『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』 (旧名:欠番覇王の異世界スレイブサーガ)

園島義船(ぷるっと企画)

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「海賊たちの凱歌 後編」

185話 「小百合のジュエル」

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(いろいろありすぎて目移りしちゃうから優先順位を決めよう。まずはジュエルだな。これはアル先生がいるから原石でも問題ない。それ以外となるとやはり武器類なんだが、炬乃未さんを信じて刀剣類に手を出すのはやめておこう。普通の武器ならそこらで買えるからね。となると、一般女性でも使えそうなものが欲しいよな。今ではサナよりも小百合さんたちが心配だ)


 サナは武人として鍛えているので、小細工の道具よりは強い武具の獲得が優先だ。今でも術符に大納魔射津に短銃にナイフに篭手に刀と、武具が多すぎるくらいなのだ。これ以上増やすのは悪手だろう。

 問題はそれ以外の女性。特に一般人である小百合やホロロたちの安全確保だ。そこらのちんけな盗賊程度ならばまだしも、ア・バンドのような敵が相手では完全に無力である。


「じいさん、一般人の女性が武人と戦うためにはどうすればいい?」

「強さによるヨ。よほど強力な武具があれば別アルが、練達の武人に一般人が勝つことは不可能に近いネ。ただ、そのへんの傭兵程度なら銃火器で十分対抗できるアル。あとは術符や術具を使うネ」

「オレと同じ判断か。でも、最近は銃が効きにくくなってきたんだよな」

「それはたぶん通常弾だからアル。術式弾は使っているネ?」

「ああ、そうか! 海軍が使っていたやつか!」

「術符は使用者の魔力に左右されるアルが、術式弾は出力時に魔素が入った魔力石を使って発射するヨ。だから誰が使っても同じ威力ネ。品質が高いほど威力も高くなるアル。最上級のものならば強い武人にも通用するレベルと聞くヨ」

「ここに術式弾は売っているのか?」

「あるヨ。あっちのあたりね」


 アルの案内で船を移動していくと、弾薬が売っている店があった。

 そこには駄菓子屋のごとく、種類別に無造作に術式弾が箱に入れられていた。


「これが術式弾か。普通の弾と同じだけど色が付いているな」

「属性別にわかりやすくなっているアル。赤は爆炎弾、黄色は雷撃弾ネ。この紺色は『貫通弾』、こっちの黒いのは【人間特効】の『呪力弾』ヨ。いろいろあるアル」

「呪力弾なんてあるんだな」

「簡単に言えば、人間にだけ作用する呪いの一種アル。規模も強さも違うけど、あの原石と中身は一緒ネ。もともと術式弾の製造は錬金術師の定番の仕事ヨ。魔力石や低級術式を付与するだけでボロ儲けアル」

「錬金術師の才能ってのは、テンペランターとは別なんだよな?」

「そうアル。いわば錬金術師は『術式のコピー技術』を持っている者を言うヨ。自分が構築するものであれ、他から移すものであれ、その術式を違うものに移し変えることでジュエルや術具を生み出すネ。一方のテンペランターは、もともと潜在的に眠っていたものを掘り起こすだけの能力ネ。似ているようで全然違うアル」

「なるほど。そう聞くとまったく別のものだな。つまりアル先生には術式弾は大量生産できないけど、一発限りの特殊なものは作れるって解釈でいいか?」

「面白いことを考えるアル。たしかにそうネ。弾頭だけならば調整はできるヨ。でも、手間を考えるとあんまり使い勝手はよくなさそうネ。ほら、さっさと術式弾を選ぶといいアル」

「とりあえず手当たり次第に買うかな」

「一個どれでも五千円だ。最初に言っておくが、ハズレを引いても文句は言うなよ」


 アンシュラオンが術式弾を手に取ると、店主が張り紙を指差した。

 そこには「購入は自己責任で。起動しなくても責任は取らない」と書いてある。


「どういうこと? 品質がまちまちなの?」

「ここにあるのは、全部『不良品』として流れてきたもんだ。買うなら自己責任だ」

「じゃあ、全部駄目じゃん」

「いや、そうとは限らない。検品ってのは一つ一つやっているわけじゃねえ。箱から一つか二つ抜いて検査して、駄目だったら返品という扱いになる。中には問題のない品質のものだってあるはずだ。ただし、それがどれかはわからん。それだけのことさ」


(入手経路はロリコンと一緒ってことか。廃棄物を安く買い取っているんだな)


 これらは軍隊や傭兵団に納品される前に検査で弾かれた品である。

 しかしながら火乃呼が作った包丁のように、失敗作とはいえ他と比べても優れたものはいくらでも眠っているものだ。これも闇市場の醍醐味である。


「この中から当たりを引かないといけないのか。正規店から買うのが一番なんだろうが…どう考えても値段は十倍以上になる。しかも伝手がないと大量には売ってくれない可能性もあるか。でも、安全に関わるものでギャンブルはちょっと躊躇いがあるな」

「これとこれ、違いがわかるネ?」


 悩んでいると、アルが二つの弾丸を手に取って見せてきた。

 一見すればまったく同じ形であり、同じ色合いだ。差がないように見える。


「同じじゃないのか?」

「もっとよく見るアル。『術士の目』で【視る】ヨ」

「術士の因子か。集中するとたまに接触できるけど、意識的にやるのは苦手なんだよな」

「そんなことを言っていたら一生できないアル。がんばって感覚で見るネ」

「うーん……片方は…薄いというか、紋様が途切れているような…」

「そうアル。こっちは接触不良品ね。反対のこっちは術式がまだ生きているヨ。だからちゃんと起動するネ」

「ほぉ、こうやって見分けるのか。面白いな」

「術式というのは機械と同じアル。どこか一つが欠損しても成立しないヨ。元素術式の場合は、できるだけ線が綺麗なものを選ぶのがコツネ。ほれ、どんどんやってみるアル」

「えーと、これとこれと…これとこれかな? これと…これもだ。よし、少しずつ見えるようになってきたぞ」

「そうそう、その調子アル」


 教えてもらった通り、まだ使える術式弾を次々と選んでいく。

 それによって不良品だけが店側に残される結果になり、店主が青ざめる。


「お、おいおい、ちょっと待ってくれよ! 老師、営業妨害だぞ!」

「それも自己責任ネ。欲を掻いて不良品を売りつけないで、素直にテンペランターに依頼を出して使えるものだけ売ればよかったアル。ここでは見る目がある者が得するヨ」

「そりゃないぜ…とほほ」


 下手に儲けてやろうとして上手くいかない良い見本だろう。

 アンシュラオンは大量の術式弾をポケット倉庫に入れつつ、アルに疑問をぶつける。


「なぁ、どうしてオレに術士の因子があるとわかったんだ?」

「ミーにも術士の因子があるからネ」

「テンペランターだから当然か。だが、なぜ教えてくれる?」

「ユーがディムレガンの妹に肩入れするのと一緒ヨ。才能がもったいないネ。たぶん陽禅公も同じ気持ちだったはずアル。嫉妬すらしないほどのすごい宝石の原石ヨ。だったら磨いてみたいと思うのが人情アル」

「オレ、そんなに鍛錬をサボっているかな?」

「才能がありすぎて全部の開花は大変ヨ。素直に他人を頼ることを覚えるアル」

「師匠からは戦士の戦い方しか教えられていないからな…。それ以外は全然だ。じいさんは術は教えられるのか?」

「ミーには無理ネ。テンペランターの能力に大半を使っているから、普通の術は使えないアル。でも、焦ることはないヨ。そのうち術の師匠と廻り合うはずネ。才能のある人間を【天】は放っておかないアル」

「そういうものかな」

「そういうものネ」


(ミーにも弟子がいたら、こんな感じだったかもしれないアル。教えるのも案外楽しいものネ。特にこんなすごい才能を見ると放っておけないヨ。天才の中の天才…いや、それすらも超える『ナニカ』ネ。十二老師を諦めて国を捨てたはずのミーが、まさかこんな逸材に出会えるとは、人生は不思議アル)


 それから術具を軽く見て回り、アルの指導のもとでいくつかのアイテムを購入。

 まずはホロロに手渡す。


「これは…腕輪ですか? 何か入れるところがありますね」

「そこにジュエルを入れておけば簡単に術式を展開させることができるんだ。術符は戦闘中にいちいち取り出さないといけないし、いざというときはそんな余裕ないよね。それを補うものさ」


 腕輪にはジュエルを格納する場所が三つあり、好きなものを選択して使用できるようだ。

 術符と違うのは、ジュエルの力がなくなるまで何回も発動できるので、よく使う術式ならば即座に使えることだ。これは大きなメリットになる。

 その代わりに交換する手間と、効果が付与されたジュエルを買わねばならないので費用がかかるが、この点は金があるので問題ない。


「基本は『無限盾』が付与されたジュエルと『水刃砲』とかの攻撃系のものを入れておけば、ホロロさんでも咄嗟に身が守れるよ。あくまで護身用だと思ってくれればいいかな」

「ありがとうございます。大切にします」

「安全が第一だからね。遠慮なく使い潰していいよ。スコープも買ってみたから銃に取り付けてみよう。腕輪に関しては便利だから、いくつか買っておいた。サナもあとで試してみような」

「…こくり」

「アンシュラオン様! 小百合もジュエルが欲しいです! ギアス用のやつです!」

「今回はそれが本命だからね。見てみようか。掘り出し物がありそうな店ってある?」

「馴染みの店があるヨ。行ってみるネ」


 アルに連れられて、ボロボロの屋形船の店に行く。

 そこには船同様にボロボロの服を着た浮浪者のような男が座っていて、黒ずんだ石がいくつも並べられていた。


「なんか汚いけど…この店、大丈夫かな?」

「嫌なら帰れ」

「ごめんごめん。ちょっと見せてもらうよ」

「この小僧はミーの連れネ。隠しているものも全部出すアル」

「老師の連れとは珍しいな。待ってな」


 店主は床蓋を開けて袋を取り出すと、無造作に石を転がす。

 どうやら船は改造されているらしく、いろいろな場所が倉庫になっているようだ。


「あるのはこれが全部だ」

「ふーむ、たいしたものがないアル。本当に全部ネ?」

「最近はあまり手に入らないんだ。どうやら南部で争いが激化しているらしくてな。『先抜き』して、そっちに流している連中がいるらしい」

「先抜きって…普通の抜きとは違うの?」

「普通の抜きってのは、ハローワークの支店から移動する際にやるもんだが、先抜きは支店や支部の保管庫から直接抜くことさ。それをやられると、こっちに流れてくるものはおこぼれだけになる」

「抜きよりもあからさまだね。でも、そんなことをしたらすぐにバレるよね?」

「上手く揉み消しているんだろうよ。少なくとも上級職員の誰かが関わっているのは確かだな」

「抜きで困って闇市場に来たのに、ここでも腐敗が影響しているんだね。困ったな」

「………」

「小百合さん、なにその顔?」

「いえいえ、なんでもないですよ。うふふ」


 その話を聞いていた小百合が、なんともいえない微妙な表情を浮かべていた。明らかに何かを知っている顔だ。


「もしかして何か心当たりがあるの?」

「あるといえばあります。ガツンとたっぷりあります。聞きたいですか?」

「あんまり聞きたくないけど…すごい言いたそうだね。他のところで口が滑っても困るし、何か言いたいならここで言っていいよ」

「はい! 実はハピ・クジュネ支部の【支部長】が『先抜き』に加担しています」

「ぶっ―――!」


 本当に暴露してしまう小百合さん、パネェっす!!

 しかも満面の笑みである

 アンシュラオンも冷や汗が止まらない。


「ま、まさかとは思うけど、それをネタにゆすったりしてないよね?」

「はい! しっかり脅しました!」

「…あの妙な空気はそのせいだったのか」


 先日のハローワークでの引きつった男性職員の顔が思い浮かぶ。おそらく彼が課長だったのだろう。


「情報の出所は例の一件なの?」

「その通りです。グラス・ギース支店で管理職用のデータベースを見た時、不自然な売買の流れを発見したのです。それで調べたら、ハピ・クジュネ支部の課長の名前で膨大な数の取引が行われていました。さすがにおかしいので、窓口で課長を呼び出してカマをかけたんです。そうしたら吐いてくれましたよ」

「たしか十数分程度だったよね? そんな短時間で相手が負けを認めたの?」

「そこはうちの両親の名前を使いました。ヴェルト支部は東大陸西方部におけるハローワークの重要拠点の一つなので、ハピ・クジュネ支部よりも立場が上なのです。そこで課長に、すでに調査が入っているけど私の両親なら差し止めることができる!って嘘をつきました!」

「なるほど…嘘を……ついたんだね」

「それで支部長にもすぐ面会できて、私を臨時の上級職員にすることにも快諾してもらいました! 見事にやってやりましたよ!」

「す、すごいね…そうか…やっちゃったのか…」

「はい! やりました!」

「小百合様、さすがでございます」

「ですよね! 自分でもよくやったと思います! これが愛の力なのです! ただ、こっちにも優先的にジュエルを卸せと要求し忘れたので、今度会ったら頼んでみますね」

「なんか…ちょっと体調が悪くなってきたかもしれない。頭痛と吐き気がするな…ごほごほっ」


(これはまずいよ。でっちあげと不正アクセスに加えて、脅迫に抜きの幇助って、どんどん話が大きくなってるじゃん。これはもう逃げるしかないんじゃないかな…)


 喜ぶ女性たちとは反対に気分が悪くなってきた。もう言葉が出ない。完全に親のコネを使っている。

 問題は、それがただアンシュラオンの受付をしたいがための行動である点だ。

 逆にいえば、その程度のことで不正が見逃されるのならばと、相手側も受諾したのだろう。


「がははは! こりゃまたすごいお嬢さんだ! いいだろう。取っておきを持っていきな」


 だが、店主はそれがツボにはまったようで、大笑い。

 さらに袋を出してきて、透き通るような美しいグリーンの原石を取り出す。


「そいつは抜かれたものの中で、一番品質が良いものだ」

「さっきはこれで全部って言ってたのに」

「人の言葉を簡単に信じちゃいけないぜ」

「それもそうだね。これが闇市場のよさってことかな。で、これは何なの?」

「知らん。何かの魔獣の死体から出てきたものらしいぞ。ウサギだったかな?」

「じゃあ、魔獣鉱物ってこと? 結晶化しているなら討滅級なのかな?」

「見つけた時には死んでいたみたいだからな。よくわからん。気になるなら自分で調べてみるんだな」

「じいさん、どうだ?」

「…ふわふわしていて中身がよくわからないネ。でも、強い力は感じるヨ。危険なものではないアル」

「ふわふわって…大丈夫なのか?」

「ジュエルの中には、持ち主との相性によって力が変化するものがあるアル。これもそういったタイプのものヨ。見た感じ精神型の原石ネ」

「アンシュラオン様、これはちょうど指輪に合いそうですよ。決めました。これにします! これで私にギアスをかけてください!」

「いいの? ちょっと怪しいやつだよ?」

「大丈夫です。ここで巡り合ったのも運命だと思います」

「小百合さんが気に入ったのならいいよ。そういうフィーリングって大事だと思うからね」

「ああ、私にもついにジュエルが…嬉しいです」

「………」

「ホロロさん、どうしたの? え? 泣いてる!?」


 小百合が嬉しそうに指輪に石を当てているのを見て、なぜかホロロが涙をこぼす。

 訳がわからずにおろおろするアンシュラオンを置いて、小百合がそっとホロロを抱きしめた。


「ホロロさん、どうしましたか?」

「…すみません。少し感情が抑えきれなくて…」

「ごめんなさい。あなたのほうがギアスは先だったのに…それが楽しみだったのですよね?」

「いいえ、違うのです。そんなことはどうでもよくて……ただ、嬉しくて…。小百合様たちと一緒にいられることが…とても幸せで……小百合様も指輪を手に入れて、こうしてジュエルも手に入れて…それが自分のことより嬉しくて……すみません。言葉が上手く…出せなくて。このような日が来るとは思ってもいなかったので…」

「いいんですよ。私たちは同じ人を愛した仲間であり、家族なのです。わかりますよ。あなたの気持ちは伝わりますから」

「…はい」

「ホロロさん、一緒に幸せになりましょうね!」

「小百合様…ありがとうございます」


(ああ、そうか。女性にとっては妻になるんだから、ギアスは『結婚式』と同じなのか。まだまだ認識が甘かったよ。スレイブにする以上、サナと同じように愛してあげないといけない。もっと高い志を持たないとな)


「アル先生、オレはがんばるよ。もっともっとスレイブを大切にする」

「いや、そんなこと言われても困るアル。そもそもスレイブにする段階で病んでいるネ。普通でいいヨ」

「うん、それは無理」

「どんだけ人間不信ネ」


 こうして小百合のジュエルも見つかり、新たなる決意を秘めたのであった。


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