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『翠清山の激闘』編
205話 「アイラとユキネ その1」
しおりを挟むアイラの面影が、『あの映像』と重なる。
あの映像とは、サナとスレイブ・ギアス契約をした際に見た、例の謎の光景のことだ。
感情が強く揺さぶられたために細部はあまり覚えていないが、大人になったであろうサナの顔は鮮明に記憶されている。
同時にサナと一緒にいた女性の顔も、おぼろげながら覚えていた。それがアイラの雰囲気とそっくりなのだ。
(あの映像では、こいつももっと大人びていて、今とはだいぶ印象が違うからわからなかった。だが、泣いた時の顔はそっくりだ。ホロロさんにギアスを付けた時にもサナの大人の姿は見ているし、それで記憶が刺激されたのかもしれないな)
今までは単なる頭の悪い女子高生扱いだったが、こうなると一気に話は変わってくる。
「アイラ、お前は何者だ?」
「へ? だから踊り子なんだよー! ステージで見たでしょ?」
「それは知っている。それ以外の素性は? 生まれはどこだ?」
「んー、わからないかな? 赤ん坊の時に座長が拾ってくれたから、どこで生まれたとか知らないんだよねー。うちの一座って、そういう人が多くてさー」
「では、以前にもサナと出会ったことがあるか?」
「この子と? こないだ会ったのが初めてだよ?」
「南部のほうで見かけたことは? お前の一座は南部に行ったことはないのか?」
「ずっと南から移動してきたけど…お客さんなんてたくさんいるし、いちいち覚えてないよ。でも、こんな可愛い子がいたら忘れないだろうから、たぶん会ったことはないかなー」
「…そうか。過去に関わりはないか」
(サナが大人になっていることを考えれば、あれは未来のものだと推察できる。ならば、これからの付き合いでそうなるということか? あるいはたまたまその時に出会っただけか? あの短時間の映像だけではわからないな…)
「じゃあ、未来の話をしよう。今後の目標は? これからの人生をどう生きたい?」
「ちょっとちょっと! さっきからどうしたのー!? あっ、もしかして興味出ちゃった? 私に興味アリアリ? しょうがないよねー、私って可愛いからよくナンパされるんだー」
「それはお前の身体目当ての連中だろう。そんなこともわからないのか、この馬鹿が。どこまで頭が緩いんだ。へらへら笑っていて股まで緩んだのか、このノータリンが」
「キツイキツイ! 当たりがキツイ! というか、まだ処女だから大丈夫だよー!」
「本当か? ちょっと見せてみろ」
「ぎゃーー! めくらないでよ! 本当に処女だってばー!」
「お前みたいに緩いと知らない間に失くしている場合があるからな。チェックが必要だ」
「どうしてチェックする必要があるのー!?」
「…ふむ、本当に処女のようだな。で、将来はどうなりたい?」
「当然、踊り子として成功したいよねー! そのためにがんばっているからね!」
「うーむ…踊り子か。そんな感じじゃなかったが…」
「ご主人様、何か気になることでも?」
ここでホロロがアンシュラオンの異変を察知。
いきなり態度が急変したら、誰だっておかしいと思うだろう。
「いや、アイラがサナにとって、今後どんな影響を与えるのかなと思ってさ」
「この頭の悪い猿みたいな女がですか? 悪い影響に決まっております」
「なにこの人、キツッ! 身体エロいのに性格きつっ!」
「サナ様に近づく者はしっかりと管理すべきです。得体の知れない者はできるだけ遠ざけたほうがよいと思われます」
「まあ、そうなんだけどね…」
「納得しちゃった!? ちょっとー! 人を見た目で決めつけるのは、よくないんだよー!」
「見た目からでも、ある程度は人間性がわかるものです。なんですか、その格好は。破廉恥で教養がないのが丸わかりです。知性の欠片もありませんね」
「いやいや、水着だしー! 最初からこういうものじゃん! そりゃ、お客さんの前でお尻を振るのは楽しいけど…」
「楽しんでいるではないですか。ただの卑しい女ですね。生きていて恥ずかしくありませんか?」
「イタッ! この人、さっきからすごいキツイんだけど!? さすがに心が折れそう!」
ホロロはサナの従者であり母親代わりでもあるため、防衛本能が働いているようだ。
たしかに頭が緩そうな若い女が子供に近寄ってきたら、警戒するのが自然だろう。
かといって、ホロロにあの映像のことを説明しても納得はできないはずだ。自分すら、あれが何を意味するのか計りかねているところなのだ。
(オレはどうすればいいんだろうか。何か試されている気がして嫌だな。しかし、アイラがこうしてサナと出会ったことも事実だ。成り行きに任せるしかないか? それともこいつもスレイブに…)
「うーん、年下で頭が緩い女かぁ。好みじゃないんだよなぁ。頼まれても拒否するレベルだしなぁ。でも、どうせ放っておいたら男に騙されて、妊娠したあとに捨てられてシングルマザーの貧乏生活になって、結局は夜の店行きでまた妊娠っていう未来が待っているんだろうし…」
「心の声が出ちゃってるよー!? なにそれ、最悪の人生じゃん!」
「すまん。お前の未来だ」
「謝らないでよ! リアルすぎて笑えないからねー!」
「そもそもオレは年上が好きなんだ。年下はちょっとなぁ」
「どういう趣味なの!? 若いほうがいいに決まってるじゃん!」
「若さだけに頼っていられるのも今のうちだぞ。しっかりと未来を考えて動け」
「もうっ、失礼しちゃうなー! 私にだって好みはあるんだからね! ちゃんと相手は選ぶよー!」
「そうなのか? どんなやつが好きなんだ?」
「えー? それ訊いちゃう? しょうがないなー。えーとねー、ちょっと強引でワガママでー、私を束縛するくらい愛しちゃってくれてー、お金があって好きなものは何でも買ってくれてー、格好良くて可愛くてー、強くて優しい人がいいなー」
「じゃあな、早く帰れよ。未来の子供によろしくな」
「訊いたのはそっちじゃん! 女の子だったら誰でも夢を見るんだよー!」
「ふーん、そんな都合のいいやつがいればいいけどな」
「いるもん! 絶対にいるってー!」
「あのー、それってアンシュラオン様のことじゃないですかね?」
ふと小百合がそんなことを言う。
「男らしく少し強引で、ギアスを付けるくらい愛してくれて、莫大な資産を持っていて、おねだりすれば何でも買ってくれますし、超絶に格好良くて愛らしくて、最高に強くて、それでいてすごく優しいですもんね」
「そう言われてみれば、まさにその通りね。アンシュラオン君って、本当に王子様の中の王子様なのよねぇ…うっとり」
「異論はまったくございません。そのうえ『神』も追加してくだされば完璧です」
「え? え!? それって彼のこと?」
「もはやアンシュラオン様自体が、女が夢見る男性の理想像をそのまま体現している気がします。あとは体格面での好みだけですよね。それを差し引いても非の打ち所がないです。そして、それが私の夫なのです!!」
「ひー、既婚者だったの!?」
「妻でありスレイブでもあります! 永遠の愛を誓い合った夫婦の究極の姿なのです! どうですか、羨ましいでしょう!?」
「う、うう、なんてディープな世界なのー!? 一度はまったら抜け出せなさそう! で、でも、そんな人に迫られちゃったら、私も断れないかもー! やだー、どうしようー! きゃっきゃっ、困っちゃうよー!」
「話を聞いてたのか? 年下は駄目だと言っただろう。帰れ帰れ」
「なんでよー!? さっきの興味津々な感じはどこにいったの!?」
「うーん、問題はそれなんだよなぁ…どうするかなぁ……」
「アイラ、何をしているの」
「あっ、ユキ姉」
アイラへの対応を決めかねていると、白いビキニを着たナイスバディのお姉さんが歩いてきた。
彼女にも見覚えがある。アイラと一緒に踊り子をやっていた二刀流の達人だ。
「あなたはまた人様に迷惑をかけて…私の妹がすみません。って、あれ? あなたはたしか…この前の…」
「やぁ、また会えたね。オレの名前はアンシュラオン。あなたは?」
「私はユキネよ。よろしくね」
「なんでユキ姉にはあっさり教えるのー!?」
「いちいちうるさいやつだな。年上で綺麗なお姉さんだからに決まっているだろうが」
「私だって歳を取れば成熟するんだよ? きっと…たぶん」
「そうかもしれんが、永遠に年上にはならないけどな」
「ほら見てよ、ユキ姉! さっきからずっとこんな感じなんだよ!」
「そもそもあなたが絡んでいったんでしょう。まるで引き寄せられるように、一直線に向かっていったわよ」
「へ? そうだった? なんか記憶が曖昧で…気づいたらここにいたんだよね」
「十六歳でもう痴呆症か? 最近は若年性も流行っていると聞くからな…かわいそうに」
「ムキー! 違うもんー! もっと優しくしてよー」
「ところで二人は姉妹なの?」
「本当の姉妹ではないのよ。うちの一座は、ほとんどが捨て子なの。アイラも赤ん坊の頃にやってきて、私がずっと姉として面倒を見てきたから、今では本当の姉妹と変わらないわ」
「家族の絆は血だけで決まるものじゃないしね。環境が一番大事だよ」
そう言って、サナを撫でる。
自分たちも血は繋がっていないが、今ではもう完全に兄妹である。
「これから海で遊ぶの? どうせなら一緒にいようか」
「迷惑でないのならば、ご一緒させてもらおうかしら。アイラも一緒だけどいいの?」
「まあ、うるさい女の一人や二人くらい受け入れる余裕はあるからね。大丈夫さ」
「うふふ、では、少しお邪魔しようかしら」
「もう、しょうがないなー。遊んであげるから感謝して…いたーい! またお尻を叩いたー!」
「尻を振るなと言っているだろうが。この痴女が」
「うえーん、踊り子なのにー!」
アイラとユキネを加えて、一行は昼の浜辺を楽しむ。
彼女たちを交えたビーチボールは、なかなか白熱したものだ。
ユキネはやはりかなりの実力者のようで、マキと対等にボールのやり取りをしていた。白熱したのか、ほとんどドッジボールになっていた気がしないでもない。
アイラはアイラで踊り子であり、すでに剣士因子が1覚醒しているため運動神経もかなり良く、サナや小百合たちと激しい打ち合いをしていた。
それを一般人のロリコン夫妻や周囲の者たちが、物珍しそうに見つめているのが印象的である。
たまにナンパしようとチャラ男(死語)が近寄ることもあったが、マキに殴られたり、ユキネにあっさりとひねられたりしたので、もう誰も近寄れない状態であった。
(ユキネさんは強いな。剣士みたいだけど、実力的にはマキさんと同格くらいか。ん? 冷静に考えると、けっこうな逸材だ。モヒカンから紹介された女性より何十倍もいいぞ!)
「ふぅ、いい運動になるわね」
そこにちょうどユキネが戻ってきた。
アンシュラオンの隣に座るが、密着するほど距離が近い。
「アンシュラオンさんって何者なの?」
「どうして?」
「だって、こんなに素敵な女性たちを引き連れているし、お金だってあるでしょう? どう考えても普通じゃないもの」
「ハンターだからね。がんばっていれば、それなりに人生で成功できるってことじゃないかな」
「まだこんなに若いのに…すごいのね」
「ユキネさんも強いよね? どこで修行したの?」
「もともと踊り子として修行していたせいもあるけど、私は普通に一座で暮らしていただけよ。旅が多いから盗賊や魔獣とも戦う機会が多くて、自然と身に付いていったの。技は座長たちに教えてもらったわ」
「環境に勝るものはないってことかな。強い女性は珍しいし、ちょっと欲しくなるよね」
「あんなに奥さんがいても、まだ足りないと思うことはあるの?」
「そりゃ男だからね。何人でも欲しいと思うのは、オスの本能みたいなもんさ。夜の生活だって、まだまだ余裕があるよ」
「じゃあ、私は期待してもいいのかしら?」
また少し距離が近くなり、吐息が触れるほどになる。
大きな胸も腕に当たって彼女の体温を強く感じる。
(武人だから体型的にはマキさんに似ているな。年齢もそれくらいかな? 胸は…Gカップか? うん、ほどよく弾力があって揺れ具合が心地好いな。なかなかいいおっぱいだ)
おっぱい博士が、これは良いものだとお墨付きを与える逸品である。
だんだん女性が増えてきたので、そろそろおっぱい表が必要になるかもしれない。
博士! 早く作ってください!!
待ってます! 本当に待ってますから!!
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