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あなたが食べるもの
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あなたが目を覚ますと、もう朝でした。
まだ少し頭がはっきりしません。差し込む朝日をぼ~っと見つめていました。
自分はどうしたのだろう。
ここはどこだっただろうか。
これは夢なのか現実なのか。
自分がどこにいるのかわからない感覚。
それはいつも感じていた孤独。朝起きると誰もおらず一人きり。毎日が何も起こらずに過ぎ去っていく寂しい日々。
あなたは、また訪れるであろう、そんなつらい日を予感して思わず飛び起きます。
もう一人は嫌だ!
思わず叫んでしまいます。
それほどまでにあなたの人生はつらかったのでしょう。誰にも心開くことなく、誰にも心開かれることのない日々。
人は一人で生きていくことはできません。何かを愛さなくては生きていけません。愛されなくては生きていけません。これほど暖かい光が射し込んでいるのに、あなたの心はとても冷たく感じます。
あなたは自分の心の状態によって、見るものが変化することを知りました。
今の不安に満ちたあなたには、世界はきっと冷たく見えることでしょう。そこがコンクリートジャングルであろうと田舎ののんびりした風景であろうと、心が冷えていればすべてがむなしく感じます。
そうだ。昨日だ。
自分はここで昨日という日を過ごしたはずだ。
あなたにとっては朝目覚めれば、目覚める前に過ごしていた時間は昨日。昨日という日々が存在することによって、あなたは大切な人のことを思い出します。
そうだ、リンカ!!
彼女はどこに行ったのだろう。
まさか、彼女まで夢だったのではないだろうか。
そう思うとさらに不安に駆られました。居ても立ってもいられずに彼女を捜しに部屋を飛び出します。
リンカ! どこにいるんだ!
あなたはリビングに行くなり、大声を出しました。
もう失うのは嫌だ。
あんなさびしい生活は嫌だ。
そうです、あなたは孤独が嫌いです。人は誰しも孤独を嫌うものです。されど、時には孤独であらねばならないもの。
魂の旅は孤独なものなのです。
しかし、すべてを受け入れられるほど人は強くはありません。
ならば、あなたが欲するものを与えましょう。
あなたが欲するものは…
「はい、ご主人様。呼びましたか?」
再び世界が生まれました。
彼女を中心として光が広がり、世界を浸食していきます。
その瞬間から世界が温もりを帯びていきました。日差しはようやく暖かみを与え、床の感触もわかってきます。
それまで冷たかったすべてが、瞬く間に溶解したのを感じました。
彼女という太陽が生まれたからです。
「ご主人様、おはようございます」
何事もなかったように笑顔で奥の部屋から出てくるリンカ。
あまりに自然に出てきたので、一瞬幻に思えたほどです。
しかし、紛れもなくそれは現実でした。
…ああ、よかった。
もし彼女が夢だったら、自分はもう生きてはいけないかもしれない。
もうあんな冷たい世界では生きていけない。
彼女だけがあなたの支えです。あなたの愛を支えているものです。あなたが愛を発するために必要な要素です。
なればこそ、あなたにはリンカが与えられるのです。
「そろそろお腹が空きましたか?」
リンカはあなたの様子を見て言います。
そう言われてみると、少しだけ空いたような気がします。昨日は果実を軽くかじっただけで終わったので、たしかに物足りません。
「それじゃ、朝ごはんにしましょうね。ご主人様が好きなものを用意してありますよ」
リンカはあなたをリビングのテーブルに案内します。この家はすべてが木でつくられており、テーブルも優しい木の温もりがある心落ち着くものです。
そのテーブルには、パンとコーヒー、果物と野菜。
パンはトースターで軽く焼いたもの。果物はリンゴ。野菜はドレッシングをつけて食べる葉っぱもの。それらは質素なものでしたが、あなたの大好きなものばかりです。
見たとたんに空腹が強まり、ついつい夢中で食べはじめます。味はそこまで強くは感じませんでしたが、ほのかに口に広がる風味に酔いしれます。
おいしい、おいしい。
こんなにおいしいものは初めてだ。
あなたはすっかり満足してしまいました。
しかし、これはリンカがつくったのだろうか?
簡単なものばかりだが、彼女に料理ができるのだろうか?
あなたにとってリンカはすでに人間ですが、もともと犬であった彼女が人間の生活に精通しているのも不思議です。
それを尋ねてみます。
「ここにあるものは、ほとんどは町からもらってきたものです。ここでは何でも好きなことができるので、誰もがみんなのために物をつくっています」
パンが好きな人は、パンをつくる。
畑仕事が好きな人は、野菜や果物を育てる。
建築が好きな人は、建築を学び、家を建てる。
元となる素材は、地上と同じようにこの世界の自然からもらいます。何一つ自分で作れるものがないというのは同じこと。すべて神から与えられています。
唯一異なるのは、ここではお金の概念がないことです。
お金は地上では権利を示し、物の流通にとって必要な要素でしたが、すべてが与えられているこの世界では必要ありません。
パンが必要な人には、喜んでパンをあげます。
家が必要な人には、喜んで造ってあげます。
対価は、喜んでもらえること。
相手の笑顔、喜びは何倍にもなって自分に返って来ます。あなたもここに来てから、相手の気持ちがよくわかるようになったはずです。
リンカとのつながり、与えることの素晴らしい感覚。相手に喜びをもたらしたからこそ、自分に戻ってくるものなのです。そのときの恍惚感、達成感を味わうために人々は他者に尽くします。
気がつくと、自分のことを忘れるほどに。
たしかに最初は自分のためにやる人もいます。でも、それは悪いことではないのです。まず自分が満たされようとするのは、魂が自己を確立するのに必要なことです。
ですから、神様は相手にしたことが自分に戻ってくるようにしたのです。
相手も喜んで自分も満たされる。
それが普通の生活になったとき、自分のことすら忘れて相手に尽くしたくなります。最初は自分のためにやっていたのに、いつしか相手の幸せだけを願うようになるのです。
自己を忘れ、他者のために動くとき、あなたの中の神様がまた光を放ちます。
光は無条件の愛。
愛である神様は、自己の表現を求めるために、最高の愛である無償の愛のやり方を教えてくれます。無条件の愛は、こうして相手に与えることを習慣にしていくことで、少しずつ少しずつ身についていくのです。
この世界の通貨は黄金ではなく、相手に喜んでもらえること。
ここに唯一の満足が存在するのです。それだけが世界の真実なのです。
「みんな、ご主人様のことを想ってくれていますよ」
あなたがここに来たことは町でも話題に上っていました。あのリンカちゃんの伴侶がついに来た、と。
町の人々は、地上にいるあなたを想うリンカの愛に感動していました。これだけの愛を受けられて、あなたはなんと幸せなのかとも思っていたくらいです。
そしてあなたがやってきて、不慣れな生活に早く慣れてもらおうと、みんなが必要なものを用意してくれたのです。
この食材には、あなたへの思いやりが込められていました。
なんだか気恥ずかしい。
自分のために、まだ顔もよく知らない人ががんばってくれるなんて恐縮だ。
あなたは思わず照れてしまいます。
思えば地上では、こうした思いやりが時々わずらわしく思えたときがありました。今を生きることに必死で、自分のことしか考えておらず、まわりが見えなくなっていたのでしょう。
恩を受けたら返さねばならない。
そうしたことも重荷に感じる日々がありました。
でも今は、みんなの気持ちを素直に受け取ることができます。
思われることが嬉しい。与えられることに大感謝だ。
素直な気持ちでいることは、とても心地よいのだと知ります。自分も何かできることがあったら、みんなに返したい。そうも思いました。
「えへへ、一緒に食事ができて嬉しいです」
リンカも一緒にパンをかじりながら笑っています。
あなたは、この食事がとてつもなく美味しい理由がもう一つあることに気がつきます。
これらはリンカがあなたのためだけに用意したもの。あなたの好みを知っている彼女の愛が詰まっています。
その愛に、心が満足したのです。
本当に自分のことを思ってくれる相手が、心を込めて用意してくれたもの。愛という最高のスパイスが、料理を極上のものに変えてくれていました。
同じテーブルで向かいあってとる食事は、楽しいものでした。本当の意味で一緒になっている感じがして、あなたも思わず感動してしまいます。
心が伴えば、すべては満たされます。
一人でとっていた食事は冷たく、さびしいものでした。その冷たさと比べれば、なんと温かみのあるものなのでしょう。
テレビや本で見た、豪華な食事をとる人をうらやんだこともありましたが、今この瞬間を知ると、はたしてその中身はどうだったのかとも疑問に思います。
そこに心は伴っていたのでしょうか?
愛はあったのでしょうか?
どれだけの感謝があったのでしょうか?
誰かが嫌々用意した、みてくれだけの料理。
相手をもてなそうともしていない、形だけの料理。
自分のことしか考えていない一方的な料理。
それらを食べて心が満たされたことがあるでしょうか。そんなものより相手を想ってつくられた質素な料理のほうが、はるかにはるかに美味しく感じるはずです。
愛情があるからです。
心が、大好物の愛を食べて満たされるからです。そうした料理がこれから何度も味わえると思うと嬉しくなります。
バサバサバサ。
そのときです。部屋に数羽の鳥が入ってきました。
窓は開けっ放し。ここはとても暖かくて、当たり前ですが誰も泥棒に入ることもありませんから、戸締まりの必要もありません。
その鳥、スズメさんたちも何の気兼ねもなく入ってきます。そして、あなたの肩に乗りました。
うわぁ、スズメだ。スズメがこんな近くに来るなんて珍しい。
あなたはびっくりしながらも、驚かさないようにじっとしていました。
それにしても間近で見るスズメさんの、なんと可愛いことでしょう。他の動物も可愛いと思っていましたが、改めて鳥の可愛さにも気がつきます。
すると、その視線に気がついたスズメさんがあなたに言います。
「パン、ちょうだい」
スズメさんは、あなたにパンをくれと言います。
スズメがしゃべった!
あなたはびっくり仰天です。
いえいえ、亀さんだってしゃべっていましたよ。亀さんが英語だってしゃべるんですから、鳥さんだってしゃべります。
ああ、そうだった。不思議なことじゃないんだな。
あなたは平静を取り戻し、パンを一切れつまんでスズメさんにあげました。
「ありがとう!」
スズメさんはパンを食べると、あなたにお礼を言いました。その声のなんと綺麗なことでしょう。まさに小鳥のさえずる声そのままの美しさです。
そして、しばらく鳥さんとも食事を一緒にして、楽しい時間を過ごしました。スズメさんが帰ったあとも、その和やかな雰囲気があなたを包んでいます。
ここでは鳥さんともお話ができる。それどころか、とても頭が良くて、まるで人間の子供のような知性がありました。地上では芸をする鳥もいて、すごいと思っていましたが、今はもっともっとそれをよく感じます。
「地上では言葉がわかりませんが、彼らもとても感情豊かなんです」
人間が勝手に彼らを下に見ているだけで、鳥さんはもともと感情豊かな生き物です。
その証拠に鳥が大好きな人は、鳥の気持ちがわかるはずです。あなたが犬の気持ちを理解したように、鳥の気持ちを思いやれる人も多いのです。
あなたはふと、スズメさんがパンを食べたことを不思議に思いました。
スズメがいるのならばもっと大きな鳥だっているはずです。その中にはスズメさんを食べてしまう鳥だっているかもしれない。
スズメさんは大丈夫だろうか?
ふと思いついたことですが、気になって仕方ありません。
「それは大丈夫ですよ。ここには殺生に関するものはありません。だって、死なないんですもの。そもそもできませんからね」
そうでした。ここはすでに死んだあとの世界。
言い換えれば、死がない世界です。
死とは、あくまで表面の物質的な身体の崩壊であって、その本質はまったく消えていません。すでに本質の世界に生きているあなたは、どうあっても死ぬことができないのです。
神が無限だからです。
生命たる神は尽きることがないからです。
ですから、この世界に肉や魚料理など、何かを殺したものは存在しません。そもそも殺せないのですから不可能なのです。
あなたは今さっき食べたものを思い出します。
自分が食べているのは何だろう?
パンの原材料は小麦、コーヒーは豆、それ以外はそのまま野菜だ。
植物も生きているはず。それを食べることは殺生ではないのだろうか?
そんな疑問があなたに浮かびました。
あなたがここに来るまでに見てきた桜や植物は、まるで生きているかのように輝いていたからです。
植物さんがかわいそう。
あなたはふとそう思ってしまったのです。
「ご主人様…優しいです」
植物にまで愛情を感じるあなたに対し、リンカの心は感動で震えているようでした。
あなたはもともと動物に優しい人です。動物に優しい人は、物言わぬすべてのものに優しいのです。その心を感じ取った家全体も、あなたの心を受けてさらに輝くようでした。
そうそう、あなたの疑問には、ここの世界での生活が長い先輩のリンカが答えてくれます。
「植物には意識はないんです。だから大丈夫なんです」
まず、この世界には生命を帯びていないものは存在していません。生命たる神がつくった世界なのですから、すべてが生命の力によって維持されています。
それは存在を維持する力。根源の生命の力です。
生長して実をつける植物も、大きな意味では生きています。二酸化炭素を呼吸し、新鮮な酸素を生み出している、人間にとってなくてはならない存在です。
ただ、生命には進化の段階というものがあります。
植物も生きていますが、そこには『意識』はないのです。意識がないとは、自ら考えることができない、という意味です。
彼らが成長するのは、生命を付与されたがゆえの反応にすぎません。活力を与えられたから、それによって定められた通りに細胞が生長していくのです。
自分が植物であることを知りませんし、見て、考えることはできないのです。人や動物と違うのは、この点です。ここが大きな境目なのです。
なので植物を食べることは殺害にはあたりません。植物も動物に食べてもらうことで種をいろいろな場所に蒔くことができるのです。それは生命にそなわった本能による反応なのです。
それは、神様がそういうふうに作ったからです。
植物には植物としての成長進化を与えたからです。
そして、もともと地上の人間は菜食動物です。
始原、神から使命を与えられた天駆ける竜が地球を生み出したとき、人間をそのように設計しました。動植物を愛し、大地の恵みとともに生きるようにと。
神は愛です。世界は愛です。
こんなにも素敵な世界を生み出す神が、残酷な世界を求めるでしょうか。神はいつだって優しさや親切、思いやりを大切にしています。
しかし今、地上では日々多くの動物が殺され、食料にされています。
それを知ったあなたは、改めて昔の食生活を考えてみました。
肉料理が当たり前にある世界。
それは鳥や動物の肉だ。
ここで生きている感情ある動物の身体なのだ。
それを殺すなんて、どうしてそんな酷いことをしていたのだろう。
あなたの心は痛みに襲われました。激しい罪の意識です。
子供のころ、「いただきます」という言葉を教えられました。食べるために犠牲にしたものに対する感謝の心を示す言葉です。それ自体は素晴らしいものです。
でも、でも。
いただきます、という言葉だけですべてを着飾っていないだろうか。
いただきます、と言えば、彼らは許してくれるのだろうか。
では、もし自分が逆の立場だったら・・・。
いただきますと言われれば、喜んで殺されるだろうか。
違う。絶対に違う。そんなことはない。
あなたはようやくそのことに気がつきました。豚、牛、鳥、彼らは、食べられるために存在しているのではありません。
彼らには、しっかりとした自我意識があるのです。さっき話したスズメさんと同じく、ちゃんと生きている存在なのです。
進化するために生まれたのです。
神が人間と一緒に暮らすように生み出した、友達なのです。
前にテレビで見た屠殺(とさつ)場の光景も思い出します。
彼らは生きている。
飼育している人は、彼らをリンカのように愛していた。
それなのに、なぜ殺すのだろうか。
愛しているものを、なぜ殺さねばならないのだろう。
涙を流しながらお別れを言っている彼らは、なぜそうまでして殺そうとするのだろうか。
地上にいたときは思いもしなかったことですが、ここに来てから大きく意識が変化したのを感じます。亀さんもそうですし、誰もが生きていました。
その生命を奪う権利は誰にもなかったのです。
それを平然と食べていた自分が、とても恐ろしい存在に思えてきます。
がたがた、ぶるぶる。恐ろしい。
なんと恐ろしいことなのだろう。
あなたの手は震えています。
あんな知性ある動物を殺す。
愛らしい存在を殺す。
それはまるで、人間の子供を殺した時のような恐ろしさです。
彼らは愛情を示してくれたのに、それを裏切るように殺して食べた。
これほど恐ろしいことはありません。
そんなあなたの手に、そっと優しい温もりが重ねられます。
ただただ、あなたの震えが収まるまでリンカは寄り添ってくれていました。
「肉自体、人間の肉体では正しく消化しきれないんです。それを食べ続けると病気になります。動物とは器官が異なるからです」
あなたが落ち着いたころ、リンカはこの世界に来てから学んだ知識を教えてくれました。
人以外の野生動物には、自然界を調整する役目があります。食物連鎖、作用と反作用による進化の調整です。
自然界には自然界のバランスが存在します。それを調整するのが動物や虫たちです。彼らは神から与えられたバランスを本能として受け止め、必要以上に増えないようにしています。
人間が動物と同じ真似をして肉を食べても意味がありません。それどころか悪いことが起きます。人は菜食動物として設計されているので、正しく消化しきれずに害を受けます。
それでも食べようとするから食中毒などの被害が出るのです。
今、地上ではこのことを理解せずに病気になっている人が大勢いました。
それに気がつかないのです。
自分がどうして病気になっているのか、わからないのです。
そもそも、病気であることすら気がついていません。
知識がなかったからです。考えたことがなかったからです。
「動物が殺されるとき恐怖を発します。それも人の害悪になるんです。人間の目には見えませんが、心では感じているはずです」
かわいそう。痛い。苦しい。
その声こそ、あなたの中にある神様の声でした。
目では見えずとも、しっかりとすべてを感じていたのです。
あなたが想像したとおり、動物たちは喜んで殺されているわけではありません。むしろその逆、自分たちより大きな力を持つ人間に怯えているのです。
食用にされた動物の生命は、当然死んでも消えません。彼らは殺された時のショックが強すぎるので、アニマルアイランドのような世界に一時的に保護されます。
与えられた痛みや恐怖を、みんなで癒してあげないといけません。
彼らは生きているのです。感じているのです。
立派な生命なのです。
ああ、なんとかわいそうなことでしょう。人はそれがわかっていながらも殺してしまいます。それが罪でなくてなんと呼ぶのでしょうか。
人間には、地上を正しくする義務があるのです。
それを怠れば不幸になります。
「有害なウィルスとかダニとかも、人が正しく生きればなくなるといいます。それだけ人は自然界に強い力を持っているんです」
「だって、人は神様ですもの」
人は、物的な地球上において、もっとも進化した生命です。
その中にある内在の光は、神と同じもの。
なればこそ、人には自然界に干渉する力があるのです。
動物と人とは、最初から役割が違うのです。人は神を宿す存在。より大きく神を発現するべき者が間違ったことをすれば、世界はめちゃくちゃになります。
生命は、より進化していくと残虐性が減っていきます。地球上でその頂点に存在する人間には、残虐性をより減らしていく義務があります。
もしそれに反すれば、自然界のすべてが人間に仇なす存在となって襲いかかるでしょう。現に今、地上では人間と自然との戦争が起こっています。
あなたも見てきたはずです。
自然が破壊され、追われた動物たちがどのような扱いを受けているか。人里に訪れただけで害獣として殺される動物もいます。
彼らが悪いのでしょうか?
いいえ、けっして。
「人を見て動物が逃げるのは、本当は異常なんです。見つかったら殺されると思うから警戒しています」
人は動物を殺しすぎました。
動物たちはいつも人間を恐ろしい存在として見ています。だから逃げるのです。
もし人が昔から彼らと共存する道を歩んでいれば、正しい接し方をしていれば、彼らは愛情をもって接してくれるはずです。
あなたは、ふと見かけた野良猫に警戒されて哀しかったことを思い出します。
自分はそんなに悪い人間に見えたのだろうか。
違う。自分が人間だったからだ。
動物が好きな人でさえ、彼らは警戒するのです。
ああ、人間は彼ら動物たちからの信頼を完全に失ったのです。
今まで裏切ってきたからです。
裏切り続けてきたからです。
「わたしも…怖かったです」
そして、リンカも保健所にいました。
聴こえてくるのは仲間たちの悲鳴や恐怖の声。殺されて泣き叫んでいる犬や猫の強烈な感情。彼女も人が怖くて、いつ殺されるのかと毎日が不安でした。
あなたが助けなければ、きっと処分されていたでしょう。
そのことを思うと胸がしめつけられるようでした。なぜそんなものが存在するのか、そんなものをつくった人間への怒りがこみ上げます。
ふと、保健所の知り合いの顔が浮かびました。
彼は悪い人だろうか?
いや、違う。すべてを知っているわけではないが、いいやつだ。
彼もまた、社会のためにと思ってやっていることです。
でも、動物たちを苦しめていることには違いありません。
何かが狂ってしまっています。
人の心がおかしくなってしまったのです。
真面目な人たちが、人々のため社会のためと思ってやっていることが、自然を敵に回す結果になっています。人がすべてを奪おうとするから、動物たちは恐れ、怯えているのです。
そんな世の中に生きていて楽しいと思うでしょうか。
心から愉快だと思えるでしょうか。
動物たちから恐怖され、妖精さんたちから嫌われ、自然からの反撃に今度は人が怯える生活が、楽しいなんて言えるわけがありません。
ではなぜ、地上ではそれが当たり前になっているのでしょうか。
そう、彼らは忘れているのです。
多くの人は、生命が何であるかを忘れていました。自分が何を食べているのかも忘れるほど、物にあふれているからです。
人は正しい目を失い、肉眼で映るものだけを大切にしてしまいました。
もっともっと大切な心を捨ててまで。
あなたは気が滅入ってしまいました。
忘れていたとはいえ、それに逆らうこともできなかった自分がなさけないのです。リンカを愛しているあなただからこそ、ほかの動物のことも愛していたのです。
一人暮らしのあなたは、工場でつくられた製品ばかりを食べていました。何を食べようとしても、勝手にそれらが含まれています。あなたには、どうしようもない部分がありました。
しかし、後悔がこみ上げます。
リンカ、ごめんな。
みんな、ごめん。
彼女は何も言わず、ただにこにこと笑っていました。
そんなあなたのことが大好きだからです。
誰もがいつか思い出すことを知っているからです。
あなたが後悔の涙を一滴こぼすごとに、あなたは浄化されていきます。あなたの中にある神様が、また一つ表に出てくるのです。
そして、あなたは光になるでしょう。
地上を明るく照らす一つの光となるのです。
それは小さな光。灯火の一つ。
それでもれっきとした美しい光なのです。
光が集まれば大きな太陽となるように。
失敗や後悔も大切な一つの学びです。
人の仕組み、動物の仕組み、世界の仕組み。
過ちの中から、そうしたものを少しずつ学んでいるのです。
今は悪い影響を及ぼしていますが、逆によい方向に導くこともできます。
動物と共存し、調和し、愛とともに生きることです。
それによって、自然界は人を仲間と認識するでしょう。
まだ少し頭がはっきりしません。差し込む朝日をぼ~っと見つめていました。
自分はどうしたのだろう。
ここはどこだっただろうか。
これは夢なのか現実なのか。
自分がどこにいるのかわからない感覚。
それはいつも感じていた孤独。朝起きると誰もおらず一人きり。毎日が何も起こらずに過ぎ去っていく寂しい日々。
あなたは、また訪れるであろう、そんなつらい日を予感して思わず飛び起きます。
もう一人は嫌だ!
思わず叫んでしまいます。
それほどまでにあなたの人生はつらかったのでしょう。誰にも心開くことなく、誰にも心開かれることのない日々。
人は一人で生きていくことはできません。何かを愛さなくては生きていけません。愛されなくては生きていけません。これほど暖かい光が射し込んでいるのに、あなたの心はとても冷たく感じます。
あなたは自分の心の状態によって、見るものが変化することを知りました。
今の不安に満ちたあなたには、世界はきっと冷たく見えることでしょう。そこがコンクリートジャングルであろうと田舎ののんびりした風景であろうと、心が冷えていればすべてがむなしく感じます。
そうだ。昨日だ。
自分はここで昨日という日を過ごしたはずだ。
あなたにとっては朝目覚めれば、目覚める前に過ごしていた時間は昨日。昨日という日々が存在することによって、あなたは大切な人のことを思い出します。
そうだ、リンカ!!
彼女はどこに行ったのだろう。
まさか、彼女まで夢だったのではないだろうか。
そう思うとさらに不安に駆られました。居ても立ってもいられずに彼女を捜しに部屋を飛び出します。
リンカ! どこにいるんだ!
あなたはリビングに行くなり、大声を出しました。
もう失うのは嫌だ。
あんなさびしい生活は嫌だ。
そうです、あなたは孤独が嫌いです。人は誰しも孤独を嫌うものです。されど、時には孤独であらねばならないもの。
魂の旅は孤独なものなのです。
しかし、すべてを受け入れられるほど人は強くはありません。
ならば、あなたが欲するものを与えましょう。
あなたが欲するものは…
「はい、ご主人様。呼びましたか?」
再び世界が生まれました。
彼女を中心として光が広がり、世界を浸食していきます。
その瞬間から世界が温もりを帯びていきました。日差しはようやく暖かみを与え、床の感触もわかってきます。
それまで冷たかったすべてが、瞬く間に溶解したのを感じました。
彼女という太陽が生まれたからです。
「ご主人様、おはようございます」
何事もなかったように笑顔で奥の部屋から出てくるリンカ。
あまりに自然に出てきたので、一瞬幻に思えたほどです。
しかし、紛れもなくそれは現実でした。
…ああ、よかった。
もし彼女が夢だったら、自分はもう生きてはいけないかもしれない。
もうあんな冷たい世界では生きていけない。
彼女だけがあなたの支えです。あなたの愛を支えているものです。あなたが愛を発するために必要な要素です。
なればこそ、あなたにはリンカが与えられるのです。
「そろそろお腹が空きましたか?」
リンカはあなたの様子を見て言います。
そう言われてみると、少しだけ空いたような気がします。昨日は果実を軽くかじっただけで終わったので、たしかに物足りません。
「それじゃ、朝ごはんにしましょうね。ご主人様が好きなものを用意してありますよ」
リンカはあなたをリビングのテーブルに案内します。この家はすべてが木でつくられており、テーブルも優しい木の温もりがある心落ち着くものです。
そのテーブルには、パンとコーヒー、果物と野菜。
パンはトースターで軽く焼いたもの。果物はリンゴ。野菜はドレッシングをつけて食べる葉っぱもの。それらは質素なものでしたが、あなたの大好きなものばかりです。
見たとたんに空腹が強まり、ついつい夢中で食べはじめます。味はそこまで強くは感じませんでしたが、ほのかに口に広がる風味に酔いしれます。
おいしい、おいしい。
こんなにおいしいものは初めてだ。
あなたはすっかり満足してしまいました。
しかし、これはリンカがつくったのだろうか?
簡単なものばかりだが、彼女に料理ができるのだろうか?
あなたにとってリンカはすでに人間ですが、もともと犬であった彼女が人間の生活に精通しているのも不思議です。
それを尋ねてみます。
「ここにあるものは、ほとんどは町からもらってきたものです。ここでは何でも好きなことができるので、誰もがみんなのために物をつくっています」
パンが好きな人は、パンをつくる。
畑仕事が好きな人は、野菜や果物を育てる。
建築が好きな人は、建築を学び、家を建てる。
元となる素材は、地上と同じようにこの世界の自然からもらいます。何一つ自分で作れるものがないというのは同じこと。すべて神から与えられています。
唯一異なるのは、ここではお金の概念がないことです。
お金は地上では権利を示し、物の流通にとって必要な要素でしたが、すべてが与えられているこの世界では必要ありません。
パンが必要な人には、喜んでパンをあげます。
家が必要な人には、喜んで造ってあげます。
対価は、喜んでもらえること。
相手の笑顔、喜びは何倍にもなって自分に返って来ます。あなたもここに来てから、相手の気持ちがよくわかるようになったはずです。
リンカとのつながり、与えることの素晴らしい感覚。相手に喜びをもたらしたからこそ、自分に戻ってくるものなのです。そのときの恍惚感、達成感を味わうために人々は他者に尽くします。
気がつくと、自分のことを忘れるほどに。
たしかに最初は自分のためにやる人もいます。でも、それは悪いことではないのです。まず自分が満たされようとするのは、魂が自己を確立するのに必要なことです。
ですから、神様は相手にしたことが自分に戻ってくるようにしたのです。
相手も喜んで自分も満たされる。
それが普通の生活になったとき、自分のことすら忘れて相手に尽くしたくなります。最初は自分のためにやっていたのに、いつしか相手の幸せだけを願うようになるのです。
自己を忘れ、他者のために動くとき、あなたの中の神様がまた光を放ちます。
光は無条件の愛。
愛である神様は、自己の表現を求めるために、最高の愛である無償の愛のやり方を教えてくれます。無条件の愛は、こうして相手に与えることを習慣にしていくことで、少しずつ少しずつ身についていくのです。
この世界の通貨は黄金ではなく、相手に喜んでもらえること。
ここに唯一の満足が存在するのです。それだけが世界の真実なのです。
「みんな、ご主人様のことを想ってくれていますよ」
あなたがここに来たことは町でも話題に上っていました。あのリンカちゃんの伴侶がついに来た、と。
町の人々は、地上にいるあなたを想うリンカの愛に感動していました。これだけの愛を受けられて、あなたはなんと幸せなのかとも思っていたくらいです。
そしてあなたがやってきて、不慣れな生活に早く慣れてもらおうと、みんなが必要なものを用意してくれたのです。
この食材には、あなたへの思いやりが込められていました。
なんだか気恥ずかしい。
自分のために、まだ顔もよく知らない人ががんばってくれるなんて恐縮だ。
あなたは思わず照れてしまいます。
思えば地上では、こうした思いやりが時々わずらわしく思えたときがありました。今を生きることに必死で、自分のことしか考えておらず、まわりが見えなくなっていたのでしょう。
恩を受けたら返さねばならない。
そうしたことも重荷に感じる日々がありました。
でも今は、みんなの気持ちを素直に受け取ることができます。
思われることが嬉しい。与えられることに大感謝だ。
素直な気持ちでいることは、とても心地よいのだと知ります。自分も何かできることがあったら、みんなに返したい。そうも思いました。
「えへへ、一緒に食事ができて嬉しいです」
リンカも一緒にパンをかじりながら笑っています。
あなたは、この食事がとてつもなく美味しい理由がもう一つあることに気がつきます。
これらはリンカがあなたのためだけに用意したもの。あなたの好みを知っている彼女の愛が詰まっています。
その愛に、心が満足したのです。
本当に自分のことを思ってくれる相手が、心を込めて用意してくれたもの。愛という最高のスパイスが、料理を極上のものに変えてくれていました。
同じテーブルで向かいあってとる食事は、楽しいものでした。本当の意味で一緒になっている感じがして、あなたも思わず感動してしまいます。
心が伴えば、すべては満たされます。
一人でとっていた食事は冷たく、さびしいものでした。その冷たさと比べれば、なんと温かみのあるものなのでしょう。
テレビや本で見た、豪華な食事をとる人をうらやんだこともありましたが、今この瞬間を知ると、はたしてその中身はどうだったのかとも疑問に思います。
そこに心は伴っていたのでしょうか?
愛はあったのでしょうか?
どれだけの感謝があったのでしょうか?
誰かが嫌々用意した、みてくれだけの料理。
相手をもてなそうともしていない、形だけの料理。
自分のことしか考えていない一方的な料理。
それらを食べて心が満たされたことがあるでしょうか。そんなものより相手を想ってつくられた質素な料理のほうが、はるかにはるかに美味しく感じるはずです。
愛情があるからです。
心が、大好物の愛を食べて満たされるからです。そうした料理がこれから何度も味わえると思うと嬉しくなります。
バサバサバサ。
そのときです。部屋に数羽の鳥が入ってきました。
窓は開けっ放し。ここはとても暖かくて、当たり前ですが誰も泥棒に入ることもありませんから、戸締まりの必要もありません。
その鳥、スズメさんたちも何の気兼ねもなく入ってきます。そして、あなたの肩に乗りました。
うわぁ、スズメだ。スズメがこんな近くに来るなんて珍しい。
あなたはびっくりしながらも、驚かさないようにじっとしていました。
それにしても間近で見るスズメさんの、なんと可愛いことでしょう。他の動物も可愛いと思っていましたが、改めて鳥の可愛さにも気がつきます。
すると、その視線に気がついたスズメさんがあなたに言います。
「パン、ちょうだい」
スズメさんは、あなたにパンをくれと言います。
スズメがしゃべった!
あなたはびっくり仰天です。
いえいえ、亀さんだってしゃべっていましたよ。亀さんが英語だってしゃべるんですから、鳥さんだってしゃべります。
ああ、そうだった。不思議なことじゃないんだな。
あなたは平静を取り戻し、パンを一切れつまんでスズメさんにあげました。
「ありがとう!」
スズメさんはパンを食べると、あなたにお礼を言いました。その声のなんと綺麗なことでしょう。まさに小鳥のさえずる声そのままの美しさです。
そして、しばらく鳥さんとも食事を一緒にして、楽しい時間を過ごしました。スズメさんが帰ったあとも、その和やかな雰囲気があなたを包んでいます。
ここでは鳥さんともお話ができる。それどころか、とても頭が良くて、まるで人間の子供のような知性がありました。地上では芸をする鳥もいて、すごいと思っていましたが、今はもっともっとそれをよく感じます。
「地上では言葉がわかりませんが、彼らもとても感情豊かなんです」
人間が勝手に彼らを下に見ているだけで、鳥さんはもともと感情豊かな生き物です。
その証拠に鳥が大好きな人は、鳥の気持ちがわかるはずです。あなたが犬の気持ちを理解したように、鳥の気持ちを思いやれる人も多いのです。
あなたはふと、スズメさんがパンを食べたことを不思議に思いました。
スズメがいるのならばもっと大きな鳥だっているはずです。その中にはスズメさんを食べてしまう鳥だっているかもしれない。
スズメさんは大丈夫だろうか?
ふと思いついたことですが、気になって仕方ありません。
「それは大丈夫ですよ。ここには殺生に関するものはありません。だって、死なないんですもの。そもそもできませんからね」
そうでした。ここはすでに死んだあとの世界。
言い換えれば、死がない世界です。
死とは、あくまで表面の物質的な身体の崩壊であって、その本質はまったく消えていません。すでに本質の世界に生きているあなたは、どうあっても死ぬことができないのです。
神が無限だからです。
生命たる神は尽きることがないからです。
ですから、この世界に肉や魚料理など、何かを殺したものは存在しません。そもそも殺せないのですから不可能なのです。
あなたは今さっき食べたものを思い出します。
自分が食べているのは何だろう?
パンの原材料は小麦、コーヒーは豆、それ以外はそのまま野菜だ。
植物も生きているはず。それを食べることは殺生ではないのだろうか?
そんな疑問があなたに浮かびました。
あなたがここに来るまでに見てきた桜や植物は、まるで生きているかのように輝いていたからです。
植物さんがかわいそう。
あなたはふとそう思ってしまったのです。
「ご主人様…優しいです」
植物にまで愛情を感じるあなたに対し、リンカの心は感動で震えているようでした。
あなたはもともと動物に優しい人です。動物に優しい人は、物言わぬすべてのものに優しいのです。その心を感じ取った家全体も、あなたの心を受けてさらに輝くようでした。
そうそう、あなたの疑問には、ここの世界での生活が長い先輩のリンカが答えてくれます。
「植物には意識はないんです。だから大丈夫なんです」
まず、この世界には生命を帯びていないものは存在していません。生命たる神がつくった世界なのですから、すべてが生命の力によって維持されています。
それは存在を維持する力。根源の生命の力です。
生長して実をつける植物も、大きな意味では生きています。二酸化炭素を呼吸し、新鮮な酸素を生み出している、人間にとってなくてはならない存在です。
ただ、生命には進化の段階というものがあります。
植物も生きていますが、そこには『意識』はないのです。意識がないとは、自ら考えることができない、という意味です。
彼らが成長するのは、生命を付与されたがゆえの反応にすぎません。活力を与えられたから、それによって定められた通りに細胞が生長していくのです。
自分が植物であることを知りませんし、見て、考えることはできないのです。人や動物と違うのは、この点です。ここが大きな境目なのです。
なので植物を食べることは殺害にはあたりません。植物も動物に食べてもらうことで種をいろいろな場所に蒔くことができるのです。それは生命にそなわった本能による反応なのです。
それは、神様がそういうふうに作ったからです。
植物には植物としての成長進化を与えたからです。
そして、もともと地上の人間は菜食動物です。
始原、神から使命を与えられた天駆ける竜が地球を生み出したとき、人間をそのように設計しました。動植物を愛し、大地の恵みとともに生きるようにと。
神は愛です。世界は愛です。
こんなにも素敵な世界を生み出す神が、残酷な世界を求めるでしょうか。神はいつだって優しさや親切、思いやりを大切にしています。
しかし今、地上では日々多くの動物が殺され、食料にされています。
それを知ったあなたは、改めて昔の食生活を考えてみました。
肉料理が当たり前にある世界。
それは鳥や動物の肉だ。
ここで生きている感情ある動物の身体なのだ。
それを殺すなんて、どうしてそんな酷いことをしていたのだろう。
あなたの心は痛みに襲われました。激しい罪の意識です。
子供のころ、「いただきます」という言葉を教えられました。食べるために犠牲にしたものに対する感謝の心を示す言葉です。それ自体は素晴らしいものです。
でも、でも。
いただきます、という言葉だけですべてを着飾っていないだろうか。
いただきます、と言えば、彼らは許してくれるのだろうか。
では、もし自分が逆の立場だったら・・・。
いただきますと言われれば、喜んで殺されるだろうか。
違う。絶対に違う。そんなことはない。
あなたはようやくそのことに気がつきました。豚、牛、鳥、彼らは、食べられるために存在しているのではありません。
彼らには、しっかりとした自我意識があるのです。さっき話したスズメさんと同じく、ちゃんと生きている存在なのです。
進化するために生まれたのです。
神が人間と一緒に暮らすように生み出した、友達なのです。
前にテレビで見た屠殺(とさつ)場の光景も思い出します。
彼らは生きている。
飼育している人は、彼らをリンカのように愛していた。
それなのに、なぜ殺すのだろうか。
愛しているものを、なぜ殺さねばならないのだろう。
涙を流しながらお別れを言っている彼らは、なぜそうまでして殺そうとするのだろうか。
地上にいたときは思いもしなかったことですが、ここに来てから大きく意識が変化したのを感じます。亀さんもそうですし、誰もが生きていました。
その生命を奪う権利は誰にもなかったのです。
それを平然と食べていた自分が、とても恐ろしい存在に思えてきます。
がたがた、ぶるぶる。恐ろしい。
なんと恐ろしいことなのだろう。
あなたの手は震えています。
あんな知性ある動物を殺す。
愛らしい存在を殺す。
それはまるで、人間の子供を殺した時のような恐ろしさです。
彼らは愛情を示してくれたのに、それを裏切るように殺して食べた。
これほど恐ろしいことはありません。
そんなあなたの手に、そっと優しい温もりが重ねられます。
ただただ、あなたの震えが収まるまでリンカは寄り添ってくれていました。
「肉自体、人間の肉体では正しく消化しきれないんです。それを食べ続けると病気になります。動物とは器官が異なるからです」
あなたが落ち着いたころ、リンカはこの世界に来てから学んだ知識を教えてくれました。
人以外の野生動物には、自然界を調整する役目があります。食物連鎖、作用と反作用による進化の調整です。
自然界には自然界のバランスが存在します。それを調整するのが動物や虫たちです。彼らは神から与えられたバランスを本能として受け止め、必要以上に増えないようにしています。
人間が動物と同じ真似をして肉を食べても意味がありません。それどころか悪いことが起きます。人は菜食動物として設計されているので、正しく消化しきれずに害を受けます。
それでも食べようとするから食中毒などの被害が出るのです。
今、地上ではこのことを理解せずに病気になっている人が大勢いました。
それに気がつかないのです。
自分がどうして病気になっているのか、わからないのです。
そもそも、病気であることすら気がついていません。
知識がなかったからです。考えたことがなかったからです。
「動物が殺されるとき恐怖を発します。それも人の害悪になるんです。人間の目には見えませんが、心では感じているはずです」
かわいそう。痛い。苦しい。
その声こそ、あなたの中にある神様の声でした。
目では見えずとも、しっかりとすべてを感じていたのです。
あなたが想像したとおり、動物たちは喜んで殺されているわけではありません。むしろその逆、自分たちより大きな力を持つ人間に怯えているのです。
食用にされた動物の生命は、当然死んでも消えません。彼らは殺された時のショックが強すぎるので、アニマルアイランドのような世界に一時的に保護されます。
与えられた痛みや恐怖を、みんなで癒してあげないといけません。
彼らは生きているのです。感じているのです。
立派な生命なのです。
ああ、なんとかわいそうなことでしょう。人はそれがわかっていながらも殺してしまいます。それが罪でなくてなんと呼ぶのでしょうか。
人間には、地上を正しくする義務があるのです。
それを怠れば不幸になります。
「有害なウィルスとかダニとかも、人が正しく生きればなくなるといいます。それだけ人は自然界に強い力を持っているんです」
「だって、人は神様ですもの」
人は、物的な地球上において、もっとも進化した生命です。
その中にある内在の光は、神と同じもの。
なればこそ、人には自然界に干渉する力があるのです。
動物と人とは、最初から役割が違うのです。人は神を宿す存在。より大きく神を発現するべき者が間違ったことをすれば、世界はめちゃくちゃになります。
生命は、より進化していくと残虐性が減っていきます。地球上でその頂点に存在する人間には、残虐性をより減らしていく義務があります。
もしそれに反すれば、自然界のすべてが人間に仇なす存在となって襲いかかるでしょう。現に今、地上では人間と自然との戦争が起こっています。
あなたも見てきたはずです。
自然が破壊され、追われた動物たちがどのような扱いを受けているか。人里に訪れただけで害獣として殺される動物もいます。
彼らが悪いのでしょうか?
いいえ、けっして。
「人を見て動物が逃げるのは、本当は異常なんです。見つかったら殺されると思うから警戒しています」
人は動物を殺しすぎました。
動物たちはいつも人間を恐ろしい存在として見ています。だから逃げるのです。
もし人が昔から彼らと共存する道を歩んでいれば、正しい接し方をしていれば、彼らは愛情をもって接してくれるはずです。
あなたは、ふと見かけた野良猫に警戒されて哀しかったことを思い出します。
自分はそんなに悪い人間に見えたのだろうか。
違う。自分が人間だったからだ。
動物が好きな人でさえ、彼らは警戒するのです。
ああ、人間は彼ら動物たちからの信頼を完全に失ったのです。
今まで裏切ってきたからです。
裏切り続けてきたからです。
「わたしも…怖かったです」
そして、リンカも保健所にいました。
聴こえてくるのは仲間たちの悲鳴や恐怖の声。殺されて泣き叫んでいる犬や猫の強烈な感情。彼女も人が怖くて、いつ殺されるのかと毎日が不安でした。
あなたが助けなければ、きっと処分されていたでしょう。
そのことを思うと胸がしめつけられるようでした。なぜそんなものが存在するのか、そんなものをつくった人間への怒りがこみ上げます。
ふと、保健所の知り合いの顔が浮かびました。
彼は悪い人だろうか?
いや、違う。すべてを知っているわけではないが、いいやつだ。
彼もまた、社会のためにと思ってやっていることです。
でも、動物たちを苦しめていることには違いありません。
何かが狂ってしまっています。
人の心がおかしくなってしまったのです。
真面目な人たちが、人々のため社会のためと思ってやっていることが、自然を敵に回す結果になっています。人がすべてを奪おうとするから、動物たちは恐れ、怯えているのです。
そんな世の中に生きていて楽しいと思うでしょうか。
心から愉快だと思えるでしょうか。
動物たちから恐怖され、妖精さんたちから嫌われ、自然からの反撃に今度は人が怯える生活が、楽しいなんて言えるわけがありません。
ではなぜ、地上ではそれが当たり前になっているのでしょうか。
そう、彼らは忘れているのです。
多くの人は、生命が何であるかを忘れていました。自分が何を食べているのかも忘れるほど、物にあふれているからです。
人は正しい目を失い、肉眼で映るものだけを大切にしてしまいました。
もっともっと大切な心を捨ててまで。
あなたは気が滅入ってしまいました。
忘れていたとはいえ、それに逆らうこともできなかった自分がなさけないのです。リンカを愛しているあなただからこそ、ほかの動物のことも愛していたのです。
一人暮らしのあなたは、工場でつくられた製品ばかりを食べていました。何を食べようとしても、勝手にそれらが含まれています。あなたには、どうしようもない部分がありました。
しかし、後悔がこみ上げます。
リンカ、ごめんな。
みんな、ごめん。
彼女は何も言わず、ただにこにこと笑っていました。
そんなあなたのことが大好きだからです。
誰もがいつか思い出すことを知っているからです。
あなたが後悔の涙を一滴こぼすごとに、あなたは浄化されていきます。あなたの中にある神様が、また一つ表に出てくるのです。
そして、あなたは光になるでしょう。
地上を明るく照らす一つの光となるのです。
それは小さな光。灯火の一つ。
それでもれっきとした美しい光なのです。
光が集まれば大きな太陽となるように。
失敗や後悔も大切な一つの学びです。
人の仕組み、動物の仕組み、世界の仕組み。
過ちの中から、そうしたものを少しずつ学んでいるのです。
今は悪い影響を及ぼしていますが、逆によい方向に導くこともできます。
動物と共存し、調和し、愛とともに生きることです。
それによって、自然界は人を仲間と認識するでしょう。
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