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「海賊たちの凱歌」編

150話 「ア・バンド殲滅戦 その3『突入戦、サナとのコンビネーション』」

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 アンシュラオンの『覇王土倒撃』が炸裂。

 一瞬にして廃墟の街は破壊され、砂に埋もれてしまう。

 だが、倒壊した建物から、いくつもの影が飛び出てくるのが見えた。


「ちっ…!! てめぇら、生きてるか!!」

「う、うす…! な、なんとか」

「何が起きやがった!? 巨大地震でも起きたか?」


 シダラと部下の『テイカー』たちが瓦礫を破壊して上がってくる。

 彼らは建物の中にいたものの、地震で揺れた瞬間には防御の態勢を取っていたため被害を免れていた。

 外にいた者は土砂に呑まれて死んでしまったが、まだ七割くらいは生き延びているようだ。


「こりゃひでぇ。この様子じゃ、外にいた『フリッカー』たちは災難っすね」

「役立たずのことなんざ、どうだっていい。今は状況の確認が先だ」


 『フリッカー』とは、どの分野にも属さない非罪者で、専門的知識や特筆すべき能力がないゴロツキどもである。

 監獄に閉じ込められている者の多くはこのフリッカーであり、彼らは雑用や数合わせだけに使われるため、戦闘要員としてはあまり使えず組織内での身分も低い。

 そのため多くは路上で適当に暮らしており、今回の攻撃では大きな損害を負ったようだ。


「シダラ、生きているか?」

「サープの旦那か。そっちはどうだ?」

「こっちは問題ない」


 サープたち『ブレイカー』もやってきた。

 他のメンバーも同じような仮面を被り、身体的特徴も似ているので同族なのかもしれない。

 そして、彼らに犠牲者がいなかったのは、常に高い場所で周囲を警戒しながら暮らす癖がついていたからだろう。

 この夜もビルの屋上にいたため、土砂をいち早く発見して飛び退いていたのだ。


「それにしても、なんだこの有様は? 噂の災厄でも起こったのか?」

「いや、この波動は『戦気の痕跡』だ。見ろ、この綺麗な街の破壊ぶりを。自然災害ではこうはいかぬ。砂の一粒一粒に戦気を浸透させて完璧に制御したのだ」

「おいおい、馬鹿を言うなって。これだけの量を遠隔操作なんてできるのかよ?」

「たしかに信じられんが……むっ、この音は?」


 その時、遠くから爆発音が聴こえた。

 いくつもの砲撃が街に降り注ぎ、土砂に埋もれた建造物を巻き上げている。


「敵襲! 敵襲だ!!」


 かろうじて生き残った見張りが、赤い旗を振っているのが見える。

 これは敵襲の合図である。


「どうやらお前の勘が当たったようだな」

「ちっ、悪い予感だけはいつも当たりやがる!」

「どうする? この規模で我々に仕掛けるとすれば、ハピ・クジュネ軍だろう。まともにやり合うのは面倒だぞ」

「だからって簡単には逃げられねぇ。一戦やるしかないだろうよ。てめぇら、生きているやつらを掻き集めろ!! 戦争の時間だ! お宝も忘れるなよ! 金さえあれば何度でもやり直せるからな!」

「ういっす!!」

「ハピ・クジュネ軍だろうが、ぶちのめしてやるさ!」

「待て、上を見ろ!」

「上?」


 サープが空の上に『巨大な球体』を発見。

 明らかに人為的なもので、その直後に球体は爆発。


「シダラ! 我らを守れ!」

「あれも技かよ!!」


 シダラが大盾を構えると、盾を中心に剣気が放出されて巨大なシールドが生まれる。

 そこに天から雨が降り注ぐ。

 近くに山があるので雨が降ることも多いが、これは普通の雨ではない。


「ぎゃああああ!! 焼ける…焼けるぅうう!」

「なんだこりゃぁああ! いてぇえええ! いてぇよおおおお!」

「溶ける…身体が……と、とけ……ごばっ」


 弾丸のごとく強烈に降り注ぐ酸の雨が、這い出てきた他の戦闘員たちを襲う。

 水気で作られた雨のため、武器や盾、防具を含めたすべてを溶かし、筋肉や骨すら簡単に溶解させていく。


「くそっ!! なんて圧力だ! 『拡盾かくたて』だけじゃ防げねぇぞ!」

「踏ん張れ、シダラ。お前が押し負けたら我らも溶けるぞ」


 シダラが使っているのは、剣王技の『拡盾』という技だ。

 盾にまとわせた剣気を拡大して大きなビームシールド的なものを生み出す技であったが、それだけでは耐えられない。

 つまりはこの米粒大の水気一つ一つに、シダラの剣気すら削るほどの力が宿っていることになる。

 それが大雨のごとく大量に降り注ぐのだから、いかに凶悪な技かがよくわかるだろう。

 覇王技、『水覇すいは天惨雨てんさんう』。

 上空に水気弾を放出し、爆発させて雨状にしてから周囲一帯を攻撃する因子レベル5の広域技である。

 込めた水気の量と質、発生させた範囲によって威力が変わるが、雨状に降り注ぐので回避はほぼ不可能。

 急いで範囲内から脱出するか、シダラたちのように壁を作って防御するしかない。


「なめんじゃねぇええええ!! うおおおおおおおお!」


 シダラの大盾から大量の剣気が生まれ、大きな光の円が生まれる。

 剣王技、『光円陣こうえんじん』。

 因子レベル3で使える盾技の一つで、圧縮した剣気を展開することにより強力な防御陣を展開する技である。

 因子レベル1に『強盾きょうたて』という盾を強化する技があるが、その上位版だと思えばいいだろう。さらに『拡盾かくたて』のように拡大することで広範囲をガードできる。

 これによってテイカーとブレイカーたちを守りきることに成功。犠牲は出たものの最小限で済んだ。


「はぁはぁ…なんだこの雨はよ!」

おさ、敵が突入してくる」

「あれが今の技を放った者か」


 ブレイカーの一人が、街に侵入してきた少年と少女を捕捉。

 その距離、およそ三百メートル。

 視線が合った瞬間、少年が何かを飛ばしてきた。


「散開せよ! やられるぞ!」

「またか!」


 シダラが盾を使って防御。

 サープたちも跳躍して回避する。


「ちっ、盾を削りやがる! 今度は何をやった!?」

「『空点衝くうてんしょう』だ。だが、パワーと速度が違いすぎる。まともにくらったら一撃で落ちるぞ」


 覇王技、『空点衝くうてんしょう』。

 指から戦気をレーザーのように放出する基礎中の基礎の技で、他の放出技を学ぶ前に必ず修得するものである。

 普通の武人ではさしたる威力にもならないが、アンシュラオンが使えば、簡単にハプリマンの剣硬気以上のパワーをもった技となる。

 しかも、これで終わらない。

 少しだけタイミングを遅らせて放たれた一部の攻撃は、大きく迂回するようにカーブし、敵の背後から襲いかかる。


「ぬぐっ!! 長、すまぬ…」

「ぎゃああっ!」


 それにブレイカーの一人が貫かれて死亡。

 テイカーの何人かも頭に当たって爆散する。


「遠隔操作の使い手か。やはりこの土砂と雨はやつの仕業ということだな。あの男、王に匹敵する武人やもしれぬ」

「だったらなんだってんだ!! こいよ、おらあ!!」


 しかし、少年は軽く一瞥しただけで無視。

 そのまま奥に走り去っていった。


「なんだぁ!? 来ないのかよ!!」

「走りに迷いがない。何か目的があるようだな。どうやら命拾いしたようだ」

「呑気に眺めてるんじゃねえ! どうしてそんなやつがいる! あいつもハピ・クジュネ軍なのか?」

「さてな。できれば関わりたくはないが、敵対しているのは間違いない。覚悟を決めるしかないようだ」

「向かったのは奥、ハプリマンのテリトリーかよ。マジで死相が出ているかもしれねぇな」

「迷うな、シダラ。どのみち奇襲された以上、我らには脱出するしか道はない。こちらは前を崩して逃げる」

「わかっているさ。てめぇら、これくらいでびびってんじゃねえ! 俺らは自由だ! 力で勝ち取れ! 死ぬ前に敵を殺せ!! いくぞおおおお!」

「おおおおおおお!!」


 シダラとサープたちは、生き残った者たちを連れて街の入り口に向かう。

 土砂は中央の通りだけは避けるように動いていたため、最低限の移動は可能にしてある。これはスーサンたちの制圧行動を阻害しないためだ。

 その様子を、アンシュラオンは遠くから見つめていた。


「距離があったとはいえ仕留められなかったか。あいつら、かなりの腕前だ。こりゃスーサンたちは苦労するかもな」


 弱い技かつ射程距離ギリギリの攻撃ではあったものの、サープとシダラは攻撃に対応してきた。

 それだけを見ても相当に強い武人であることがわかる。


「サナ、あれがクロップハップよりも上のレベルの武人たちだぞ。ああいうのを見つけたら、まともに戦っちゃいけない。逃げることを最優先にするんだ。今のお前じゃ絶対に勝てない相手だからね」

「…こくり」


 二人はさらに奥に進む。

 もともと廃墟だったこともあり、そこに土砂が覆いかぶさっているので、まさに世紀末で滅んだ街並みを彷彿とさせる。

 移動中、這い上がってきたフリッカーたちを発見。


「いてて…どうなってんだよ…」

「はぁはぁ…死ぬかと思ったぜ」


 たまたま建物の中にいた連中が生き残っていたようだ。


「あれは雑魚だな。走りながら始末するぞ」

「…こくり」


 アンシュラオンが、四人で固まっていたフリッカーの中央に舞い降りると、手刀回転一閃。


「…え? あばっ…?」


 二回転したので、身体を三つに切断された四人が、バラバラと崩れ落ちる。

 続いてサナも同じ動きをトレース。

 こちらも固まっていた三人組の中央に降り立つと、ショートソード二刀流の回転攻撃。

 腕力の都合上、切断までとはいかずとも喉元と腹を掻っ捌いて、そのまま離脱。

 斬られた三人は、訳もわからないままに倒れて呻いている。通り魔に突然刺された気分だろう。

 ただ、離脱の際に火痰煩の術符をばら撒いておいたので、火達磨のオマケ付きだ。そのうち焼け死ぬはずだ。

 続いてさらに奥に進み、クラッカーの縄張りに突入。

 そこには本格的な武装をした者たちがいた。どうやら突入してきたシンテツの部隊を迎え撃つために装備を整えていたようだ。


(八人か。どれもあの長刀の男と同じくらいの実力かな)


 男たちは、おおよそジリーウォンと同レベル帯の武人だと判明。

 ハプリマンの実行部隊の一員だと思われた。


「サナ、コンビネーションの実戦練習だ。オレが崩すから、サナはバックアップをやってごらん」

「…こくり」


 武人となったサナが嬉しくて、最近では連携の練習もしていたのだ。妹と一緒に戦えるなんて夢のようである。

 まずはアンシュラオンが一人の背後に近寄り、下段蹴りで相手の体勢を崩す。

 そこにサナが飛び込んできて、急所の頚椎に刃をぶっ刺した。


「なっ…敵……だと!」


 意識が奥に向いていたため、表側からやってきた二人には気づかなかったようだ。敵が慌てていたこともあり不意打ちに成功する。

 その間にサナは二撃目を首に突き刺して離脱。男は首から血を出しながら崩れる。

 そこにアンシュラオンの蹴りが炸裂。顔面が吹き飛んで死亡。


「いいぞ、サナ。どんどんいくぞ」

「…こくり」

「てめぇらも賊か!!」

「いやいや、賊はお前たちだろうが。って、間違いじゃないのか。ややこしいな」


 盗賊側から見れば、いきなり襲ってきた敵は立派な賊といえる。

 なかなか面白い話題だが、すでに戦いに入っているのでどうでもいい話でもある。

 男たちが本格的に戦闘態勢に入るものの、すでにトップスピードに乗っているこちらのほうが有利だ。

 アンシュラオンが男の攻撃をかわし、顎を蹴り上げる。

 相手の視線が真上に向いたところで、サナが無防備な腹を刺す。


「この…!」


 男がサナを殴ろうとするが、サナは刃を引き抜き跳躍。

 空中で武器を持ち換えるとハンドガンを連射。刃で刺した腹を狙い、さらに深手を与えていく。

 だが、腹を押さえて呻く暇もない。直後にアンシュラオンが男を蹴り出し、他の相手にぶつけて動きを阻害する。

 そこにサナの追撃。雷貫惇の術符を発動。

 ぶつかってきた男が邪魔で動けず、雷の奔流が二人を同時に貫通。

 これで最初の一人目の男は腹を焼かれて完全に死亡。

 もう一人の男も、そうして倒れたところにアンシュラオンの空点衝でとどめ。頭を貫かれて絶命した。


「なめんな、ガキどもが!!」


 男が斧を使った『剛斬ごうざん』を放つ。

 剛斬は、剣気をさらに強化して斬撃と一緒に叩き込むシンプルな剣王技だ。剣衝を刀身にとどめる基本技の一つだが、攻撃倍率が1.5倍になる効率の良い技といえる。

 狙われたサナは攻撃を回避。

 素早く足元に滑り込むと足を切り裂いて相手の背後に回り込む。

 男はあまりの手際の良さに困惑。よけられることは想定しても反撃までされるとは思わなかったのだろう。


「このっ―――がっ!?」


 振り向いた時には、すでにアンシュラオンの手刀が背後から心臓を貫いていた。

 そこにサナが跳躍。顎に剣を刺してとどめを刺す。

 こうしてほとんど一瞬で四人を打ち倒すことができた。

 サナが苦労して倒したジリーウォンが四人いたと思えば、これがいかにすごいことかがわかるだろう。

 アンシュラオンは当然としても、サナがしっかりと合わせていることは賞賛に値する。

 逆にアンシュラオンが合わせやすいように速度を落とし、敵の注意を引き付けてサナを援護しているともいえるため、これも師匠による弟子の修行の一つでもあった。


「このガキども、強いぞ!」

「ちっ、ハプリマンさんはどうなった!?」

「ハピ・クジュネ軍が邪魔でわからねぇ。くそっ、挟まれてんのか! 逃げるしかねぇか!」

「悪いが、逃がすつもりはないな。オレの嫁さんを泣かせた罪は重いぞ」

「ああ? 罪だと。この世に罪なんてねぇ!!」

「ん? そういえば、そんな変な主張をする連中らしいな。それなら一つだけ絶対的な真理を教えてやるよ」



―――「オレに逆らうこと自体が罪だ! 死という罰を受けろ!」



 アンシュラオンが掌を突き出し、戦気を放出。

 扇状に放出された戦気の波が大地ごと吹き飛ばし、クラッカーたちが―――消失

 それはダメージを与えるというレベルではない。触れた瞬間に爆裂し、存在そのものが掻き消えるといった凶悪なものだ。

 覇王技、『烈迫断掌れっぱくだんしょう』。

 掌から放射状に凝縮した戦気を展開する因子レベル4の放出技である。

 戦気を細かい粒子に分け、それを断続的に放出するロボットアニメの拡散ビーム砲のような技だ。

 触れると爆裂するので、これをまともに受けると粉々になって血液一つ残らず蒸発してしまう。

 技が終わったあとには、長さ五十メートルほどの扇型の破壊痕だけが残っている。防御も回避も意味を成さない無慈悲な攻撃であった。


「ごめんな、サナ。残りのやつらも練習に使いたかったけど、オレもちょっとだけ焦っているみたいだ。早くマキさんと合流しないと手加減ができそうにない。さぁ、行こう」

「…こくり!」


 アンシュラオンとサナは、さらに進む。

 マキとの再会も目前だ。


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