

 そうだよな。やっぱりクルマっていったら戦車だよな。
 まさに男のロマンだ!

「今はないな。最近は普通の車の修理ばかりやってるさ。この町も腑抜けたもんだぜ。俺がガキの頃は本物のクルマばかりだったんだがな」

 モヒ兄ちゃんとの会話で知ったことだが、このマイゴールドはもともと鉱山開発のために作られた町だったそうだ。
 町の名にもなっているマイゴールド、「俺の金」は一攫千金を狙うやつらが集まってきたことから名付けられたものらしい。

 金鉱脈を発見すればひと財産だし、さらに鉱山開発にはモンスターの駆除も必要となる。
 昔はこのあたりにも強力なモンスターがたくさんいたそうだ。

 それを狙って一級品のハンターたちが集まる。
 そうなれば町は栄えて活気づくってことだ。

「だが、夢は長くは続かねえ。開発が終われば用はなくなる」
「だけどさ、こんなに大きい町じゃないか。それだけ人がいるってことだろう?」

 俺が見る限り、アイアムタウンとは比べ物にならないくらい大きい町だ。
 人だって多いし、車だってけっこう走っている。
 さっきだって暴走車に轢かれたしな。

 開発は終わったようだが、体格の良い作業員たちが町にいるってことは、まだまだ需要があるってことだろう。
 何かほかに作っているってことじゃないのか?

「たしかに人はいる。人だけはな。人がいれば工業もそれなりに発達して生活するぶんには困らない。今だってここいらは車の生産で成り立っているからな」

 マイゴールドの工業地帯の大半は車の生産、つまりは一般車両によって成り立っているらしい。
 だから大きなガレージはあっても、入ってくるのは普通の車ばかりだ。

「だが、それだけさ。この町にもうロマンはねえんだよ」

 ロマンか。言いたいことはわかるぜ。
 人間ってのはただ呼吸をする生き物じゃない。
 本気で生きて、本気で夢追って、命をかけるから楽しいんだ。
 それがロマンってやつさ。

 モヒ兄ちゃんが見ている世界ってのはクルマが溢れている世界。
 貪欲なまでにガツガツしたハンターが集まって、われ先にと駆けていく世界。
 活気があって熱気があって、燃えるような世界なのだろう。

「と、くだらねえ話をしちまったな。で、肝心のジープだが…」
「金はない!! 金はないぞ!!」
「わかってるよ。つーか、べつに金を取ろうなんて思っちゃいない」
「ほんとか!? 本当だな!!」
「疑り深いヒツジだぜ」

 俺が疑り深いのは俺に起因することじゃない。
 だって、背後からすごい視線を感じるんだ。
 リーパからの「びた一文払うな」的な強烈な視線がさ。

 それに逆らったらどうなるかわかるだろう?
 俺なんてラム肉祭りよ、祭り。
 身をもって償わないといけないからな。
 そりゃ必死にもなるさ。

「つーか、金を取らないほうが怪しいだろう」
「まあ、そりゃそーだな」

 そう言いながらモヒ兄ちゃんは手際よくジープのボンネットの中の部品を取り出していく。
 クルマを直すには一つ一つ修理しなければいけないからだ。

「まずエンジンのジープヘッド。積載量は六トン。古いタイプだが状態は悪くないものだ」

 積載量ってのはあれだ。
 よくトラックとかで何トントラックとかあるだろう。
 呼んで字のごとく、どれだけの量を積めるかの目安となる数字だ。

 このジープヘッドの最大積載量は六トン。
 それだけの重さの荷物を積めるってことだ。
 大きさを考えればなかなかパワーがある。

「俺んちの工場は古いからな。こいつに合う部品もあるから、なんとかなる。それからCユニット。これはもう駄目だ。完全にイカれている」
「買い換えが必要か?」
「古いのでよければ廃棄車広場から引っぺがす手もあるし、瓦礫センターで拾うってのもありだ」

 このマイゴールドから少し進んだ先に廃棄車広場ってのがあるそうだ。
 よくアメリカにあるが、荒野みたいなだだっぴろい場所に何千もの廃棄車が置いてあって、勝手に使えそうな部品を引っぺがして最後に精算して購入するところだ。

 ああいう大雑把なのはさすがアメリカだと思うな。
 好きな部品だけ持っていけるし、自分で引っぺがすのはなかなか楽しそうだ。

 あとは瓦礫センターという場所があるらしい。
 廃棄物が集まる場所で、簡単にいえば粗大ゴミの集積所といった感じだな。
 といっても公のものではなく半分は不法投棄場のようなものらしい。

 へっ、相変わらずこの世界は荒んでやがるぜ。
 だが、それがいい。

「とりあえず簡易修理用のCユニットを付けておく。高度な行動は無理だが、走るくらいはできるようになるだろう」

 これは自転車の携帯パンク修理キットと同じようなものだ。
 修理屋までたどり着くための最低限の機能を保持させるもの。
 それが簡易擬似Cユニットだ。

 修理キットを買えば付いてくるようなものなので、値段としては一万円もしないものらしい。
 だが当然、走れるようになる程度なので一時的な措置にすぎない。

 モヒ兄ちゃんは素人でもわかるような凄い手さばきで、テキパキとパーツをばらして部品を換えていく。
 気がつくと周囲は油の臭いが満ちていた。
 まさに修理工場の臭いだ。


「さて本題だ。どうして俺がお前さんに興味を持ったかって話だが、その理由の一つがジープだ」
「ジープなんて珍しくもないだろう? モヒカン族だってよく乗っているって聞いたぜ」
「昔はな。だが今は珍しい。ジープの生産はもう終わっているからな」

 どうやらこの世界ではジープは骨董品のような扱いらしい。
 最後に生産されたジープがおよそ二十年前。

「このジープも、おそらくこのあたりで生産されたものだ。型番を調べればもっとよくわかると思うが、まず間違いないだろう」

 すでに寂れつつあったこの町で最後に作られたクルマがジープ。
 今のようなただの車じゃない。
 荒野で戦うための本物のクルマだ。

 兄ちゃんにとっては愛着があるものなのかもしれんな。

「それから…」

 モヒ兄ちゃんは手を止めると、もう一度ボンネットの中に手を伸ばして一つのチップを取り出す。
 五センチ四方のチップには中央にクリスタルがはめ込まれており、周囲に血管のように幾重にも銀色の線が伸びている。

 なんだ? Cユニットの一部か?
 イメージとしては回路基盤に近いが、ちょっと宝石っぽいな。

「これが何かわかるか? こいつはな、通称『メガミユニット』と呼ばれているもんだ」
「メガミユニット…? なんか聞いたことがあるな」

 そういえばダメージ表示の際に聞きなれない単語が出てきたな。
 それがたしかメガミユニットだったような…

「このメガミユニットはCユニットの性能を向上させるといわれ、一時期各クルマメーカーがこぞって導入したもんだ」
「ふーん、向上させるならいいんじゃないのか」

 たまにこういう製品ってあるよな。
 ブースターというか強化部品というか、別売りで販売されるって感じかな。

 俺がいまだに覚えているのがPCエンジンDUOのメモリをアップさせるカードがあってな。
 それが一万円くらいするんだわ。

 それを買ってやったゲームがカブキ一刀涼談だからな。
 今にして思えば、とんでもない出費だ。
 今なら考えられない時代だよな・・・正直いまだに買ったことを悔いている。

 で、それが?

「たしかにこいつはCユニの性能を劇的に上げる。だが一方で独自の思考回路を持っている。この意味がわかるか?」
「思考回路ってことは…自分で考えるってことか?」
「そうだ。クルマが自分の判断で動く」

 ああ、今話題の自動運転とかそういうことかな。
 銀河英雄伝説を見ていた俺にとっちゃ、ようやく時代が追いつきつつあるかという印象だが、思えばけっこうすごいことだよな。
 全自動はともかく、自動で停まってくれたら便利だし。

 ただ、常々思うのだが、もし完全なる自動ブレーキが確立されたとするとだ。
 いわゆるカーチェイスができなくなるんじゃないのか?

 いやいや、それはいいんだ。
 だが、あれだ。緊急時に壁をぶち破らないと脱出できない状況とかで「目の前に障害物があります」とか言われてアクセル踏めなかったら困らないか?

 そこらへんの判断が気になって仕方がない。
 ハリウッド映画とか成立しなくなるよな。
 格好良く決めるシーンで「アクセルが踏めない!」とかなったら締まらないしさ。

 とと、話題がずれたな。

「ところであんた、さっき暴走車に轢かれたらしいな」
「ああ、酷いもんだったぜ。ヒツジだからって容赦ないな。この町ではいつもあんな感じか?」
「最近特に多いな。そして、それらの暴走車を調べた結果、そのすべてにこのメガミユニットが積まれていたと言ったらどうする?」

 な、なにぃいいいいい!!!
 なんだこの展開は!?

 それはつまりなんだ。
 そのメガミユニットってのが暴走車の原因ってことか!?

「公表はされていない。だが、俺が調べた結果じゃそうだ。車の信頼に関わることだから上のやつらは必死に隠しているがな」

 じゃあ、あの自警団がいきなり車を破壊したのって証拠隠滅のため!?
 たしかに問答無用で攻撃したからすごいなとは思ったんだ。
 初めて来る町だから受け入れていたが…違うのか。

「おいおい、なんかヤバイ話じゃねえか!」
「そうだ。あんたのクルマに積まれていたってことも含めてな」

 なんだってぇええええええ!
 ってことは、これがジープを操っていた元凶かよ!

「クルマは人間の相棒だ。しかし本来そこに自我はない。人間が使ってこそクルマは価値を生み出す。それを否定したのがこいつさ」
「そんな危ないもん、さっさと外したほうがいいだろう!? つーか、リコールとかないのか?」

 普通、こういった事態になったら作った企業が回収するよな。
 あくまで俺がいた世界での話だが。

「残念だが、こいつを作った企業はすでに倒産している。それも回収が進まない理由の一つだ」

 たしかに企業が潰れていたらもう回収とかはできないな。
 しかも、その情報を隠しているとなればなおさらだ。

 いや、逆かもしれんな。
 誰も責任が負えないから野放しになっているのかもしれん。
 誰だって責任なんて取りたくないもんな。

「メガミユニットにはいくつかタイプがあってな。あんたが町で見た暴走車に使われているのはこいつより小型のタイプだ。だが、このユニットはよりグレードが高いものだ。あんた、このジープをどこで手に入れた?」
「手に入れたというか、荒野で倒して手に入れたんだけどな」

 どうやらこの兄ちゃんはメガミユニットが気になっているようだ。
 そりゃ俺だって、そんなヤバイものが付いているとは思わなかったけどさ。
 当然、出所なんて知らないし。

「あんたはそのメガミユニットに興味があるのか?」
「メガミユニットというより、これを作ったやつに興味があるのさ」
「作ったやつ? 倒産した企業か?」
「生産したのは企業だが、作ったやつは一人だ。…立ち入った話になっちまったな。まあ、いいさ。こいつは俺の問題だからな」

 この兄ちゃんも訳ありってことか。
 これ以上の深入りはお互いにとって得じゃないだろう。
 俺も無理に立ち入ろうとは思わない。

「エンジンは直しておく。が、Cユニットはこのままじゃ駄目だな。あくまで模造品だ」

 兄ちゃんが付けたのは、エンジンの調子を見るためのものにすぎない。
 実際に動かすとなればやはり本物のCユニットが必要らしい。

「あんたらはさっき言った場所からCユニットとバッテリーを適当に持ってきてくれ。そこには廃ジープもあるからわかるだろう」
「おいおい、本当に無料でいいのか?」
「無料じゃない。このメガミユニットはもらう」
「そんなもん欲しければやるけど…」

 ひとまずモヒ兄ちゃんはメガミユニットが手に入ればいいらしい。
 ならば、俺もそれで良しとしておくか。

「そこに金属探知機がある。持っていくといい」
「ああ、また来るよ。何か土産はいるかい?」
「ふっ、あんたが本物の油の臭いを味わってくれればそれでいい。まあ、嫌というほど味わうことになるだろうがな」
「そいつは楽しみだ」


 そう言って俺たちは外に出た。
 なかなかニヒルな兄ちゃんだが、とりあえず信頼できそうだ。

「では、私は一度牧場に戻りますね」
「え? 帰っちゃうのか?」
「ヒツジの世話も必要ですし、ここから先はまた戦闘エリアっぽいのでクルマがないなら邪魔になりそうですから」

 モヒ兄ちゃんによると、廃棄車広場と瓦礫センターの管理は雑なのでモンスターも出現するらしい。
 廃棄車広場は広場と名前が付いているが実際は荒野に廃車が並んでいるだけの場所だし、瓦礫センターは不法投棄の違法な場所だ。

 どちらもそれなりに危険な場所だという。
 たしかにリーパは戻ったほうが安全かもな。

「家畜のほうはこちらでも手配を進めてみます。シゲキさんは引き続きクルマの修理とお金稼ぎのほうをお願いしますね」
「くっ、世知辛い世の中だぜ!」

 常時金欠だからな。
 これから人手を雇うにも金がかかる。
 異世界に来てまで金に苦労するなんて最悪だぜ。

「最近気がついたのですが、この小説って二つのパターンがありますね」
「ん? どんな?」
「一つはシゲキさんが激しくツッコむギャグパート。もう一つは今回みたいな中二パートです」

 中二とか言うなよぉおおおおおーーーー!!!
 ちゃんと物語を進めているだけじゃねえかよ!!

「ギャグがないと不安になります」
「そっちのほうがおかしいんだよ!!」

 怖いんだろ!?
 一応この小説、ツッコみ冒険ファンタジー小説とかいっているから、ツッコむところがないと不安になるんだろう!?

 ああ、俺だってそうさ!
 「あれ? 今回俺全然ツッコんでないけど大丈夫か?」
 とか不安になるよ!!

 でも、たまにはちゃんとやるんだぜ!!

「じゃあ、そっちは任せますね」


 リーパは牧場を呼び出した。

 リーパは帰った。


 軽ーーーーーーい!!
 さらっと流して行っちまった!!
 全然受け止めようとしないよ、あの子!!

 つーか、リーパって牧場呼び出せるんだな。
 もはや主役キャラになりつつあるってことか。
 まあ、俺だっていつでも牧場に帰れるし…

 …あれ? ん??
 え? どうやってやるの?
 どうやって牧場呼び出すの?

 えええええ!?
 わかんねーーーーーー!!
 俺って牧場呼び出せねーーーーよ!!

 いまさらながらに気がついたが俺って牧場呼び出せない。
 ぷるんかリーパじゃないと牧場に帰れない!!!

「オジキぃ、しょうがねえ。俺たち動物だしよ」
「そこで区別するなよ!!!」

 マジかよ!
 じゃあ、リーパが戻ってくれないと俺の意思じゃ帰れないじゃんか!

「オヤジ殿、これからはサバイバルです。気を引き締めましょう」

 いつでも牧場で休めるっていうから安心していたのに…
 これからの戦いは相当厳しくなりそうだ。


 ということで、ステータス蘭にリーパの絵が追加されたからよろしくな。

 今日はこれで終わりだ。

 おっ、リーパがいなければ死にオチはないな。
 これはこれで心配になるが…

 俺も病気だな。
 まるで芸人のようだ。

 これからはギャグパートがなくても心の平静を保てるように訓練しよう。

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