アニマルアイランド

園島義船(ぷるっと企画)

文字の大きさ
上 下
11 / 16

愛があふれて

しおりを挟む
 竜との対話を終えたあなたとリンカは、家に戻りました。

 あなたの心は高ぶっています。

 リンカ、リンカ、リンカ。

 いつもならば、自分の住む家の美しさに感嘆するあなたですが、今はそんなものは目に入りません。

 あなたの目は、心は、リンカだけに釘付けです。

「…えへへ、変な気分ですね」

 それはリンカも同じでした。

 彼女も心に大きな動きがあることを悟っています。


 お互いを求める磁力が増している。

 愛が増えたのだ。


 竜と出会ったことで、二人は大きく力が増しました。二人の愛が、さらに大きくなったのです。

 苦しみと嘆きが、愛に転化したのです。

 マイナスがプラスになるように、人生の暗闇が光になりました。人生を思い出したあなたは、そのすべてが愛だと知ったのです。

 なぜ、痛みや苦しみ、欠乏が存在するのか。
 それは、プラスに転じるため。
 神が与えた果実の本当の味を知るため。

 あなたが苦しみや痛みを自覚した瞬間、身体の中に存在していた光が輝きを増します。


 愛はここにある。


 この胸の中にあるのだと感じたのです。神が与えた果実から、甘い汁が湧き出たのです。その極上の甘さは、地上のものでたとえることができないほどです。

 満たされていきます。
 癒されていきます。
 神の愛が、あなたを包んでいきます。

 どうしよう、どんどん愛があふれてくる。
 このままでは壊れてしまいそうだ。

 戸惑いにも似た感覚。無限に湧いてくる愛しい感情を抑えきれません。

 あまりに愛しすぎたのです。

 あなたのリンカへの想いがあまりに大きすぎて、あなた自身すら超えてしまいそうです。存在そのものを呑み込み、さらに家中に広がっていきます。

 愛は際限なく増えます。
 今はまだお互いのことしか見えずとも、愛だけは増え続けます。

 愛しなさい。愛しあいなさい。
 ただそれだけで幸せになれます。

 竜の言葉が、あなたの脳裏に響きます。

 そうだ。愛は与えるものだ。
 自分自身に蓄えてはおけないのだ。

 自分の中にある愛は、外に出たがっている。
 与えたがっている。

 愛とは、与えるものなのです。世に無限の愛の形があれど、愛は与えることで本来の性質を遺憾なく発揮します。

 リンカ。

 あまりにかわいいリンカを、後ろから抱きしめました。
 優しく、優しく触れます。

 それでも軽く力を入れただけで、自在に形を変える女性の身体がありました。男性的な自身の身体とは違う、女性的なものです。

「あっ、ご主人様…」

 優しく両手で抱きしめると、びくんとリンカが震えます。

 愛が、あまりにも強かったから。
 愛が、あまりにも愛しかったから。

 あなたの愛は、リンカの愛すら超えていました。これが人間が宿す本当の神の光なのです。そのごくごく一部なのです。

 リンカの反応が可愛くて、あなたはもっと触れていきます。
 肩を。髪を。その心を。

「触られるの…、すごく気持ちいいです」

「嬉しい。嬉しいです」

 リンカに流れるのは、あなたの光。

 愛している気持ち。
 ただただ求める気持ち。
 リンカを想う気持ち。

 彼女の髪の毛に顔をうずめると、また春の匂いがします。

 ああ、リンカはなんて可愛いのだろう。
 世界中を見ても、こんな素敵な女性はいない。

 心にあふれる愛が抑えきれず、あなたの光は大きくなっています。気がつけば、家の外にまで光が輝くほどに。

 あなたは気がつきませんでしたが、外は夜になっていました。夜に山の中腹で輝く光は、まるで星のようです。まるで月のようです。

 人々はその光を見て、心に愛を抱きます。あなたが発した愛はリンカすら超え、島のすべての生命にそそがれていきました。

 愛したい、もっと愛したい。

「わたしをこんなにも愛してくれるなんて…。人間のように愛してくれるなんて…」

 リンカは、この愛が人間に向けられるものであることを理解していました。

 人間が人間に向ける愛は特別です。

 人間が抱く愛には段階があります。進化の程度が近しいほど、抱く愛は強くなっていくのです。

 人間の中には、虫や爬虫類、魚類を愛する人もいます。彼らが発する愛もまた、進化の遅れている者を助ける力となります。ただし、やはり進化の近い者への愛のほうが強いのです。

 魚より鳥へ、鳥より犬へ、犬よりも同じ人間へ。

 同胞である人間に対する愛情は、犬に抱くものよりも大きいのは自然なことです。その人間の中でも、より親しい人、同じ趣味の人間、家族、恋人、夫婦、子供に対する愛は強くなります。

 あなたの愛は、その中のどれよりも強いのです。

 恋人よりも愛しく。
 夫婦よりも近しく。
 親子よりも大きく。

 あなたがリンカに抱く愛は、同じ人間へのものであり、なおかつ最上のものでした。

 相手を自分自身のように愛する。

 自分を愛することも愛の一つです。自分を大切にできない人間は、他人を大切にすることはできません。

 相手を自分のように愛すればよいのです。
 あなたはそれを今、実践しているのです。

 頭で理解するのではなく、心の感覚で。

 軽く触れているだけなのに、その快感は尋常ではありません。触れられているリンカはもちろん、彼女の肌に触れているあなたにも、強い強い刺激がやってきます。

 愛があふれると、心が完全なるエクスタシーに達するのです。

 人が瞑想の中で神と出会った時。
 その愛の深さ、宇宙の大きさに圧倒された時。

 人は地上ではけっして味わえない、最高の快楽を得ます。

 神そのものが快楽だからです。

 神は、あらゆるものの極致です。美の極致、愛の極致、快楽の極致。すべての存在の母であり、すべてが宿されているから心地よいのです。

 愛を与えられたリンカは、自身の中でも愛があふれることを実感しました。あなたの愛に呼応して、愛が増えていくのです。

 少しずつ、少しずつ、あなたが溶けだして、リンカの中にしみ入っていきます。あなたとリンカが混じりあっていきます。

「いつもご主人様は、わたしを撫でてくれました」

「あのときは、ただただ嬉しかったですけど、今はわたしも触りたいのです」

「ああ、あなたに触りたい…」

 リンカは、自身の中で抑えきれなくなった愛を、あなたに向けて放射します。

 優しく、優しく、撫でるように優しく。

 まるでわが子を愛する母のように、あなたの手に触れて。


「いい子、いい子、かわいい子…」

「気持ちよくなーれ。気持ちよくなーれ」


 リンカの愛が、母性となりました。

 あなたを包む柔らかさ。
 存在に対する無条件の愛情。

 まだ少し慣れない愛情表現の中に、神が星を創造した時に使った母性が垣間見えます。

 母性は、すべての母です。

 すべての生命を生み出した、神の母としての側面です。その力が、あなたをすっぽりと包んでしまいます。

 リンカの愛が、こんなにも自分を包む。
 ああ、なんて落ち着く気持ちだろう。

 愛が、ストレートに伝わってくるのです。彼女は、犬を経て人間になったおかげで、直接的な愛情表現に長けています。

 地上の人間は、いつしか知性で自己を守るようになっていました。傷つかないように自分を出すのを怖がるようになっていました。

 そんなあなたにとって、このストレートな愛は、あまりに刺激的だったのです。一瞬で心を奪われてしまいました。

 ああ、リンカは本当に自分のことを愛しているのだ。
 こんなに幸せなことはない。

 あまりの充足感に満足を覚えてしまいます。このまま愛しい海の中に埋没してしまいたいと願います。母なる海に抱かれて、眠ってしまいたくなります。


 しかし、はっとわれに返りました。


 これでは前の二の舞になってしまう。
 それではいけない。
 自分だけ気持ちよくなっても本当の満足は得られない。

 今日はリンカの心を満たすことを最優先にします。彼女に心地よくなってもらいたいのです。そのためには、もっと愛をそそがないといけません。

 どうすればもっと愛をそそげるのでしょうか。
 愛はどこから生まれるのでしょうか。


 そうです。あなたのハートから生まれます。


 ハートにいる小さな神様から、愛は発せられるのです。

 知性の刺激だけでは、愛は完全にはなりません。
 心から発せられた愛でないとダメなのです。


 ハートに生きている、あなたの霊から発せられるのです。


 あなたは、竜との対話を思い出していました。

 人生のすべてが愛しく思ったあの感覚。
 どんな醜いものでも美しく思えた、あの愛情。

 あれが愛なのかもしれない。

 彼女という枠組みを超えて。
 リンカという存在を超えて。
 自分すら超えて。

 もう一度あそこまで高まれば、彼女をより深く愛せるかもしれない。
 自分が何も意図せずとも、彼女に幸せをプレゼントできるかもしれない。

 あなたは、今一度自分の人生を振り返りました。

 ああ、彼女と出会えてよかった。
 あの奇跡のような出会いが、今こうして実となっている。

 生きているだけでも幸せなのに、こうして触れあえるなんて幸せだ。
 愛している。愛している。愛している。

 愛よ、届け。

 リンカのハートに届け。


「あっ…! 熱い…、熱い…! ご主人様ぁ!」

 リンカもそれに気がついたようです。

 あなたのハートから彼女のハートに愛が伝わっています。燃えるような愛でありながら、熱い愛でありながら、それはとても優しいのです。

 まるで実際に愛同士が触れている感覚。

 ええ、愛は実際に触れられるのですよ。

 地上では、誰もが愛を探しています。愛を見つけられた人もいれば、見つけられない人もいます。そして、愛を諦めてしまう人もいます。

 でも、諦めないでください。
 愛は存在します。

 あなたは愛から生まれたのです。
 あなたが愛そのものなのです。

 心が形になる世界においては、愛は実感あるもの。触れて、感じて、満たされるものです。

 あなたが愛を抱く時、愛は実際に生まれているのです。目には見えずとも触れられるのです。あなたの愛は、どこまでも赤く、どこまでも黄色で、どこまでもオレンジでした。

 これが本来の気質。
 あなたが持つ性質。

 人を元気づけ、励まし、満たし、癒す。動物たちが引きつけられる愛であり、信頼される愛であり、進化のために求められる愛です。

 その愛がリンカに浸透し、あなたの胸いっぱいの気持ちが伝わります。

「そんなに愛したら…、胸がいっぱいになって…」

「苦しい! 苦しいほど好きです…! ご主人様が好き!」

「ダメです! 愛が止まらない! ああ、愛が…!」

「愛がわたしの中に…入って…、あああ!」

 リンカは、あまりの愛に打ち震えます。

 愛が大きすぎて。
 愛が濃すぎて。
 愛が、あまりにも愛しすぎて。

 愛がわからなくなるほど、愛しあって。


 よかった。
 リンカが感じてくれている。

 あなたは、昨晩得られなかった新しい快楽を得ていました。

 与える愛。その極致。

 あなたは、なによりもリンカに感じてほしかったのです。

 自分だけを心配してくれるリンカ。
 自分だけを愛してくれるリンカ。

 自分だけを欲してくれているリンカにも気持ちよくなってほしいのです。

 自分はどちらでもよい。
 彼女が気持ちよくなってくれるのならば、どうだっていい。
 今までずっと待たせてしまったぶんを、埋め合わせしたい。

 その熱い心が、あなたの手を通して熱となって伝わっています。

 心が燃えます。燃えるようだ。

 自分を忘れ、相手を想えば想うほど、愛は増えていきます。相手のことだけを想っているのに、自分も気持ちよくなります。

 愛は不思議です。愛は素敵です。

「ご主人様も…、ご主人様も…、愛して…」

 リンカも一生懸命になって愛を伝えます。
 彼女の手からも愛がほとばしっていました。

 ありったけの愛を。
 自身そのものの愛を。
 形を超えて、そのすべてを。

 ああ、温かい。彼女のすべてが温かい。

 愛している。
 この愛がもっと届け。
 この手からもっと彼女の奥深くまで届け。

 あなたは必死に愛を送ります。

「はぁぁあ! だ、ダメです! わたしは!」

 ハートから愛はほとばしり、彼女のハートを熱で満たします。

 心がいっぱい。胸がいっぱい。

 どくん、どくん。

 お互いのハートの音が一つになっていきます。
 重なりあい、求めあい、一緒に昇っていきます。

 そして、それは限界に達しました。


 お互いの愛がはてしなく膨張し、爆発したのです。


 光は夜空に舞い上がり、世界に証明します。あなたの愛が、ここまで高まったのだと示します。リンカと愛しあったのだと教えます。


 リンカ…!

 快楽に震えながら、彼女を強く抱きしめます。言葉には言い表せない感動と愛が満ちています。

「わたしの愛で、あなたが気持ちよくなってくれれば…」

「わたしの愛で、あなたが満たされてくれれば…」

 あなたが愛に打ち震えているあいだも、彼女は愛をしぼりだそうとしています。

 もっともっと気持ちよくなってほしい。
 あなたが満たされてほしい。

 その想いが伝わります。

 こんなに愛されてよいのだろうか。
 こんなに求められてよいのだろうか。

 嬉しさと恥ずかしさ、そして満足感。
 彼女も愛で満たされたのは知っています。
 小刻みに震えているのがわかります。

 でも、まだ足りません。
 まだ愛し足りないのです。 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ
恋愛
彼とは長年付き合っていた。もうすぐ薬指に指輪をはめると思っていたけれど、久しぶりに呼び出された寒い日、思いもしないことを言われ、季節外れの寒波の中、帰途につく。

処理中です...