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零章 第四部『加速と収束の戦場』

六十九話 「RD事変 其の六十八 『信仰の破壊② 銀の星守』」

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 突如、背後に現れたガヴァル二機に、ロイゼン第三騎士団は混乱に陥っていた。

 ガヴァルは、バイパーネット同様に支援機の側面が強いMGで、単体の攻撃力は高くはない。しかし、その機動力はバイパーネッドなどとは比べものにならない。まるで闘犬のように迅速で獰猛。瞬く間に第三騎士団の隊列を掻き乱す。

 当然、隙あれば攻撃も行う。ロキN5が操るガヴァルが低い体勢からカミューの足を斬撃。切断までは至らないが、その衝撃で揺らいだところに、ロキN9のガヴァルのバズーカが発射。頭部が吹き飛ぶ。

 そのカミューを盾にしつつ、さらに隊列の分断を図ろうと小刻みに攻撃を加えていく。このように致命傷は与えないが、素早い動きでそれなりの深手を負わせ、次々と場を攪乱していくのである。

 そして、忘れてはいけないのが、ここがヘビ・ラテの結界内であること。

 周囲には見えない糸が張り巡らされ、それに触れたカミューは身動きが封じられるか、絡みついた糸に腕や足を切断される。これによってさらに混乱に拍車をかけていく。

(これはまずい)

 サンタナキアは、敵に先手を打たれたことを悔やむ。

 行動に何ら迷いがない。
 相手は用意周到に待ちかまえていたのだ。

 最初から、少数で多数を喰らう戦術を用意していた。実に見事な連携の前に、数で勝るはずのロイゼン騎士団が苦境に立たされる。

 しかも地形はビル群であり、散在する建造物が微妙に邪魔になる。広い場所もあるが、そうした場所には必ず糸が張り巡らされているため、騎士団は次第に狭い場所に誘導されていく。

(相手の動きに対応できていない。このままでは全滅する)

 戦闘経験が乏しいのはダマスカスに限ったことではない。ロイゼン騎士団もまた、こうした意表をついた相手は苦手とするところである。

 正面からの打ち合いならば負けるつもりはないが、明らかに通常とは違う戦術に、まったく対応できない。慣れればそのうちできるだろうが、それは自分たちという犠牲を出したあとのことになるだろう。

 オロクカカが言った言葉は、けっして脅しではない。相手にはそれだけの準備があるのだ。間違いなく対騎士団用のそなえができていた。このままでは全滅は必至。サンタナキアも混乱に巻き込まれれば、不意をつかれて殺される可能性が高くなる。

 二十分以内には全員が死ぬ。

 サンタナキアは即座に決断。

「第二騎士団は私の指揮下に入れ! 無理をして動かず、隊列を組んでシールドで対応しろ!」

 サンタナキアは状況を確認した瞬間に指示を出し、部隊の再編成を図る。

「サンタナキア様…!」
「落ち着け! アレクは死んだわけではないぞ! 冷静に対処すれば防げない攻撃ではない!」

 その言葉に、アレクシートを見失ってパニックに陥っていた第二騎士団の聖騎士、いまだ健在のカミュー隊五機が正気に戻る。

「我々の強みは何だ! 耐える力であろう! アレクシートが戻るまで、耐えて耐えて耐え抜け!」
「はっ!」

 サンタナキアの激励が部隊全体に染み渡っていく。彼直属の第三騎士団を軸に、徐々に防御の隊列が組み上がっていった。

 それは単純にシールドを持ったカミューが数機集まり、壁として立ちふさがるといった簡単なもの。しかしながら、ロイゼン騎士団の持ち味は耐久力である。単純な壁となったカミューをガヴァルは攻めあぐねている。

 サンタナキアから見ても、ガヴァルの操者であるロキの実力は、配下の聖騎士を上回っている。真正面から対峙したとて、倍の数をもってしても勝てないだろう。ならば、さらにその倍の数で対応すればよいだけだ。

 加えて、無理に攻撃はさせない。相手の狙いは、明らかに混乱と分断である。裏を返せば、こちらがこの数を維持している限り、正面突破で押し切るだけの余力がないのだ。

 サンタナキアが糸が見えることも奏功する。糸のある場所を見抜いては、自ら糸を切り裂いて突破口を開いていく。徐々にではあるが、ロイゼン騎士団は本来の実力を発揮しつつあった。

(なかなかの指揮力ですね)

 オロクカカは、即座に混乱を収拾したサンタナキアの指揮力を賞賛する。

 声をかけることは簡単だが、ここまで荒れた場を鎮めるのは難しいものである。普段からの行動で騎士たちの信頼を勝ち得ていなくては無理だろう。しかもその声には、不思議と人を落ち着かせる波動が宿っている。

 アレクシートが鼓舞し、激しい炎を燃え上がらせる発火剤ならば、サンタナキアのそれは引き締める冷水の強さ。熱で火照った顔を冷やし、安堵させるものである。

 そして、ついに両者が対峙。

「アレクを返してもらおう」

 サンタナキアのシルバーフォーシル〈銀の星守〉が、カミューの援護を受けながら、オロクカカのヘビ・ラテ〈禍津蜘蛛〉の前に立ち塞がる。

 何度糸を切り裂いてもヘビ・ラテがいる限り、戦いは終わらない。相手の戦気の量が多いことはサンタナキアにも見えていたので、消耗戦は危険と判断して勝負をかけたのである。

「手は出すな! お前たちは防御に専念しろ!」

 サンタナキアは、背後の聖騎士たちにそう命令する。カミューが何機いようとも、ヘビ・ラテを倒すことはできないと悟ったからだ。だが、ナイトシリーズを駆る自分ならば可能性はある。

(落ち着け。いくら相手が強くとも、ラナー卿ほどではない。十分勝負できるはずだ)

 オロクカカは、まだまだ全力を出していない。だが、それでもラナーより強いということはありえない。普段からラナーと稽古をしているサンタナキアならば、奇抜な攻撃に注意さえすれば、けっして悪い勝負にはならないはずである。

 いや、悪い勝負であっても引き受けねばならない。現状で戦えるのは自分だけなのだ。ここで押し切って巣を脱出すれば、まだ立て直すチャンスはある。

 オロクカカのヘビ・ラテは、糸に掴まって宙に浮いた状態でシルバーフォーシルを見下す。

「ここまで抵抗するとは見事です。…が、言ったはずですよ。あなたがたには全滅してもらうと」
「私がいる限り、そのような真似はさせない。アレクも取り戻す」

 いつもは穏やかなサンタナキアの声が、無意識のうちに低いものへと変化していく。

 同時に気質も変化。圧力が増していく。アレクシートのように全身が燃え上がるわけではないが、青い炎が身体の内部に広がっていくような、高熱を帯びた力をひしひしと感じさせた。

 勇気や覚悟を振り絞って、というわけではない。サンタナキアの中にあるのは、静かな自信のようなものだ。

(さすがはシルバーナイトの操者。なかなか侮れないですね。さきほどの彼より危険かもしれません)

 オロクカカは、サンタナキアの静かな威圧感に危機感を抱く。バーンである彼を気圧すのだから、相当な迫力である。

 アレクシートは炎気を扱うので相性が悪いが、サンタナキアは純粋にやりにくい相手に思えた。彼が持つ雰囲気が、そう感じさせるのかもしれない。

 とはいえ、蜘蛛は巣を張って待つだけではない。自ら狩りを行うこともできる。バーンであるオロクカカが、サンタナキアに臆するわけがない。

「では、お手並みを拝見しましょうか」

 最初に動いたのはヘビ・ラテ。胴体から糸を放射し、シルバーフォーシルの足を絡め取ろうとする。

「視える!」

 サンタナキアには、糸が見えている。剣気を宿した剣で一閃。糸を切り裂いて再び防御の構え。ヘビ・ラテは続けて何度も糸を放射するが、そのすべてがシルバーフォーシルによって迎撃される。

 しかし、ヘビ・ラテはすでに跳躍し、一気にシルバーフォーシルとの距離を詰めていた。

「私を糸だけの武人と思わぬことですね!」

 ヘビ・ラテの左右の前脚二本が高速で突き出される。

 今まで糸だけに気を取られていたが、オロクカカは戦士タイプの武人。その拳も立派な武器となる。特にヘビ・ラテの前脚の部分は鋭利な作りとなっており、獲物を突き刺す立派な武器なのだ。

「はっ!!」

 シルバーフォーシルは、咄嗟に剣の腹を使ってガード。その威力に後退しつつも見事に受けきる。

「まだまだいきますよ!」

 そこから続けてヘビ・ラテの高速の突きが襲う。

 ヘビ・ラテは、通常のMGとはかなり規格が異なる、いわゆる【色物(ゲテモノ)MG】に属する機体である。高さは普通のMGと同じ程度だが、まさに蜘蛛のごとく全長が十七メートルと長く、同時に手足も長いのでかなり大型のMGに分類される。

 そこから繰り出される攻撃は、通常のMG戦闘では味わえない独特さがある。まず、剣とは間合いが違う。同じ突きであっても触脚で放たれるので、いちいち構えるという動作が必要ない。突然弾丸のような速度で、あらゆる角度から突きが襲い掛かってくる。

 その突きの威力は、カミューを簡単に串刺しにできる威力である。シルバーフォーシルの防御力は、シルバーグランより低い。直撃を受ければ致命傷にもなりかねない。

 ちなみに蜘蛛型のMGに乗っているオロクカカも、当然ながらカノンシステムによって機体と精神融合を果たしている。蜘蛛の脚は人間の四肢よりも多いが、こうして融合していると違和感なく扱うことができる。まさに蜘蛛自身になりきるのである。

 よって、脚の一撃は、まさにオロクカカの拳と同じ威力なのである。それをサンタナキアはガード。見事な体捌きと大剣を使っていなしていく。

 その光景にはオロクカカも感嘆するしかない。

(大型の剣を、あの速度で振り抜きますか)

 ヘビ・ラテの攻撃はけっして遅くない。弾丸以上の速度で飛んでくる恐るべきものである。それをいなすサンタナキアの実力は、大国の列席騎士団長の名に相応しい。

 シルバーフォーシルは、シルバーグランよりも軽装でありながらも、その体躯に似合わない巨大な剣を装備している。この剣こそがフォーシルの最大の武器であり、最大の防御方法でもある。

 剣は肉厚の両刃で、攻撃と同時に防御もできる【剣盾】としての使い方が想定されている。それゆえにピンチとなれば、剣の腹を使って、ゼッカー戦でも見せたように砲弾を受け止めることも可能となる。

 このことからも、サンタナキアの膂力はけっして弱くないことがわかる。むしろ剣士にしては腕力が強い部類に入る武人であるといえる。

 機体自体は軽装であるが、これは全身を躍動させて剣を振るうためである。可動域を増やし、より生身と同じように軽快に戦うことを前提としている。

 相手の攻撃を予測する能力。迷いのない動きを可能とする判断力。大きな幅広の剣を扱う剣技と腕力。そのすべてを支える強い意思。シルバーフォーシルを操るには、これだけの資質が必要なのである。

 そして、サンタナキアには、これらの資質があった。バランス能力に長けており、かなり無理な体勢からも剣を振るうことができるのだ。

(強いのは間違いない。されど特筆すべきは、やはり目が良いことでしょう)

 オロクカカは、サンタナキアの最大の特徴を【目の良さ】と判断する。

 サンタナキアは、リヒトラッシュのように視力が飛び抜けて良いわけではない。遠くを見る、という能力においては、常人とさして変わりはないだろう。

 だが、視野が広い。

 ヘビ・ラテの脚による攻撃に加え、死角から放たれる糸をすべて見切っている。二つの目で焦点を合わせなくても、正確に位置を把握できるのだ。当人はそれが当たり前だと思っているが、これは立派に特殊な力である。

 バーンであるオロクカカの攻撃は、並の迫力ではない。それを正面から受け止める技量は群を抜いている。文句なしに実力で騎士団長になったのだとわかる。

 されどバーンである。

 オロクカカにとって、これくらいの敵は問題ないレベルである。彼自身、一族の中でも優秀な戦士であったし、ラーバーンに所属してからは、ホウサンオーやガガーランドを筆頭とした上位バーンを見てきている。

 上位バーンより弱い。

 サンタナキアが、オロクカカをラナーより弱いと思うように、オロクカカもまたサンタナキアが下に見える。たしかに優れた騎士であるが、バーンの名を冠する自身が負けるほどの相手ではない。

 なぜならばバーンとは、複数の名だたる強者を倒すために生まれた存在だからである。全世界の武人を相手にしても打ち勝つために集められたのだ。オロクカカのような下位バーンでさえ、サンタナキアと同程度の敵を五人くらいは倒せなければ務まらない。

「そろそろ本気でいきますよ」

 オロクカカの戦気が倍増する。本格的に戦闘モードに入ったのである。今まではあくまで様子見であった。


―――突如、ヘビ・ラテが消えた。


(消えた? まさか!?)

 目の良いサンタナキアでも、突然ヘビ・ラテが消えたように見えた。だが、機体が消えるなどありえない。ゴーストや天霧衣ならば消えることは可能だが、それでも多少の時間がかかる。

 ならば、移動したのだ。
 サンタナキアの目よりも速く。

 実際、ヘビ・ラテはシルバーフォーシルの頭上に跳んでいた。だが、そこにいっさいの溜めの動作がなかったゆえに、サンタナキアでさえ捉えられなかったのである。

 ヘビ・ラテは、背後に隠した糸を操って自身を吊り上げた。ヘビ・ラテの背部からは何本もの糸が出ており、それらが周囲の結界とつながっている。アレクシートの膂力と互角の強靭な糸を収縮させて引っ張れば、いとも簡単に移動することができるのである。それが宙であっても問題ない。

 そこから前脚に加えて、さらに左右の二本の脚、計四本の脚が襲いかかる。

 ヘビ・ラテは大きく重いため、自重を支えるには六本の脚が必要である。通常は前脚の二本だけで攻撃するが、それでは致命傷は与えられないと判断。糸を使うことでカバーし、攻撃の手数を増やしたのだ。

 完全な奇襲である。

 この戦い方は、普通のMG戦闘にはない特殊な事例。色物MGだからこそ放てる奇をてらった一撃である。

(初見でこれはかわせない)

 オロクカカも、最高のタイミングで繰り出した一撃に直撃を確信する。

 カノンシステムで融合しているオロクカカにしてみれば、ストレートの軌道を変化させてエルボーを繰り出した感覚である。いくら目が良くても身体はついてはこないはずである。

「―――っ!」

 その証拠に、サンタナキアも不意をつかれて対応に迷いが出ていた。宙を見上げた目は、驚きに見開いたまま。足も動けない。剣を振るう暇もない。

 防御しても間に合わない。四脚で串刺しにされる。
 今から背後に跳んでも間に合わない。前脚で串刺しにされる。
 屈んでも間に合わない。後脚で串刺しにされる。

 絶体絶命である。もはやどうすることもできない。

 しかし、咄嗟に動いたものがある。
 それは武人の本能だったのかもしれない。

 シルバーフォーシルは、大剣を地面に突き刺して剣気を爆発させる。その衝撃で機体が後方に弾かれ、ヘビ・ラテの脚撃はシルバーフォーシルの胸部を引っ掻くにとどまる。

(危なかった!)

 正直サンタナキアでさえも、敗北の二文字が頭をよぎった。

 ヘビ・ラテの脚は、実際の剣と変わらぬ威力。その証拠に、胸には深く抉られた傷痕が残っており、一撃の強さがうかがい知れる。まさに必殺の一撃であった。

 もしとっさの判断がなければ、確実に負けていた瞬間である。身体が勝手に動いたとしか言いようがない。サンタナキア自身でさえ、どうやってかわしたのか覚えていないほどなのだ。

(素晴らしい!)

 それにはオロクカカも思わず見惚れる。

 彼には見えた。
 サンタナキアが流してきた血と汗が。

 あの一瞬の動きは、けっしてラッキーでも偶然でもない。日々努力し続けてきたことが実戦で出たにすぎない。

 サンタナキアが、毎日朝早くから夜遅くまで鍛錬している姿。アレクシートを助けようと、家の迷惑にならないようにと、決死の覚悟で剣を振るってきた姿が、オロクカカには見えたのだ。

 物腰柔らかい青年に見えた男は、なんと気骨溢れる美男子であったことか。その中身は、まさに武人の塊である。糸を操るために、自身の肉すら削ぎ落とすオロクカカには、そうした努力が痛いほどよくわかるのである。

 才能に溺れず、日々を鍛錬に費やした者だけが、この領域に立つことが許されるのである。今この瞬間、サンタナキアはオロクカカに認められた。自らの獲物に相応しいと評価を受けたのだ。

「ですが、私はバーンなのですよ! 主の御使いである以上、勝つ宿命にあるのです!」
「これは…糸!!」
「気がついても、どうにもなりませんよ!」

 サンタナキアは、シルバーフォーシルの胸に糸がついているのが視えた。今攻撃された瞬間に付けられたのだ。

 ヘビ・ラテは糸を引っ張り、シルバーフォーシルをたぐり寄せる。間合いを詰めたところに再び脚の攻撃。シルバーフォーシルは剣盾で防ぐも、次第に押されていく。

(っ…逆に!?)

 シルバーフォーシルが引かれまいと、自身が力いっぱいに引っ張り返した瞬間、ヘビ・ラテは糸を引く力を緩める。それによってシルバーフォーシルのバランスが崩れた。

 そこにヘビ・ラテの強烈な脚撃が襲う。

 脚はシルバーフォーシルの左肩に直撃。恐ろしいまでの重い一撃に、肩の装甲がひしゃげるも、後ろにバランスを崩したおかげで貫通は免れる。

 それからもヘビ・ラテは糸と脚撃を絡めた攻撃で、シルバーフォーシルを追い詰めていく。次第にサンタナキアは防戦一方になっていた。

(強い。こんなに強い相手は初めてだ!)

 サンタナキアは、左肩に感じる熱い痛みに顔を歪めながら驚愕する。

 オロクカカは強い。

 当然、剣聖であるラナーのほうがオロクカカよりも強いだろう。その彼と訓練で剣を合わせているサンタナキアも、日々超一流の相手と戦っていることになる。

 しかしながら、殺し合いという実戦の中で戦う相手としては、オロクカカは今までで間違いなく最強の相手である。

 単純な戦士としての能力。拳(脚)の速度、体捌きはもちろん、こうした駆け引きにおいてはサンタナキアを一枚も二枚も上回っている。おそらく実戦経験も自身の比ではないだろう。

 事実、オロクカカの一族は、日々戦いの中に身を置いている。ただし、人ではなく野生の魔獣が相手である。魔獣は人間よりも多様な攻撃をしてくるため、戦いの中で自然と対応力が身についていく。

 現在はMGを戦糸で操っているが、本来は獣を人形のように操る術でもある。こうした魔獣を使って、依頼された人里から獣や危険な人間を遠ざけたりするのが、彼らの生業である。

 また、電波が届かない山間などに、糸電話を設置することも副業として請け負っている。通常の電波と違って傍受されないため、軍事施設では重宝されることもある。

 辺境の魔獣の強さは、場合によっては人間の武人を遥かに上回る。ジャラガンが生身でグレイズガーオと戦っているが、それと似たようなことをオロクカカもやっているのである。ランクでいえば、オロクカカは間違いなく第四階級の魔戯まぎ級に位置するであろう強者である。

(これほどの武人がいるなんて。野はなんと広い)

 サンタナキアは、オロクカカが発する独特の気質に驚きを隠せない。彼はまさに、自分が知らない世界で暮らす武人なのだ。そうでいながら、他国の筆頭騎士団長であると紹介されても納得してしまう実力を有している。

 世界は広いと痛感する。

 そんな相手と戦えることは、ある意味においては武人冥利に尽きるのかもしれない。

 だが、これは殺し合いである。

 サンタナキアは、改めて気を引き締める。
 この戦いは、命をかけた真剣勝負なのだと。

 一歩間違えれば、死ぬのは自分である。
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