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犬の島
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自分が上がってきた道の反対側には、もう一本の道がありました。そこを下っていくと、また違った光景が広がっています。
最初に目に付いたのは、大きな山と町でした。
山は上部がすでに雲に接しているくらい大きくそびえています。そういえば、最初にいた浜辺からもその山が見えていました。どうやら山は、この島の中心にあるようです。
「あそこには動物の神様が住んでいるんですよ」
動物の神様? 聞き慣れない言葉です。
何も信じずに生きてきたあなたは、神様のことなど何も知らないのです。ここに来てから、ようやく考えはじめたにすぎません。
下の世界で生きていたときも、神様を信仰している人たちは多くいました。変わった服を着たり、仰々しい行事をしたり、不思議な声を出したり。世界中でいろいろな宗教がありました。
でも、そのどれもが変に見えてしまい、どうにも信じる気になりませんでした。そんなあなたは、神様なんていないのだろうな、と思っていたのです。
ましてや動物に神様がいるなんて思いもしません。
「わたしもそうでしたよ。ふふっ、そもそも犬がそんなこと考えませんものね。でも、ここに来て人間になってから多くのことを知りました」
動物は愛らしい生き物ですが、人間のように何かを深く考えることはできません。リンカも人間になったからこそ、そうしたことを考えることができたのです。
「人間ってすごいですね。とても素敵です。人間になれてよかった」
あなたは、その言葉にはっとしました。
人間が素敵、そう思えたことなど人生で何回あったでしょう。人は醜く愚かな存在、あなたにはそう見えていたからです。
しかし、それもあなたの思い込みでした。
人間が当たり前に存在しているからこそ、ちっぽけに感じたのです。人の知性、人の情愛、人の優しさは、彼女からすれば大きなものなのです。
動物よりももっと大きい喜びを味わえるのが、人間という存在です。喜びを味わえるから苦しみが強くなります。苦しみが強いから喜びが大きくなるのです。
あなたも時々は、人に希望を抱いていたことを思い出します。
誰かが弱い人に手を差し伸べたとき、助けたとき、親切にしたとき。
そんなとき、今一度人を信じてみようと思ったものです。
「神様は全部を見ています。どれも無駄にはなりません」
「だって、人は神様なんですもの」
リンカが神という言葉を発すると同時に、言葉は光の粒子となり、世界に輝きをもたらしました。
神。
神様。
かみさま。
人の中にある優しい心。
誰かを助けたい、守りたい、愛したいと思う心。
ただ生命であるだけで愛しく思う気持ち。
それは、神様から発せられる愛の光でした。
あなたが絶望した世界の中で、唯一それだけが心を和ませてくれました。なぜならば、それだけが真実だったからです。それ以外のものは幻だったのです。
人の中には神様がいる。
心の中の神様の光が輝いた時、人は神になるのです。
でも、神様は簡単には出てきません。
いつもは深く暗い心の中に隠れていて、あなたが神様を表現できるのは、心に愛を抱いたほんの一瞬だけ。しかし、それができるのも人間だからです。人間だけが神を表現できるのです。
あなたも人生の中で、本当の意味で神様を表現したことがあるはずです。
それはリンカ。
あなたは子犬だったリンカを見て、かわいそうだと思いました。
このままでは殺されてしまう。そんなことはさせたくない。
その時、犬を飼うという面倒な気持ちに神が勝ったのです。
その優しさが。その哀れみが。
自分の手間を犠牲にしてまで助けたいと願う心が。
それが神の光なのです。
「今、ご主人様はより多くの神様を表現していますよ。だって、こんなにも輝いていますから」
人は、神を表現する存在です。
成長するごとに神様をより多く表現できるようになるのです。
あなたは地上生活を経て成長しました。痛みや苦しみの中で愛を見つけることができました。自分を犠牲にしても助けたいと思ったこと。それがどれだけ素晴らしいことでしょうか。
今、あなたは神様に一歩近づいたのです。
あなたは、しばし呆然としていました。自分が神の一人であることも気がつかずに生きていたのですから、それも仕方ありません
神とは自分だったのです。
その一部だったのです。
程度こそ違えど、宿る資質は本質的に同じだったのです。
では、山にいる神様も人間なのだろうか?
そう言うと、彼女は首を横に振ります。
「人間も神様ですけど、それとは違う神様もいるんです。ここの神様とは、わたしたちの進化を見守っている『竜』なんです」
竜!?
その言葉はさらに意外でした。
竜なんて神話でしか聞いたことがない想像上の動物です。地上にも似た爬虫類がいますが、そんなものが神様なのだろうかと疑問が浮かびます。
そんなあなたを見てリンカは笑いました。あなたの頭の中は固定観念でがちがちだったからです。人の社会に生きていれば、それも仕方がありません。
「犬のころは人間のことはわかりませんでした。でも、人間も本当の神様のことは何も知らないんですよね」
人間は何も知りません。
知ったつもりでいても何も知りません。
この広い宇宙で地球だけに生命がいると思っているくらい、とてもとても小さな考えしか持っていません。あなたもこの世界に来て、今までの地上がどれほど狭いものかを知りました。
それはまるで犬が人間の生活を理解できないように、人間もまた神や世界のことを理解できないということ。
「世界って、大きくて広いですね」
リンカの言葉は、犬だったからこそ素直に言える言葉でもあります。
それに比べて自分はどうだろう。
何も知らないじゃないか。
知らないのに知ったふりをしていても格好悪いだけだ。
動物がいるのならば、竜がいたっていい。
恐竜がいたのだから、竜がいたっていい。
人間がいるのだから、竜がいるのも当然だ。
それ以前に、自分もこうして若返っている。
見てくれなんて、それだけのものなのだ。
自分が今まで見てきたものなど、ほんの一部じゃないか。
日本から出たことも、いや、県外に行ったことすらほとんどないのだ。
自分がいったい何を知っているというのだろう。
人間界だけでもあんなに無知なのに、この世界のことがわかるわけがない。
多少の誤解はあれ、あなたは少しずつ納得していきます。リンカも動物であったのに、今はこうして人間の形態をとっています。それを思えば、竜の神様がいてもいいかなと考えはじめました。
「この世界に慣れるまでは不思議がいっぱいありますよ。ここは心の世界ですからね」
地上世界は、より物質性の高い世界です。意識を集中しても簡単には形になりません。
ですが、この世界はすべてが柔らかいのです。自分が思ったことが形になって、意思の強さによって実際に固定される世界。
そうでいながらもっと強い世界。
竜がいるくらいなのだから、きっとこれからも驚くことがいっぱいあるのだろう。
あなたはドキドキしながらも、心の中では楽しくなってきました。
だって、ここはまるでおとぎ話の世界のよう。
不思議なことがたくさんある世界。
でも、あなたは確信しています。
ここは優しい世界なのだと。自分を認めてくれる愛ある世界なのだと。それがあなたを自然と前向きにさせてくれるのです。
「あれがわたしたちの町です。まずはあそこに行ってみましょう。ほかにも住んでいる人がいるんですよ」
それ以上にあなたの関心を引いたのは、町でした。
最初に来たときには無人島かとも思ったくらいですから、これはうれしいものです。ほかに誰かがいるだけで安心を覚えます。
あなたとリンカは、山道を下って町までゆっくり歩きました。道中も自然は美しく、緑いっぱいの植物があなたを出迎えてくれます。
すべてに心癒されながら町の入り口に着きました。
ここから見る町は少し洋風なだけで、地上世界とあまり変わりがないように見えます。ただ、入り口の素材はあなたの知らないものでできており、不思議な光を放っているように見えました。
思えば道中の植物も、変わった色合いのものがあった気がします。そのどれもが光っていました。あなたはそこでようやく気がつきます。
この世界のものはすべて光っている。
植物も家も、なにより自分自身も。この光は何なのだろう。あなたは疑問に思いましたが、リンカがあなたを引っ張ります。
「さあ、入りましょう」
そのリンカの姿に思わず笑ってしまいました。まるで犬の散歩をする時のように、飼い主を引っ張っていく姿に見えたからです。
その証拠にしっぽを大きく振って楽しそうです。あなたといるのが本当に楽しくて幸せだ。そんなリンカの気持ちが伝わってきて、あなたも足を早めます。
今はリンカと一緒にいたい。
素直にそう思えたからです。
町に入ってみると、たくさんの人や動物がいました。その賑わいに少しびっくりします。まさか、こんなに人がいるとは思わなかったからです。
リンカに尋ねてみたところ、彼らの多くはあなたと同じ境遇だそうです。ペットが大好きで、その情愛が彼らをここに呼び寄せたといいます。中には老人の格好の人もいましたが、多くがあなたと同じ若い姿です。
誰もが犬に愛情を感じているのがわかります。通り過ぎる人たちから、犬に対する愛の波動が出ていました。
ああ、光にはこういう意味があるのか。
あなたはここで光について一つ学びました。道行く人たちは一言もしゃべっていないのに、不思議と彼らの気持ちがわかってしまいます。
彼らが発する光に気持ちが表れているようです。まだあなたには細かいところはわかりませんが、だいたいの気持ちはすぐにわかります。
なるほど。リンカが自分の気持ちをすぐに察してくれるのは、この光を見て感じているからだ。自分もリンカを見るだけで、なんとなく気持ちがわかる。
ここに来てからそんなに口数は多くないのにわかりあえる。地上でやったように、緊張して相手の出方をうかがう必要はあまりないのだと知りました。
見ればすぐにわかるのです。
触れるだけで理解できるのです。
う~ん、やっぱり不思議な世界だ。
それでよく成り立っているものだと感心もします。
ただ、通る誰もが優しい顔つきなので、きっとみんな「いい人」なのでしょう。犬も人間を信頼しているのがわかります。
「動物が好きな人に悪い人はいませんし、動物は悪い人には最初から近寄らないですからね」
動物は人間の波動を敏感にキャッチできます。実は動物は、地上においてもこの光が見えるのです。ですから、一目見ればその人が「いい人」かわかるのです。
一般的に動物が好きな人は、オレンジの色を出すといいます。もしあなたも、今の能力をもって地上の人間を見れば、一発で動物が好きかどうかを言い当てることができるでしょう。
また、相手が敵意を持っている場合、動物は近寄らないものです。
「動物は人が思っているより頭がいいんです。生きていますからね」
動物は、人間とは進化の程度が違うだけ。ペットが懐いて生活を理解するのは、ちゃんとした知性があるからです。
動物だって神様の一部です。
人間とは大きく違うけれど、大切な大切な仲間なのです。元犬から聞く話はリアリティーがありました。
「だからみんな、いい人なのです」
ここはペットが大好きな人たちが集まる場所。誰かを騙すような人はいないと知り、一安心です。
でも、自分はどうなのだろう。
リンカに止められなければ、もっと酷い人生を歩んでいたかもしれない。
ここにいる以上、悪人ではないだろうが善人とも言いがたい。
自分がここにいても大丈夫なのだろうかと心配になります。ブラック企業の時代、迷惑メールもいっぱい打ったけど大丈夫だろうかと。
あなたは突然不安になりました。そのせいか身体から出る光も少しだけ不安定になった気がします。
しかし、それを見たリンカは、とてもとても優しく、とてもとてもうれしそうに言いました。
「ふふ、ご主人様は素敵な人ですよ。自分では気がついていませんけど、とても優しい人です。それは私が保証します」
「それにもし追い出されたら、私も一緒についていきますから安心してください。二人でいれば怖いものなんてないです」
リンカがはっきり言うので、少し照れます。
彼女にとってはあなたが一番です。自分を信じてくれる人がいるだけで、不思議と勇気が湧いてきました。それもまた、人間だからこそできることです。
人の言葉には、強い力が宿っていることも知りました。
勇気の言葉は実際に魂を奮わせ、勇気を呼び寄せるのです。
自分もそうありたい。
自分もリンカのように、誰かに優しくしてあげたい。
あなたはそう思いました。
気がつきましたか?
今、あなたの身体から強い光が出ています。
それが神様の光です。
あなたが誰かに優しくしたいと思ったから、神様が少しだけ顔を出したのです。同時にあなたは満たされる気持ちを感じました。
そうです。神様が出現している時、人の心は満たされるのです。親切を施した時に人が満足するのは、神の光で安らぎを覚えるからです。
神と一つになった感覚が、言いようもない充実感を与えてくれるのです。
あなたとリンカは無言でしばらく歩きました。
だって、言葉なんて必要なかったからです。
あなたがリンカに優しくしたいという気持ち。
リンカがあなたに優しくしたいという気持ち。
そんなものは見ればすぐにわかるのですから。
それが光となって、まわりの人たちを癒します。誰もが二人を微笑ましく見守っていました。
町を物珍しげに一時間ばかり見たころ、あなたは一つのことに気がつきました。まわりは主人と一緒に歩く犬、一緒に休む犬、一人で駆け回る犬。
いたるところに、犬、犬、また犬。
彼、彼女たちも人間に愛されたペットのようです。犬は、人間にもっとも愛されている動物といわれます。ただのペットというだけではなく、盲導犬など仕事においても優秀なパートナーなのです。
そのため、いつの間にか一番進化した動物になっていました。
人に愛される動物は進化を遂げます。
それが神の光を宿す人間の役目なのです。人間が彼らを愛すること。動物に優しく接することで、彼らがより高い段階に昇る手助けをできるのです。
ああ、なんと素晴らしいことでしょう。
強いものが弱いものを助ける美しさ。そこに愛があるのです。
ただ、人にも好き嫌いがあり、時代によって進化の構図は変化してきました。猿は人間に似ているので、一番進化しているように思えますが、人間に一番愛された犬が追い越してしまったのです。
もっとも人に愛された動物が犬。
なるほど、こうして犬が多いのもうなづけます。
しかし、どちらを向いても犬ばかりです。
これはあまりに多すぎます。あなたは、一匹くらい猫や違う動物がいてもいいのに、と思ったりもしました。
その疑問をリンカに尋ねてみます。
「いろいろな島があって、ここは特に犬が好きだった人が集まります。猫は猫が集まる島があるんですよ。猫は犬の次に愛されていますからね」
なるほど、どうりでまわりは犬が多いわけです。でも、犬ばかりで困らないのかな。あなたはそんなふうにも思います。
「同じ種族同士で集まるのは自然なことなんです。地上でもそうでしたし」
たしかに犬は、犬同士で集まります。それこそ人は、人同士で集まって社会を作っています。
地上では物的環境から一緒になれないことも多いですが、ここではそんな制限はありません。犬は犬と一緒にいるほうが幸せなのです。
リンカの言葉に納得しながら、改めてまわりを見てみます。最近流行の小さな犬種から、日本ではあまり見ない大型犬まで多種多様です。さすが犬好きの人が集まる島です。
よくよく見ると、歩いている人も日本人ばかりではありません。犬の種類に劣らないほど外国人も数多くいました。その誰もが仲よくしているようで、ここには人種の壁も存在しないようです。
「生命は全部同じ色で、全部が素敵なんです」
多様性はあれど魂に特別な色はありません。そのどれもが最高のものであり、素敵な光を放つものです。それゆえに、ここでは誰もが仲よくしています。
人種の壁がないなんて、ここは天国みたいな場所だ。
思えば地上では、勝手につくられた国境によって多くの制限があった。
国益だとか、民族や家族の結束だとか、そんなことばかり考えていた。
でも、実際はみんな同じなのだ。
どこの誰であっても、困っていれば助けるのは当たり前だ。
それが人以外の動物であっても、同じ生命なのだから守らねばならない。
神は魂に色をつけず、区別もしない。
そのすべてを愛する。
あなたの中の神様が、そう言っているのが聴こえました。
引き続き二人は町の中を歩きます。
目にとまったのは商店街のような場所でした。
おや? ここでも物が売っているのだろうか?
そんな素朴な疑問を抱いて近寄ってみると、山積みの果物が置いてあります。
これは売り物だろうか?
そう思ったときです。
ぽよん。
あれ? なんだか柔らかいものが当たっている。
あなたは不思議な感触に気がつきました。
気がつくと、あなたの右腕に絡みつく手がありました。柔らかい感触と、ふんわりとした春の匂いがあなたを包みます。
それは彼女のものでした。
「えへへ、ご主人様と一緒です。わたし、知ってますよ。人間の男女って、こうするんですよね」
いつのまにか、リンカがあなたと腕を組んでいます。
いかにも自然な雰囲気に昔を思い出します。昔のリンカも、すぐにあなたに懐いたものです。一緒に散歩に行くときも、リードが必要ないほどあなたにぴったりくっついていました。
やっぱりリンカはリンカなんだな、と懐かしさでいっぱいになります。彼女の本質は何も変わっていないのです。
ただ、今の彼女はれっきとした人間の女性です。腕に当たる感触も女性のものなので、なんだかドキドキです。
ああ、こんな気持ちは初めてかもしれない。
今までこんな素朴な幸せを味わったことがなかった。
幸せであることを幸せだと思わなかった。
あのころに気がつけていれば、また変わったのかもしれない。
豪華な食事も、立派な服も、大きな家もいらなかった。
ただ愛する存在と一緒にいるだけで幸せなのだ。
生きているだけで素晴らしかった。
幸せとは、実に素朴なものだったのです。ただそこにあるだけで価値があるものでした。あなたは今になってそれを実感したのです。
もし、このことを地上の多くの人に伝えられたら、どれだけ世界が変わることだろう。自分のように後悔してほしくない。もっと大切なものに目を向けてほしい。
でも、そればかりはどうしようもありません。あなたはあなたの人生しか送れないのです。
誰もあなたの代わりはいないのです。
どんな人生であれ、あなたの人生が、あなたの愛が、この世界になるのです。それは似てはいても、各人によってすべて異なるものです。
それゆえに神は無限の世界を生み出したのです。
「あらあら、リンカちゃんじゃない」
二人を見ていた店(?)の主人らしき犬が話しかけてきました。
全身が真っ黒な毛並みで覆われたラブラドール・レトリーバーです。彼女はどうやらリンカと知り合いのようで、あなたをジロジロと見ています。
「あなた、初めての人ね。わたしは鼻が利くからすぐにわかるのよ。なんというか、まだまだ地上の匂いがするわね」
肉体と切り離されても、いきなり何かが大きく変わるわけではありません。あなたがあなたのままでいるように、まだまだ多くの地上の雰囲気が残っているものです。
それは、ゆっくりと洗い流してきれいにしていきます。たとえば、あなたの魂に染みついた、少し疑り深いところや狭い物の考え方、そういった地上的な要素です。
それ以外にも、まだまだ濃い物質性を帯びているところがあります。それをここで、少しずつ少しずつ調整していくのです。
「簡単には消えないけど、そのうちなくなっていくわ。あなたがここに来たってことは、悪い人じゃないんだろうしね。大丈夫、大丈夫。ちゃんとうまくできているんだから」
この犬は、マリナさんといい、長くここに住んでいるベテランだといいます。
彼女は、なかなかに進化した犬で、初めてここにやってきた人間や動物の世話をしているそうです。リンカが最初にここに来たときも彼女が面倒をみてくれました。
明るく、とても気のよい女性です。
彼女は二人が腕を組んでいるのを見て、うなづきます。
「その様子からすると、リンカちゃんの恋人ね。はは~ん、なるほど。前に言っていた愛しいご主人様でしょ。隠したってダメよ。愛しているのはすぐにわかるんだから」
この世界では隠し事なんてできません。あふれ出る愛が光となって見えてしまうからです。
あなたもリンカも、お互いに愛の光を出しています。
他人が見ればすぐにわかってしまうのです。
「はい、世界で一番大切な人です」
リンカは、さも当然といわんばかりにうなづきます。
あなたは、その言葉に思わず赤面してしまいました。こんなにはっきり言われると嬉しい反面、少し恥ずかしいものです。
たしかに他人から見れば、恋人以外の何物にも映りません。なんだか不思議な感じがしながらも、今はこれを堪能することにしました。
愛が二人を結びつけたのですから、恋人と同じです。
愛はすべてを超越します。
あなたもリンカのことが大好きです。
今は、女性としても好きになっているのです。
一目見た瞬間から、あなたは恋に落ちているのですから。
ならば、そのまま味わったほうがよいでしょう。ここでは誰も愛しあうことを止められません。
「ほら、お兄さんも食べてごらんよ。わたしがとってきたものだから遠慮しないでいいよ。ここじゃ、お金なんて必要ないからね。ほらほら、どうぞどうぞ」
なんとなく果物に視線を合わせると、マリナさんがそう言って果物をくれました。
どうやらここはお店ではなく、みんなのために置いてあるだけのようです。これらは島に生えているもので彼女がとってきたものでした。
ここではお金など存在しません。
すべては、分けあい、与えあうために存在します。
しゃくっ。
一口かじってみると、それはとても甘くておいしい果実でした。リンゴとマンゴーを混ぜたような味です。
「どうだい、おいしいだろう?」
マリナさんの言葉にあなたはうなづきます。素直においしいと思いました。
味はそこまで濃厚ではないのに妙に満たされます。まるで、彼女の温かい気持ちを食べて、身体中に広がった気分でした。
そして今、自分が普通に食べていることに気がつきました。死んでからも食べられるのだな、そう思ったのです。
リンカと腕を組んでいることも自然ですし、食べることも自然でした。本当に死んでいるのか疑うほどに。
「そりゃ、食べちゃいけないなんて決まりはないからね。特にお兄さんみたいな人は、食べないと栄養が補給できないわよ」
その言葉にあなたは妙に納得しました。
身体がある以上、栄養が必要なのは当たり前のこと。どういう原理になっているかよくわかりませんが、足りないものを補給するのは自然なことのように思えます。
死んだら何も食べない。
そもそも死んだら何もかもなくなる。
地上で暮らしているころは、そう思っていたのですから仕方ありません。
ただし、食べているのは、この世界の食べ物。あなたの身体に適応した、心の身体と同じ振動数の食べ物です。その意味では、地上のものとは違うものです。
「ここじゃ食べたければ、いくらでも食べていいんだよ。まっ、どんな美食家でも、そのうち飽きるだろうけどね」
結局のところ、ここはあまり地上と大差ないようです。
死んだすぐあとの世界は、地上よりほんのわずかにきれいな程度の場所でした。食欲もいまだにあります。特に物が限られているわけではないので、食べることは自由のようです。
ここでは飢えることは、絶対にありえないのです。
思えば、地上とて食べ物に値段をつけているのは人間でした。神様がいくらで売れ、とは一言も言っていなかったのです。
勝手にとってきて勝手に値段をつける。
物が少なければ高くなって、いっぱいあれば安くなる。あくまで人間の欲求にあわせていたものでした。
一方、植物は何も言っていません。ただそこで生命を育んでいるだけでした。それなのに、独占する人がいるのはおかしい。あなたは、今になってそれに気がつきます。
「あっちは、まだまだ未熟な世界だから仕方ないね。動物たちのことについてもほとんど理解していないし、困ったもんだよ。地上の犬や猫も、人間が思っている以上に意思を発しているもんさ。あんたもここに来て、それがよくわかっただろうけどね」
こうして話をしていると、マリナさんはまるで人間のようです。いや、そこらの人間よりも知性的で器も大きく感じます。
彼女らは正真正銘、高度な知的生命体でした。
それはこちらに来る前からそうなのです。
犬や猫、それ以外の動物、鳥も含めて彼らにはちゃんとした意思があります。進化の程度はそれぞれ違えど、ちゃんと生きて、お互いに仲良くするために意志疎通しているのです。
要求もするし、楽しい気持ちになるし、時には泣いたりもします。人間は動物が言葉をしゃべらないからと、何もしていないように思ってしまいますが、実は違うのです。
人間が思う以上に、彼らには感情があるのです。
それはマリナさんを見ていればよくわかります。まわりの犬たちも、よりはっきりと意思を伝えています。
ほとんど人間と変わらないほどに。
そんな簡単なことを人間は忘れてしまっていました。
地上では、人種や言葉が違うというだけで差別したりする人もいます。同じ人間同士でもそうなのですから、動物に対する扱いはもっとひどくなってしまうのです。
ああ、自分もそうだったかもしれない。
あなたは彼らを見くびっていたことを反省します。もっと気持ちを察してあげていれば…と。
「大丈夫です。ご主人様は知っていましたよ」
ふとリンカを見ると、彼女は優しく答えてくれました。
リンカは知っていました。
あなたが犬を対等の存在として扱っていたことを。
だってそうでしょう? そんな人でなければ犬と会話したりしません。しかもリンカに説き伏せられて思いとどまったりしません。
だからあなたは、間違っていなかったのです。
そして、もう一つ気がついたことがあります。マリナさんが犬の形態をしていることです。
これだけ高度な会話をしていながらも、やはりリンカとは違うのです。まわりを見ると、リンカのように犬が人間の形態をしている子はいません。多くがマリナさんと同じ犬のままでした。
はて、これはどういうことだろう?
「そりゃ、リンカちゃんは特別だからね。わたしも相当愛されたけど、そこまでは到達できなかったよ」
あなたの疑問に気がついたマリナさんが教えてくれました。
どうやら、犬の魂がこのように人間の形態を得ることは、普通ではないようです。リンカのほかには数えるほどしかいないと言います。
そして、それが通常なのだとも。
同じ生命とはいえ、動物と人間のあいだには大きな開きがありました。動物が人と同等になるためには、ものすごい長い時間が必要なのです。
生命の進化とは、非常に長い時間を必要とします。この星が生まれて四十億年以上経って、ようやくこうした種族が生まれたのです。
それを思えば、短期間でここまで進化したリンカは、彼らにとっても興味津々なのです。
また、動物と人間とでは、そもそもの種が違いすぎました。神の光を放つために生み出された人間と、神の光を内包していない犬とでは、天と地ほどの差があるのです。
普通はありえないこと。本来ならば独自の進化を遂げるはずの動物が、人間になることはまずないことです。
それだけあなたが愛したのです。
その強大な愛、必死に渇望した気持ちが神様に届いたのです。
「神様が願いを叶えてくれるなんて、めったにないことさ。神様は愛が大好きだから、あんたもよほど愛したんだね」
マリナさんいわく、神様は慈悲深く、愛を何よりも大切にしているといいます。しかし、神様はどんなお願いも聞いてくれるわけではないようです。
もし何でも叶えてあげてしまえば、人は何もしない存在になってしまいます。努力して何かを成し遂げる楽しさや、夢を追うドキドキも知らないままになってしまいます。
でも、愛が大好きな神様は、あなたがどれだけ愛したかをすべて知っていました。
リンカがどれだけ愛されたかを知っていました。
だから届いたのです。
神様に届くのは、あれをしてほしい、これが欲しいとか、そういった普通の願い事ではありません。その願いの中にある純粋な部分、より綺麗なところだけが届くようになっています。
あなたの愛が、神様になったのです。
その光を受けたリンカは、特別に人間になることが許されました。これはとてもとても珍しいことなのです。
そして、マリナさんは最後にこう言いました。
「リンカちゃんを大切にするんだよ。その子は希望だからね」
犬が人間になる。それは偉大なことです。
比較的高度な進化を遂げているマリナさんたちにしてみても、リンカという存在は憧れなのです。犬たちの進化の最前線を行くのですから、当然のことなのです。
「それじゃ、またいつでも来るといいよ。いつもここにいるからね」
最初に目に付いたのは、大きな山と町でした。
山は上部がすでに雲に接しているくらい大きくそびえています。そういえば、最初にいた浜辺からもその山が見えていました。どうやら山は、この島の中心にあるようです。
「あそこには動物の神様が住んでいるんですよ」
動物の神様? 聞き慣れない言葉です。
何も信じずに生きてきたあなたは、神様のことなど何も知らないのです。ここに来てから、ようやく考えはじめたにすぎません。
下の世界で生きていたときも、神様を信仰している人たちは多くいました。変わった服を着たり、仰々しい行事をしたり、不思議な声を出したり。世界中でいろいろな宗教がありました。
でも、そのどれもが変に見えてしまい、どうにも信じる気になりませんでした。そんなあなたは、神様なんていないのだろうな、と思っていたのです。
ましてや動物に神様がいるなんて思いもしません。
「わたしもそうでしたよ。ふふっ、そもそも犬がそんなこと考えませんものね。でも、ここに来て人間になってから多くのことを知りました」
動物は愛らしい生き物ですが、人間のように何かを深く考えることはできません。リンカも人間になったからこそ、そうしたことを考えることができたのです。
「人間ってすごいですね。とても素敵です。人間になれてよかった」
あなたは、その言葉にはっとしました。
人間が素敵、そう思えたことなど人生で何回あったでしょう。人は醜く愚かな存在、あなたにはそう見えていたからです。
しかし、それもあなたの思い込みでした。
人間が当たり前に存在しているからこそ、ちっぽけに感じたのです。人の知性、人の情愛、人の優しさは、彼女からすれば大きなものなのです。
動物よりももっと大きい喜びを味わえるのが、人間という存在です。喜びを味わえるから苦しみが強くなります。苦しみが強いから喜びが大きくなるのです。
あなたも時々は、人に希望を抱いていたことを思い出します。
誰かが弱い人に手を差し伸べたとき、助けたとき、親切にしたとき。
そんなとき、今一度人を信じてみようと思ったものです。
「神様は全部を見ています。どれも無駄にはなりません」
「だって、人は神様なんですもの」
リンカが神という言葉を発すると同時に、言葉は光の粒子となり、世界に輝きをもたらしました。
神。
神様。
かみさま。
人の中にある優しい心。
誰かを助けたい、守りたい、愛したいと思う心。
ただ生命であるだけで愛しく思う気持ち。
それは、神様から発せられる愛の光でした。
あなたが絶望した世界の中で、唯一それだけが心を和ませてくれました。なぜならば、それだけが真実だったからです。それ以外のものは幻だったのです。
人の中には神様がいる。
心の中の神様の光が輝いた時、人は神になるのです。
でも、神様は簡単には出てきません。
いつもは深く暗い心の中に隠れていて、あなたが神様を表現できるのは、心に愛を抱いたほんの一瞬だけ。しかし、それができるのも人間だからです。人間だけが神を表現できるのです。
あなたも人生の中で、本当の意味で神様を表現したことがあるはずです。
それはリンカ。
あなたは子犬だったリンカを見て、かわいそうだと思いました。
このままでは殺されてしまう。そんなことはさせたくない。
その時、犬を飼うという面倒な気持ちに神が勝ったのです。
その優しさが。その哀れみが。
自分の手間を犠牲にしてまで助けたいと願う心が。
それが神の光なのです。
「今、ご主人様はより多くの神様を表現していますよ。だって、こんなにも輝いていますから」
人は、神を表現する存在です。
成長するごとに神様をより多く表現できるようになるのです。
あなたは地上生活を経て成長しました。痛みや苦しみの中で愛を見つけることができました。自分を犠牲にしても助けたいと思ったこと。それがどれだけ素晴らしいことでしょうか。
今、あなたは神様に一歩近づいたのです。
あなたは、しばし呆然としていました。自分が神の一人であることも気がつかずに生きていたのですから、それも仕方ありません
神とは自分だったのです。
その一部だったのです。
程度こそ違えど、宿る資質は本質的に同じだったのです。
では、山にいる神様も人間なのだろうか?
そう言うと、彼女は首を横に振ります。
「人間も神様ですけど、それとは違う神様もいるんです。ここの神様とは、わたしたちの進化を見守っている『竜』なんです」
竜!?
その言葉はさらに意外でした。
竜なんて神話でしか聞いたことがない想像上の動物です。地上にも似た爬虫類がいますが、そんなものが神様なのだろうかと疑問が浮かびます。
そんなあなたを見てリンカは笑いました。あなたの頭の中は固定観念でがちがちだったからです。人の社会に生きていれば、それも仕方がありません。
「犬のころは人間のことはわかりませんでした。でも、人間も本当の神様のことは何も知らないんですよね」
人間は何も知りません。
知ったつもりでいても何も知りません。
この広い宇宙で地球だけに生命がいると思っているくらい、とてもとても小さな考えしか持っていません。あなたもこの世界に来て、今までの地上がどれほど狭いものかを知りました。
それはまるで犬が人間の生活を理解できないように、人間もまた神や世界のことを理解できないということ。
「世界って、大きくて広いですね」
リンカの言葉は、犬だったからこそ素直に言える言葉でもあります。
それに比べて自分はどうだろう。
何も知らないじゃないか。
知らないのに知ったふりをしていても格好悪いだけだ。
動物がいるのならば、竜がいたっていい。
恐竜がいたのだから、竜がいたっていい。
人間がいるのだから、竜がいるのも当然だ。
それ以前に、自分もこうして若返っている。
見てくれなんて、それだけのものなのだ。
自分が今まで見てきたものなど、ほんの一部じゃないか。
日本から出たことも、いや、県外に行ったことすらほとんどないのだ。
自分がいったい何を知っているというのだろう。
人間界だけでもあんなに無知なのに、この世界のことがわかるわけがない。
多少の誤解はあれ、あなたは少しずつ納得していきます。リンカも動物であったのに、今はこうして人間の形態をとっています。それを思えば、竜の神様がいてもいいかなと考えはじめました。
「この世界に慣れるまでは不思議がいっぱいありますよ。ここは心の世界ですからね」
地上世界は、より物質性の高い世界です。意識を集中しても簡単には形になりません。
ですが、この世界はすべてが柔らかいのです。自分が思ったことが形になって、意思の強さによって実際に固定される世界。
そうでいながらもっと強い世界。
竜がいるくらいなのだから、きっとこれからも驚くことがいっぱいあるのだろう。
あなたはドキドキしながらも、心の中では楽しくなってきました。
だって、ここはまるでおとぎ話の世界のよう。
不思議なことがたくさんある世界。
でも、あなたは確信しています。
ここは優しい世界なのだと。自分を認めてくれる愛ある世界なのだと。それがあなたを自然と前向きにさせてくれるのです。
「あれがわたしたちの町です。まずはあそこに行ってみましょう。ほかにも住んでいる人がいるんですよ」
それ以上にあなたの関心を引いたのは、町でした。
最初に来たときには無人島かとも思ったくらいですから、これはうれしいものです。ほかに誰かがいるだけで安心を覚えます。
あなたとリンカは、山道を下って町までゆっくり歩きました。道中も自然は美しく、緑いっぱいの植物があなたを出迎えてくれます。
すべてに心癒されながら町の入り口に着きました。
ここから見る町は少し洋風なだけで、地上世界とあまり変わりがないように見えます。ただ、入り口の素材はあなたの知らないものでできており、不思議な光を放っているように見えました。
思えば道中の植物も、変わった色合いのものがあった気がします。そのどれもが光っていました。あなたはそこでようやく気がつきます。
この世界のものはすべて光っている。
植物も家も、なにより自分自身も。この光は何なのだろう。あなたは疑問に思いましたが、リンカがあなたを引っ張ります。
「さあ、入りましょう」
そのリンカの姿に思わず笑ってしまいました。まるで犬の散歩をする時のように、飼い主を引っ張っていく姿に見えたからです。
その証拠にしっぽを大きく振って楽しそうです。あなたといるのが本当に楽しくて幸せだ。そんなリンカの気持ちが伝わってきて、あなたも足を早めます。
今はリンカと一緒にいたい。
素直にそう思えたからです。
町に入ってみると、たくさんの人や動物がいました。その賑わいに少しびっくりします。まさか、こんなに人がいるとは思わなかったからです。
リンカに尋ねてみたところ、彼らの多くはあなたと同じ境遇だそうです。ペットが大好きで、その情愛が彼らをここに呼び寄せたといいます。中には老人の格好の人もいましたが、多くがあなたと同じ若い姿です。
誰もが犬に愛情を感じているのがわかります。通り過ぎる人たちから、犬に対する愛の波動が出ていました。
ああ、光にはこういう意味があるのか。
あなたはここで光について一つ学びました。道行く人たちは一言もしゃべっていないのに、不思議と彼らの気持ちがわかってしまいます。
彼らが発する光に気持ちが表れているようです。まだあなたには細かいところはわかりませんが、だいたいの気持ちはすぐにわかります。
なるほど。リンカが自分の気持ちをすぐに察してくれるのは、この光を見て感じているからだ。自分もリンカを見るだけで、なんとなく気持ちがわかる。
ここに来てからそんなに口数は多くないのにわかりあえる。地上でやったように、緊張して相手の出方をうかがう必要はあまりないのだと知りました。
見ればすぐにわかるのです。
触れるだけで理解できるのです。
う~ん、やっぱり不思議な世界だ。
それでよく成り立っているものだと感心もします。
ただ、通る誰もが優しい顔つきなので、きっとみんな「いい人」なのでしょう。犬も人間を信頼しているのがわかります。
「動物が好きな人に悪い人はいませんし、動物は悪い人には最初から近寄らないですからね」
動物は人間の波動を敏感にキャッチできます。実は動物は、地上においてもこの光が見えるのです。ですから、一目見ればその人が「いい人」かわかるのです。
一般的に動物が好きな人は、オレンジの色を出すといいます。もしあなたも、今の能力をもって地上の人間を見れば、一発で動物が好きかどうかを言い当てることができるでしょう。
また、相手が敵意を持っている場合、動物は近寄らないものです。
「動物は人が思っているより頭がいいんです。生きていますからね」
動物は、人間とは進化の程度が違うだけ。ペットが懐いて生活を理解するのは、ちゃんとした知性があるからです。
動物だって神様の一部です。
人間とは大きく違うけれど、大切な大切な仲間なのです。元犬から聞く話はリアリティーがありました。
「だからみんな、いい人なのです」
ここはペットが大好きな人たちが集まる場所。誰かを騙すような人はいないと知り、一安心です。
でも、自分はどうなのだろう。
リンカに止められなければ、もっと酷い人生を歩んでいたかもしれない。
ここにいる以上、悪人ではないだろうが善人とも言いがたい。
自分がここにいても大丈夫なのだろうかと心配になります。ブラック企業の時代、迷惑メールもいっぱい打ったけど大丈夫だろうかと。
あなたは突然不安になりました。そのせいか身体から出る光も少しだけ不安定になった気がします。
しかし、それを見たリンカは、とてもとても優しく、とてもとてもうれしそうに言いました。
「ふふ、ご主人様は素敵な人ですよ。自分では気がついていませんけど、とても優しい人です。それは私が保証します」
「それにもし追い出されたら、私も一緒についていきますから安心してください。二人でいれば怖いものなんてないです」
リンカがはっきり言うので、少し照れます。
彼女にとってはあなたが一番です。自分を信じてくれる人がいるだけで、不思議と勇気が湧いてきました。それもまた、人間だからこそできることです。
人の言葉には、強い力が宿っていることも知りました。
勇気の言葉は実際に魂を奮わせ、勇気を呼び寄せるのです。
自分もそうありたい。
自分もリンカのように、誰かに優しくしてあげたい。
あなたはそう思いました。
気がつきましたか?
今、あなたの身体から強い光が出ています。
それが神様の光です。
あなたが誰かに優しくしたいと思ったから、神様が少しだけ顔を出したのです。同時にあなたは満たされる気持ちを感じました。
そうです。神様が出現している時、人の心は満たされるのです。親切を施した時に人が満足するのは、神の光で安らぎを覚えるからです。
神と一つになった感覚が、言いようもない充実感を与えてくれるのです。
あなたとリンカは無言でしばらく歩きました。
だって、言葉なんて必要なかったからです。
あなたがリンカに優しくしたいという気持ち。
リンカがあなたに優しくしたいという気持ち。
そんなものは見ればすぐにわかるのですから。
それが光となって、まわりの人たちを癒します。誰もが二人を微笑ましく見守っていました。
町を物珍しげに一時間ばかり見たころ、あなたは一つのことに気がつきました。まわりは主人と一緒に歩く犬、一緒に休む犬、一人で駆け回る犬。
いたるところに、犬、犬、また犬。
彼、彼女たちも人間に愛されたペットのようです。犬は、人間にもっとも愛されている動物といわれます。ただのペットというだけではなく、盲導犬など仕事においても優秀なパートナーなのです。
そのため、いつの間にか一番進化した動物になっていました。
人に愛される動物は進化を遂げます。
それが神の光を宿す人間の役目なのです。人間が彼らを愛すること。動物に優しく接することで、彼らがより高い段階に昇る手助けをできるのです。
ああ、なんと素晴らしいことでしょう。
強いものが弱いものを助ける美しさ。そこに愛があるのです。
ただ、人にも好き嫌いがあり、時代によって進化の構図は変化してきました。猿は人間に似ているので、一番進化しているように思えますが、人間に一番愛された犬が追い越してしまったのです。
もっとも人に愛された動物が犬。
なるほど、こうして犬が多いのもうなづけます。
しかし、どちらを向いても犬ばかりです。
これはあまりに多すぎます。あなたは、一匹くらい猫や違う動物がいてもいいのに、と思ったりもしました。
その疑問をリンカに尋ねてみます。
「いろいろな島があって、ここは特に犬が好きだった人が集まります。猫は猫が集まる島があるんですよ。猫は犬の次に愛されていますからね」
なるほど、どうりでまわりは犬が多いわけです。でも、犬ばかりで困らないのかな。あなたはそんなふうにも思います。
「同じ種族同士で集まるのは自然なことなんです。地上でもそうでしたし」
たしかに犬は、犬同士で集まります。それこそ人は、人同士で集まって社会を作っています。
地上では物的環境から一緒になれないことも多いですが、ここではそんな制限はありません。犬は犬と一緒にいるほうが幸せなのです。
リンカの言葉に納得しながら、改めてまわりを見てみます。最近流行の小さな犬種から、日本ではあまり見ない大型犬まで多種多様です。さすが犬好きの人が集まる島です。
よくよく見ると、歩いている人も日本人ばかりではありません。犬の種類に劣らないほど外国人も数多くいました。その誰もが仲よくしているようで、ここには人種の壁も存在しないようです。
「生命は全部同じ色で、全部が素敵なんです」
多様性はあれど魂に特別な色はありません。そのどれもが最高のものであり、素敵な光を放つものです。それゆえに、ここでは誰もが仲よくしています。
人種の壁がないなんて、ここは天国みたいな場所だ。
思えば地上では、勝手につくられた国境によって多くの制限があった。
国益だとか、民族や家族の結束だとか、そんなことばかり考えていた。
でも、実際はみんな同じなのだ。
どこの誰であっても、困っていれば助けるのは当たり前だ。
それが人以外の動物であっても、同じ生命なのだから守らねばならない。
神は魂に色をつけず、区別もしない。
そのすべてを愛する。
あなたの中の神様が、そう言っているのが聴こえました。
引き続き二人は町の中を歩きます。
目にとまったのは商店街のような場所でした。
おや? ここでも物が売っているのだろうか?
そんな素朴な疑問を抱いて近寄ってみると、山積みの果物が置いてあります。
これは売り物だろうか?
そう思ったときです。
ぽよん。
あれ? なんだか柔らかいものが当たっている。
あなたは不思議な感触に気がつきました。
気がつくと、あなたの右腕に絡みつく手がありました。柔らかい感触と、ふんわりとした春の匂いがあなたを包みます。
それは彼女のものでした。
「えへへ、ご主人様と一緒です。わたし、知ってますよ。人間の男女って、こうするんですよね」
いつのまにか、リンカがあなたと腕を組んでいます。
いかにも自然な雰囲気に昔を思い出します。昔のリンカも、すぐにあなたに懐いたものです。一緒に散歩に行くときも、リードが必要ないほどあなたにぴったりくっついていました。
やっぱりリンカはリンカなんだな、と懐かしさでいっぱいになります。彼女の本質は何も変わっていないのです。
ただ、今の彼女はれっきとした人間の女性です。腕に当たる感触も女性のものなので、なんだかドキドキです。
ああ、こんな気持ちは初めてかもしれない。
今までこんな素朴な幸せを味わったことがなかった。
幸せであることを幸せだと思わなかった。
あのころに気がつけていれば、また変わったのかもしれない。
豪華な食事も、立派な服も、大きな家もいらなかった。
ただ愛する存在と一緒にいるだけで幸せなのだ。
生きているだけで素晴らしかった。
幸せとは、実に素朴なものだったのです。ただそこにあるだけで価値があるものでした。あなたは今になってそれを実感したのです。
もし、このことを地上の多くの人に伝えられたら、どれだけ世界が変わることだろう。自分のように後悔してほしくない。もっと大切なものに目を向けてほしい。
でも、そればかりはどうしようもありません。あなたはあなたの人生しか送れないのです。
誰もあなたの代わりはいないのです。
どんな人生であれ、あなたの人生が、あなたの愛が、この世界になるのです。それは似てはいても、各人によってすべて異なるものです。
それゆえに神は無限の世界を生み出したのです。
「あらあら、リンカちゃんじゃない」
二人を見ていた店(?)の主人らしき犬が話しかけてきました。
全身が真っ黒な毛並みで覆われたラブラドール・レトリーバーです。彼女はどうやらリンカと知り合いのようで、あなたをジロジロと見ています。
「あなた、初めての人ね。わたしは鼻が利くからすぐにわかるのよ。なんというか、まだまだ地上の匂いがするわね」
肉体と切り離されても、いきなり何かが大きく変わるわけではありません。あなたがあなたのままでいるように、まだまだ多くの地上の雰囲気が残っているものです。
それは、ゆっくりと洗い流してきれいにしていきます。たとえば、あなたの魂に染みついた、少し疑り深いところや狭い物の考え方、そういった地上的な要素です。
それ以外にも、まだまだ濃い物質性を帯びているところがあります。それをここで、少しずつ少しずつ調整していくのです。
「簡単には消えないけど、そのうちなくなっていくわ。あなたがここに来たってことは、悪い人じゃないんだろうしね。大丈夫、大丈夫。ちゃんとうまくできているんだから」
この犬は、マリナさんといい、長くここに住んでいるベテランだといいます。
彼女は、なかなかに進化した犬で、初めてここにやってきた人間や動物の世話をしているそうです。リンカが最初にここに来たときも彼女が面倒をみてくれました。
明るく、とても気のよい女性です。
彼女は二人が腕を組んでいるのを見て、うなづきます。
「その様子からすると、リンカちゃんの恋人ね。はは~ん、なるほど。前に言っていた愛しいご主人様でしょ。隠したってダメよ。愛しているのはすぐにわかるんだから」
この世界では隠し事なんてできません。あふれ出る愛が光となって見えてしまうからです。
あなたもリンカも、お互いに愛の光を出しています。
他人が見ればすぐにわかってしまうのです。
「はい、世界で一番大切な人です」
リンカは、さも当然といわんばかりにうなづきます。
あなたは、その言葉に思わず赤面してしまいました。こんなにはっきり言われると嬉しい反面、少し恥ずかしいものです。
たしかに他人から見れば、恋人以外の何物にも映りません。なんだか不思議な感じがしながらも、今はこれを堪能することにしました。
愛が二人を結びつけたのですから、恋人と同じです。
愛はすべてを超越します。
あなたもリンカのことが大好きです。
今は、女性としても好きになっているのです。
一目見た瞬間から、あなたは恋に落ちているのですから。
ならば、そのまま味わったほうがよいでしょう。ここでは誰も愛しあうことを止められません。
「ほら、お兄さんも食べてごらんよ。わたしがとってきたものだから遠慮しないでいいよ。ここじゃ、お金なんて必要ないからね。ほらほら、どうぞどうぞ」
なんとなく果物に視線を合わせると、マリナさんがそう言って果物をくれました。
どうやらここはお店ではなく、みんなのために置いてあるだけのようです。これらは島に生えているもので彼女がとってきたものでした。
ここではお金など存在しません。
すべては、分けあい、与えあうために存在します。
しゃくっ。
一口かじってみると、それはとても甘くておいしい果実でした。リンゴとマンゴーを混ぜたような味です。
「どうだい、おいしいだろう?」
マリナさんの言葉にあなたはうなづきます。素直においしいと思いました。
味はそこまで濃厚ではないのに妙に満たされます。まるで、彼女の温かい気持ちを食べて、身体中に広がった気分でした。
そして今、自分が普通に食べていることに気がつきました。死んでからも食べられるのだな、そう思ったのです。
リンカと腕を組んでいることも自然ですし、食べることも自然でした。本当に死んでいるのか疑うほどに。
「そりゃ、食べちゃいけないなんて決まりはないからね。特にお兄さんみたいな人は、食べないと栄養が補給できないわよ」
その言葉にあなたは妙に納得しました。
身体がある以上、栄養が必要なのは当たり前のこと。どういう原理になっているかよくわかりませんが、足りないものを補給するのは自然なことのように思えます。
死んだら何も食べない。
そもそも死んだら何もかもなくなる。
地上で暮らしているころは、そう思っていたのですから仕方ありません。
ただし、食べているのは、この世界の食べ物。あなたの身体に適応した、心の身体と同じ振動数の食べ物です。その意味では、地上のものとは違うものです。
「ここじゃ食べたければ、いくらでも食べていいんだよ。まっ、どんな美食家でも、そのうち飽きるだろうけどね」
結局のところ、ここはあまり地上と大差ないようです。
死んだすぐあとの世界は、地上よりほんのわずかにきれいな程度の場所でした。食欲もいまだにあります。特に物が限られているわけではないので、食べることは自由のようです。
ここでは飢えることは、絶対にありえないのです。
思えば、地上とて食べ物に値段をつけているのは人間でした。神様がいくらで売れ、とは一言も言っていなかったのです。
勝手にとってきて勝手に値段をつける。
物が少なければ高くなって、いっぱいあれば安くなる。あくまで人間の欲求にあわせていたものでした。
一方、植物は何も言っていません。ただそこで生命を育んでいるだけでした。それなのに、独占する人がいるのはおかしい。あなたは、今になってそれに気がつきます。
「あっちは、まだまだ未熟な世界だから仕方ないね。動物たちのことについてもほとんど理解していないし、困ったもんだよ。地上の犬や猫も、人間が思っている以上に意思を発しているもんさ。あんたもここに来て、それがよくわかっただろうけどね」
こうして話をしていると、マリナさんはまるで人間のようです。いや、そこらの人間よりも知性的で器も大きく感じます。
彼女らは正真正銘、高度な知的生命体でした。
それはこちらに来る前からそうなのです。
犬や猫、それ以外の動物、鳥も含めて彼らにはちゃんとした意思があります。進化の程度はそれぞれ違えど、ちゃんと生きて、お互いに仲良くするために意志疎通しているのです。
要求もするし、楽しい気持ちになるし、時には泣いたりもします。人間は動物が言葉をしゃべらないからと、何もしていないように思ってしまいますが、実は違うのです。
人間が思う以上に、彼らには感情があるのです。
それはマリナさんを見ていればよくわかります。まわりの犬たちも、よりはっきりと意思を伝えています。
ほとんど人間と変わらないほどに。
そんな簡単なことを人間は忘れてしまっていました。
地上では、人種や言葉が違うというだけで差別したりする人もいます。同じ人間同士でもそうなのですから、動物に対する扱いはもっとひどくなってしまうのです。
ああ、自分もそうだったかもしれない。
あなたは彼らを見くびっていたことを反省します。もっと気持ちを察してあげていれば…と。
「大丈夫です。ご主人様は知っていましたよ」
ふとリンカを見ると、彼女は優しく答えてくれました。
リンカは知っていました。
あなたが犬を対等の存在として扱っていたことを。
だってそうでしょう? そんな人でなければ犬と会話したりしません。しかもリンカに説き伏せられて思いとどまったりしません。
だからあなたは、間違っていなかったのです。
そして、もう一つ気がついたことがあります。マリナさんが犬の形態をしていることです。
これだけ高度な会話をしていながらも、やはりリンカとは違うのです。まわりを見ると、リンカのように犬が人間の形態をしている子はいません。多くがマリナさんと同じ犬のままでした。
はて、これはどういうことだろう?
「そりゃ、リンカちゃんは特別だからね。わたしも相当愛されたけど、そこまでは到達できなかったよ」
あなたの疑問に気がついたマリナさんが教えてくれました。
どうやら、犬の魂がこのように人間の形態を得ることは、普通ではないようです。リンカのほかには数えるほどしかいないと言います。
そして、それが通常なのだとも。
同じ生命とはいえ、動物と人間のあいだには大きな開きがありました。動物が人と同等になるためには、ものすごい長い時間が必要なのです。
生命の進化とは、非常に長い時間を必要とします。この星が生まれて四十億年以上経って、ようやくこうした種族が生まれたのです。
それを思えば、短期間でここまで進化したリンカは、彼らにとっても興味津々なのです。
また、動物と人間とでは、そもそもの種が違いすぎました。神の光を放つために生み出された人間と、神の光を内包していない犬とでは、天と地ほどの差があるのです。
普通はありえないこと。本来ならば独自の進化を遂げるはずの動物が、人間になることはまずないことです。
それだけあなたが愛したのです。
その強大な愛、必死に渇望した気持ちが神様に届いたのです。
「神様が願いを叶えてくれるなんて、めったにないことさ。神様は愛が大好きだから、あんたもよほど愛したんだね」
マリナさんいわく、神様は慈悲深く、愛を何よりも大切にしているといいます。しかし、神様はどんなお願いも聞いてくれるわけではないようです。
もし何でも叶えてあげてしまえば、人は何もしない存在になってしまいます。努力して何かを成し遂げる楽しさや、夢を追うドキドキも知らないままになってしまいます。
でも、愛が大好きな神様は、あなたがどれだけ愛したかをすべて知っていました。
リンカがどれだけ愛されたかを知っていました。
だから届いたのです。
神様に届くのは、あれをしてほしい、これが欲しいとか、そういった普通の願い事ではありません。その願いの中にある純粋な部分、より綺麗なところだけが届くようになっています。
あなたの愛が、神様になったのです。
その光を受けたリンカは、特別に人間になることが許されました。これはとてもとても珍しいことなのです。
そして、マリナさんは最後にこう言いました。
「リンカちゃんを大切にするんだよ。その子は希望だからね」
犬が人間になる。それは偉大なことです。
比較的高度な進化を遂げているマリナさんたちにしてみても、リンカという存在は憧れなのです。犬たちの進化の最前線を行くのですから、当然のことなのです。
「それじゃ、またいつでも来るといいよ。いつもここにいるからね」
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