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「海賊たちの凱歌」編

136話 「巨大犯罪組織、ア・バンド〈非罪者〉 その1『罪あらざる者』」

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 ハピ・ヤックから北に三百キロほど進むと、大きな山脈が見えてくる。

 そこは『翠清山すいせいざん』と呼ばれる大きな山を筆頭に、いくつもの山が連なる巨大な山脈群である。

 その長さは小さな峰を含めると千キロ以上に及び、グラス・ギースの南東にまで迫るほどだ。

 山には強力な魔獣が数多く生息し、用のない人間が山に立ち入ることはまずない。せいぜい麓の森で狩りをする猟師がいるくらいだろう。

 だからこそ【彼ら】にとっては好都合だ。

 ちょうどアンシュラオンが最後に立ち寄ったロードキャンプから東に真っ直ぐ進んだ位置、ギリギリ翠清山脈の一部が触れるかどうかの場所に『廃墟の街』があった。

 ここはすでに交通ルートから大きく外れている場所なのだが、なぜ廃墟が存在するのかといえば、ここがかつての『鉱山都市』の一つとして使われていたからだ。

 今現在地図に載っている交通ルートは昔からあったものではなく、その時代に合わせて少しずつ調整されていったものだ。

 昔はこの位置まで人が通っていたのだが、『大災厄』での地殻変動や魔獣の被害が増えたため、徐々に交通ルートが見直されていき、今ではもう誰も近寄らない廃墟と化した。

 そんな場所が荒野にはいくつも存在しているが、こうした廃墟は人が隠れ住むためには絶好の場所である。


「クルマが来ますぜ」


 廃墟の塔から監視していた男が、接近する大型のトラクターを発見。


「こんな時にどこの馬鹿だ」


 その報告を聞いた頑強な鎧に身を包んだ男が、忌々しげに酒瓶を投げ捨てる。


「ありゃ、『クラッカー』の連中っすよ」

「あいつら…姿が見えないと思ったら、ふざけやがって。お前はここで見張っていろ」

「へい」


 鎧の男は大剣を持って塔から飛び降り、着地。

 高さは三十メートル以上はあったが、衝撃で地面が抉れただけで、男自体にはまったく怪我はない。

 そして、クルマの前に立ち塞がる。


「おい、ハプリマン! いるんだろう! 出てこい! 出てこないとクルマごとぶっ潰すぞ!!」

「やーやー、シダラじゃないか。どうした、ご機嫌斜めだな」


 クルマから、真っ黒な帽子と黒いコートを着たメガネの男が出てくる。

 身長はシダラと呼ばれた鎧の男よりも二回りは小柄だが、目の前で大剣を持った大男が凄んでいても涼しい顔をしていた。

 その佇まいから、互いに優れた武人であることがわかる。


「どこに行ってやがった」

「仕事だよ。こんな夜遅くまで働くなんて勤勉だと思わない?」

「てめぇ、俺が言ったことを忘れたか? 今は動くなと言っておいただろうが」

「あれ? いつからあんたがリーダーになったんだ? うちはうち、そっちはそっちだろう? 命令するなって」

「命令はしねぇ。が、同じアジトを使ってんだ。てめぇらがヘマすると、こっちにもしわ寄せが来るんだよ。どうせその荷台の中身は『花』だろうが」

「そりゃそうよ。俺たちが運ぶのなんて、それ以外にあると思う? 楽しいよ、お花屋さんは。いい匂いがするからね」

「どこで手に入れた。まさか街にまで手を出していないだろうな」

「少しは信用しろって。ここはいい場所さ。放っておいても向こうからやってくる。しかも今回は本当にラッキーだったんだ。ちょうどいいお花畑があったから、まとめて仕入れることができたんだよ。すごいだろう」

「花は足がつく。移動も管理も面倒でしょうがねぇ。割に合わない商品だろうが。こないだも輸送中に事故ったのを忘れたのか」

「だから現金がいいって? シダラは夢がないな」

「金がありゃなんとでもなる。どこで手に入れたかも関係ねぇ。これ以上に便利なもんがあるか」

「そのわりに新調しないね。その鎧と剣。盾もだっけ?」

「てめぇには関係ない。金をどう使おうが俺の自由だ」


 シダラの鎧は、傷ついてボロボロなものに強引に装甲を継ぎ足して補強した年代物だ。べつに新しい鎧を買う金がないわけではない。彼がこだわりを持っているだけだ。

 それと同様に使っている大剣と大盾もボロボロだが、こちらも強引に打ち直していまだに使っている。

 そのことから彼は、仲間内から『オンボロのシダラ』と呼ばれていた。

 ただし、当人の目の前でそんな軽口を叩いた者は即座に殺されてしまうので、正面から堂々と言える者は幹部級の武人だけだ。


「現金だって追跡しようと思えばできるんだけどな。まあ、そりゃ現金が楽なのは認めるが、花は花で貴重な資源だ。使い道がなければ金だけあっても意味がないだろう?」

「クラッカーの商売にケチはつけねぇが、今はやめろって言ってんだ」

「そっちはいいよな。こないだの襲撃で大金を得て余裕なんだろうけど、こっちは今月中に最低でも百本は確保しないといけない。そっちも生け捕りとかしてくれよ。なんで全員殺すんだ。もったいない」

「足がつかないようにだろうが。女子供関係なく皆殺しは当然だ」

「相変わらず『テイカー』の連中は野蛮だ。価値観の違いかな」

「そんなに集めてどうする。てめぇらで遊ぶには十分すぎるだろうが」

「うちらは商品に手を出すような真似はしない。価値が下がるからね。それにこれは【王様】がご所望なんだ」

「あいつが? なぜだ?」

「『国を作る』とか言っていたから、そのために使うんじゃない? よくわからないけど」

「あいつはまだそんな馬鹿なことを言ってんのか? 妄言吐くのも大概にしやがれってんだ」

「あれ? シダラは信じてないの?」

「たりめぇだろうが。できるわけがない」

「俺は信じているんだけどね。俺ってけっこう執念深い性格をしてるし、復讐してくれるなら王様に尽くしてもいいと思ってる」

「連中に勝てると思ってんのか」

「あれれ? いつから負け犬根性が染み付いちゃったの? 長い投獄生活で復讐心まで萎えたわけじゃないんだろう?」

「…ガーネリアは許さねぇ。恨みは忘れてねぇ」

「だよね。王様だってその気持ちは同じさ。あの人は国を作る。俺たち『罪あらざる者』のためにね」

「ふん、だったら足がつくような真似はするんじゃねえ。ハピ・クジュネのパトロール隊の連中が嗅ぎ回っているらしい。ここが発見されると厄介だ」

「あそこは北部最大の都市だからな。軍備もかなりしっかりしているし、攻め込まれたらつらいかも。こっちは数がそんなに多くないしね。次のアジトに移動する? 北に行くのか?」

「北は寂れてやがるし、別の連中が入っている。東に狩場を移すのもよさそうだ」

「東か…輸送を考えると南から船に乗りたいんだけどな。でも、あそこは海流が特殊だから、また事故ったら嫌か。まあ、任せるよ。テイカーの狩場は俺らの狩場でもあるからね」

「一週間、ほとぼりを冷ましてから移動する。それまでに花は厳選しておけ。大量には持っていけないぞ」

「わかってるよ。選別もこっちの仕事だからね。せっかくだ。一本くれてやろうか? そっちは飢えてるんだろう? 女ひでりが続くとカリカリするからね」

「てめぇ、殺すぞ!」

「あはは、怒った怒った。ばいばーい」


 ハプリマンは手を振りながら、大きなトラックターを運転して廃墟の奥に消えていった。


「ちっ、てめぇら変態どもと一緒にするなってんだ。おい、お前はそのまま見張っておけ!」

「ういっす!」


 鎧の男シダラも廃墟に戻ったが、いまだに見張りは塔の上から周囲を監視していた。



 だが同時に、そんな彼らを見ている者たちもいる。

 廃墟から七百メートル離れた森の中に三つの人影があった。


「ここがやつらのアジトのようですな」


 長身の男、シンテツがそっと廃墟の様子をうかがう。

 距離があるのでよく見えないが、これ以上近づくと発見されてしまうだろう。


「そのようだね。クルマが追跡できてよかった」

「あれだけのことをしておきながら、またすぐに動くとは相当なめられておりますな」

「そのおかげで見つけられたんだ。めぐり合わせと相手の油断に感謝しないとね」


 三人組のパトロール隊はアンシュラオンと別れたのち、ロードキャンプに立ち寄って遺体を検分。情報収集を行いながら盗賊たちの痕跡を追っていた。

 だが、風が強い荒野では、人の足跡など一時間もあれば完全に消えてしまう。相手側も用意周到であったため、そこで追跡は途切れてしまった。

 それでも粘り強く調査していると、女性の一団が攫われていく現場を目撃したという旅人と接触。

 本当に偶然目撃しただけで、当人は怖くて隠れて見ていただけらしいが、つい数十分前の話であったためにまだクルマの痕跡が残っていた。

 そして、たどり着いたのがこの廃墟だ。


「ただ、思ったよりも敵の規模が大きいみたいだ。シンさんはどう思う?」

「手口からして間違いなく『ア・バンド〈非罪者〉』の連中でしょう。襲った者を皆殺しにするのはやつらの特徴でもありますし、人攫いも同時にやっているとなれば確定です」

「南部からやってきた凶悪犯だらけの犯罪組織か。全員元囚人とは聞いたけど…」

「放火、殺人、強盗、誘拐と何でもやるクズどもです。やつらはもはや人間ではありません。そのうえ自分たちに罪などないと言い張るのですから、頭がおかしいとしか思えませんな」

「彼らは外来の虫と一緒だ。放っておくと生態系を壊しながらどんどん増える。巣は一掃しないといけないね」

「ですな。場所的にも【例の作戦】に支障が出ます。ライザック様も最優先の駆除を望まれるでしょう」

「しかし、この規模だと三人では難しい。敵の中にもかなりの使い手がいるようだ。個人能力では我々と互角以上と考えたほうがいいね。数で対抗したほうが安全だろう」

「ハピ・ヤックの警備隊を投入しますか?」

「彼らでは手に余る相手だ。街の警備も手薄になるし、余計な犠牲が増えるだけかもしれない。多少手間でも第三海軍を投入しよう。あまり人数がいると気取られるから、五十人程度の精鋭部隊で一気に制圧する」

「了解しました。リンウートの部隊が演習で近くにまで来ているはずです。今ならば三日もあれば突入準備が整います」

「三日…か」

「何か気になることでも? 準備を早めましょうか?」

「時間に関しては問題ない。やつらもすぐには動かないだろう。ただ、あの中には各地で連れ去られた女性たちがいるはずだ。彼女たちの安全も確保しないと」

「相手が相手です。そこまでの余裕はありませんぞ。残念ですが見捨てるしかありません」

「僕たちがこんな真似をしているのは、軍だけでは守れない小さな人々に目を向けるためだ。それを諦めてしまったら戦う意味がないよ」

「スー様…」

「ライザック兄さんだけでは救えない者を救う。それが僕たちの役目なんだよ。そうだろう、シンさん?」

「…わかりました。ですが、どうされるおつもりですか? 我々だけで救出は不可能です」

「せめて囚われている場所と人数が知りたい。そうすれば救出部隊も編成できる。なんとか廃墟に侵入する手段はないだろうか」

「見張りがいますから地上からの侵入は難しいでしょうな。一度でも見つかれば、相手はすぐにアジトを引き払うはずです。その際にやつらがどんな手段に出るかはわかりません。最悪は処分するかもしれませんぞ」

「それだけは避けねばならないね。地上は駄目か……ん? そういえば、あの廃墟は元鉱山都市だったはずだ。昔の地図はあるか?」

「はい、こちらに」

「…やはりそうだ。もともとあそこは鉱山の採掘のために作られたものだ。鉱山都市は、魔獣避けのために地下から坑道を通していたよね? そこは使えないかな?」

「残ってはいそうですが…やつらもそれに気づいている可能性もあります。危険では?」

「どうだろう。連中にとってここは仮のアジトでしかない。そこまで調べているだろうか?」

「そのあたりは賭けになりますな」

「どのみち突入のために侵入口を探す必要がある。調査を開始しよう」

「了解しました」


 パトロール隊の三人は、夜の闇に紛れて調査を開始。

 現状において数の上では不利だが、この周辺はハピ・クジュネの支配域であり、過去から現在に至るまでのさまざまな地形データを所有しているのが最大の強みだ。

 南部からやってきた賊たちではわからない秘密の抜け穴もたくさんある。

 そして、彼らは山側に回り込み、地図の情報をもとにして隠された坑道を見つけ出す。

 その坑道は本当に小さな洞窟の入り口であり、現在では崩落して途中で閉ざされているため、仮にここを発見したとしても部外者ならば単なる穴にしか見えないだろう。


「なんとか通れそうだ。いけるか試してみよう」

「バンテツはここで待機してくれ。二時間で戻らなければ救援を頼む」

「わかった。シンテツも抜かるなよ」

「頼んだよ、バンさん。ここで死んだら兄さんになんて言われるかわからないからね」

「了解しました」


 バンテツは身体も大きく頼りになるが、今は秘密裏に潜入するのが目的なので、潜入は素早く動ける二人だけに限定し、彼は万一のバックアップとして山側に残しておく。


「では、行ってくるよ」


 青年とシンテツが穴に入り、崩れた岩をどけていくと、奥に続く坑道が見えてきた。

 中は当然ながら真っ暗で湿っぽく、あまり入りたいとは思わない場所だが、だからこそ侵入経路としては申し分ない。

 青年たちは灯りをつけて坑道内をチェックしながら、先に進む。


「カビ臭いのはしょうがないけど、毒ガスが出ていたら困るな」

「毒検知用のジュエルを起動しておきましょう。万一のために消紋も使っておいたほうがよさそうです」

「そうだね。何があるかわからない。準備はしっかりしておこう」


 二人はいつでも戦闘に入れるように武器を構え、そのままおよそ四キロ以上の曲がりくねった道を進んでいく。

 両者は優れた武人でもあるため、警戒しながら進んでも、ものの数分で廃墟近くにまで到着する。


「もう少し行くと廃墟の真下に出るはずなんだけど…どのあたりに囚われているのだろう?」

「人を閉じ込めておくのならば牢が最適です。たしか旧鉱山街には懲罰用の地下牢があった記録があります。そこを利用している可能性は高いでしょうな」

「地下牢ならばありがたいね。どこかで繋がっているポイントがあるはずだ」


 青年たちは、坑道の壁をくまなくチェック。

 すると、他の地盤とは感触が異なる箇所を発見。

 そこを掘っていくと、明らかに人為的に作られたであろう壁があった。

 音を立てないように壁を壊し、中を覗くと長い通路が見えた。


「ここから廃墟に侵入できるようです」

「ひとまず突入路は確保できたね。地上と地下、同時に侵攻すれば相手を上手く撹乱できるはずだ」

「目的の一つは達しました。一度引き返すのも手では? ここから突入すれば、どのみち最初に囚われた者たちを確保できるはずです」

「いや、もう少し進もう。できれば中の構造も調べておきたい」

「スー様、無理はしないでください。何かあればライザック様に申し訳が立ちません」

「兄さんは僕がいなくても大丈夫だ。あの人は強いからね。でも、自分の命を粗末にするようなことはしないよ。僕だってこんなところで死にたくはない。作戦の成功率を高めるための判断だ」

「そのお言葉、信じますよ」


 青年たちは中に侵入。

 真っ暗ではあったが、坑道跡よりは明るく周囲の状況もよく見えた。

 至る所に塵や埃が溜まっているので、長らく人が踏み入っていないことがよくわかる。

 いくつかの壊れた部屋や壁を通り過ぎ、ようやく少しだけ手入れがされている通路を発見。


「ここからは慎重に行こう」

「私が前に出ます。後ろのカバーをお願いします」

「わかった」


 シンテツが前に出て、その後ろを青年がカバーする形で進んでいく。

 そして、しばらく進むと頑丈な扉を発見。

 シンテツが青年を見て頷き、ゆっくりと扉を開けた瞬間だった。


 目の前に―――黒装束の人影


 顔と身体をすっぽり黒い装束で隠しているので、その全貌までは見えないが、こんな場所にいるのならば間違いなく敵であろう。


(ちっ、波動円を使わなかったことが裏目に出たか)


 シンテツと青年は、あえて波動円を使わずに移動していた。

 その理由は、以前アンシュラオンが領主城に侵入した際、ガンプドルフに逆探知されたことからもわかるだろう。

 波動円を使えば相手の位置がわかるが、相手からもこちらの位置がばれてしまう可能性が高まる。事故を避けるための措置だったが、それによって敵と遭遇してしまうとは皮肉だ。

 がしかし、相手は一人である。


「ここで倒します! スー様は増援の警戒を!」


 シンテツがシミターを抜いて黒装束に斬りかかる。

 彼の剣の腕前は、すでに盗賊を相手にした際に証明されている。そこらの武人ならば一瞬で切り伏せることが可能な実力者だ。

 だがしかし、黒装束の人物は即座に戦闘態勢に移行すると、一気に前に加速。

 剣を弾き、拳を突き出してきた。


「なにっ!」


 シンテツは急遽防御に切り替え、剣の腹で拳をいなす。

 拳の威力はかなりのもので、防ぐだけでも腕が軋むほどだ。

 だが、回避は成功。

 シンテツは壁を蹴って回転しながら再度斬りかかった。素早い身のこなしからの変則攻撃だ。

 が、それにも相手は対応。床を強く蹴って距離を取り、剣の間合いから逃げる。

 ただし、そのまま逃げ出すわけではない。

 すぐに間合いを詰めて接近戦を挑んできた。繰り出される鋭い拳はどんどん速くなり、シンテツに攻撃をさせる余裕を与えない。

 剣士は一撃一撃が強いが、その分だけ間合いが必要になる。これでは強撃を叩き込むことができない。


(こいつ…強い! 踏み込みの速度が尋常ではないぞ。狭い通路では逆に不利か。だが、時間をかけている暇はない! 押し通す!)


 シンテツが被弾覚悟で切り込み、技を放つ。

 剣気は水気を帯び、鮮やかな軌道を描きながら水飛沫が舞った。

 剣王技、『水流剣』。

 因子レベル2で使える技で、剣気を水気に変質させ、刀身を水の流れに乗せることで非常に鋭い攻撃を繰り出すことができる。

 優雅で流れるような一撃は命中率が飛躍的に上昇するため、確実に当てたいときなどにもよく使用される技である。

 黒装束の人物は、水流剣が避けられないと悟ると―――


「はぁ!」


 真紅の戦気が噴き上がり、真っ向から迎撃に出る。

 水流剣は命中するも腕でガード。

 ガキンッ!という強い金属音が鳴り、刃が途中で止められていた。どうやら相手は篭手を装備しているようだ。

 そして、そのまま反撃の一撃。

 懐に潜り込んだ黒装束が、真っ赤に燃える拳をシンテツの腹に叩き込んだ。

 シンテツは吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。


「ぐっ…!!」

「シンさん!」

「大丈夫です…! この程度は問題ありません!」


 そうは言いつつ、シンテツは吐血。

 技の直後の反撃だったので、かなりのダメージを負ったのは間違いないだろう。

 彼はアンシュラオンもそれなりに評価する武人だ。それを叩きのめす段階で、相手がかなりの猛者であることがわかる。


「今は時間が惜しい。二人がかりで一気に倒すよ」

「了解しました」

「僕たちは負けない! 海賊の旗にかけて悪は成敗する!」

「っ…!?」


 青年とシンテツが囲むようにして間合いを詰めていく。

 それに対し、黒装束の人物はやや下がる。

 しかし、それは相手に臆したからではなかった。


「邪念がない。あなたたち…盗賊じゃないの?」

「え?」


 青年が、発せられた言葉に驚く。

 なぜならば、その声は【女性】のものだったからだ。

 黒装束の人物が顔を隠していたフードをどける。

 そこから出てきたのは、真っ赤な髪の美しい女性。

 マキ・キシィルナだった。


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