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「ここは異世界だよ」編
八話めぇ~ 「初戦闘、初勝利」
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「いいじゃん。楽しもうよ。武器も手に入ったしさ。これからが冒険だよ!」
ぶんぶんとサイを振り回す。
振り回したサイの翼(よく)が俺のアゴに刺さる。
「いってぇええええええええ!!」
「あっ、ごめん。楽しくて」
四つ足で歩くとちょうど顔が手のあたりにくるんだよな。
これはたしかに危ない。
だが、ぷるんの笑顔は許せぬ。
人にサイを刺しておきながら笑うとは。
「ねえ、大丈夫?」
おっ、こいつにしては珍しく心配したな。
そうそう、こうしていつも配慮すれば可愛い子なんだよ。
俺だっていつも怒っているわけじゃない。
ぷるんが女の子らしくしていれば…
「病気にならないかな?」
ん? 何の話だ?
「さっきこれで『う〇こ』つついたんだけど」
いやぁぁぁああああああああ!!!
うそぉおおおおおお! 嘘だと言ってよぉおおおお!
嘘よね! そんなの嘘よね!!
「なんだろうと思って、ついうっかり」
形見ぃいいいいいい! それ形見だからな!!
丸太祭りで死んだリーパの親父さんの恥部をさらに辱めるなよぉおお!
どんどん違う黒いものが付着していくじゃねえか!
「アラレちゃんはつつくよ」
則巻さんち、教育! 教育しっかりしような!!
真似しちゃうからさ!!
「毒の能力付加されないかな」
俺に刺したことよりもそんなことを期待している。
自分で刺さればいいと思う。うん、心底そう思うよ。
「そういえばね、私もヒツジさんなんだよ」
「知ってるよ。ヒツジ戦士なんだろう?」
すっかり忘れていたが、ぷるんも一応ヒツジ戦士だった。
ふと冷静になって思ったが、俺のヒツジって職業なのか?
だったらどっかの神殿で転職とかできないんだろうか?
ドラクエでもモンスターになれたよな。もしかしてアレか?
「ほら、見て」
ぷるんが髪の毛を分けて、自身の頭にある【角(つの)】を見せる。
「えっ!? 角あったのか!?」
まだほんの小さな角だが、ぷるんの頭の両サイドにはたしかに角があった。
これってネコミミとかと同じ系か?
女の子だけずるい!! どうして男はリアルヒツジなんだよ!
「あのね、このあたりの人間って、【白ヒツジ族】なんだって」
リーパの話によれば(俺がヒツジ小屋にいた頃に聞いたらしい)、この世界の人間は大きく分けて五種類いるそうだ。
その一つが白ヒツジ族。
比較的穏和な性格で群れる習性が強い種族だという。
髪の毛で見えないがリーパにも小さい角があるという話だ。
「ふーん、じゃあお前も白ヒツジ族なんだな」
「シゲキ君もそうなんだって。顔が黒いからちょっと変種らしいけど、毛が白いヒツジは全部そうらしいよ」
「え? じゃあ、あのヒツジたちもか?」
「うん」
「ジョナサンも?」
「うん♪」
共食いぃぃいいいいいい!!
いやぁ! 共食いやめてぇええええ!
「お前は俺を食った! ジョナサンも食った! どんな気分だ!?」
「ジョナサン、ちょっと硬かった。シゲキ君は柔らかかったよ」
「歯ごたえじゃねえよ!」
「でも、ヒツジはヒツジだって」
人間とヒツジはやはり違うそうだ。
だが、俺にはそうは思えない。あいつらとは話せるし、想いも共有できる。
それが人間の家畜だなんて許せん!!
「俺はヒツジを守るぞ!!」
「うん、がんばって」
聞きました、みなさん? この他人事発言。
こいつはこういうやつなんですよ。
じゃあ、どうして付き合っているかって?
そりゃまあ胸がでか…
グサッ! ブシャーーー!
「ぎゃぁああああああああああ!」
何かがー! 何かが刺さったー! 俺の頭に何かが刺さったーーー!!
「ぷるん、もう許さんぞ!」
今度という今度は許さん! 一度お仕置きが必要だ!
俺だって噛むよ? 荒ぶるぜ!?
「違うよ、私じゃないよ」
「嘘だ!!」
こういうとき普段の信用ってのが問われるよな。
羊飼いの嘘つき少年は信用されないんだぜ。
「だってほら、これトゲだよ」
「いてーー! いきなり抜くなよ!」
「じゃあ、戻すね」
ブスッ!
「ぎゃーーーー!」
そんなことをしていると、右に広がる草原からうねうねした大きな芋虫がやってきた。
体長は百五十センチくらいはあるだろうか。
身体にトゲをいくつもつけた、でかい幼虫って感じだ。
「うえっ、なんだあいつ!」
「あっ、このあたりってね、トゲを飛ばすモンスターがよく出るんだって。ヒツジを襲う害虫だって言ってたよ」
教えろよ! 先に教えろよ!
ヒツジを襲うのだから俺が狙われるのは当然だ。
それなのに教えないとは…!!
つーか、あの芋虫肉食かよ!!
「シゲキ君、戦おう!」
「おいおい、俺はヒツジだぜ?」
そうだ、弱者だ。
あんな芋虫にも狙われる弱いやつだ。
これは俺が悪いんじゃない。種族の問題なんだ。
考えてもみろ。ウサギのキックボクシング世界チャンピオンが狼の子供に勝てるか?
な? ヤゴじゃねえんだ。
立場逆にはならないんだよ。
ジョナサンを見たか?
あんなもんさ。俺たちヒツジはいつだって…
「ヒツジだからって、いつまでも甘えていていいの!? 男じゃないの!?」
ガーーーーーンッ!!
なんか来た。ぐっと来た。
ぷるんの言葉でこれほど心に来た言葉があっただろうか。いや、ない。
今までとんでもないやつだと思っていたが、この言葉は正しい。
ジョナサンだってそう言うはずだ!
「そうだよな。戦わないといけないよな」
「そうだよ。それが人生だよ」
「ああ、そうだ。人生は戦ってなんぼだーーーー!!!」
そう言って立ち向かおうとした瞬間、目の前が真っ暗になった。
ガクッ、ドンッ。ゴロン。
シゲキは死んだ。
「シゲキくうううーーーーーん!!!」
「はっ、俺はどうなったんだ?」
目が覚めると目の前にぷるんがいた。記憶がない。どうなったんだ?
「シゲキ君、負けたんだよ」
「なんだってぇえええええ! どうしてだ!」
どうやら俺は最初の一撃でダメージを2くらっていたらしい。
だが、体力というものは活動を繰り返すと減っていくものだ。
そして、いざ戦おうとした瞬間、体力が尽きて俺は死んだのだ。
その証拠にステータスを開くと「シゲキ三匹目」になっていた。
俺は、俺は、あんなトゲで死ぬのか。
ちなみに死ぬと年齢が「生まれたて」に戻るらしい。
俺、ずっとラム肉なのかよ!
俺は…俺は!! 自分が許せない!!
こんなに弱い自分が許せないんだよぉおおおおお!
モコッ! モコモコッ!!
「シゲキ君、荒ぶってるよ! 毛が増えたよ!!」
俺の荒ぶる魂はスキル増毛を自動発動させた。
そうだ。俺はやるんだ。燃えるように戦うんだ!!
毛だって生えるさ!
ブシューー!
ドガッ。ゴロン。
シゲキは死んだ。
「シゲキくうううーーーーーん!!!」
「はっ、俺はいったい…」
「シゲキ君、負けたよ」
「だ、誰にだ?」
「シゲキ君は自分に負けたんだよ」
ガーーーーーーーンッ!
俺は…自分に負けたのか。
ちなみに「生まれたて」の状態でスキル「ヒツジ」を使うと死ぬらしい。
数分でも経っていればいいが、生まれ変わって一分以内では死ぬことがわかった。
増毛で死んだ。耐えきれない屈辱だ。
リーパの親父さんに匹敵する死に方だ。いや、上回るかもしれん。
俺は自分がなさけない!!
「ぷるん、俺は勝ちたい。敵に…自分に勝ちたい!」
「シゲキ君ならできるよ!」
「ぷるん!!」
俺とぷるんは初めて握手を交わした。
燃えるような熱意が初めて一つになったのだ。
一緒になって戦うことを誓ったのだ。初めての共同作業だ。
こんな感動があるだろうか! 俺たちは一心同体なんだよ!
しかし、俺は見た。
ぷるんが俺の蹄を触ったあと、手を拭くのを。
汚いものを触ったあと、人は手を拭く。
シゲキ=汚い 蹄=不潔
「うおおおおおおおおおお!!」
シゲキは叫んだ。
天に向かって耐え切れない屈辱からの解放を願った。
そして神は願いを叶えた。
〈わが子よ、よくがんばった。もうお休みなさい〉
ブシューー!
ドガッ。ゴロン。
シゲキは死んだ。
「シゲキくうううーーーーーん!!!」
五匹目に生まれ変わった時に気がついた。
「お前が戦えよぉおおお! 戦士なんだから!!」
そういえばそうだ。こいつは戦士だったはずだぞ。
どう考えてもヒツジより強い。しかも武器まで持っているじゃないか!
お前がやれ!!
「だって女の子だもん」
「甘えるな! 今や女でも戦う時代だぞ!」
「わかったよ。やってみる」
再びトゲを飛ばす芋虫、正式名「ビビルン」と戦うことになった。
餌は俺だ。あいつは匂いでこちらの位置がわかるという。
そして、やつはやってきた。
「来たぞ!!」
俺が叫んだ時、戦慄を覚えた。
なぜかって? 俺の背後にいたぷるんからものすごい気配が生まれたからだ。
「ひゃっはーー! 皆殺しだ!」
そいつは世紀末のモヒカンのごときテンションで走り出し、芋虫にサイを突き刺す。
刺す。刺す。刺す。
ザクザクザクザクッ!!
ぐちゃっ。ぐちゃぐちゃぐちゃ。
十のダメージ。
二十のダメージ。
ビビルンは死んだ。
ザクザクザクザクッ!!
ぐっちょ。ぬっちょ。ぐちゅぐちゅぐちゅ。
二十五のダメージ。
三十二のダメージ。
五十五のダメージ。
ビビルンは死んだ。
ひぃいいいいいいい!!! トラウマ!!
ぷるん、つええええええええ!!
つーか、こえぇぇえええーーーー!!!
しかも一度死んでいるのにもう一回殺したぞ!!
牧場物語ミスだって! スパゲティプログラムするからだよ!
重複! 判定重複してるって!
「お、おい、ぷるん。だ、大丈夫か?」
恐る恐る声をかける。
その目は赤に染まっているようにも見えた。
「大丈夫だよ。ちょっと野性が目覚めて興奮しちゃって」
バーサーカーモードなの!?
怖い。マジ怖い! 野性とかそんなレベルじゃなかったぞ。
おいおい、ヒツジ戦士ってこんなにやばいのかよ!
ヒツジと戦士の能力差ありすぎだろう!
「じゃあ、剥ぎ取ろうか」
「いやぁああ、やめて!!」
「違うよ。シゲキ君じゃないよ。これから素材を剥ぎ取るんだよ」
おそらくここが牧場物語だとしてだ、あのゲームでは倒した相手から素材を剥ぎ取る。
ただ、ゲームではワンクリックで「~素材をゲット」とか出るのだが、現実は自分で剥ぎ取らねばならないらしい。
これも異世界物での常識とのこと。
そんなこと知らないって。マジで?
虫の解体までやるの? だってもう半分ぐちゃぐちゃだよ?
うぇぇえ…キモッ。つーか、クリーミーだ!
「わかったよ。やってみよう」
俺は一生懸命がんばった。
蹄でカリカリ死んだビビルンの皮を剥ぎ取ろうとした。
ものすごくがんばった。そしてようやく取った時だ。
「あっ、皮はいらないよ」
最初に言えよぉおおおおおおおお!!!
蹄が汚れたじゃねえかよおおおお!!
ぶんぶんとサイを振り回す。
振り回したサイの翼(よく)が俺のアゴに刺さる。
「いってぇええええええええ!!」
「あっ、ごめん。楽しくて」
四つ足で歩くとちょうど顔が手のあたりにくるんだよな。
これはたしかに危ない。
だが、ぷるんの笑顔は許せぬ。
人にサイを刺しておきながら笑うとは。
「ねえ、大丈夫?」
おっ、こいつにしては珍しく心配したな。
そうそう、こうしていつも配慮すれば可愛い子なんだよ。
俺だっていつも怒っているわけじゃない。
ぷるんが女の子らしくしていれば…
「病気にならないかな?」
ん? 何の話だ?
「さっきこれで『う〇こ』つついたんだけど」
いやぁぁぁああああああああ!!!
うそぉおおおおおお! 嘘だと言ってよぉおおおお!
嘘よね! そんなの嘘よね!!
「なんだろうと思って、ついうっかり」
形見ぃいいいいいい! それ形見だからな!!
丸太祭りで死んだリーパの親父さんの恥部をさらに辱めるなよぉおお!
どんどん違う黒いものが付着していくじゃねえか!
「アラレちゃんはつつくよ」
則巻さんち、教育! 教育しっかりしような!!
真似しちゃうからさ!!
「毒の能力付加されないかな」
俺に刺したことよりもそんなことを期待している。
自分で刺さればいいと思う。うん、心底そう思うよ。
「そういえばね、私もヒツジさんなんだよ」
「知ってるよ。ヒツジ戦士なんだろう?」
すっかり忘れていたが、ぷるんも一応ヒツジ戦士だった。
ふと冷静になって思ったが、俺のヒツジって職業なのか?
だったらどっかの神殿で転職とかできないんだろうか?
ドラクエでもモンスターになれたよな。もしかしてアレか?
「ほら、見て」
ぷるんが髪の毛を分けて、自身の頭にある【角(つの)】を見せる。
「えっ!? 角あったのか!?」
まだほんの小さな角だが、ぷるんの頭の両サイドにはたしかに角があった。
これってネコミミとかと同じ系か?
女の子だけずるい!! どうして男はリアルヒツジなんだよ!
「あのね、このあたりの人間って、【白ヒツジ族】なんだって」
リーパの話によれば(俺がヒツジ小屋にいた頃に聞いたらしい)、この世界の人間は大きく分けて五種類いるそうだ。
その一つが白ヒツジ族。
比較的穏和な性格で群れる習性が強い種族だという。
髪の毛で見えないがリーパにも小さい角があるという話だ。
「ふーん、じゃあお前も白ヒツジ族なんだな」
「シゲキ君もそうなんだって。顔が黒いからちょっと変種らしいけど、毛が白いヒツジは全部そうらしいよ」
「え? じゃあ、あのヒツジたちもか?」
「うん」
「ジョナサンも?」
「うん♪」
共食いぃぃいいいいいい!!
いやぁ! 共食いやめてぇええええ!
「お前は俺を食った! ジョナサンも食った! どんな気分だ!?」
「ジョナサン、ちょっと硬かった。シゲキ君は柔らかかったよ」
「歯ごたえじゃねえよ!」
「でも、ヒツジはヒツジだって」
人間とヒツジはやはり違うそうだ。
だが、俺にはそうは思えない。あいつらとは話せるし、想いも共有できる。
それが人間の家畜だなんて許せん!!
「俺はヒツジを守るぞ!!」
「うん、がんばって」
聞きました、みなさん? この他人事発言。
こいつはこういうやつなんですよ。
じゃあ、どうして付き合っているかって?
そりゃまあ胸がでか…
グサッ! ブシャーーー!
「ぎゃぁああああああああああ!」
何かがー! 何かが刺さったー! 俺の頭に何かが刺さったーーー!!
「ぷるん、もう許さんぞ!」
今度という今度は許さん! 一度お仕置きが必要だ!
俺だって噛むよ? 荒ぶるぜ!?
「違うよ、私じゃないよ」
「嘘だ!!」
こういうとき普段の信用ってのが問われるよな。
羊飼いの嘘つき少年は信用されないんだぜ。
「だってほら、これトゲだよ」
「いてーー! いきなり抜くなよ!」
「じゃあ、戻すね」
ブスッ!
「ぎゃーーーー!」
そんなことをしていると、右に広がる草原からうねうねした大きな芋虫がやってきた。
体長は百五十センチくらいはあるだろうか。
身体にトゲをいくつもつけた、でかい幼虫って感じだ。
「うえっ、なんだあいつ!」
「あっ、このあたりってね、トゲを飛ばすモンスターがよく出るんだって。ヒツジを襲う害虫だって言ってたよ」
教えろよ! 先に教えろよ!
ヒツジを襲うのだから俺が狙われるのは当然だ。
それなのに教えないとは…!!
つーか、あの芋虫肉食かよ!!
「シゲキ君、戦おう!」
「おいおい、俺はヒツジだぜ?」
そうだ、弱者だ。
あんな芋虫にも狙われる弱いやつだ。
これは俺が悪いんじゃない。種族の問題なんだ。
考えてもみろ。ウサギのキックボクシング世界チャンピオンが狼の子供に勝てるか?
な? ヤゴじゃねえんだ。
立場逆にはならないんだよ。
ジョナサンを見たか?
あんなもんさ。俺たちヒツジはいつだって…
「ヒツジだからって、いつまでも甘えていていいの!? 男じゃないの!?」
ガーーーーーンッ!!
なんか来た。ぐっと来た。
ぷるんの言葉でこれほど心に来た言葉があっただろうか。いや、ない。
今までとんでもないやつだと思っていたが、この言葉は正しい。
ジョナサンだってそう言うはずだ!
「そうだよな。戦わないといけないよな」
「そうだよ。それが人生だよ」
「ああ、そうだ。人生は戦ってなんぼだーーーー!!!」
そう言って立ち向かおうとした瞬間、目の前が真っ暗になった。
ガクッ、ドンッ。ゴロン。
シゲキは死んだ。
「シゲキくうううーーーーーん!!!」
「はっ、俺はどうなったんだ?」
目が覚めると目の前にぷるんがいた。記憶がない。どうなったんだ?
「シゲキ君、負けたんだよ」
「なんだってぇえええええ! どうしてだ!」
どうやら俺は最初の一撃でダメージを2くらっていたらしい。
だが、体力というものは活動を繰り返すと減っていくものだ。
そして、いざ戦おうとした瞬間、体力が尽きて俺は死んだのだ。
その証拠にステータスを開くと「シゲキ三匹目」になっていた。
俺は、俺は、あんなトゲで死ぬのか。
ちなみに死ぬと年齢が「生まれたて」に戻るらしい。
俺、ずっとラム肉なのかよ!
俺は…俺は!! 自分が許せない!!
こんなに弱い自分が許せないんだよぉおおおおお!
モコッ! モコモコッ!!
「シゲキ君、荒ぶってるよ! 毛が増えたよ!!」
俺の荒ぶる魂はスキル増毛を自動発動させた。
そうだ。俺はやるんだ。燃えるように戦うんだ!!
毛だって生えるさ!
ブシューー!
ドガッ。ゴロン。
シゲキは死んだ。
「シゲキくうううーーーーーん!!!」
「はっ、俺はいったい…」
「シゲキ君、負けたよ」
「だ、誰にだ?」
「シゲキ君は自分に負けたんだよ」
ガーーーーーーーンッ!
俺は…自分に負けたのか。
ちなみに「生まれたて」の状態でスキル「ヒツジ」を使うと死ぬらしい。
数分でも経っていればいいが、生まれ変わって一分以内では死ぬことがわかった。
増毛で死んだ。耐えきれない屈辱だ。
リーパの親父さんに匹敵する死に方だ。いや、上回るかもしれん。
俺は自分がなさけない!!
「ぷるん、俺は勝ちたい。敵に…自分に勝ちたい!」
「シゲキ君ならできるよ!」
「ぷるん!!」
俺とぷるんは初めて握手を交わした。
燃えるような熱意が初めて一つになったのだ。
一緒になって戦うことを誓ったのだ。初めての共同作業だ。
こんな感動があるだろうか! 俺たちは一心同体なんだよ!
しかし、俺は見た。
ぷるんが俺の蹄を触ったあと、手を拭くのを。
汚いものを触ったあと、人は手を拭く。
シゲキ=汚い 蹄=不潔
「うおおおおおおおおおお!!」
シゲキは叫んだ。
天に向かって耐え切れない屈辱からの解放を願った。
そして神は願いを叶えた。
〈わが子よ、よくがんばった。もうお休みなさい〉
ブシューー!
ドガッ。ゴロン。
シゲキは死んだ。
「シゲキくうううーーーーーん!!!」
五匹目に生まれ変わった時に気がついた。
「お前が戦えよぉおおお! 戦士なんだから!!」
そういえばそうだ。こいつは戦士だったはずだぞ。
どう考えてもヒツジより強い。しかも武器まで持っているじゃないか!
お前がやれ!!
「だって女の子だもん」
「甘えるな! 今や女でも戦う時代だぞ!」
「わかったよ。やってみる」
再びトゲを飛ばす芋虫、正式名「ビビルン」と戦うことになった。
餌は俺だ。あいつは匂いでこちらの位置がわかるという。
そして、やつはやってきた。
「来たぞ!!」
俺が叫んだ時、戦慄を覚えた。
なぜかって? 俺の背後にいたぷるんからものすごい気配が生まれたからだ。
「ひゃっはーー! 皆殺しだ!」
そいつは世紀末のモヒカンのごときテンションで走り出し、芋虫にサイを突き刺す。
刺す。刺す。刺す。
ザクザクザクザクッ!!
ぐちゃっ。ぐちゃぐちゃぐちゃ。
十のダメージ。
二十のダメージ。
ビビルンは死んだ。
ザクザクザクザクッ!!
ぐっちょ。ぬっちょ。ぐちゅぐちゅぐちゅ。
二十五のダメージ。
三十二のダメージ。
五十五のダメージ。
ビビルンは死んだ。
ひぃいいいいいいい!!! トラウマ!!
ぷるん、つええええええええ!!
つーか、こえぇぇえええーーーー!!!
しかも一度死んでいるのにもう一回殺したぞ!!
牧場物語ミスだって! スパゲティプログラムするからだよ!
重複! 判定重複してるって!
「お、おい、ぷるん。だ、大丈夫か?」
恐る恐る声をかける。
その目は赤に染まっているようにも見えた。
「大丈夫だよ。ちょっと野性が目覚めて興奮しちゃって」
バーサーカーモードなの!?
怖い。マジ怖い! 野性とかそんなレベルじゃなかったぞ。
おいおい、ヒツジ戦士ってこんなにやばいのかよ!
ヒツジと戦士の能力差ありすぎだろう!
「じゃあ、剥ぎ取ろうか」
「いやぁああ、やめて!!」
「違うよ。シゲキ君じゃないよ。これから素材を剥ぎ取るんだよ」
おそらくここが牧場物語だとしてだ、あのゲームでは倒した相手から素材を剥ぎ取る。
ただ、ゲームではワンクリックで「~素材をゲット」とか出るのだが、現実は自分で剥ぎ取らねばならないらしい。
これも異世界物での常識とのこと。
そんなこと知らないって。マジで?
虫の解体までやるの? だってもう半分ぐちゃぐちゃだよ?
うぇぇえ…キモッ。つーか、クリーミーだ!
「わかったよ。やってみよう」
俺は一生懸命がんばった。
蹄でカリカリ死んだビビルンの皮を剥ぎ取ろうとした。
ものすごくがんばった。そしてようやく取った時だ。
「あっ、皮はいらないよ」
最初に言えよぉおおおおおおおお!!!
蹄が汚れたじゃねえかよおおおお!!
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*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
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